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3番星 身分の寂しさ
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優しい空の星
3番星
私は窓から離れ、腰が抜けてしまった、
「ヴェデ様?!」
イザベルさんたちが私を慌てて支える。
いったいこれはどういうこと…?
「驚かせてすまなかった。」
アルは私の方へ手を差し伸べる。その手を掴んでやっと立ち上がると、
「君がいきなり意識を失うから仕方なかったんだよ。そして、君にはなにか、御礼もしたかったし、君は気にせずここにいていい。それにここにいて欲しいんだ。」
あれ?そういえば、アルってこの王国の重臣だったのかな。まさか、宮殿に住めるほどの重臣?!だったら私なんて無礼な数々を…
「アル、あなたはいったい誰なの?」
「アルベーサ様は、この国の王子様であらせられますよ。」
そばにいたイザベルさんたちはそう答えた。当たり前のようにさらりと。
「お、王子?!!!」
私はまた青ざめた表情になる。
アルが急いで私の方へ駆け寄り私の頬を触る。
そして腕を引かれ強く抱きしめられた。
「もう、倒れるなんてこと起こらないように、私と一緒に生きてください。」
「へ、、?」
そう言って、部屋から出て行った。
色々突然すぎて頭が回らないし、追いつかない。どういうこと?私と一緒に生きろって…
もしかしてそういうこと?
私は自分で自分を落ち着かせながら後ろに振り返りイザベルさんをみる。
「イザベルさん。」
「ま、あ。私のようなものにさん付けなど。およしください。姫君。」
「え?そいえばさ、姫君ってどういうこと?私ただの村娘なんだけど。」
「へ?また面白いことをおっしゃいます。ほほ。ヴェデ様?貴方様は王子のお妃様なので御座いますよ。」
静かに冷静にそういうイザベル。
「き、きさきー?!」
「何を驚いておいでですか。姫様。先ほどのアルベーサ様の御言葉が全てで御座いますよ。ふふ。それに妃様といえば、何のことでも思いのまま。皆が憧れる地位で御座いますのに…。」
「そうで御座いますよ、イザベルの言う通り。そう言えば、ヴェデ様は、王族だそうですね。前の王朝の末裔だったとお聞きいたしましたわ。そんな素晴らしい血筋の姫様が、仕立て屋の娘だなんて関係御座いませんわ。先の王朝であれば、正式な血筋の生まれなのですから、身分の違いなど、気にすることは御座いません。」
アナスタシオにそう言われて、私は、私の心の中にある何かが、ぷつんっと切れた気がした。
「身分なんて…もとより気にしてないわ。だって、これまでの生活に何の不満も支障もなかったんだもの。スウェンと駆け回って、お花畑に寝転んで…楽しいことだらけだったわ。こんなに素晴らしいことがあってもいいのかってくらい。私は、今のこの生活に満足しています。余計な気遣いは無用です。」
アナスタシオと、イザベルはシュンッとした顔になる。私は少し言い過ぎただろうかと不安に思う。しかし、シュンとした顔をしたかと思いきや、突然とても明るい顔つきをしたイザベルがいた。
「ま…ぁ!ヴェデ様もそのような生活が楽しいと?何だか嬉しいですわ。」
「へ?」
「未来の王妃様であらされるヴェデ様がわたくしたちと同じ生活をしていたとなると、この国での生活を知っているということ。貧しい民がいたとしてもすぐ気付くことができる。そういうことで御座いましょう?」
アナスタシオが言う。
「でも、私が王妃になると決まったわけでは…」
「いいえ。ヴェデ様。貴方様は、王子様からのご寵愛をお受けしておりますのよ。ですから、これはもう決まったようなもの。後は、王子様からのプロポーズを受けるだけで御座います。」
「それにもうプロポーズを受けたのと同じこと。一緒に生きてくださいと王子様はおっしゃいましたから。近来稀に見る王室と平民の結婚ですわ。準備さえも、何日も掛かりますわ。そして、キラキラ光る宝石がキラキラ輝く贅沢な屋敷をあてがわれ、馬車でそちらまで行くことになるんですわ。」
「く、詳しいわね。イザベル。」
「そりゃそうですわ。今は亡き王妃様の結婚式がそのように行われたんですもの。あの時の王妃様の笑顔と言えば、美しくて、眩くて、どれほどの国民が憧れだったか。王妃様の座。それは最高地位で御座いますわ。ですが、王妃様は今はおりません。ですから、姫君が王太子妃になられたらヴェデ姫様が最高地位で御座います。わたくしたちは鼻が高いですわ。」
ほほ…と静かに笑う。
あんな風な静かな笑いが貴婦人たちの笑いなのだろうか。私は、大声でたくさん笑っている方が好きだ。だって、本当に楽しいことだと顎が収まらないくらい笑えるのだもの。
あはは。そうやって笑わないと笑った気がしない。そんな静かな笑いで満足出来るのだろうか。
私は、ドレスに着替えさせられた。
