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にゃん 4 子猫は転がされる
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◇◆◇◆◇ 綾乃 side
『おかえりなさい』と言ってしまったのは、メガネ屋で別れて別行動をした理由は察していたのもあった。けれど今日知り合ったばっかりで良くお互いのことなど知りもしないのに、何となく3人の幼馴染の関係の中に自分が入れて貰っているように無意識に思ってしまっていたのだろうか。でも。
「ただいま、綾乃」
うきゃっ。た、ただいまだってっ!しかも初めて晃さんに名前呼ばれたよっっ!
晃さんの言葉を聞いて、心に溢れたのはうれしいような恥ずかしいような幸福感で。
自分も3人のことを名前で呼んでいるのに。晃さんに呼び捨てされてなんだかくすぐったくて。気がついた幸せで笑ってしまっていた。
「…綾乃ちゃんはさっきメガネ屋で俺達が注文に行った後、何か嫌な思いはしなかった?」
「?ああ、集まって来ちゃってましたもんね。お店ってガラスだから外から中が見えるから、イケメンだと買い物さえゆっくり出来なくて大変なんだなーって思ってましたけど?」
「いやいやいや…。そうじゃなくって。お店で何か言われなかった?彼女達に」
「ああ。ああいうのは気にしなければ何ともないですよっ!私、ずっと女子高だったんで、女の汚い部分って慣れてるんですよ!ああいうのは実害があるまで放っておくに限りますよねっ。私、今までそこまでイケメンさんに知り合う機会がなかったから初めてあんなの見ましたけど。本当にイケメン過ぎるのも大変なんですねっ!」
女子高を卒業して女子短大。そして就職。今の仕事場でもそれなりにもてている男性はいるけど、歩いただけであんなに女子が寄って来るような知り合いはいない。
まあ、女子高だったから少しボーイッシュな友人がお姉さまってちょっとは騒がれたから、それに巻き込まれたことはあったけど、ね。あんなのかわいいもんだったのね。
「アハハハっ!凄いな、ミケちゃんはっ!でも俺は別にイケメンに産まれてうれしかったと思ったことはあってもイヤだと思ったことはないぜ?女の子はより取り見取りだしな!」
ぶふっ。そ、それはまたぶっちゃけた話ですね、恭介さん!まあ確かにそうでしょうけど。
「僕もまあ恨むことはなかったかな。確かに面倒だとは思ったことはあったけど」
「「晃がいたしね」」
「…おい。俺はこの顔で特したことなんてないぞ」
楽しそうにダブった和樹さんと恭介さんの声に晃さんの憮然とした声が返る。
3人の今までのことなんて今日知り合った私には分かりっこないけど、なんとなく3人が産まれた時からの幼馴染で良かったんだろうな、と思えた。
「まあそう言うだろうね、晃は。確かに子供の頃から大変だったし」
「だな。誘拐されかけたりしたしな?俺達も目が離せなかったし」
誘拐!誘拐ってあれだよねっ!TVでサスペンスドラマでやるあれっ!
「うっわー!確かに子供の頃の晃さんって想像したらどう考えても天使しか思い浮かびませんけれど、そこまでだったんですかっ!大変だったんですね…。それじゃあメガネを変装用に使うのも仕方ないですよね。それなら太い黒縁メガネって言ったら瓶底メガネ、っていうように、本当はガラスの凄く分厚いレンズだと顔も歪んで見えるから、そっちの方が完璧かもしれませんけどねっ!」
うん。レンズが分厚いと前から見ると目の大きさだけじゃなくて顔の輪郭まで違く見えるから、眼鏡を外すと別人!ってなるものね。
「プププっ。あ、綾乃ちゃんはやっぱりメガネなんだねっ」
「あっ!すいませんっ!!顔がいいだけでいやな目にずっと散々あっているんですものねっ。それなのに私の理想なんかで押しかけちゃって…」
そう、メガネは顔に掛けるものだから。メガネは顔の一部です!だし!
