優しい空の星

夏瀬檸檬

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2番星 アルンティス宮殿

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優しい空の星

2番星

彼のブロンドの髪は風によく揺れた。
私は彼の瞳の美しさに気を取られていた。
「娘さん?」
「あ、私は、ヴェデーアスティーヌです。みんなヴェデって呼びます。」
名前を教えると、彼は、また少し笑った。
「そうか、では、ヴェデ。私はアルと呼んでください。聞きたいことがあるのですが。」
「は、はい。」
アルは指を森の方へ向ける。
「あの森の向こうに、人家はあるでしょうか。」
「あ、いえ、それが、この村を超えると大抵集落はありません。それに、今は、隣の村とわたしの村の人たちは全て山菜採りへ出かけているので、あと2日は帰りません。」
アルは少し考えるような行動をした。
そして、また馬に乗って、手綱を持つ。
「ヴェデ。ありがとう。では、もう少し行ってみることにする。ヴェデ。また会うことはきっとないと思うけれど、君の厚意に感謝するよ。」
「いえ、教えただけですから。」
私は一歩下がる。
アルは、馬の手綱を持ち少しずつ森へ進んでいく。これでは、きっと、盗賊に襲われたりするのではないかと、不安がよぎる。
そして、考えるより先に声が出た。
「もしっ!アル!」
「え?どうしました?ヴェデ?」
「もしかして、野宿するおつもりでは??」
「あ、それは分かりません。」
「あ、あの。粗末な家ですが、私の家に来ませんか?」
私は家を指で指しながら言った。
「え?良いのですか?」
「今、村は皆出払っていて心寂しかったので丁度良いのです。貴方はきっと由緒正しい家柄でしょうから、こんな家では嫌だと思いますが。野宿よりは幾らかマシだと思います。夕ご飯もお出しできますよ。」
アルは少し優しい笑みを浮かべて、
「では、そのご好意に甘えさせていただきます」
「ええ。どうぞ。」

アルは部屋に入った途端、部屋中を大きく見渡すと優しく微笑む。
「ここは、私の家よりも、落ち着く場所ですね。中にもたくさんの緑があって、私の家は、こんなに優しい家ではないのです。」
「そうなんですか…。」
「あ、あと、敬語はもうやめてください。普通に喋っていただいて結構ですよ。」
「は、はい。」
「普通の喋り方で、話す友達なんていなかったのです。ですから、とても嬉しいです。」
また優しく微笑む。
私が好きな髪色を持っているアル。
風に吹かれると静かに揺れる優しい香りのするアル。
見た目からして、伯爵以上の地位は必ずある。もしかしたら、宮廷の重臣の一人かもしれない。だって、普通の言葉で話す友達が一人もいなかったなんて、普通に暮らしていればありえないことじゃない?お金持ちの家はそうなのか。と、わたしはおもった。
「あ、私も敬語じゃなくていいです!」
「そうか、それはこちらとしても有難い。それにしても、何故ヴェデだけ山菜採りに行かないで村で一人だけ待っているんだい?」
「それは、私が病弱で…毎年いけないんです。」
「そうだったのか、失礼なことを聞いてしまったね。すまない。」
「いえ、そんなこと、もともと、私は病弱だったのに馬で駆け回ってたりしてるからいけないんですよ。」
「馬?ここに馬がいるのか?」
「へ?あ、はい。鶏とか犬や猫、鹿とか色々いますけど。」
アルはいきなり楽しそうな瞳で私を見る。
ワクワクしているのが目に見える。動物が好きなのだろうか。
「見ますか?もしかしたらもう寝ているかもしれないけれど、」
「見ても良いのかい?」
「もちろん。」
私は元気よく笑った。

「綺麗な馬だね。」
アルはスウェンを褒める。
私たちは外に出て動物小屋へ来た。
どうやらアルは馬が好きに様だ。
スウェンはまだ起きていたから、たくさん撫でていた。その度に、アルは優しく微笑む。あの微笑みは彼が死ぬまで尽きることなく輝くことを私はもう少しあとで知った。
アルという人間は、まだよく知らない。
でも、きっと、良い人。優しい人だ。だって、怖い人があんな優しい笑みを浮かべるはずないのだもの。
「ヴェデ。君はこの馬がお気に入りなのか?」
「ええ。もちろん。スウェンは私にとって大切な存在よ。でも、スウェンはお父さんのものなの。だから、私ばかりが大切にしていてはいけないの…。アルも今日乗ってきた馬が一番のお気に入りなのではなくて?」
「あ、あぁ。」
「あ、そういえばアル?」
「なんだい?」
「アルの乗ってきた馬のことなんだけど、外では可哀想だわ。だから、スウェンと同じ馬小屋に入れてあげましょうよ。粗末な馬小屋だけれど、ないよりはましじゃないかしら。」
ヴェデはまた静かに笑うと、
「そうですね。甘えさせてもらいます。」と言った。