ドレスは、ふわふわしていて、足取りも面白い。キラキラ光るネックレスの宝石。指輪もずっしり重くて、ヒールはとても高い。
どれも、仕立て屋の娘の私にとって考えのつかない大金を持っている気分だった。緊張する。
「お似合いで御座いますよ。御髪の髪飾りは、姫様が寝ている最中に、国一番の宝石の髪飾り職人に特注で、姫様にお似合いのものを作らせたので御座いますよ。フリルも綺麗で。姫様は、優しく朗らかで、薔薇のような美しい唇。ほっそりとしていて、やはり、血は争えないもの。王族であることは変えられませんわね。姫様がどれ程気高く優雅であることは誰にも叶いませんわ。」
イザベラがうっとりした顔つきで言う。
気高くなんてないのに、、。そもそも、気高いってなんなのか、私にはよくわからなかった。
コンコンッ。
ノック音が響いたので、アナスタシオが扉へ向かう。
扉を開けると、美しく眩いほどのドレスを着た美しい少女が入って来た。少女と言っても私とはあまり差のない年齢の女の子。
「…御機嫌よう。ヴェデーアスティーヌさん。」
「ご、御機嫌よう。えっと、」
「名乗り遅れてごめんなさい。私は、シャーロット・サーシャ。サーシャ公爵の一人娘ですわ。貴方が未来のお妃様候補だと言うのは本当?」
「へ?わかりません。」
「ふふ。貴方にはお似合いだと思いますわ。」
さっきのイザベルたちの笑い方とそっくりの笑い方をした彼女は、優しくそう言った。
「え、?」
「わたくしも、アルベーサ様の事を本当にお慕い申しておりますわ。ですが、わたくしとは身分が違います。。貴方は、王家の末裔だとお聞きいたしました。ですから、応援いたしますわ。」
こんなに美しい人でも身分を気にするんだ。
シャーロットさんは、ブルーの瞳で、綺麗な赤い唇。透き通った肌。これこそが貴婦人だと思った。
「わたくし、もう直ぐ、結婚いたしますの。ですから、どちらにしても、アルベーサ様と結婚はできませんのよ。短い間になるかもしれませんが、お友達になってくれませんか?」
「え?私と?」
「はい。だって、貴方は信じられますもの。貴方は裏表がなさそうですわ。」
静かに微笑む。
貴族の娘と言うのは、何か深い悲しみに包まれているのだろうか。
「もちろん。私もお友達になりたいわ。」
「本当?嬉しいわ。よろしくね。」
宮殿に入って、優しい笑みを浮かべる天使のような人。地位の高いところの娘は大変なのね。
ー翌日ー
お母さんとお父さんが帰ってきたのだ。
そして、応接室へ案内された両親は、王様の第一秘書と話をすることになった。
「えぇ?!ヴェデを、アルトア王太子妃にで御座いますか?!」
お母さんは驚く。
少し泣きそうな顔をする。
「ヴェデに、ヴェデに会わせてはくれませんか…?」
お父さんが悲しそうな顔をして、すがるように秘書官に聞く。
「今は会えません。今はまだ王太子妃ではございませんが、姫には変わりはございません。今までの地位とは意味が違うので御座います。会うことはできません。姫様が王太子妃になられた時、御両親は、姫のお父上様、お母上様として、姫を生み、お育ていただいた敬意を表し、宮殿で暮らしていただきます。ですから、その時までお会いになることも話すこともできません。」
「…そ、。うです…か。」
「これは承諾してもらったこととし、王様にご報告させていただきます。つきましてはまたご連絡を…。失礼致します。」
部屋から秘書官が下がろうとした時、
お母さんは秘書官にしがみついた。
「待って下さい!!王太子妃になるということはゆくゆくは黙っていてもアルトア王妃。そんな権力や地位そして苦労を味わせるなどそんなのひどいではございませんか。ただの仕立て屋の娘なので御座いますよ?!」
秘書官はお母さんの手を振り払う。
「もはや、姫様は姫という地位をお持ちの方!仕立て屋などそのような言葉口になさるな!それに、姫様は今、煌びやかなドレスや、眩いほどの宝石を身につけ、メイド達と話に花を咲かせておりまする。昔のことなど直ぐにお忘れになります。では、また、お迎えにあがります。」
そう言って泣いている私の両親を応接室に置き去りにして、出て行ってしまった。
「お、お。神よ。」
「お母さんは今、どうしてらっしゃるかしら。」
私が、花を花瓶に生けながら一言言う。
「あら?ヴェデったら、もうお作法の1つのお話の仕方、マスターしたのね。」
シャーロットが笑いながら言う。
私は昨日、貴婦人としてのお作法や喋り方を猛特訓した。シャーロットとは、仲が良くなり昨日であったばかりなのにまるで昔からの親友のように接している。
「ふふ。そうかしら。まだまだ練習しなくてはシャーロットには追いつけないわ。」
「ま、あ。わたくしに追いつこうなど考えておいでで?そんなこと気にしなくて良くてよ。身分からしたら、ヴェデの方が上なのだから。」
「身分が上でも、お作法がなっていなかったら、貴族とは言えないわ。シャーロットは公爵令嬢で立派なお嬢様なのだもの。わたくしも一生懸命頑張らなくては。」