「いやいやいや。大丈夫。ミケちゃんは全然イヤじゃないから!なっ、晃」
「…ああ。綾乃は俺の顔より気持ちも考えてくれるんだろう?」
「そんなの当然ですよっ!メガネだって似合うものは人にはいっぱいあるじゃないですか!それをその日の気分とかで使い分けるんですよっ!イヤなら拒絶の気分のものをかけるのは当然ですっ!」
「…そこまでメガネに例えて話されると、なんか凄いと感心するな」
うわっっ!強烈なんですがっっ!これは小さい頃に誘拐って、犯罪だから許しちゃ行けないけど、その気持ちがなんとなく分かっちゃう気までしちゃうのがっっ!
ふっ、って力が抜けたような顔で晃さんは小さく微笑んだのだ。鋭い眼差しをちょっとだけ下げて、固く結ばれた口元を少しだけ緩めてやわらかいカーブを描いて。
それはメガネを掛けていないのに、破壊力抜群だった。
う、うわっ、どうしよっ。本当にイケメンさんだっ!ってそんな言葉じゃ足りないくらい、そう、例えて言うなら美の女神様だっっ!
うっかり脳内でサンバでルンバを踊っていた分身までが、赤面して動きを止めてしまったくらいに。
「いやっ、いやっ、そのっ!確かにみなさん理想のメガネ男子でっ!一番晃さんが好みのメガネ男子なんですけどっ!それがきっかけっていうか何というかなんですがっ、えっと、今はそれだけじゃっていうか、なんて言うかっっ!!」
途中で自分が何を言っているか、何を言いたいのかも分からなくなったけど。バタバタ手を振り回しながら言い訳しなきゃっ!と何故かあせって声を上げ続けた。
「そうだよね。確かにきっかけは綾乃ちゃんの理想のメガネ男子センサーに僕達が引っかかったからだけど。でも僕達綾乃ちゃんのこと今日だけですっごく気に入っちゃったから、これで終わりにはしたくないかな、って思ってるんだよ。だから綾乃ちゃんの連絡先も聞いていい?勿論写真もOKだし」
「そうだな。俺もこんなに短い間で笑ったのは初めてだ。是非また会いたいね」
◇◆◇◆◇ 晃 side
「…綾乃は普段はどこに住んでいるんだ?俺達は都内に住んでいるんだが」
和樹が連絡先と言った瞬間、そうかこのままだと明日からの生活に綾乃は関わって来ないのか。と自覚して無意識に言葉が出ていた。
「ええっ!偶然ですね、私も都内で一人暮らししてるんですよ。ここ、実家のすぐ傍なんです。日帰りツアーで帰って来た方が旅費が安いので、今日は用事があってツアー利用して帰って来てたんですよ」
都内。じゃあこれからも会うことは出来る、か。
都内と聞いて安心している自分がいることを、自覚して認める。
「へえー、それはちゃっかりで綾乃ちゃんっぽいね。確かに電車代よりツアーのバス料金の方が安いかもね」
「えへへへ。そうなんですよ。ちょっと用事があっただけだったんで、時間までここで買い物するつもりで来たらみなさんを見かけて、つい、うっかりふらふらと、って訳だったんです」
「そりゃ運が良かったな、お互いに。な、晃」
「ああ、そうだな。綾乃にここで会えて良かった。連絡してもいいか?」
恭介と和樹の意味深な視線は気に食わないが、ここで意地を張っても仕方がない。もう自分の心は認めたんだから。
もっとこの娘を、綾乃のことを知りたいと思っているってことを。
「ええっ!勿論ですよっ!嬉しいなー。図々しいかもしれませんが、なんか今日知り合ったって感じがしなくてですねっ。なんかこう、ずっと私は自分の理想のメガネ男子を探してたんですが、今日みなさんに出会えて、ああ、探してたのはみなさんのことだったのかなっ、とか思っちゃったんですよ」
