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6番星 やっぱりあなたが好き!
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優しい空の星
6番星
「どうなさったのかしら。オリビア姫」
「姫君ったらあの日からずっとあんな状態ですよね」
私の背後でイザベルとアナスタシオが小声で話している。
私は、自分の部屋のベッドの上で体操座りをしながら布団をかぶっている。
キルにキスをされた日からもう2日。私は丸2日ご飯を食べていない。アナスタシオとイザベルが心配して私にお医者さんを呼んだが薬を処方されただけで、良くなったところは一向に見せていない。
お医者さんは部屋の外でアナスタシオとイザベルとで話していた。
『これは、心の病でしょうから、今の医学ではとても…』
『そうですか…』
と言っていた。
心の病…?そんなんじゃない。ただ、気落ちしてるだけ。
アルは怒ってしまって一向に私の方に姿を見せないし、キル様は謹慎を命じられたみたいで世子殿に引き込もってらっしゃるし。
気分が上がらないだけ。
「姫君。」
「イザベル?どうしたの?」
「昼餉をお持ちしたのですが…召し上がられませんか?」
「…うん。要らないや。食欲ないし。ごめんね。心配ばっかりかけて。」
「いえ…昼餉は片付けますが、飲み物は、ホットミルクは置いておきますので。食欲が戻られたら私達におっしゃって下さればすぐに美味しいものを用意します。」
「そう…ありがとう。」
イザベルとアナスタシオは昼餉を厨房に戻すために廊下に出て行った、
そして廊下にはアルが居たのである。
「やぁ。イザベル」
「アルベーサ様?!」
「しっ!オリビアに聞こえるよ」
「す、すみません。なぜ、此処に?」
「…オリビアが日増しに痩せて行っていると耳に入ったものでね。でも、この前の事があった手前会いに行けない。今はどんな感じだ?」
「あ…はい。それが、シャーロット様にもお会いになろうとしないのです」
「何だって?」
大切な親友であるシャーロットとも会おうとしないという重大な事と考えたらしい。
「シャーロット様は何度も尋ねられましたが、帰ってもらってとの一点張りでございまして…」
「前のようにオシャレに花を咲かせることもしないのです。今はただベッドの上で静かに布団をかぶりながらうつむいてらっしゃいます。」
アナスタシオがイザベルに続けて言った。
「あのぅ…」
アナスタシオが言った。
「アナスタシオ!まさかあの事を言うつもり?」
「だって、言っておいたほうがいいじゃない。」
「なんだ?聞かせろ。」
「はい。ベッドで時々おやすみになられるのですが、お休みになられたときしきりに『キル』『キル』と呼んでらっしゃるのです」
「…兄上のことか。」
「…定かではありませんが…多分…」
「兄上は、如何して、私の大切なものを奪う…?!」
「奪っているのは、第二王子アルベーサ。君のことではないのか。」
低い声が廊下に響いた。
アナスタシオや、イザベル、アルも一斉に声の元へ振り返った。
そこには、純白で長い髪の毛が風に揺れながら、背の高い目の美しい方が、立っていた。
「…リラン先生!」
そこに居たのは、アルの家庭教師でもあり護衛でもあり、宮中の中でトップの権力者であるエサル=ストリップ=リランである。
貴族の中でもとても大きく、王室でさえ一歩手前に引いているほどと言われるストリップ家の当主リランは女の人には優しく、男の人には少し厳しい面のある人であった。まだ未婚の21歳である。この若さでストリップ家の当主となったこともあって一時は問題視されたがリランは政務や雑務、武術、全てのことにおいて天才的でその問題もいつしかなくなった。リランは、私でも知っているくらいの有名人。
顔もかっこ良くて背も高いし性格もいいときたものだから、村の友達もみんなリランを狙っている。まだ未婚だからっていうのが大きいと思うんだけど。
リランは、アルに対してタメ口で話す。
リランは、王に信頼されているがために、アルやキルに対してタメ口オッケーなのだ。
その辺の理屈は私にはまだわからないけれど、リランがかっこいい事だけならわかる。
「リラン先生。何故姫宮殿へ…」
「アルは最近王宮殿ではなく、姫宮殿へいるらしいと聞いてね。姫宮殿は長い間使われていなかったろうと思って調べてみたら、君は妃を迎えていたのか。ここは、その姫であるヴェデが使っているようだね。」
「ヴェデではない。オリビアだ。」
「え?あ、そうか、名を変えたのか。それにしても、村娘である人間を何故わざわざ姫に向かい入れた?美しく高貴な姫君などどこにでもいるというのに。」
「オリビアだったから、オリビアだったから私は好きなんです。私は、たとえリラン先生でも、オリビアを馬鹿にするのは許さない。」
「…すまなかったな。それより、王様に物申したというのは本当か。」
「?」
「賎民についてのことだ。」
「あぁ。あれのこと。」
「良かったな。賎民が少しは楽な生活ができることになって。」
「はい。とても嬉しいです。それにしても、先ほどの言葉どういう意味ですか。兄上の大切なものを私が奪っているとは。」
「あ、それな、俺お前の話聞いてて引っかかってたんだよな。だって、側室であるキルの母親はアル、君の母親に殺された。そして、キルの継承権もアルが奪った。武術にも、学問においても、人間性においても、キルの方が何倍も格が上のはずであるというのに。キルは王位につくことはできない。側室であったフローラ君が王妃様に殺された日から王様はキルを愛さなくなった。アル、君だけを愛すように。これ以上アルは何を求める?キルの持っているものをすべて奪ったというのに、キルがオリビアを奪うことも許さないというのか?」
