月の魔法にかけられて

夏瀬檸檬

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序章 ~出会い~

第2界 自分の道を

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「旦那様。おかえりなさいませ。」
俺が元の世界へ一時戻ると、取り敢えずは自分の城に戻ることにした。幼い頃から俺の護衛としてそばに仕えるレリッシュが誰よりも早く出迎えてくれた。俺は、上機嫌で自分の部屋へと向かう。その背後から、レリッシュも付いてくる。
「何やら機嫌が宜しいのですね。」
レリッシュという人物しか持たない彼特有の不思議な空気を持つ笑いを背後から俺は感じた。
「そうか?」
俺は振り返って、少しだけ口元を緩ませて言った。
レリッシュはそんな俺を見てまた不思議な笑みを浮かべて、頭を下げてその場からいなくなった。
部屋に着くと俺は一瞬体を硬直させた。部屋について一番初めに目に入るある女性の写真だ。俺はその写真を写真立てごと持ち上げて壁に打ち付けた。
「……そろそろ、俺も前を向かないと…な。」
その時部屋にノック音が響いた。
俺はベッドに寝転がりながら入っていいという合図を出した。その数秒後小さく扉が開けられる音がした。入ってきたのはセルフィ。女の召使いだ。気の強い顔をしている。
「…祝言の方は、然るべき相手が見つかりましたでしょうか…?」
俺は、ベッドから起き上がってワインの引き出しからワインを取り出し、グラスに注いだ。グラスに口をつけワインが喉を伝った。
「お前も飲むか?」
冗談交じりに半ば本気で聞いて見た。
「…結構です。」
「…ふっ。言うと思った。」
俺はもう一口飲んでから、また口を開いた。
「見つかったぜ。」
「…そうですか…。おめでとうございます。」
セルフィは部屋を見渡して、気づいたのか、写真立ての方へ歩いて行った。セルフィは、黙って割れた破片やらを拾っていた。
「またですか。旦那様。」
「…何度も悪いな。」
「…いえ。仕方ないです。」
そそくさと破片を拾うと頭を下げて部屋を出て行った。
そんなふうに忙しく部屋を出て行くセルフィを俺は静かにずっと見ていた。



「と、言うことで、九条さんは来月外国に引っ越すことが決まりました。残り少ない九条さんとの時間をみなさん大切にしてくださいね。」
 先生は私の紹介をホームルームにしていた。
ホームルームが終われば家に帰れるのだが、ホームルームが終わった瞬間詮索ぜめだった。
特に今日だけは男子たちがおとなしかった。
「泉!」
誰よりも大きな声で声をかけてきたのは風華だった。
「風華…帰り、ドーナツ屋さんで話そう。」
「…わかった。」
風華はうつむきながらオッケーを出した。
「それ、私も行って宜しいかしら…」
静かに弱々しい声で私に話しかけたのは清乃さんだった。
風華のそのうしろに、清乃さんがいたのだ。
「清乃さん…」

ドーナツ屋さんに入ると、この前と同じ店員さんで、気まずかった。店員さんからしたら私たちが入ってきて気まずかったものだろう。
「この前は、ごめんなさい!」
座った瞬間清乃さんに深く頭を下げられた。
私も風華もドン引きだった。
「…あれは、あれはね。泉さんが真の曲がらない力強い瞳をしていたから、珍しくて…ついあんな言い方してしまって…」
「褒めてくれたってこと?」
私は顔を傾げながら聞いた。
「私はそのつもりだったの…」
そう言いながら顔をうつむかせ顔が真っ赤になってる清乃さんは不本意ながら綺麗だった。そんな不本意な自分にか、それとも、清乃さんの綺麗な顔にびっくりしたのかわからないけどいきなり笑いが飛び出た。
「い、泉?」
「泉さん?」
「あ、ご、ごめん。清乃さんかわいいね。ふふ。」
そう言うと、もっと顔を真っ赤にした清乃さんは少しだけ笑った。
「私も、泉が許したんなら怒らないわ。清乃さん。」
風華はそう言いながら明るい顔で笑った。
よかった。とりあえずは、仲直り。
「で?」
「え?」
風華は私の方へ視線を置いて聞いてきた。
「なんで外国に引っ越すの?!」
あ、忘れてた…
いや、それは…説明どうすりゃ…
だっていきなりそうなっちゃったんだもん。
それは、ついて行くと決めた翌日まで時間は遡るから、2日前かな。