アハハハっ。すいません、本当に図々しすぎですねっ。みなさんのようなイケメンさんとこうやって話をしてるだけでも凄いのにっ。
そう言って綾乃は笑ったけど、それはこっちの方かもしれないと思った。
綾乃が理想のメガネ男子を探していてくれて、今日この場があったから綾乃に出会えた、って。
「そんなことない」
「そうだよ、そんな綾乃ちゃんが図々しいなんて思う必要ないよ。僕達だってそう思っているもの」
「そうだよな。ってことでこれ名刺な。プライベートのアドレスは赤外線でいいかな?」
「あっ!ちょっと待って下さいね。はい。私のはこれです。事務員なんで名刺は持ってないのでプライベートな連絡先用のなんですけど」
「僕はこれね。ホラ晃も。晃も名刺はないけどねー」
「えっ、そうなんですか?」
きょとん、とただ不思議そうに見られるてその視線から逃げるかのように目をそらしつつスマフォを取り出した。そのまま下を向いたまま赤外線の準備をする。
「…家で仕事してるから。プライベートの連絡先だけなんだ」
「ブアハハっ。晃、素直に外出たくないから自営業なんだって言えばいいんだよ」
「うるさいな、恭介。…だから時間はあるから。いつでも連絡してくれても大丈夫だから」
「フフフ。はい、分かりましたっ。普通の商社の事務なんで私も毎日ほぼ定時上がりですから時間は結構ありますよっ」
はいっ。と笑顔とともに赤外線通信から送られて来た綾乃の個人アドレスに、思わず繋がりが確立されたようで表情を崩していた。定時上がり、ってことは夜も時間あるってことか。
「うわっ、晃が笑ってるよっ!これって希少価値だからね、綾乃ちゃんっ!」
「うきゃっ!す、凄いイケメン過ぎてちょっと眩しいくらいですっ」
「アハハハ。ミケちゃんは晃にメガネしてて欲しい?」
「うーん。してて欲しいっていうか晃さんは理想のメガネ男子ですからねっ!それは素顔がイケメンでも変わりませんしっ!」
ああ…。なんてこう綾乃は言って欲しい言葉をくれるのか。望んでも無理だと諦めていた言葉を。
赤面しそうになった顔を隠そうと横を向くと恭介と目が合って睨みつけた。ブブっと小さく吹き出されて、綾乃から見えないように足を蹴りつける。
「それじゃあ、晃も理想のメガネ男子になる為にメガネ取りに行こうか。もうそろそろ出来ているよね。面倒だから晃は自分のメガネして行ってね。向こうで新しいの受け取ったら写真撮ろうよ。残念だけどそろそろツアーだって言うなら時間じゃない?綾乃ちゃん」
「ああっ!もうこんな時間なんですねっ。ありがとうございます、和樹さん。集合時間のこと忘れてましたっ!」
「良かったね、気が付いて。じゃあさっさとメガネ屋に行こうか」
「はいっ」
◇◆◇◆◇ 綾乃 side
「じゃあ撮りますねっ!」
パシャ。結構響く音が終わると撮れた写真を確認してにんまりする。
出来上がったメガネを掛けた晃さんは、もう、もうすっごくカッコよかった!
本当に理想のメガネ男子そのままで。うっとりと見とれてたら晃さんと目があって、思わず照れくさくて目線をそらしてしまったくらいだ。
和樹さんもくすんだ金のフレームが顔に合って、キレイさが際立って見えた。本人も「フレームがあるのに顔が良く見えるね。綾乃ちゃんの見立ては凄いねー」って言ってくれましたっ!
恭介さんだけ郵送になるから掛けていたメガネだけど、人気がない処で3人並んで貰って今写真を撮らせて貰ったのだ。
やったー!もうこれで明日からも至福の時に生きられるねっっ!もう印刷して部屋にも飾らなきゃっ!
今日バスが着いたら印刷頼んでから帰ろうっと!!