「何故それを?!」
「馬鹿にするな。これでも王の護衛官でもあり人間観察や情報にも優れているのだよ。もともとあったキルの大切なものをすべて奪ったんだ。もうそろそろ、アルの物も譲ってやれ。」
「…くっ!リラン先生には関係ない!口を出すな!」
リラン先生はアルを見下ろした。
冷たい目…。リラン先生は何を考えているのかわからない。
「うるさいなぁ。外で何やってんだろ。」
私は部屋の扉を開けた。
そこには、リランに殴りかかろうとしていたアルがいた。
「アル?何やってんの?!」
「オリビア…」
「手を離しなさい。」
「オリビア。これは君のためで…」
「離しなさい!アル!」
「オリビア…すまない。」
アルはそう言って手を離してそのまま王宮殿に戻っていった。
「全く。何があったの?アナスタシオ。イザベル。」
「何があったと言いましょうか。えっと…」
「ま、いいわ。おかげで外に出ることができたし。そうだ。お昼ご飯食べるわ。持ってきてくれる?」
私がそう言うと、イザベルとアナスタシオは一気にパァーと顔を明るくした。
「「すぐに作ります!」」
2人の声が重なった。
2人は全速力でシェフのいる厨房に走っていった。
私が振り向くと、唖然としたリランがいた。
「あ、」
私はとっさに声を上げた。
「君がオリビア姫か?」
「はい。あなたはリランさんですよね。村で何度も噂を聞いてました。」
「噂?」
「はい。とても背が高くて瞳が青色で髪の毛が長くて、美しい男性であると。」
「…」
「あまりにも噂通りで驚きました。アルとは仲があまりよろしくないのですね。」
「いや、そうではない。」
「え?」
「少し散歩をしないか。私は護衛官だから君に何か起きても守れる。」
「わぁ。それは安心。…でも、私には護衛官なんていらないわ。護衛官じゃないただの人間であるリランさんとお話ししたいです。」
「そ、そうか?珍しいやつだな。それと、私のことはリランでいい。呼び捨てで構わんよ。」
「わかりました。」
私たちは歩いて世子殿の庭まで歩いてきた。
「リラン。知ってますか?この庭はキルが作ったんですよ。素敵な庭ですね。」
「ああ。知っているよ。キルの母親のフローラは花が好きだった。美しい中庭だね。あのアネモネも。」
「リラン。花にも詳しいんですね。」
「いや、ただ、仕えるであろうキル様のことについて知りたかっただけだよ。」
「仕えるであろう?どういう意味?」
「私は、いや、ストリップ家は代々王子の護衛官として宮中で力を持ってきた。当然私もキルの護衛官としてここで働くはずだった。だが、フローラ様が宮中から姿を消されて、アルしか愛さなくなった王様は、結局私をアルの護衛官とした。私は、キルの護衛官として仕えることが誇りで楽しみでたまらなかった。人間性も素晴らしいキル様をお守りすることが私の誇りだった。なのに、王様は私をアルの元にして。私はキル様の護衛官になりたかった。人を惹きつける力のあるキル様が何故世子殿であのような影の中生活をされなくてはならないのか。アルではないキル様をお守りしたかった。アルでは…!」
私はリランの口を手で塞いだ。
「リラン。その言葉聞いたらアル泣いちゃう。だから、その先は言わないで。お願い。」
「何故君をあそこまでアルが愛しているのかなんとなくわかった気がする。」
「え?」
「だが、オリビア姫。キルはアルのせいで王宮を追われた。」
「え?あ、なんか、アルがなんで戻ってきたとか言ってたような。それってどういうこと?」
「聞いてないのか?」
「はい。」
「それがな。キル様はアルによってついこの前まで、宮中から出されていた。」
「どうして?!正式な王族であるキルを?!!!」
「俺がアルの母親である王妃様を責めたからだよ。」
私たちは振り返るとキルが立っていた。
キル。そんな。
「責めたって、フローラ様の事件で?」
「そうだよ。母上様が王妃の間者によって殺された。生きてるかも知れないがね。それから1年後。一周忌の時に、初めて俺は、王妃が私の母上様を殺したことを知った。」
俺がお墓によってから世子殿帰るときのことだった。
『ほほほっ。もう一周忌ね。早いものだわ!』
王妃様?!!!何故笑ってる?
『誰も気づきはしないとは。王妃である私がフローラを殺したとは。ほほほっ。』
王妃様が?!!!なんで。なんで?!
『それにしてもまだ遺体は見つからないのか!』
「なんで母上様を殺したのかは、大人になっていくにつれてわかってきた。王妃様は、アルを孕むまで肩身の狭い思いをされてきたのだと。側室が先に子供を産んでしまっては、肩身がもっと狭い。アルが生まれてから、母上様を殺した理由は、後ろ盾をなくすためだろう。後ろ盾を無くした俺は継承権はアルよりも低いし、この有様さ。その後、俺は、そのことを知った俺は、王宮殿に向かった。そして、俺は、王妃を疑った罪を持って長い間田舎の村で生活をしてきた。」
「そんな!」
「悲しむ理由はないさ。そこで生活していたおかげで、ヴェデに会えた。」
「え?!何故、私の本当の名を知っているの?!」
「あ、はは。実はね。俺とヴェデは、同じ村で生活していたんだよ。もっともあまり会えなかったが、一度だけ、君と遊んだよ。楽しかったなぁ。だから、君のことを好きになった。」
なんでストレートに言うの?!!!