ー2日前ー
『で、どうする?お父さんたちにどう説明すればいいかな』
スヴァリについて行くとは決めたけど、さすがにいきなり結婚ってのはさ…気が早いんじゃ…?
そう考えているほんの数秒の時間だった。スヴァリは私の腕を掴んで階段を降りて行く。
『ちょっ、ちょっと。どこに行くの?!』
え、ちょっと!リビング?!
ちょっとちょっと!
スヴァリはリビングの扉を大きく開けて、部屋に入った。
『どうなさったんですか?スヴァリさん。』
お母さんは静かに本から顔を上げて私とスヴァリを見た。
やばい。絶対怒ってるよ…。扉をこんなに大きく開けて階段全速力で駆け下りるなんて…。
そう思っていた時、スヴァリは真剣な表情でお母さんに頭を下げた。お母さんはもちろん驚いて、頭を上げてくださいと言った。スヴァリはそれに答えるようにゆっくり頭を上げて、腰にかけてあった刀を床にゆっくり置いて、私とお母さんを見た。そして、突然私の肩を引き寄せた。スヴァリを見ると、意地悪そうな顔、からかってる時の顔、優しい顔全てが入り混じった笑いを浮かべて、はっきりと言った。
『泉を1ヶ月後私の国に連れて行きます。』
声だけは真剣でそう告げた。
お父さんもお母さんもその場に居合わせた空も一斉に表情が固まった。
『な、何言ってるの?スヴァリさん。』
お母さんは本を静かに置いて椅子から立ち上がった。
スヴァリは少しも表情を変えずにお母さんを見た。
『泉を私の国に連れて行くと言いました。花嫁として。』
またこの言葉に、お父さんとお母さんは過剰に反応して空だけが私の顔を見てにんまり笑っていた。口パクで、「頑張れ」と言ってくれた。
『……花嫁って。』
お母さんはぼそりと言った。
その次の瞬間。お母さんは、スヴァリを殴ろうと手を振り上げた。でも、スヴァリは、当たり前のようにその手を顔に当たる寸前に一発で止めた。お母さんは、カッとした顔をしていた。
『泉!こんな素性も家柄もわからないような人と付き合っていたの!?』
『え…あ、それは…』
『こんな、どんな国に住んでたかもわからないような外国人なんかとつるむんじゃないわ。私はね。泉の選んだ人なら外国人でもいいと思ったわ。昨日家に来た時はしっかりしてそうな方だったもの。でも、これは何?いきなり高校を中退するようなことあっていいわけがないでしょう。就職にも響くのよ。あなたの思っているほどこの世の中甘くはないの!そこら辺しっかり見極めなさい!』
『この世の中…それなら大丈夫ですよ。』
スヴァリは少し口元を緩ませながらそう言った。
『だって、泉を連れて行く世界はこの世じゃありませんから。』
『『『は?』』』
…ちょっとたんま…
今、何があった?
私は、スヴァリを無理やり引っ張って部屋から出ようとしたけれど、スヴァリにその腕はいとも簡単に解かれてスヴァリはその場から動かなかった。
『…泉…』
その沈黙を途切らせたのはお母さんだった。
私はゆっくりお母さんの顔を見た。
『…はい。お母さん。』
『…別れなさい。』
『え?』
『こんなわけのわからないことを言うような人と、付き合っちゃいけません。別れなさい。』
『ちょっと!待っ』
『ちょっと待ってよ!』
え?!
私が言った瞬間に声をあげたのは空だった。