「まぁ。いつの間にか王子様に恋をしたの?」
シャーロットは、少しからかうような目つきで私を見る。
恋など、王子様に?恐れ多いことだわ。
優しい香りのする美しいブロンド髪のアル。
優しい笑みで私の腕を引くそんな王子様。
「…好き…なの…かしら…」
「え?」
私はとっさにそんな言葉が出た。
「あ、シャーロット。違うのよ。私は…」
「好きになってもいいのよ。シュヴェウザー様自身が、貴女の事をお慕い申しているのですから。」
「そう、かな。」
「ええ。もちろん。」
「なんだい。僕の話題かな?」
「アル!?」
金髪が風に揺れて、優しい香りがした。
私の手を引いて、手の甲にキスをする。
「すまなかったね。昨日はあれから会いに来れなくて。」
「い、え。恐れ多いことですわ。」
「そんな敬うような目で見ないでくれ。私は、敬語はやめくれとそう言ったであろう?」
「あ、申し訳ありません。」
「私に会えて嬉しいか?」
「は、い。嬉しいですわ、」
「そうか、そう言ってくれて嬉しいよ。それにしても、ドレスが似合うね。煌びやかなものが、姫には似合う。そうだ。これからは、ヴェデアスティーヌではなく、オリビア・ミッシェルと名乗りなさい。」
「へ?なぜですか?」
「オリビアの意味は優しいものという意味だ。ミッシェルは、神のようなもの。優しい神のようなものでいて欲しいと名付けた。この国の高貴なものは宮殿に入る時名前を改めるのだよ。だから、これからはオリビア・ミッシェルだよ。いいね。」
「は、はい。」
「メイド達も頼むよ。この子はオリビア・ミッシェルだ。」
「はい。承知しました。」
イザベルとアナスタシオは、深く頭を下げた。
アルは、シャーロットの方へ体を向ける。
また優しい笑みを浮かべる。
「君が、オリビアと仲の良い公爵令嬢なのだね。」
「はい。シャーロットと申します。」
「オリビアは私の大切な人だから、その友達の君のことも大切だよ。どうか仲良くしてあげて。」
「は、はい。仰せのままに。」
また優しい笑みを浮かべてアルは部屋から出て行った。
「ねぇ。シャーロット。」
「なぁに?オリビア。」
裁縫をしている手を止めてシャーロットは私の方を見る。
「シャーロットの本当の名前はなぁに?名前変えたんでしょう?」
「ローレンよ。ローレン・サーシャ。私の本当の名前。そうだわ。いいことを教えて差し上げる。」
「へ?」
「王太子妃になってからはね。貴女はオリビアともよばれなくなるのよ。アリーヤ様と呼ばれるようになるの。使用人からはね。親しいものからはオリビアと呼ばれるけれど。」
「アリーヤ?」
「高貴なものという意味よ。王妃様亡き今、女性の中で最高位にいるのはオリビア。貴女よ。一番高貴で、素晴らしいものを身につけることができるわ。」
素晴らしいもの…
家族や、友人よりも大切なものがあるの…?
宝石や最高級のシルクのドレス。
最高級のティアラ。そんなものが本当に素晴らしい?幸せなの?
そんな悲しい気持ちになりながらも、王太子様には逆らえない。この国も寂しくなったものね…。私が知らなかっただけで…。
「オリビア?どうしたの?」
「へ?あ、なんでもないわ。ただ、、」
「ただ?」
「貴族って幸せ?」
そう聞くと、シャーロットは少し顔を歪めた。
「もしかして、貴女、王太子妃になる事を、少し心寂しいの?」
歪めた理由がわかった私は、少し下を向きながら答えた。
「そういうわけではないけれど、なんとなく…貴女に聞きたくて。」
「…そうね。しきたりとか、お作法のこととか大変だけれど、そこそこ幸せかな。欲しいものもすぐ手に入るし。」
「…そう。なのね。」
「それにしても羨ましいわ。オリビアったら。アルベーサ様のお心を射止めて!」
「そんなにすごいことなの?」
「もちろんよ!!」
有無を言わさないような声でシャーロットは言った。
そうよね。
きっと、私はこの国で一番幸福なのだわ。
確かな幸せ。確かな権力。
正式に王太子妃になれたら、お父さんとお母さんを宮殿にお引越しさせましょう。
きっと喜んでくれるわ。
早くお母さんたちに会いたい。
「身分差がないだなんて、素晴らしい国ね。」
私が、思い出したようにシャーロットに言う。
シャーロットは私の顔をまじまじと見て、からかうように笑う。
「ま…ぁ。ほほほっ。身分差なんてこの国にだってもちろんあるわよ。ふふ。」
「え?だって、私は平民なのに…。」
「平民?ほほ。何を言っているの?貴女は前王朝、ブルア家の末裔。いわば、王族じゃない。前の王朝とはいえ、今も昔も王朝の末裔であるのであれば、貴女は王族なのよ。」
「だ、だから、私と王子様は結婚するの?私が王族だから?」
そんなの。悲し過ぎる。この国は身分のことなど気にしない素敵な国だと…そうだと、思っていたのに。身分さえ良ければ、誰でも結婚できるの?違うでしょ?!