「ありがとうございますっっ!もうこれで思い残すことはないってくらいうれしいですっ!毎日眺めちゃいますよっ、この写真っ!」
「オーバーだよ、綾乃ちゃん。もう思い残すことないって。また会って欲しいな。連絡するから」
「ハイっ!是非っ!今日は本当にありがとうございました!そしてずっと後ろをつけたりしてすいませんでした」
本当に今日は私にとっては最良の日になった。まだ脳内フィーバーは続いてアドレナリンが出まくっているのが分かる。でもこの3人と一緒に少ない時間一緒にいただけで、いかに顔がいいイケメンだからというだけでつきまとわれて迷惑しているのが実感出来たから。自分がそれと同じことをしてしまったことを反省してもいる。
「いいよ、気にしないで。ミケちゃんならいつでも大歓迎だから」
「そうそう、僕達も男3人でいるより綾乃ちゃんが居てくれて楽しかったし」
「迷惑だったらそう言ってる。…メールする」
だからこう言って貰えると本当にうれしくて。何で私なんて、とは思うのもみなさんに失礼な気がするから、ただ3人に知り合えたことを喜ぼう、と思った。
「ありがとうございますっ!連絡待ってますねっ!では、そろそろ時間なんで。本当にありがとうございましたっ!」
ガバっと頭を下げると、手を振りながら集合場所への道を行く。このままじゃあ本当に名残惜しくてバスに乗り遅れそうな気がするから。
「うん、じゃあ、またね綾乃ちゃん」
「またなミケちゃん」
「また」
手を振り返してくれたのが凄くうれしくて。思わずブンブンって子供みたいに手を振って小走りで走りだしていた。
どうして涙が出そうになっているんだろう。今日、それも何時間かしか会ってない人達と別れただけなのに。
今はまだ脳内フィーバーが凄いから気が高揚しているからよね?だって凄かったし!晃さん、すっごく似合ってたしっ!あまりにも至福の時過ぎて興奮しすぎているのよっ!
あー、明日からまた毎日会社の生活が始まるなんて信じられないな…。
普通の生活が遠いなーと思いつつバスに揺られて東京の我が家へと帰って行った。
◇◆◇◆◇ 晃 side
「メールするんだね、晃」
「なんだ、最初はセッティングしてやらなきゃと思ったのによ。これは余計な世話ってことか?」
「…うるさい。連絡は自分でするよ」
「フーン。本当に凄いよね、綾乃ちゃん。こんな晃が見ることが出来るなんて一生無理だと思ってたのに」
「なー。あの子猫パワーかね、ミケちゃんの。じゃあちゃんと落ち着いたら晃がセッティングしろよ。俺達だって彼女と話すのは楽しいんだからな」
「そうそう。楽しいよね、彼女。報告待ってるから。あっ、相談でもいいよ。晃って女の子慣れなんてしてないしね」
「余計な世話だ。綾乃にはちゃんとするよ」
「おおおっ。晃の本気だっ!楽しみだな」
「フフフ。いい報告待ってるよ。じゃあ俺達も夕飯でも途中で食べて帰ろうよ」
「おお。明日も仕事だしなー」
「本当、面倒だけどねー。まあやりがいはあるんだけど」
もう会わないなんてことは絶対ない。次はすぐだ。
うれしいっ!って笑いながらも自分が後をつけてたってことを気にしていた彼女からは、多分連絡は来ないだろう。
けど、もっと知りたい。知った後も期待をしても裏切られないだろうって思ってしまう気持ちがある。女には何も期待なんかしたことなかったのに。
こんな思いをさせた責任は、やっぱり本人に請求しないとな。
帰っていつメールをしようか。そう考えるのが楽しい自分を感じながら帰路についた。
『おかえりなさい』と言ってしまったのは、メガネ屋で別れて別行動をした理由は察していたのもあった。けれど今日知り合ったばっかりで良くお互いのことなど知りもしないのに、何となく3人の幼馴染の関係の中に自分が入れて貰っているように無意識に思ってしまっていたのだろうか。でも。
「ただいま、綾乃」
うきゃっ。た、ただいまだってっ!しかも初めて晃さんに名前呼ばれたよっっ!