『お母さん!いいじゃん!お姉ちゃんはついて行くって言ってた。私聞いたもの。お姉ちゃんは、愛してくれるならついて行くってそう言ってた。スヴァリさんは、もちろんって言ってた。私ももちろんあんな危ない人はやめたほうがいいって思ったわよ。髪の毛長いし、刀とか銃とか持ってるし!お姉ちゃん悲しい人生過ごすことになったらって思ったらゾッとしたよ。でも、お姉ちゃんが生涯愛する人になるんだろう。それはスヴァリさんなんだってそう思ったら、なんかただのバカップルにしか見えなくなってた。お母さんがお姉ちゃんのこと大切なのはよくわかるし、心配なのもわかる。でもね、親が子供の人生特に結婚に口出しはしちゃいけないと思う。辛かったら帰って来ればいいんだもん。まだ、17歳だもん!いつでもやり直せるもん!好きなように生きさせてあげて!』
…空。ありがとう。
私一番に空が心配してくれるなんて思ったことなかった。空はきっと私の邪魔をする嫌な子っていう印象を勝手に作ってて前を向くことからずっと逃げてた。私はいつのまにか空に抜かされてたね…。
お母さんの顔を見るとお母さんはため息をついている。私に幻滅したのか…わからないけど幻滅したのならそれでもいい。もう気にしない。私は私として生きる!
『…お母さん!お願いします!』
『ちょっと待てよ。泉。』
『え?』
私の前に来たスヴァリは、床に置いた刀とは違うコートの内ポケットから短刀を出した。その短刀を見た私たちは少しだけ後ずさりをしたが、すぐにどうして出したかは見当がついた。
『要はこの髪型が気に入らないということだろう?』
短刀をスヴァリは自分の髪につけて、ばさりと切った。
みんな唖然とした顔でスヴァリを見た。
そのあと、スヴァリは器用に髪の毛を短刀で整えた。
今時の髪型というわけには行かなかったが、それなりに格好のいい髪型になった。
『これで納得したか?』
みんなの反応も私の反応もびっくりしすぎて声に出せなかった。でも、私は、スヴァリに抱きついて、
『もう!あんた最高!』
スヴァリもそれに答えて来れて抱きしめてくれた。
この世には愛が足りないのかもしれない。愛が、どんどん減って来ているのかもしれない。人を愛するってことを私たちはいつのまにかどこかに置いて来てしまったんだ。誰かを思いやる気持ちや、誰かを愛する気持ち…そんな気持ちを置いて、誰かを憎み、羨み、恨み、そんな気持ちだけが私たちの中に生まれてしまっていたのだ。そんなことに気づかせてくれたのはスヴァリあなたよ。
『お母さん。これでもダメ?』
私は、スヴァリを抱きしめながら横目でお母さんに言った。
『…もう…勝手にしなさい…』
そう言ってお母さんは部屋を出て行ってしまった。
お父さんは、さっきよりは落ち着いた顔でスヴァリに近寄り、お父さんよりも背の高いスヴァリに、泣きそうな顔をして見上げながらこう言った。
『お母さんも、気持ちが追いつかないだけできっと君たちのことを応援していると思うよ。だから、気にせず頑張りなさい。』
『お父さん…』
初めて私のことを認めて来れた気がした。
奇想天外でありえないスヴァリと私をこんな形で認めてくれることになるなんて。不本意ながら嬉しかった。
『それより、この世の世界に連れて行くわけじゃないってどういうことだい?』
お父さんは目をキョロキョロさせながら私とスヴァリを交互に見ていた。
やっぱりそこ突っ込まれるのか…
『…スヴァリ…言うしかない?』
『この場合致し方ないだろうな。』