結婚って愛し合ってするものじゃないの?
少なくとも、私の村はそうだった。
私の両親も。優しくていつも微笑んでいる大柄な父と、スタイルが良くて村でも有名なくらい裁縫上手で声がよく通るしっかり者の母。
全然違うけれど、2人とも仲がよくていつも微笑んで、娘の私が見ても羨ましいほどだった。
そういうものでしょ?結婚って。
「まさか…オリビア。貴女、恋愛で結婚が出来るとそう思っていたの?」
「も…もちろんよ。両親もそうやって結婚したんだもの。」
「そうね。その村はね。でもね。たいていの村も街も、お見合いで結婚するのよ。」
「お、見合い?」
「双方が納得のいく縁談を考えるのよ。お金持ちの家娘には、お金持ちの家の息子を。お金持ちが選び抜いて、残ったものと平民は見合いをするの。王族。貴族。商人。平民。農民。そして、賎民。この順番で縁談を選ぶことができるのよ。貴女の家は商人だったから比較的いい縁談だったのでしょうね。それに、貴女のお父様方は、王族だもの。平民や農民は、いい縁談なんて選べない。選ぶことが許されないのよ。結婚したい相手がいる場合は役所に届けなくてはいけないし、ましてや、賎民は、結婚できることなんて、少ないわ。結婚できても賎民同士。一生身分からは抜け出せない。それにね。商人までなのよ。自分よりも上の身分のものと結婚できるのは。農民や平民は商人とも結婚が許されない。そんな格差社会なのよ。貴女が思っているような理想郷ではないわ。」
私は世間に絶望した…。
悔しくて、悲しくて、
私の思っていたこの国とは違っていて、苦しくて、私は知らなかったことを悔やんだ。
いや、違う。
私はこの国のことを知ろうとしなかった。
辛い現実に目をそらし、楽しい部分だけ、
たくさん見ていた。そんな人生なら、私はなんの価値があるのか…。
商人として、仕立て屋の娘として、私は楽しい幸せな人生を送っていた。
幸せな人生だったから、他のことには全然興味なんてなかった。今の人生に満足していたから。
でも、私が見ていないところで飢えている民も、苦しんでいる賎民もたくさんいたんだ。
私が見ないことで私自身は幸せだった。
でも、私は胸が痛んだ。
「だからね。オリビア。」
「へ?」
「だから、貴女が理想郷を作っていただきたいわ。」
「?」
「今の王様は自分の欲のためや、妾への浪費は計り知れないの。だから、貴女が王太子妃になってからは、理想の国を貴女の手で作り上げて。飢えている民。苦しんでいる賎民。みんな貴女の救いの手を待っているのよ。」
私は涙がポロポロ出てきた。
この涙が、自分に対しての悔しさからなのか、その現状を知ってからの悲しみなのかはよくわからなかったけど涙が止まらなかった。
涙を拭おうとしているその瞬間だった。
「その通りだよ。」
アルが部屋に現れた。
少し切ない顔をして。
「アル…。聞いていたの?」
「あぁ。君の部屋に入る時、シャーロット殿のお声が聞こえてね。」
私がシャーロットを見ると、真っ青な顔をした。
「申し訳ありません。王子様!」
「ど、どうしたの?シャーロット。」
「王子様の実の父、王様の悪口を言ってしまいました。」
さっきの、浪費についてのお話ね。
「…良いのだよ。僕自身。父の浪費については目に余るものがある。シャーロット殿が心配するのはよくわかるよ。気にするでない。」
「ですが、王太子様。私は、賎民のことが気がかりでなりません。」
私は一言そう言った。わざと、王太子様を呼んで。
「ん?」
「賎民がどんな暮らしをなさっているか、商人の娘である私も知りません。ましてや、王太子様は、お知りになろうと思ったこともないのでは。」
「お、オリビア。失礼よ。」
シャーロットが静かに言う。
「無礼なことは承知です。ですが、民のことを知っていない君主は、君主とは言わないのでは?」
「そ、うだな。確かに…。オリビアの言う通りだ。だが、僕は、君主として目の前にある幸せをまずは作らねばならない。だから…。」
「賎民は二の次だという意味ですか?奴婢という身分だから、貴族よりも、大切になさらないのですか?賎民であろうとも、この国の民であるということには変わりはありませんよ!王太子様!」
王太子様は、黙ったまま静かに下を向いたまま。
時計の針の音しか聞こえないくらい静かに静まりかえってしまった。
3番星
私は窓から離れ、腰が抜けてしまった、
「ヴェデ様?!」
イザベルさんたちが私を慌てて支える。
いったいこれはどういうこと…?