恥ずかしいよ。
「あの、私がいるのですが。」
「あ、リラン。久しぶり。元気にしてたか?」
「勿論でございます。キル様の方こそ、お元気そうで何よりです。」
あ、そっか。リランとキルは昔馴染みだもんね。
リランはキルのことをここまで崇拝していたんだ…。確かに、人間性的にも、アルより上だし、なんとなくわかるけど…。
リランは、キルが憧れなのかな。
「それにしても意外だ。オリビアは、リランのこと知っていたんだね。」
「あ、はい。村でよく噂を聞きましたから。」
「また敬語に戻っているよ。オリビア。」
「あ、すみません。いや、ごめん。」
私たちがこんなやり取りをして笑っているとリランも少し笑った。
「リラン?」
キルが聞いた。
「あ、すみません。キル様。オリビア姫とキル様は仲が良くて安心しました。」
「え?」
「キル様が好きなのがオリビア姫で良かった。」
「オリビアはいい子だろ?」
「はい。優しくて、賢く美しい姫だと思います。でも、何より、キル様を信じている。そのことが痛いほど伝わります。」
「…そうか。オリビアは俺を思っていてくれているのか。嬉しいよ。」
「キル。キルが私を想っていてくれてるのも嬉しいよ。って、そんなことより!謹慎中なのに外に出て!だめじゃない!」
「ここは世子殿の敷地内だよ。世子殿から出てないのだから問題ない。」
「そうだけど、後でアルになんて言われるか…」
「第二次王子でしかないアルには俺を動かすほどの権力はない。継承権は低いが権力は俺よりは下だからね。」
「ふーん。なら良かった。」
「君はアルを好きなのか?」
リランが私の顔をまじまじと見て聞いた。
「え?…うーん。最初はもっとすごい人かと思ったよ。でも、本当はとても寂しい人なのよね…」
「へぇ。そう考えるのか。」
「え?どういうこと?」
「君の考えるアルもあながち間違ってはいないが、アルは冷たいやつだから。」
「え?」
「ま、深く考えるなよ。」
「は、はあ。」
「美味しゅうございますか?姫君」
私はイザベルに話しかけられた。
昼餉を持ってきてもらって食べている最中だったからだ。
「え?もちろん。美味しいよ。」
「良かったです。オリビア姫がそう言ってくださると嬉しいです!」
「私もですわ。姫君。きちんと食べてこその姫君なんですもの。」
「そうですわ!私達も幼い頃ひどい飢饉のせいで満足に食べれない日もあったんですが、その日はとても辛かったですわ」
あれ?
私はふと疑問に思った。
この宮中で働いている人は、特に女官や、最下層の賎民以外の人はどうしてここでどのような身分の人たちが働かされているのかしら。
「ね?ねぇ。アナスタシオ、イザベル?」
「如何なさいました?姫君」
「あなたたちの身分って何?」
「「へ?」」
「女官になるにも身分って多分関係あるでしょう?イザベルたちはどこの身分に属しているの?」
そう私が聞くと2人は顔を見合わせてクスっと笑った。
「ふふ。姫君。女官になるには、賎民以上の身分であれば女官採用試験を受けることができるのでございますよ。」
「え?そうなの?」
「はい。ちなみに私の身分は貴族です。」
「私も貴族ですわ。オリビア姫。」
「ふ、2人とも貴族なのに如何して宮中で働いてるの?」
「行儀見習いのためですわ。ここ宮中は、お金を稼ぐために女官になるものよりも、行儀見習いのために宮中に入る貴族の娘はとても多いのでございます。それと、宮中で女官の中にも格差はございまして、A B C D E Fまでございまして、Aは、王族に直系のある方をお世話できる方がこのランクに入ることができます。Aは、特に器量もよく、美しい方が選ばれます。Bは、貴方様のように新しく宮中に上がった血縁のない女の方をお世話する方がこのランクに入れます。私とアナスタシオはこのランクにございます。ここは器量が良い貴族の娘がお世話することが多いです。Cは、お客様がいらしたときに接待役をやる方です。頭の回転が早くお話が上手な方がなります。Dは、王室の雑務や管理を貴族より下の者が行います。頭の良いものが厳選して選ばれます。Fは、王族の方々の食事を担当します。商人か平民が選ばれます。Fより下のものは、女官の資格はなく、使用人と呼ばれます。ちなみにAよりも上の身分もございまして、その方々は女官の不正や、女官の取り締まりをしています。この人たちのことを監察部と言います。この方々は最高位の女官で身分のつけようがないのです。」
「へぇ。いろいろあるのね。」
「はい。姫君は女官ではないので姫という身分に置かれます。そして、この王国で女性の中で一番の権力者は王妃様になります。たとえ最高位の女官である監察部も逆らうことはできません。ですが、今の一番の権力者は姫君であらせられますわ。ここ姫宮殿はずっと使われておりませんでした。姫様が御生れにならなかったからにございます。ですが、ここはもう姫君だけのもの。王妃様亡き今誰一人として貴方様の座を奪うことはできないのです。誰一人として。」
「…」
「いつかは、王宮殿は姫君のものになるのですよ」
ここは、食べたいものがすぐ食べられる。
ここは、高級なものがすぐ手に入る。
宮中には沢山の御殿がある。
王宮殿 中宮殿 世子殿 姫宮殿 女官殿
王宮殿 王様や王子様が住む宮殿。臣下たちが仕事をする場でもある。
中宮殿 王妃様が子を孕んでから子供を育てるために住む宮殿。王様も時々ここで過ごす。王妃様に子供ができていない場合は王宮殿で暮らす。