『『ええええ?!悪魔界の神官?!』』
お父さんと空は同時に叫んだ。
まー、そりゃ驚くよね。結婚させてって言って結婚する相手が悪魔なんて。
『お、お姉ちゃんほんとなの?』
『私だって最初は信じなかったけど、なんか、ねぇ。なんでも知ってたし…』
『そ、それは大丈夫なのか?』
『お父さん何が?』
空は言った。
『法律とか、いろいろ…』
こうやっていろんなことをすぐに信じちゃうのはこの家系ならではかもしれない。いつもだったら嫌だった。嫌で仕方なかった。でも、今はそんなこともなんだか笑えてきちゃってニコニコしてた。
『ご心配なく。そこは、神官である私の方からなんでもやってみせる。』
空は、ぼーっとそのやりとりを見ていた。いつもだったら一番こういう話に興味あるはずなのに。
『空?どうしたの?』
私が聞くと、空は静かに笑った。と思ったら急に怒りの表情を浮かべた。
『空?』
『ちがーう!』
大きな声でそう言った空は、私たちというよりスヴァリを睨みつけていた。
『空?』
私はもう一度問いかけた。
『違う!そんな書類上のことなんてどうでもいいの!人間と悪魔が結婚なんて、いろいろ聞きたいことあるわ!それに、スヴァリさんは、お姉ちゃんのことちゃんと好きなんですか?そこのところ大事なの!』
『そ、空?』
私は静かにあくまでゆっくりとスヴァリの方を見た。
『好きなんじゃない。』
私は、やっぱりそうなんだ。なんだか、悲しく思ってしまった。スヴァリは愛してくれるって言ったのに…私が彼に助けを求めたのに。
スヴァリは、そんな私の顔を見てニヤッと笑ったかと思ったら腕を引っ張られ抱きしめられた。
『好きなんじゃなくて、愛してるんだ。』
『す、スヴァリ!』
私は恥ずかしさで顔が真っ赤になっているのを自分でも自覚した。恥ずかしすぎる。お父さんや空の前でこんな…
『泉の、強くて素直なところ俺はずっと見てたから。ずっと、何年も見てたから。愛しく思うようになった。』
ずっと何年も見てた…?
『12歳でも17歳でも何歳でもわかるだろう?大切な人をそばに置いておきたいっていう気持ちってもんは。』
空に問いかけるようにスヴァリは、言った。
私はようやく、スヴァリの腕から解放された。
『でもなんで1ヶ月後なの?』
私が聞くと、スヴァリは答えた。
『用意があるからな。花嫁として迎えるための。』
『へぇ。』
『とりあえずは、泉。世間には留学するってことにしておこう。』
『そうね。そうするわ。』