晃さんの言葉を聞いて、心に溢れたのはうれしいような恥ずかしいような幸福感で。
自分も3人のことを名前で呼んでいるのに。晃さんに呼び捨てされてなんだかくすぐったくて。気がついた幸せで笑ってしまっていた。
「…綾乃ちゃんはさっきメガネ屋で俺達が注文に行った後、何か嫌な思いはしなかった?」
「?ああ、集まって来ちゃってましたもんね。お店ってガラスだから外から中が見えるから、イケメンだと買い物さえゆっくり出来なくて大変なんだなーって思ってましたけど?」
「いやいやいや…。そうじゃなくって。お店で何か言われなかった?彼女達に」
「ああ。ああいうのは気にしなければ何ともないですよっ!私、ずっと女子高だったんで、女の汚い部分って慣れてるんですよ!ああいうのは実害があるまで放っておくに限りますよねっ。私、今までそこまでイケメンさんに知り合う機会がなかったから初めてあんなの見ましたけど。本当にイケメン過ぎるのも大変なんですねっ!」
女子高を卒業して女子短大。そして就職。今の仕事場でもそれなりにもてている男性はいるけど、歩いただけであんなに女子が寄って来るような知り合いはいない。
まあ、女子高だったから少しボーイッシュな友人がお姉さまってちょっとは騒がれたから、それに巻き込まれたことはあったけど、ね。あんなのかわいいもんだったのね。
「アハハハっ!凄いな、ミケちゃんはっ!でも俺は別にイケメンに産まれてうれしかったと思ったことはあってもイヤだと思ったことはないぜ?女の子はより取り見取りだしな!」
ぶふっ。そ、それはまたぶっちゃけた話ですね、恭介さん!まあ確かにそうでしょうけど。
「僕もまあ恨むことはなかったかな。確かに面倒だとは思ったことはあったけど」
「「晃がいたしね」」
「…おい。俺はこの顔で特したことなんてないぞ」
楽しそうにダブった和樹さんと恭介さんの声に晃さんの憮然とした声が返る。
3人の今までのことなんて今日知り合った私には分かりっこないけど、なんとなく3人が産まれた時からの幼馴染で良かったんだろうな、と思えた。
「まあそう言うだろうね、晃は。確かに子供の頃から大変だったし」
「だな。誘拐されかけたりしたしな?俺達も目が離せなかったし」
誘拐!誘拐ってあれだよねっ!TVでサスペンスドラマでやるあれっ!
「うっわー!確かに子供の頃の晃さんって想像したらどう考えても天使しか思い浮かびませんけれど、そこまでだったんですかっ!大変だったんですね…。それじゃあメガネを変装用に使うのも仕方ないですよね。それなら太い黒縁メガネって言ったら瓶底メガネ、っていうように、本当はガラスの凄く分厚いレンズだと顔も歪んで見えるから、そっちの方が完璧かもしれませんけどねっ!」
うん。レンズが分厚いと前から見ると目の大きさだけじゃなくて顔の輪郭まで違く見えるから、眼鏡を外すと別人!ってなるものね。
「プププっ。あ、綾乃ちゃんはやっぱりメガネなんだねっ」
「あっ!すいませんっ!!顔がいいだけでいやな目にずっと散々あっているんですものねっ。それなのに私の理想なんかで押しかけちゃって…」
そう、メガネは顔に掛けるものだから。メガネは顔の一部です!だし!
「いやいやいや。大丈夫。ミケちゃんは全然イヤじゃないから!なっ、晃」
「…ああ。綾乃は俺の顔より気持ちも考えてくれるんだろう?」
「そんなの当然ですよっ!メガネだって似合うものは人にはいっぱいあるじゃないですか!それをその日の気分とかで使い分けるんですよっ!イヤなら拒絶の気分のものをかけるのは当然ですっ!」
「…そこまでメガネに例えて話されると、なんか凄いと感心するな」
うわっっ!強烈なんですがっっ!これは小さい頃に誘拐って、犯罪だから許しちゃ行けないけど、その気持ちがなんとなく分かっちゃう気までしちゃうのがっっ!
ふっ、って力が抜けたような顔で晃さんは小さく微笑んだのだ。鋭い眼差しをちょっとだけ下げて、固く結ばれた口元を少しだけ緩めてやわらかいカーブを描いて。
それはメガネを掛けていないのに、破壊力抜群だった。
う、うわっ、どうしよっ。本当にイケメンさんだっ!ってそんな言葉じゃ足りないくらい、そう、例えて言うなら美の女神様だっっ!