今は2人で夕食を食べている。
パンとスープそして、ビーフが焼かれて置いてある。
先ほど、アルの乗ってきた馬をしっかり見て見たら綺麗な顔をしていて、高貴な馬って感じの気品があった。たてがみも綺麗に揃えられていて、かっこいいと思った。でも、やっぱり私はスウェンが好きだ。スウェンは優し顔をしているんだ。気品なんて要らない。スウェンがスウェンであれば良いのだから。
人間もそう。身分とかそういうのは関係なんてないんだ。ただ、その子の中身を見ていれば、身分なんて気にしていないだろう。
「ヴェデ。」
「はい?」
「顔色が悪いが…平気か?」
「?顔色?」
私は鏡で肌の色を見る。
青ざめている白い肌。
私は肌の色だけは自信があった。(あと、裁縫ね)真珠のような透き通った宝石のような色をしていて、ほおは少し優しくピンク色。
だというのに、今は青ざめた汚い肌。
風邪がぶり返したのだろうか。咳も出ていないし、熱もないのに。なんでだろう。
「そなた、少し休んでいた方が良いのではないか?」
「え?平気だよ。ただ顔色が悪いだけだもの。薬飲めば平気よ。」
「いや、横になりなさい。ヴェデ。」
強い芯の曲がらない美しいブルーの瞳が私を見つめる。その瞳には逆らえない威厳があった。
「わかっ…たわ。じゃあ、私部屋に戻るから。」
「あぁ。それが良い。」

私は布団に入ってから、ひどい吐き気と眠気に襲われる。気持ちが悪くて、すごく眠いのに眠れない。そんな時間だけが黙々と過ぎていて私はもう半分意識がなかった。
コンコンッ。ノック音がする。
アルなのだろうか、
「ヴェデ。先ほどの夕食雑炊を作ったのだが食べるか?…ヴェデ?!」
私はあるから見たら意識不明の人間になっていたらしい。顔が青ざめ、体は真っ白。
私は急いで馬に乗せられて、そのままどこか知らないところまで馬で連れて行かれた。

私が目を覚ましたのは、朝の9時くらいだった。目をさますと私はふかふかの大きなお姫様が寝るようなベッドに寝かされていた。
ふかふかすぎて家のとは大違いだと思った。
ベッドのそばの机と言ったら銀でできている。
壁には大理石がたくさん敷き詰められて驚くのなんのって。
コンコンッ。ノックオンが響く。
そこから、2人の使用人のような服を着た綺麗な女の人が入ってきた。
「あ、ヴェデ様。目が覚めあそばしましたか?」
「ヴェデ様?わ、私のこと?」
「勿論でございます。面白いことをおっしゃいますね。ほほ…。」
そう少し笑って私の方へ近づいてくる。
1人の女性は華やかのドレスを持ってくる。
「さぁ、お召し替えですわ。ヴェデ様。」
「え?、どういうことなの?あなた達はいったい誰?ここはどこなの?」
「わたくしたちは、ヴェデ様付きのメイドでございます。私は、アナスタシオで御座います。そしてこちらにいるのが、」
もう1人のドレスを持っている女性が私に頭をさげる。
「イザベルと申します。私はドレスを担当しております。」
イザベルと、アナスタシオ。
イザベルの意味は、神に捧げる。
アナスタシオは、復活という意味。
でも、一体ここはどこなの?
私付きのメイドっていったいどういう意味?
「そして、ここは…」
「目が覚めたようだね。」
空いている扉から肩を壁によりかけながらそこにはアルがいた。
「アル!」
「ヴェデ。君の病気はそこまで深刻なものではなかった。本当に安心したよ。」
アルは、とても高級そうな服を着て歩いて来た。
「アル。ここはいったいどこなの?この人たちは何?」
「ここは、アルトア王国の一番素晴らしいところだよ。」
「そんなこと言われたってわからないわ。」
「さぁ。この窓から外を見てごらん。」
私はアルに手を引かれ大きな窓を開け外を見る。そこは、アルトア王国全体が見えるところだった。アルトア王国全体が見えるところなんてそんなの1つの場所しかない。
「さぁ、もう分かったかな。ヴェデ。ここは、アルトア王国の最高地、アルンティス宮殿だよ。」
「えぇ?!」
私が目が覚めたら田舎の家ではなく、
この国の人間でも入れるものはわずかな最高地アルンティス宮殿に居たのであった。
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