「ってことなのよ。」
私が説明し終えると、風華と清乃さんは驚きすぎて口を開けたままだった。そりゃそうよね。お父さんたちみたいに信じてくれるわけないよね。
「ってことは、もう泉に会えなくなるってこと?」
やっと口を開けた風華は私に聞いた。私は静かに頭を下げた。
その私の行動が、後で問題になるとは思いもしなかった。
沈黙は続いた。清乃さんは、私の顔と風華の顔を交互に見ながら心配そうにしていた。
でも、やっぱり私はここにある平凡で静かで今あることをなんとなく生きるようなこの世界じゃ自分はダメな気がする。どうせ生きるならハラハラしてでもドキドキしてでも自分の生きる道は自分で見つけたい。この気持ちだけは誰にも譲れない私の意志だ。確かに、ここでの生活は優しくて温かい、家以外だけど。家も家でこのことのおかげか分からないが前よりはわだかまりが消えた気がする。それもこれもみんなスヴァリのおかげな気がするんだ。風華と、今は清乃さんとも笑ってられるそんな人生を投げ出してまで生きたい世界があるんだ。
「風華。清乃さん。1つ、お願いがあるんだけどいい?」
私はその沈黙を自ら破った。
「…え?」
風華は少し間を開けて返事をした。


「すみません。たい焼き3つ。こしあんで。」
風華は街に向かって立っている昔からあるたい焼き屋さんに行った。風華は振り返ってまた口を開けた。
「お願いって、お金とかそういう危ない系のことかと思ったよ。」
さっきよりは明るい顔で笑いながら風華は言う。
私もつられるように笑った。
私は、この土地を離れる前にこの土地の隅から隅までを風華と、そして清乃さんと旅をしたい。そう言った。電車やバスで乗り継いでこの街をこの街の景色を体に染み込ませたいのだ。思いの外風華は、喜んでオッケーをくれて、清乃さんは移動するときのお金は選別祝いだからだすとまで言ってくれた。さすが有名な神社の娘。
それで、まず最初に来たのが、たい焼き屋さんだった。
「でもさぁ。」
たい焼きを食べながら、風華は話を切り出した。
「1日じゃさすがに街を回りきれないわよね。」
「そうね。日にちを分けなくては。」
清乃さんもそう言った。
「まだ1ヶ月あるもの。ごめんね。習い事とかあるんだよね…」
私は静かに言った。
「なぁに言ってんのよ。泉。」
「え?」
「おかしな方ですね。あなたは優しい方だから仕方のないことかも知れないけれど、こういう、別れの時くらいお友達として、そばにいたいと思うのは普通のことなのではないですか?」 
清乃さんは、もっと怖い人だと思っていた。
優しく笑う彼女を、私は見ていなかったんだ。清乃さんは、頭が良くてクラス順位はいつも一位。学年順位はわからないが上位であることはたしか。そして、いつも真っ黒のカバーが付いた本を持ち歩いて、黒猫がいつだってくっついている。髪の毛も長くて、前髪で顔半分を隠している黒髪黒色の瞳を持つ美人で、、だからこそ、女は彼女を妬み、男は彼女を恐れた。有名な神社の娘で、金も権力も頭脳も美貌までも持っている彼女を認めざるを得ない自分を憎んでそれが清乃さんへのきつい仕打ちに変わっていたのだろう。
でも、私は、今は、彼女が本当に素敵で魅力のある女性であるとわかった今だからこそ彼女と笑い合うことができるのかも知れない。だからスヴァリはあのドーナツ屋さんで私たちを賢くないと言ったのだろう。彼女に魅力があることも分からなかった私と、風華のことで腹を立てたのだろう。スヴァリはきっと人を見る目がある。そんな部分をなんだか羨ましく思った。
…私は、頼りすぎてるのかな。
愛っていうか、家族の中にある物に温かみを感じなくて大切なおばあちゃんも亡くなってしまって、愛を求めてそんな時に出会ったのがスヴァリだったから、スヴァリの方へ来たけれど私は、私自身は、スヴァリのことを愛しているのだろうか。分からなかった。恋とかそういうものには無縁な人生だったから。愛してもらうからには私も彼を愛さなくてはおかしい関係になってしまう。
清乃さんみたいに、人を見る目があって冷静な判断さえできれば家族の溝ももう少し縮められたかもしれないのに。あの日からお母さんは私と目を合わせてくれないし。お父さんはああ言ってたけれど、やっぱり反対なのよね。
「泉さん?」
清乃さんに呼ばれて私は我に返った。
清乃さんはポケットから蝶の刺繍入りのハンカチを取り出し私に渡した。気がついたら私の頬を水滴が伝っていた。
「あ、ごめんね。ありがとう。ちょっと、きちんと考えてたらなんか、急に悲しくなって来ちゃった。」
「…そうですか。急なことですものね。」
「ええ…。清乃さん…あなたが羨ましい。」