「驚かせてすまなかった。」
アルは私の方へ手を差し伸べる。その手を掴んでやっと立ち上がると、
「君がいきなり意識を失うから仕方なかったんだよ。そして、君にはなにか、御礼もしたかったし、君は気にせずここにいていい。それにここにいて欲しいんだ。」
あれ?そういえば、アルってこの王国の重臣だったのかな。まさか、宮殿に住めるほどの重臣?!だったら私なんて無礼な数々を…
「アル、あなたはいったい誰なの?」
「アルベーサ様は、この国の王子様であらせられますよ。」
そばにいたイザベルさんたちはそう答えた。当たり前のようにさらりと。
「お、王子?!!!」
私はまた青ざめた表情になる。
アルが急いで私の方へ駆け寄り私の頬を触る。
そして腕を引かれ強く抱きしめられた。
「もう、倒れるなんてこと起こらないように、私と一緒に生きてください。」
「へ、、?」
そう言って、部屋から出て行った。
色々突然すぎて頭が回らないし、追いつかない。どういうこと?私と一緒に生きろって…
もしかしてそういうこと?
私は自分で自分を落ち着かせながら後ろに振り返りイザベルさんをみる。
「イザベルさん。」
「ま、あ。私のようなものにさん付けなど。およしください。姫君。」
「え?そいえばさ、姫君ってどういうこと?私ただの村娘なんだけど。」
「へ?また面白いことをおっしゃいます。ほほ。ヴェデ様?貴方様は王子のお妃様なので御座いますよ。」
静かに冷静にそういうイザベル。
「き、きさきー?!」
「何を驚いておいでですか。姫様。先ほどのアルベーサ様の御言葉が全てで御座いますよ。ふふ。それに妃様といえば、何のことでも思いのまま。皆が憧れる地位で御座いますのに…。」
「そうで御座いますよ、イザベルの言う通り。そう言えば、ヴェデ様は、王族だそうですね。前の王朝の末裔だったとお聞きいたしましたわ。そんな素晴らしい血筋の姫様が、仕立て屋の娘だなんて関係御座いませんわ。先の王朝であれば、正式な血筋の生まれなのですから、身分の違いなど、気にすることは御座いません。」
アナスタシオにそう言われて、私は、私の心の中にある何かが、ぷつんっと切れた気がした。
「身分なんて…もとより気にしてないわ。だって、これまでの生活に何の不満も支障もなかったんだもの。スウェンと駆け回って、お花畑に寝転んで…楽しいことだらけだったわ。こんなに素晴らしいことがあってもいいのかってくらい。私は、今のこの生活に満足しています。余計な気遣いは無用です。」
アナスタシオと、イザベルはシュンッとした顔になる。私は少し言い過ぎただろうかと不安に思う。しかし、シュンとした顔をしたかと思いきや、突然とても明るい顔つきをしたイザベルがいた。
「ま…ぁ!ヴェデ様もそのような生活が楽しいと?何だか嬉しいですわ。」
「へ?」
「未来の王妃様であらされるヴェデ様がわたくしたちと同じ生活をしていたとなると、この国での生活を知っているということ。貧しい民がいたとしてもすぐ気付くことができる。そういうことで御座いましょう?」
アナスタシオが言う。
「でも、私が王妃になると決まったわけでは…」
「いいえ。ヴェデ様。貴方様は、王子様からのご寵愛をお受けしておりますのよ。ですから、これはもう決まったようなもの。後は、王子様からのプロポーズを受けるだけで御座います。」
「それにもうプロポーズを受けたのと同じこと。一緒に生きてくださいと王子様はおっしゃいましたから。近来稀に見る王室と平民の結婚ですわ。準備さえも、何日も掛かりますわ。そして、キラキラ光る宝石がキラキラ輝く贅沢な屋敷をあてがわれ、馬車でそちらまで行くことになるんですわ。」
「く、詳しいわね。イザベル。」
「そりゃそうですわ。今は亡き王妃様の結婚式がそのように行われたんですもの。あの時の王妃様の笑顔と言えば、美しくて、眩くて、どれほどの国民が憧れだったか。王妃様の座。それは最高地位で御座いますわ。ですが、王妃様は今はおりません。ですから、姫君が王太子妃になられたらヴェデ姫様が最高地位で御座います。わたくしたちは鼻が高いですわ。」
ほほ…と静かに笑う。
あんな風な静かな笑いが貴婦人たちの笑いなのだろうか。私は、大声でたくさん笑っている方が好きだ。だって、本当に楽しいことだと顎が収まらないくらい笑えるのだもの。
あはは。そうやって笑わないと笑った気がしない。そんな静かな笑いで満足出来るのだろうか。
私は、ドレスに着替えさせられた。
ドレスは、ふわふわしていて、足取りも面白い。キラキラ光るネックレスの宝石。指輪もずっしり重くて、ヒールはとても高い。
どれも、仕立て屋の娘の私にとって考えのつかない大金を持っている気分だった。緊張する。