世子殿 第一王子が暮らす宮殿。父親である王がまだご健在である場合は、妃を迎えても、世子殿で暮らす。第二王子からは第一王子とは違い王宮殿で暮らす。
姫宮殿 私の住んでいる宮殿。姫の称号を持つものが住む。第二王女からは王宮殿で暮らす。
女官殿 監察部や、食科部など姫や王など特定で付くものがいない女官は女官殿で寝起きをする。
こんなにいっぱいの御殿があっても、食べたいものが食べれても、着たいものや装飾品を手にとってみても、この王室は何だか寂しい。何か欠けている気がする。どこの王国でもきっとそうなのだろうが…寂しい国。
リランの言っていたアルは冷たい人間であるという言葉。
寂しい人間であるとは思ったわ。でも、冷たい人間だなんて…あのアルからはとても、、
「姫君??」
イザベルに話しかけられて私は我に返った。
「え?あ、なに?」
「もう、お召しあがれないのですか??」
私のスプーンを持つ手は完全に止まっていた。
「あ、ううん!食べるよ。」
「あ、姫君?申し訳ないのですが、もうそろそろお召し替えいただきませんと。」
「お召し替え?」
「はい。王子様からの御命令でございまして。」
「王子?」
「はい。キル様から直々の命によって…今夜世子殿に来るようにとのお達しにございます。王子に会うからにはお召し替えいただきませんと…」
廊下への扉を開けると大勢の女官たちが並んでいた。どうやらドレスやアクセサリー、靴とかを取り替えるために来たのであろう。
「美しいシルクであつらえた最高級のドレスにございますわ」
シルク?そんなのどうでもいいよ…
「高貴な仕立屋にあつらえてもらいましたのよ」
「…仕立屋?」
懐かしい言葉。
忘れていたんだ…両親が仕立屋さんであることを。
なんで、、故郷のことも、幸せもここで全て忘れてしまっている。一度、お母さんに会いたい。お父さんにも…。またお裁縫がしたい。
「さぁ。できましたわ。」
私がそう思い悩んでいる間に私は召し替えを終了した。
「…オリビア姫?どうかなさいましたか?」
「え?」
「王子様が参られました。」
みんな一斉に空気を張り詰めさせた。
コツコツと廊下から靴の音が鳴り響く。
そして、大きく扉は開けられた。
「…オリビア。世子殿には、来なくていい。この国で一番美しい素敵なところへ案内しよう。」
「一番素敵なところ??」
私たちは馬車に乗りながら着ると私の間には静かな時が流れる。
馬車なんて初めて乗った…。
この馬車には宝石と言われる宝石がたくさん敷き詰められている豪華な馬車だった。
誰もがこの馬車を見ると足を止める。頭をさげるのを忘れてしまうほど、目を奪われる、それくらい豪華な馬車だった。
私も乗るのには気が引けた。
「…姫君?」
私の顔の暗さを心配してイザベルは私の名を呼んだ。
そうなのだ。今回は、イザベルもこの馬車にいるのだ。私の御付きの女官としてついていくことになった。アナスタシオは、私の部屋を私がいない間に少し模様替えすると張り切っていたから、お留守番をしている。
「なぁに?イザベル」
「お顔色が優れていませんが…?」
「あ、ら、そう?平気よ。長い間馬車で疲れたのかしらね、初めての馬車だから。それに、このドレスも窮屈だし。ふふ。」
「ですが…お会いになられる方にはお美しい姿でいただかないと…お会いになる方が寂しがられると思います。」
「そうね…なら、我慢するわ」
その後も長い沈黙が続いて、暫くしてキルが私の手を引いた。
「キル?」
「着いたよ。さぁ、馬車から降りよう。」
キルはさりげなく私に手を貸してくれた。
こういうところはやっぱり王子様だなと思う。
優しいところはキルもアルも一緒なんだね。
「オリビア?どうかしたのかい?」
「あ、ううん。ごめんなさい。ぼうっとしてた。」
私はキルの手をとって馬車から降りた。
もう外は夜で真っ暗で気づかなかったけど、
「ここ…」
「もう気づいたよね。オリビア。」
私たちが来たところは、私の家だった。
私は嬉しさとキルの優しさで涙が出そうだった。キルは私の顔を見て優しく私の目から出そうだった涙を手で拭き取った。
「ほらね。この国の僕にとっても国にとっても一番美しく素敵なところだろう?」
「キル」
「ほら、泣かないで。そろそろ、宮殿の生活も疲れてくる頃だから、今日は少しの休憩の日だよ。外で待っているからお父上とお母上と久しぶりにお話ししておいで。いつまでも待ってるから。夜通しでもお話ししておいで。」
「キル。ありがとう。貴方のおかげで今私は幸福だよ。キルがいてくれたから。私は生きてこれたのかもしれない。きっと、アルだけじゃ涙が溢れちゃってたよ。でも、今はキルが拭き取ってくれるから。」
「…ああ。いくらでも拭き取るよ。だから、いくらでも涙を流していいんだよ。」
「…キル。」
私とキルは、初めて愛のあるキスをした。
苦しみも悲しみもたくさんあったけど、この時、キルとキスをしている間はそんなことを忘れられた。
アル。私はいまとんでもないことをしたね。
アルがいるのに、私はキルとキスをした。でも、もう愛があるから。愛があるから、許して…
「さあ。いっておいで!イザベルもね。」
「行ってきます!キル。」
「行ってまいります。王子。」
ただいま。父さん。母さん。
私ね。悪いことしたよ。
アルが好きだったのに、いまはキルが好き。
この気持ちをどうすればいいのかな。