私は無意識のうちにボソリと出ていた言葉に自分自身が驚いていた。
「まぁ、それはどうして?」
「最初は怖い人かと思ったけど優しくて、人を惹きつける何かを持ってるんだもの。スヴァリに、あの人についていくことは言ったものの、あの人はあの世界では身分の高い神官。私があの人について言ったら足手まといになるかもしれない。途中で捨てられるかもしれない。そう思うと、人を惹きつける何かを持っている清乃さんが羨ましく思って…」
風華と清乃さんは私の顔を見て聞いてくれている。
スヴァリは、自分の立場を少しだけ話してくれた。悪魔界と天上界は、神が一人存在しているという。王様だと考えるのがわかりやすい。悪魔界と天上界2つの世界を請け負うどちらの国も同じ神であるという。その次にえらいのは神官。スヴァリの地位だ。この地位を持つ者は、今の神に息子ができなかった場合次の神の候補となる。つまり王位継承者だ。悪魔界と天上界で男女一人を選びその二人を結婚させる。婿の方が神となる。女の方は最高位の女神となる。神官の位を持てるのは、悪魔界であろうと天上界であろうと少数の選ばれたものだけ。家柄と人柄など、いろんなことで選ばれるのだという。今の神には子供がいるから安心だが…。スヴァリはそんな神官という立場を欲しがるものに、狙われているという。そんな波乱の中、私はやっていけるのだろうか。私はスヴァリを支えられるだろうか。不安ばかり募るのだ。
「そういう心配ができるのであれば、大丈夫よ。」
「え?」
清乃さん、どういうこと?
私が顔を上げて首をひねると、穏やかな笑いを浮かべてこう言った。
「だって、もうその人と生きて行くっていう想像ができるのでしょう?たとえ、それがどんな想像であっても。そんな想像をしてそんな心配ができるのだもの。出会った期間から一緒に生きていくって決めた日数はびっくりするくらい少ないけれどそうやってお互いを心配しあえるなら平気よ。どんなことでも乗り越えられるわ。」
「清乃さん。経験したことあるんだ。恋愛。」
私は当たり前のようにそう言った。
清乃さんは、実は優しくていろんなことを知っていて美人さん。なら、彼氏がいたことあるに決まってるし、こんな風に体験談みたいなの語れるんだもの。でも、清乃さんは顔を赤らめて下を向いてしまった。私は何か気に触ることを言ったのではないかと不安に思って名前を呼んだ。
「清乃さん?」
「…私、恋愛なんてしたことないの。」
「え?」
「幼い頃から、神社の娘は他の神社の次男を婿養子としてこの寺に迎え入れることが決まっているの。私はひとり娘だから神社を継がなくてはならないから、恋愛なんて経験したことない。でも、楽しいのね。恋愛って。」
この恋愛したことないという言葉とは違うところに私と風華は驚いてしまった。彼女は見たこともないくらい優しい笑顔で私に問いかけたのだ。
「ほら、私、本ばっかり読んでて、髪の毛だってこんなに伸ばしてるし、呪いとかそういうもの大好きだし、男の子とは無縁の人生だったから。恋愛なんてくだらない。どうせ私は好いた相手とは結婚できないのだからっていつもいつもひねくれてたわ。恋愛とかができないのは全て家のせいにしてた。でも、本当は相手にされないんだってひがんでたのね。私。でも、本当に楽しそう。私は許嫁がいるから他の人を好きになることは許されない身だけど、許嫁の方を好きになってみようかしら。」
「そうね…。恋に正解不正解なんてないんだから好きなようにするのが一番いいよ。」
私は笑ってそういえた。

私たちは、まだまだ子供で、未熟で、大人の支えがなければ前を向くことさえもできない。苦しい時は親、あるいは他の大人が手を引いてくれて、綺麗な道を歩かせてくれるけど、そんな人生に飽きてくるのも私たちだ。私たちはもう綺麗な道でなくても自分で切り開いていける。前を向ける。誰かから愛され、愛することができるのなら、私たちは……




「紹介する。俺の妻になる九条泉だ。」
スヴァリがそう言うと、城の人たちの視線は一斉に私の方へと向いた。
悪魔界は暗くて陰気だ。
そんな陰気な世界を私と、スヴァリで晴らしていこう。
「九条泉です!よろしくお願いします!」
私は大きく頭を下げて礼をした。
私の新たな世界。
私の新たな人生。
スヴァリとの新しくて奇想天外でワクワクする毎日がこれから始まる。
おばあちゃん。私はおばあちゃんの今いる世界と真逆の魔界を選んで悪魔の妻になることにしたけれど、きっと、見ててくれるよね。

地上界のみんな。いつか会えるその日までさようなら。
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