「お似合いで御座いますよ。御髪の髪飾りは、姫様が寝ている最中に、国一番の宝石の髪飾り職人に特注で、姫様にお似合いのものを作らせたので御座いますよ。フリルも綺麗で。姫様は、優しく朗らかで、薔薇のような美しい唇。ほっそりとしていて、やはり、血は争えないもの。王族であることは変えられませんわね。姫様がどれ程気高く優雅であることは誰にも叶いませんわ。」
イザベラがうっとりした顔つきで言う。
気高くなんてないのに、、。そもそも、気高いってなんなのか、私にはよくわからなかった。
コンコンッ。
ノック音が響いたので、アナスタシオが扉へ向かう。
扉を開けると、美しく眩いほどのドレスを着た美しい少女が入って来た。少女と言っても私とはあまり差のない年齢の女の子。
「…御機嫌よう。ヴェデーアスティーヌさん。」
「ご、御機嫌よう。えっと、」
「名乗り遅れてごめんなさい。私は、シャーロット・サーシャ。サーシャ公爵の一人娘ですわ。貴方が未来のお妃様候補だと言うのは本当?」
「へ?わかりません。」
「ふふ。貴方にはお似合いだと思いますわ。」
さっきのイザベルたちの笑い方とそっくりの笑い方をした彼女は、優しくそう言った。
「え、?」
「わたくしも、アルベーサ様の事を本当にお慕い申しておりますわ。ですが、わたくしとは身分が違います。。貴方は、王家の末裔だとお聞きいたしました。ですから、応援いたしますわ。」
こんなに美しい人でも身分を気にするんだ。
シャーロットさんは、ブルーの瞳で、綺麗な赤い唇。透き通った肌。これこそが貴婦人だと思った。
「わたくし、もう直ぐ、結婚いたしますの。ですから、どちらにしても、アルベーサ様と結婚はできませんのよ。短い間になるかもしれませんが、お友達になってくれませんか?」
「え?私と?」
「はい。だって、貴方は信じられますもの。貴方は裏表がなさそうですわ。」
静かに微笑む。
貴族の娘と言うのは、何か深い悲しみに包まれているのだろうか。
「もちろん。私もお友達になりたいわ。」
「本当?嬉しいわ。よろしくね。」
宮殿に入って、優しい笑みを浮かべる天使のような人。地位の高いところの娘は大変なのね。
ー翌日ー
お母さんとお父さんが帰ってきたのだ。
そして、応接室へ案内された両親は、王様の第一秘書と話をすることになった。
「えぇ?!ヴェデを、アルトア王太子妃にで御座いますか?!」
お母さんは驚く。
少し泣きそうな顔をする。
「ヴェデに、ヴェデに会わせてはくれませんか…?」
お父さんが悲しそうな顔をして、すがるように秘書官に聞く。
「今は会えません。今はまだ王太子妃ではございませんが、姫には変わりはございません。今までの地位とは意味が違うので御座います。会うことはできません。姫様が王太子妃になられた時、御両親は、姫のお父上様、お母上様として、姫を生み、お育ていただいた敬意を表し、宮殿で暮らしていただきます。ですから、その時までお会いになることも話すこともできません。」
「…そ、。うです…か。」
「これは承諾してもらったこととし、王様にご報告させていただきます。つきましてはまたご連絡を…。失礼致します。」
部屋から秘書官が下がろうとした時、
お母さんは秘書官にしがみついた。
「待って下さい!!王太子妃になるということはゆくゆくは黙っていてもアルトア王妃。そんな権力や地位そして苦労を味わせるなどそんなのひどいではございませんか。ただの仕立て屋の娘なので御座いますよ?!」
秘書官はお母さんの手を振り払う。
「もはや、姫様は姫という地位をお持ちの方!仕立て屋などそのような言葉口になさるな!それに、姫様は今、煌びやかなドレスや、眩いほどの宝石を身につけ、メイド達と話に花を咲かせておりまする。昔のことなど直ぐにお忘れになります。では、また、お迎えにあがります。」
そう言って泣いている私の両親を応接室に置き去りにして、出て行ってしまった。
「お、お。神よ。」
「お母さんは今、どうしてらっしゃるかしら。」
私が、花を花瓶に生けながら一言言う。
「あら?ヴェデったら、もうお作法の1つのお話の仕方、マスターしたのね。」
シャーロットが笑いながら言う。
私は昨日、貴婦人としてのお作法や喋り方を猛特訓した。シャーロットとは、仲が良くなり昨日であったばかりなのにまるで昔からの親友のように接している。
「ふふ。そうかしら。まだまだ練習しなくてはシャーロットには追いつけないわ。」
「ま、あ。わたくしに追いつこうなど考えておいでで?そんなこと気にしなくて良くてよ。身分からしたら、ヴェデの方が上なのだから。」
「身分が上でも、お作法がなっていなかったら、貴族とは言えないわ。シャーロットは公爵令嬢で立派なお嬢様なのだもの。わたくしも一生懸命頑張らなくては。」
「まぁ。いつの間にか王子様に恋をしたの?」