6番星
「どうなさったのかしら。オリビア姫」
「姫君ったらあの日からずっとあんな状態ですよね」
私の背後でイザベルとアナスタシオが小声で話している。
私は、自分の部屋のベッドの上で体操座りをしながら布団をかぶっている。
キルにキスをされた日からもう2日。私は丸2日ご飯を食べていない。アナスタシオとイザベルが心配して私にお医者さんを呼んだが薬を処方されただけで、良くなったところは一向に見せていない。
お医者さんは部屋の外でアナスタシオとイザベルとで話していた。
『これは、心の病でしょうから、今の医学ではとても…』
『そうですか…』
と言っていた。
心の病…?そんなんじゃない。ただ、気落ちしてるだけ。
アルは怒ってしまって一向に私の方に姿を見せないし、キル様は謹慎を命じられたみたいで世子殿に引き込もってらっしゃるし。
気分が上がらないだけ。
「姫君。」
「イザベル?どうしたの?」
「昼餉をお持ちしたのですが…召し上がられませんか?」
「…うん。要らないや。食欲ないし。ごめんね。心配ばっかりかけて。」
「いえ…昼餉は片付けますが、飲み物は、ホットミルクは置いておきますので。食欲が戻られたら私達におっしゃって下さればすぐに美味しいものを用意します。」
「そう…ありがとう。」
イザベルとアナスタシオは昼餉を厨房に戻すために廊下に出て行った、
そして廊下にはアルが居たのである。
「やぁ。イザベル」
「アルベーサ様?!」
「しっ!オリビアに聞こえるよ」
「す、すみません。なぜ、此処に?」
「…オリビアが日増しに痩せて行っていると耳に入ったものでね。でも、この前の事があった手前会いに行けない。今はどんな感じだ?」
「あ…はい。それが、シャーロット様にもお会いになろうとしないのです」
「何だって?」
大切な親友であるシャーロットとも会おうとしないという重大な事と考えたらしい。
「シャーロット様は何度も尋ねられましたが、帰ってもらってとの一点張りでございまして…」
「前のようにオシャレに花を咲かせることもしないのです。今はただベッドの上で静かに布団をかぶりながらうつむいてらっしゃいます。」
アナスタシオがイザベルに続けて言った。
「あのぅ…」
アナスタシオが言った。
「アナスタシオ!まさかあの事を言うつもり?」
「だって、言っておいたほうがいいじゃない。」
「なんだ?聞かせろ。」
「はい。ベッドで時々おやすみになられるのですが、お休みになられたときしきりに『キル』『キル』と呼んでらっしゃるのです」
「…兄上のことか。」
「…定かではありませんが…多分…」
「兄上は、如何して、私の大切なものを奪う…?!」
「奪っているのは、第二王子アルベーサ。君のことではないのか。」
低い声が廊下に響いた。
アナスタシオや、イザベル、アルも一斉に声の元へ振り返った。
そこには、純白で長い髪の毛が風に揺れながら、背の高い目の美しい方が、立っていた。
「…リラン先生!」
そこに居たのは、アルの家庭教師でもあり護衛でもあり、宮中の中でトップの権力者であるエサル=ストリップ=リランである。
貴族の中でもとても大きく、王室でさえ一歩手前に引いているほどと言われるストリップ家の当主リランは女の人には優しく、男の人には少し厳しい面のある人であった。まだ未婚の21歳である。この若さでストリップ家の当主となったこともあって一時は問題視されたがリランは政務や雑務、武術、全てのことにおいて天才的でその問題もいつしかなくなった。リランは、私でも知っているくらいの有名人。
顔もかっこ良くて背も高いし性格もいいときたものだから、村の友達もみんなリランを狙っている。まだ未婚だからっていうのが大きいと思うんだけど。
リランは、アルに対してタメ口で話す。
リランは、王に信頼されているがために、アルやキルに対してタメ口オッケーなのだ。
その辺の理屈は私にはまだわからないけれど、リランがかっこいい事だけならわかる。
「リラン先生。何故姫宮殿へ…」
「アルは最近王宮殿ではなく、姫宮殿へいるらしいと聞いてね。姫宮殿は長い間使われていなかったろうと思って調べてみたら、君は妃を迎えていたのか。ここは、その姫であるヴェデが使っているようだね。」
「ヴェデではない。オリビアだ。」
「え?あ、そうか、名を変えたのか。それにしても、村娘である人間を何故わざわざ姫に向かい入れた?美しく高貴な姫君などどこにでもいるというのに。」
「オリビアだったから、オリビアだったから私は好きなんです。私は、たとえリラン先生でも、オリビアを馬鹿にするのは許さない。」
「…すまなかったな。それより、王様に物申したというのは本当か。」
「?」
「賎民についてのことだ。」
「あぁ。あれのこと。」
「良かったな。賎民が少しは楽な生活ができることになって。」
「はい。とても嬉しいです。それにしても、先ほどの言葉どういう意味ですか。兄上の大切なものを私が奪っているとは。」
「あ、それな、俺お前の話聞いてて引っかかってたんだよな。だって、側室であるキルの母親はアル、君の母親に殺された。そして、キルの継承権もアルが奪った。武術にも、学問においても、人間性においても、キルの方が何倍も格が上のはずであるというのに。キルは王位につくことはできない。側室であったフローラ君が王妃様に殺された日から王様はキルを愛さなくなった。アル、君だけを愛すように。これ以上アルは何を求める?キルの持っているものをすべて奪ったというのに、キルがオリビアを奪うことも許さないというのか?」