うっかり脳内でサンバでルンバを踊っていた分身までが、赤面して動きを止めてしまったくらいに。
「いやっ、いやっ、そのっ!確かにみなさん理想のメガネ男子でっ!一番晃さんが好みのメガネ男子なんですけどっ!それがきっかけっていうか何というかなんですがっ、えっと、今はそれだけじゃっていうか、なんて言うかっっ!!」
途中で自分が何を言っているか、何を言いたいのかも分からなくなったけど。バタバタ手を振り回しながら言い訳しなきゃっ!と何故かあせって声を上げ続けた。
「そうだよね。確かにきっかけは綾乃ちゃんの理想のメガネ男子センサーに僕達が引っかかったからだけど。でも僕達綾乃ちゃんのこと今日だけですっごく気に入っちゃったから、これで終わりにはしたくないかな、って思ってるんだよ。だから綾乃ちゃんの連絡先も聞いていい?勿論写真もOKだし」
「そうだな。俺もこんなに短い間で笑ったのは初めてだ。是非また会いたいね」
◇◆◇◆◇ 晃 side
「…綾乃は普段はどこに住んでいるんだ?俺達は都内に住んでいるんだが」
和樹が連絡先と言った瞬間、そうかこのままだと明日からの生活に綾乃は関わって来ないのか。と自覚して無意識に言葉が出ていた。
「ええっ!偶然ですね、私も都内で一人暮らししてるんですよ。ここ、実家のすぐ傍なんです。日帰りツアーで帰って来た方が旅費が安いので、今日は用事があってツアー利用して帰って来てたんですよ」
都内。じゃあこれからも会うことは出来る、か。
都内と聞いて安心している自分がいることを、自覚して認める。
「へえー、それはちゃっかりで綾乃ちゃんっぽいね。確かに電車代よりツアーのバス料金の方が安いかもね」
「えへへへ。そうなんですよ。ちょっと用事があっただけだったんで、時間までここで買い物するつもりで来たらみなさんを見かけて、つい、うっかりふらふらと、って訳だったんです」
「そりゃ運が良かったな、お互いに。な、晃」
「ああ、そうだな。綾乃にここで会えて良かった。連絡してもいいか?」
恭介と和樹の意味深な視線は気に食わないが、ここで意地を張っても仕方がない。もう自分の心は認めたんだから。
もっとこの娘を、綾乃のことを知りたいと思っているってことを。
「ええっ!勿論ですよっ!嬉しいなー。図々しいかもしれませんが、なんか今日知り合ったって感じがしなくてですねっ。なんかこう、ずっと私は自分の理想のメガネ男子を探してたんですが、今日みなさんに出会えて、ああ、探してたのはみなさんのことだったのかなっ、とか思っちゃったんですよ」
アハハハっ。すいません、本当に図々しすぎですねっ。みなさんのようなイケメンさんとこうやって話をしてるだけでも凄いのにっ。
そう言って綾乃は笑ったけど、それはこっちの方かもしれないと思った。
綾乃が理想のメガネ男子を探していてくれて、今日この場があったから綾乃に出会えた、って。
「そんなことない」
「そうだよ、そんな綾乃ちゃんが図々しいなんて思う必要ないよ。僕達だってそう思っているもの」
「そうだよな。ってことでこれ名刺な。プライベートのアドレスは赤外線でいいかな?」
「あっ!ちょっと待って下さいね。はい。私のはこれです。事務員なんで名刺は持ってないのでプライベートな連絡先用のなんですけど」
「僕はこれね。ホラ晃も。晃も名刺はないけどねー」
「えっ、そうなんですか?」
きょとん、とただ不思議そうに見られるてその視線から逃げるかのように目をそらしつつスマフォを取り出した。そのまま下を向いたまま赤外線の準備をする。
「…家で仕事してるから。プライベートの連絡先だけなんだ」
「ブアハハっ。晃、素直に外出たくないから自営業なんだって言えばいいんだよ」
「うるさいな、恭介。…だから時間はあるから。いつでも連絡してくれても大丈夫だから」
「フフフ。はい、分かりましたっ。普通の商社の事務なんで私も毎日ほぼ定時上がりですから時間は結構ありますよっ」