シャーロットは、少しからかうような目つきで私を見る。
恋など、王子様に?恐れ多いことだわ。
優しい香りのする美しいブロンド髪のアル。
優しい笑みで私の腕を引くそんな王子様。
「…好き…なの…かしら…」
「え?」
私はとっさにそんな言葉が出た。
「あ、シャーロット。違うのよ。私は…」
「好きになってもいいのよ。シュヴェウザー様自身が、貴女の事をお慕い申しているのですから。」
「そう、かな。」
「ええ。もちろん。」
「なんだい。僕の話題かな?」
「アル!?」
金髪が風に揺れて、優しい香りがした。
私の手を引いて、手の甲にキスをする。
「すまなかったね。昨日はあれから会いに来れなくて。」
「い、え。恐れ多いことですわ。」
「そんな敬うような目で見ないでくれ。私は、敬語はやめくれとそう言ったであろう?」
「あ、申し訳ありません。」
「私に会えて嬉しいか?」
「は、い。嬉しいですわ、」
「そうか、そう言ってくれて嬉しいよ。それにしても、ドレスが似合うね。煌びやかなものが、姫には似合う。そうだ。これからは、ヴェデアスティーヌではなく、オリビア・ミッシェルと名乗りなさい。」
「へ?なぜですか?」
「オリビアの意味は優しいものという意味だ。ミッシェルは、神のようなもの。優しい神のようなものでいて欲しいと名付けた。この国の高貴なものは宮殿に入る時名前を改めるのだよ。だから、これからはオリビア・ミッシェルだよ。いいね。」
「は、はい。」
「メイド達も頼むよ。この子はオリビア・ミッシェルだ。」
「はい。承知しました。」
イザベルとアナスタシオは、深く頭を下げた。
アルは、シャーロットの方へ体を向ける。
また優しい笑みを浮かべる。
「君が、オリビアと仲の良い公爵令嬢なのだね。」
「はい。シャーロットと申します。」
「オリビアは私の大切な人だから、その友達の君のことも大切だよ。どうか仲良くしてあげて。」
「は、はい。仰せのままに。」
また優しい笑みを浮かべてアルは部屋から出て行った。
「ねぇ。シャーロット。」
「なぁに?オリビア。」
裁縫をしている手を止めてシャーロットは私の方を見る。
「シャーロットの本当の名前はなぁに?名前変えたんでしょう?」
「ローレンよ。ローレン・サーシャ。私の本当の名前。そうだわ。いいことを教えて差し上げる。」
「へ?」
「王太子妃になってからはね。貴女はオリビアともよばれなくなるのよ。アリーヤ様と呼ばれるようになるの。使用人からはね。親しいものからはオリビアと呼ばれるけれど。」
「アリーヤ?」
「高貴なものという意味よ。王妃様亡き今、女性の中で最高位にいるのはオリビア。貴女よ。一番高貴で、素晴らしいものを身につけることができるわ。」
素晴らしいもの…
家族や、友人よりも大切なものがあるの…?
宝石や最高級のシルクのドレス。
最高級のティアラ。そんなものが本当に素晴らしい?幸せなの?
そんな悲しい気持ちになりながらも、王太子様には逆らえない。この国も寂しくなったものね…。私が知らなかっただけで…。
「オリビア?どうしたの?」
「へ?あ、なんでもないわ。ただ、、」
「ただ?」
「貴族って幸せ?」
そう聞くと、シャーロットは少し顔を歪めた。
「もしかして、貴女、王太子妃になる事を、少し心寂しいの?」
歪めた理由がわかった私は、少し下を向きながら答えた。
「そういうわけではないけれど、なんとなく…貴女に聞きたくて。」
「…そうね。しきたりとか、お作法のこととか大変だけれど、そこそこ幸せかな。欲しいものもすぐ手に入るし。」
「…そう。なのね。」
「それにしても羨ましいわ。オリビアったら。アルベーサ様のお心を射止めて!」
「そんなにすごいことなの?」
「もちろんよ!!」
有無を言わさないような声でシャーロットは言った。
そうよね。
きっと、私はこの国で一番幸福なのだわ。
確かな幸せ。確かな権力。
正式に王太子妃になれたら、お父さんとお母さんを宮殿にお引越しさせましょう。
きっと喜んでくれるわ。
早くお母さんたちに会いたい。
「身分差がないだなんて、素晴らしい国ね。」
私が、思い出したようにシャーロットに言う。
シャーロットは私の顔をまじまじと見て、からかうように笑う。
「ま…ぁ。ほほほっ。身分差なんてこの国にだってもちろんあるわよ。ふふ。」
「え?だって、私は平民なのに…。」
「平民?ほほ。何を言っているの?貴女は前王朝、ブルア家の末裔。いわば、王族じゃない。前の王朝とはいえ、今も昔も王朝の末裔であるのであれば、貴女は王族なのよ。」
「だ、だから、私と王子様は結婚するの?私が王族だから?」
そんなの。悲し過ぎる。この国は身分のことなど気にしない素敵な国だと…そうだと、思っていたのに。身分さえ良ければ、誰でも結婚できるの?違うでしょ?!