「何故それを?!」
「馬鹿にするな。これでも王の護衛官でもあり人間観察や情報にも優れているのだよ。もともとあったキルの大切なものをすべて奪ったんだ。もうそろそろ、アルの物も譲ってやれ。」
「…くっ!リラン先生には関係ない!口を出すな!」
リラン先生はアルを見下ろした。
冷たい目…。リラン先生は何を考えているのかわからない。
「うるさいなぁ。外で何やってんだろ。」
私は部屋の扉を開けた。
そこには、リランに殴りかかろうとしていたアルがいた。
「アル?何やってんの?!」
「オリビア…」
「手を離しなさい。」
「オリビア。これは君のためで…」
「離しなさい!アル!」
「オリビア…すまない。」
アルはそう言って手を離してそのまま王宮殿に戻っていった。
「全く。何があったの?アナスタシオ。イザベル。」
「何があったと言いましょうか。えっと…」
「ま、いいわ。おかげで外に出ることができたし。そうだ。お昼ご飯食べるわ。持ってきてくれる?」
私がそう言うと、イザベルとアナスタシオは一気にパァーと顔を明るくした。
「「すぐに作ります!」」
2人の声が重なった。
2人は全速力でシェフのいる厨房に走っていった。
私が振り向くと、唖然としたリランがいた。
「あ、」
私はとっさに声を上げた。
「君がオリビア姫か?」
「はい。あなたはリランさんですよね。村で何度も噂を聞いてました。」
「噂?」
「はい。とても背が高くて瞳が青色で髪の毛が長くて、美しい男性であると。」
「…」
「あまりにも噂通りで驚きました。アルとは仲があまりよろしくないのですね。」
「いや、そうではない。」
「え?」
「少し散歩をしないか。私は護衛官だから君に何か起きても守れる。」
「わぁ。それは安心。…でも、私には護衛官なんていらないわ。護衛官じゃないただの人間であるリランさんとお話ししたいです。」
「そ、そうか?珍しいやつだな。それと、私のことはリランでいい。呼び捨てで構わんよ。」
「わかりました。」
私たちは歩いて世子殿の庭まで歩いてきた。
「リラン。知ってますか?この庭はキルが作ったんですよ。素敵な庭ですね。」
「ああ。知っているよ。キルの母親のフローラは花が好きだった。美しい中庭だね。あのアネモネも。」
「リラン。花にも詳しいんですね。」
「いや、ただ、仕えるであろうキル様のことについて知りたかっただけだよ。」
「仕えるであろう?どういう意味?」
「私は、いや、ストリップ家は代々王子の護衛官として宮中で力を持ってきた。当然私もキルの護衛官としてここで働くはずだった。だが、フローラ様が宮中から姿を消されて、アルしか愛さなくなった王様は、結局私をアルの護衛官とした。私は、キルの護衛官として仕えることが誇りで楽しみでたまらなかった。人間性も素晴らしいキル様をお守りすることが私の誇りだった。なのに、王様は私をアルの元にして。私はキル様の護衛官になりたかった。人を惹きつける力のあるキル様が何故世子殿であのような影の中生活をされなくてはならないのか。アルではないキル様をお守りしたかった。アルでは…!」
私はリランの口を手で塞いだ。
「リラン。その言葉聞いたらアル泣いちゃう。だから、その先は言わないで。お願い。」
「何故君をあそこまでアルが愛しているのかなんとなくわかった気がする。」
「え?」
「だが、オリビア姫。キルはアルのせいで王宮を追われた。」
「え?あ、なんか、アルがなんで戻ってきたとか言ってたような。それってどういうこと?」
「聞いてないのか?」
「はい。」
「それがな。キル様はアルによってついこの前まで、宮中から出されていた。」
「どうして?!正式な王族であるキルを?!!!」
「俺がアルの母親である王妃様を責めたからだよ。」
私たちは振り返るとキルが立っていた。
キル。そんな。
「責めたって、フローラ様の事件で?」
「そうだよ。母上様が王妃の間者によって殺された。生きてるかも知れないがね。それから1年後。一周忌の時に、初めて俺は、王妃が私の母上様を殺したことを知った。」
俺がお墓によってから世子殿帰るときのことだった。
『ほほほっ。もう一周忌ね。早いものだわ!』
王妃様?!!!何故笑ってる?
『誰も気づきはしないとは。王妃である私がフローラを殺したとは。ほほほっ。』
王妃様が?!!!なんで。なんで?!
『それにしてもまだ遺体は見つからないのか!』
「なんで母上様を殺したのかは、大人になっていくにつれてわかってきた。王妃様は、アルを孕むまで肩身の狭い思いをされてきたのだと。側室が先に子供を産んでしまっては、肩身がもっと狭い。アルが生まれてから、母上様を殺した理由は、後ろ盾をなくすためだろう。後ろ盾を無くした俺は継承権はアルよりも低いし、この有様さ。その後、俺は、そのことを知った俺は、王宮殿に向かった。そして、俺は、王妃を疑った罪を持って長い間田舎の村で生活をしてきた。」
「そんな!」
「悲しむ理由はないさ。そこで生活していたおかげで、ヴェデに会えた。」
「え?!何故、私の本当の名を知っているの?!」
「あ、はは。実はね。俺とヴェデは、同じ村で生活していたんだよ。もっともあまり会えなかったが、一度だけ、君と遊んだよ。楽しかったなぁ。だから、君のことを好きになった。」
なんでストレートに言うの?!!!
