小悪魔なお姫様と執着深い大公

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檻の中の薔薇

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第十章:檻の中の薔薇

 エリスは、薄暗い部屋の中で静かに微笑んでいた。
 窓には分厚いカーテンが引かれ、外の光はほとんど差し込まない。
 柔らかなベッドの上、彼女の手首には金細工の拘束具が嵌められている。

 ──クラウスに連れ去られてから、すでに二日が経っていた。

「ねぇ、クラウス。そろそろ解放してくれない?」

 ゆったりとした声で問いかけるが、クラウスは無言のまま、椅子に座り彼女を見下ろしていた。

「俺をどこまで怒らせれば気が済むんだ?」

「怒ってるの?」

「当然だ。お前が俺を弄ぶからだ」

 クラウスの瞳は、底知れぬ怒りと執着で燃えている。

「俺以外の男にキスをするな」

「あら、貴方こそ、他の女を侍らせていたでしょう?」

「お前の気を引くためだ」

「ふふ、可愛いわね」

 エリスは囁くように笑い、ベッドの上で体を起こした。
 シルクのナイトドレスが滑るように肩を露わにする。

 挑発するように。魅せつけるように。

「クラウス、どうしたの?」

 彼の視線が、彼女の肌に注がれるのを感じる。

「……俺のものになれ」

「嫌よ」

 エリスは、あっさりと拒絶した。

「私は貴方のものになんてならない」

「……本当にそう思っているのか?」

 クラウスの声が、ひどく低くなる。
 そして、次の瞬間、彼は立ち上がり、エリスの顎を強く掴んだ。

「俺が、お前をどうしようと?」

 エリスの唇が、挑発するように弧を描く。

「どうするの? 無理やり私を屈服させるつもり?」

「……そうしないと、お前は俺のものにならないのか?」

「さぁ?」

 エリスは微笑んだまま、彼の手首にそっと指を絡めた。

「でも、もし私を力ずくで屈服させられると思っているのなら……」

 その幻想を、壊してあげるわ。

 彼女は囁きながら、ゆっくりと唇を寄せる。
 クラウスの瞳が、揺らいだ。

 ──その一瞬の隙をついて、エリスは彼の腕をすり抜けると、ベッドの端へと逃げた。

「……っ!」

 クラウスの表情が歪む。

「まだまだね、クラウス」

 エリスは笑いながら、優雅に立ち上がる。
 彼女の手首にはまだ拘束具がついているが、それでも彼女は勝者のような顔をしていた。

「私が貴方に屈すると思っている限り、貴方は私を手に入れられないわ」

「……なら、どうすればいい?」

 クラウスは低く問いかける。

 ──彼はもう、完全にエリスの掌の上だった。

「もっと、狂わせてみせて?」

 エリスは艶やかに微笑み、クラウスの胸元を指でなぞる。

「私を支配できると、本当に思っているのならね?」

 クラウスの呼吸が、荒くなる。
 彼の理性が、軋む音を立てて崩れていくのがわかった。

彼は、すでにエリスの虜だった。

──だが、エリスはまだ逃げるつもりだった。
 本当の戦いは、これから始まるのだから。
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