結婚って愛し合ってするものじゃないの?
少なくとも、私の村はそうだった。
私の両親も。優しくていつも微笑んでいる大柄な父と、スタイルが良くて村でも有名なくらい裁縫上手で声がよく通るしっかり者の母。
全然違うけれど、2人とも仲がよくていつも微笑んで、娘の私が見ても羨ましいほどだった。
そういうものでしょ?結婚って。
「まさか…オリビア。貴女、恋愛で結婚が出来るとそう思っていたの?」
「も…もちろんよ。両親もそうやって結婚したんだもの。」
「そうね。その村はね。でもね。たいていの村も街も、お見合いで結婚するのよ。」
「お、見合い?」
「双方が納得のいく縁談を考えるのよ。お金持ちの家娘には、お金持ちの家の息子を。お金持ちが選び抜いて、残ったものと平民は見合いをするの。王族。貴族。商人。平民。農民。そして、賎民。この順番で縁談を選ぶことができるのよ。貴女の家は商人だったから比較的いい縁談だったのでしょうね。それに、貴女のお父様方は、王族だもの。平民や農民は、いい縁談なんて選べない。選ぶことが許されないのよ。結婚したい相手がいる場合は役所に届けなくてはいけないし、ましてや、賎民は、結婚できることなんて、少ないわ。結婚できても賎民同士。一生身分からは抜け出せない。それにね。商人までなのよ。自分よりも上の身分のものと結婚できるのは。農民や平民は商人とも結婚が許されない。そんな格差社会なのよ。貴女が思っているような理想郷ではないわ。」
私は世間に絶望した…。
悔しくて、悲しくて、
私の思っていたこの国とは違っていて、苦しくて、私は知らなかったことを悔やんだ。
いや、違う。
私はこの国のことを知ろうとしなかった。
辛い現実に目をそらし、楽しい部分だけ、
たくさん見ていた。そんな人生なら、私はなんの価値があるのか…。
商人として、仕立て屋の娘として、私は楽しい幸せな人生を送っていた。
幸せな人生だったから、他のことには全然興味なんてなかった。今の人生に満足していたから。
でも、私が見ていないところで飢えている民も、苦しんでいる賎民もたくさんいたんだ。
私が見ないことで私自身は幸せだった。
でも、私は胸が痛んだ。
「だからね。オリビア。」
「へ?」
「だから、貴女が理想郷を作っていただきたいわ。」
「?」
「今の王様は自分の欲のためや、妾への浪費は計り知れないの。だから、貴女が王太子妃になってからは、理想の国を貴女の手で作り上げて。飢えている民。苦しんでいる賎民。みんな貴女の救いの手を待っているのよ。」
私は涙がポロポロ出てきた。
この涙が、自分に対しての悔しさからなのか、その現状を知ってからの悲しみなのかはよくわからなかったけど涙が止まらなかった。
涙を拭おうとしているその瞬間だった。
「その通りだよ。」
アルが部屋に現れた。
少し切ない顔をして。
「アル…。聞いていたの?」
「あぁ。君の部屋に入る時、シャーロット殿のお声が聞こえてね。」
私がシャーロットを見ると、真っ青な顔をした。
「申し訳ありません。王子様!」
「ど、どうしたの?シャーロット。」
「王子様の実の父、王様の悪口を言ってしまいました。」
さっきの、浪費についてのお話ね。
「…良いのだよ。僕自身。父の浪費については目に余るものがある。シャーロット殿が心配するのはよくわかるよ。気にするでない。」
「ですが、王太子様。私は、賎民のことが気がかりでなりません。」
私は一言そう言った。わざと、王太子様を呼んで。
「ん?」
「賎民がどんな暮らしをなさっているか、商人の娘である私も知りません。ましてや、王太子様は、お知りになろうと思ったこともないのでは。」
「お、オリビア。失礼よ。」
シャーロットが静かに言う。
「無礼なことは承知です。ですが、民のことを知っていない君主は、君主とは言わないのでは?」
「そ、うだな。確かに…。オリビアの言う通りだ。だが、僕は、君主として目の前にある幸せをまずは作らねばならない。だから…。」
「賎民は二の次だという意味ですか?奴婢という身分だから、貴族よりも、大切になさらないのですか?賎民であろうとも、この国の民であるということには変わりはありませんよ!王太子様!」
王太子様は、黙ったまま静かに下を向いたまま。
時計の針の音しか聞こえないくらい静かに静まりかえってしまった。
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