恥ずかしいよ。
「あの、私がいるのですが。」
「あ、リラン。久しぶり。元気にしてたか?」
「勿論でございます。キル様の方こそ、お元気そうで何よりです。」
あ、そっか。リランとキルは昔馴染みだもんね。
リランはキルのことをここまで崇拝していたんだ…。確かに、人間性的にも、アルより上だし、なんとなくわかるけど…。
リランは、キルが憧れなのかな。
「それにしても意外だ。オリビアは、リランのこと知っていたんだね。」
「あ、はい。村でよく噂を聞きましたから。」
「また敬語に戻っているよ。オリビア。」
「あ、すみません。いや、ごめん。」
私たちがこんなやり取りをして笑っているとリランも少し笑った。
「リラン?」
キルが聞いた。
「あ、すみません。キル様。オリビア姫とキル様は仲が良くて安心しました。」
「え?」
「キル様が好きなのがオリビア姫で良かった。」
「オリビアはいい子だろ?」
「はい。優しくて、賢く美しい姫だと思います。でも、何より、キル様を信じている。そのことが痛いほど伝わります。」
「…そうか。オリビアは俺を思っていてくれているのか。嬉しいよ。」
「キル。キルが私を想っていてくれてるのも嬉しいよ。って、そんなことより!謹慎中なのに外に出て!だめじゃない!」
「ここは世子殿の敷地内だよ。世子殿から出てないのだから問題ない。」
「そうだけど、後でアルになんて言われるか…」
「第二次王子でしかないアルには俺を動かすほどの権力はない。継承権は低いが権力は俺よりは下だからね。」
「ふーん。なら良かった。」
「君はアルを好きなのか?」
リランが私の顔をまじまじと見て聞いた。
「え?…うーん。最初はもっとすごい人かと思ったよ。でも、本当はとても寂しい人なのよね…」
「へぇ。そう考えるのか。」
「え?どういうこと?」
「君の考えるアルもあながち間違ってはいないが、アルは冷たいやつだから。」
「え?」
「ま、深く考えるなよ。」
「は、はあ。」
「美味しゅうございますか?姫君」
私はイザベルに話しかけられた。
昼餉を持ってきてもらって食べている最中だったからだ。
「え?もちろん。美味しいよ。」
「良かったです。オリビア姫がそう言ってくださると嬉しいです!」
「私もですわ。姫君。きちんと食べてこその姫君なんですもの。」
「そうですわ!私達も幼い頃ひどい飢饉のせいで満足に食べれない日もあったんですが、その日はとても辛かったですわ」
あれ?
私はふと疑問に思った。
この宮中で働いている人は、特に女官や、最下層の賎民以外の人はどうしてここでどのような身分の人たちが働かされているのかしら。
「ね?ねぇ。アナスタシオ、イザベル?」
「如何なさいました?姫君」
「あなたたちの身分って何?」
「「へ?」」
「女官になるにも身分って多分関係あるでしょう?イザベルたちはどこの身分に属しているの?」
そう私が聞くと2人は顔を見合わせてクスっと笑った。
「ふふ。姫君。女官になるには、賎民以上の身分であれば女官採用試験を受けることができるのでございますよ。」
「え?そうなの?」
「はい。ちなみに私の身分は貴族です。」
「私も貴族ですわ。オリビア姫。」
「ふ、2人とも貴族なのに如何して宮中で働いてるの?」
「行儀見習いのためですわ。ここ宮中は、お金を稼ぐために女官になるものよりも、行儀見習いのために宮中に入る貴族の娘はとても多いのでございます。それと、宮中で女官の中にも格差はございまして、A B C D E Fまでございまして、Aは、王族に直系のある方をお世話できる方がこのランクに入ることができます。Aは、特に器量もよく、美しい方が選ばれます。Bは、貴方様のように新しく宮中に上がった血縁のない女の方をお世話する方がこのランクに入れます。私とアナスタシオはこのランクにございます。ここは器量が良い貴族の娘がお世話することが多いです。Cは、お客様がいらしたときに接待役をやる方です。頭の回転が早くお話が上手な方がなります。Dは、王室の雑務や管理を貴族より下の者が行います。頭の良いものが厳選して選ばれます。Fは、王族の方々の食事を担当します。商人か平民が選ばれます。Fより下のものは、女官の資格はなく、使用人と呼ばれます。ちなみにAよりも上の身分もございまして、その方々は女官の不正や、女官の取り締まりをしています。この人たちのことを監察部と言います。この方々は最高位の女官で身分のつけようがないのです。」
「へぇ。いろいろあるのね。」
「はい。姫君は女官ではないので姫という身分に置かれます。そして、この王国で女性の中で一番の権力者は王妃様になります。たとえ最高位の女官である監察部も逆らうことはできません。ですが、今の一番の権力者は姫君であらせられますわ。ここ姫宮殿はずっと使われておりませんでした。姫様が御生れにならなかったからにございます。ですが、ここはもう姫君だけのもの。王妃様亡き今誰一人として貴方様の座を奪うことはできないのです。誰一人として。」
「…」
「いつかは、王宮殿は姫君のものになるのですよ」
ここは、食べたいものがすぐ食べられる。
ここは、高級なものがすぐ手に入る。
宮中には沢山の御殿がある。
王宮殿 中宮殿 世子殿 姫宮殿 女官殿
王宮殿 王様や王子様が住む宮殿。臣下たちが仕事をする場でもある。
中宮殿 王妃様が子を孕んでから子供を育てるために住む宮殿。王様も時々ここで過ごす。王妃様に子供ができていない場合は王宮殿で暮らす。
世子殿 第一王子が暮らす宮殿。父親である王がまだご健在である場合は、妃を迎えても、世子殿で暮らす。第二王子からは第一王子とは違い王宮殿で暮らす。
姫宮殿 私の住んでいる宮殿。姫の称号を持つものが住む。第二王女からは王宮殿で暮らす。
女官殿 監察部や、食科部など姫や王など特定で付くものがいない女官は女官殿で寝起きをする。
こんなにいっぱいの御殿があっても、食べたいものが食べれても、着たいものや装飾品を手にとってみても、この王室は何だか寂しい。何か欠けている気がする。どこの王国でもきっとそうなのだろうが…寂しい国。
リランの言っていたアルは冷たい人間であるという言葉。
寂しい人間であるとは思ったわ。でも、冷たい人間だなんて…あのアルからはとても、、
「姫君??」
イザベルに話しかけられて私は我に返った。
「え?あ、なに?」
「もう、お召しあがれないのですか??」
私のスプーンを持つ手は完全に止まっていた。
「あ、ううん!食べるよ。」
「あ、姫君?申し訳ないのですが、もうそろそろお召し替えいただきませんと。」
「お召し替え?」
「はい。王子様からの御命令でございまして。」
「王子?」
「はい。キル様から直々の命によって…今夜世子殿に来るようにとのお達しにございます。王子に会うからにはお召し替えいただきませんと…」
廊下への扉を開けると大勢の女官たちが並んでいた。どうやらドレスやアクセサリー、靴とかを取り替えるために来たのであろう。
「美しいシルクであつらえた最高級のドレスにございますわ」
シルク?そんなのどうでもいいよ…
「高貴な仕立屋にあつらえてもらいましたのよ」
「…仕立屋?」
懐かしい言葉。
忘れていたんだ…両親が仕立屋さんであることを。
なんで、、故郷のことも、幸せもここで全て忘れてしまっている。一度、お母さんに会いたい。お父さんにも…。またお裁縫がしたい。
「さぁ。できましたわ。」
私がそう思い悩んでいる間に私は召し替えを終了した。
「…オリビア姫?どうかなさいましたか?」
「え?」
「王子様が参られました。」
みんな一斉に空気を張り詰めさせた。
コツコツと廊下から靴の音が鳴り響く。
そして、大きく扉は開けられた。
「…オリビア。世子殿には、来なくていい。この国で一番美しい素敵なところへ案内しよう。」
「一番素敵なところ??」
私たちは馬車に乗りながら着ると私の間には静かな時が流れる。
馬車なんて初めて乗った…。
この馬車には宝石と言われる宝石がたくさん敷き詰められている豪華な馬車だった。
誰もがこの馬車を見ると足を止める。頭をさげるのを忘れてしまうほど、目を奪われる、それくらい豪華な馬車だった。
私も乗るのには気が引けた。
「…姫君?」
私の顔の暗さを心配してイザベルは私の名を呼んだ。
そうなのだ。今回は、イザベルもこの馬車にいるのだ。私の御付きの女官としてついていくことになった。アナスタシオは、私の部屋を私がいない間に少し模様替えすると張り切っていたから、お留守番をしている。
「なぁに?イザベル」
「お顔色が優れていませんが…?」
「あ、ら、そう?平気よ。長い間馬車で疲れたのかしらね、初めての馬車だから。それに、このドレスも窮屈だし。ふふ。」
「ですが…お会いになられる方にはお美しい姿でいただかないと…お会いになる方が寂しがられると思います。」
「そうね…なら、我慢するわ」
その後も長い沈黙が続いて、暫くしてキルが私の手を引いた。
「キル?」
「着いたよ。さぁ、馬車から降りよう。」
キルはさりげなく私に手を貸してくれた。
こういうところはやっぱり王子様だなと思う。
優しいところはキルもアルも一緒なんだね。
「オリビア?どうかしたのかい?」
「あ、ううん。ごめんなさい。ぼうっとしてた。」
私はキルの手をとって馬車から降りた。
もう外は夜で真っ暗で気づかなかったけど、
「ここ…」
「もう気づいたよね。オリビア。」
私たちが来たところは、私の家だった。
私は嬉しさとキルの優しさで涙が出そうだった。キルは私の顔を見て優しく私の目から出そうだった涙を手で拭き取った。
「ほらね。この国の僕にとっても国にとっても一番美しく素敵なところだろう?」
「キル」
「ほら、泣かないで。そろそろ、宮殿の生活も疲れてくる頃だから、今日は少しの休憩の日だよ。外で待っているからお父上とお母上と久しぶりにお話ししておいで。いつまでも待ってるから。夜通しでもお話ししておいで。」
「キル。ありがとう。貴方のおかげで今私は幸福だよ。キルがいてくれたから。私は生きてこれたのかもしれない。きっと、アルだけじゃ涙が溢れちゃってたよ。でも、今はキルが拭き取ってくれるから。」
「…ああ。いくらでも拭き取るよ。だから、いくらでも涙を流していいんだよ。」
「…キル。」
私とキルは、初めて愛のあるキスをした。
苦しみも悲しみもたくさんあったけど、この時、キルとキスをしている間はそんなことを忘れられた。
アル。私はいまとんでもないことをしたね。
アルがいるのに、私はキルとキスをした。でも、もう愛があるから。愛があるから、許して…
「さあ。いっておいで!イザベルもね。」
「行ってきます!キル。」
「行ってまいります。王子。」
ただいま。父さん。母さん。
私ね。悪いことしたよ。
アルが好きだったのに、いまはキルが好き。
この気持ちをどうすればいいのかな。
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