はいっ。と笑顔とともに赤外線通信から送られて来た綾乃の個人アドレスに、思わず繋がりが確立されたようで表情を崩していた。定時上がり、ってことは夜も時間あるってことか。
「うわっ、晃が笑ってるよっ!これって希少価値だからね、綾乃ちゃんっ!」
「うきゃっ!す、凄いイケメン過ぎてちょっと眩しいくらいですっ」
「アハハハ。ミケちゃんは晃にメガネしてて欲しい?」
「うーん。してて欲しいっていうか晃さんは理想のメガネ男子ですからねっ!それは素顔がイケメンでも変わりませんしっ!」
ああ…。なんてこう綾乃は言って欲しい言葉をくれるのか。望んでも無理だと諦めていた言葉を。
赤面しそうになった顔を隠そうと横を向くと恭介と目が合って睨みつけた。ブブっと小さく吹き出されて、綾乃から見えないように足を蹴りつける。
「それじゃあ、晃も理想のメガネ男子になる為にメガネ取りに行こうか。もうそろそろ出来ているよね。面倒だから晃は自分のメガネして行ってね。向こうで新しいの受け取ったら写真撮ろうよ。残念だけどそろそろツアーだって言うなら時間じゃない?綾乃ちゃん」
「ああっ!もうこんな時間なんですねっ。ありがとうございます、和樹さん。集合時間のこと忘れてましたっ!」
「良かったね、気が付いて。じゃあさっさとメガネ屋に行こうか」
「はいっ」
◇◆◇◆◇ 綾乃 side
「じゃあ撮りますねっ!」
パシャ。結構響く音が終わると撮れた写真を確認してにんまりする。
出来上がったメガネを掛けた晃さんは、もう、もうすっごくカッコよかった!
本当に理想のメガネ男子そのままで。うっとりと見とれてたら晃さんと目があって、思わず照れくさくて目線をそらしてしまったくらいだ。
和樹さんもくすんだ金のフレームが顔に合って、キレイさが際立って見えた。本人も「フレームがあるのに顔が良く見えるね。綾乃ちゃんの見立ては凄いねー」って言ってくれましたっ!
恭介さんだけ郵送になるから掛けていたメガネだけど、人気がない処で3人並んで貰って今写真を撮らせて貰ったのだ。
やったー!もうこれで明日からも至福の時に生きられるねっっ!もう印刷して部屋にも飾らなきゃっ!
今日バスが着いたら印刷頼んでから帰ろうっと!!
「ありがとうございますっっ!もうこれで思い残すことはないってくらいうれしいですっ!毎日眺めちゃいますよっ、この写真っ!」
「オーバーだよ、綾乃ちゃん。もう思い残すことないって。また会って欲しいな。連絡するから」
「ハイっ!是非っ!今日は本当にありがとうございました!そしてずっと後ろをつけたりしてすいませんでした」
本当に今日は私にとっては最良の日になった。まだ脳内フィーバーは続いてアドレナリンが出まくっているのが分かる。でもこの3人と一緒に少ない時間一緒にいただけで、いかに顔がいいイケメンだからというだけでつきまとわれて迷惑しているのが実感出来たから。自分がそれと同じことをしてしまったことを反省してもいる。
「いいよ、気にしないで。ミケちゃんならいつでも大歓迎だから」
「そうそう、僕達も男3人でいるより綾乃ちゃんが居てくれて楽しかったし」
「迷惑だったらそう言ってる。…メールする」
だからこう言って貰えると本当にうれしくて。何で私なんて、とは思うのもみなさんに失礼な気がするから、ただ3人に知り合えたことを喜ぼう、と思った。
「ありがとうございますっ!連絡待ってますねっ!では、そろそろ時間なんで。本当にありがとうございましたっ!」
ガバっと頭を下げると、手を振りながら集合場所への道を行く。このままじゃあ本当に名残惜しくてバスに乗り遅れそうな気がするから。
「うん、じゃあ、またね綾乃ちゃん」
「またなミケちゃん」
「また」
手を振り返してくれたのが凄くうれしくて。思わずブンブンって子供みたいに手を振って小走りで走りだしていた。
どうして涙が出そうになっているんだろう。今日、それも何時間かしか会ってない人達と別れただけなのに。
今はまだ脳内フィーバーが凄いから気が高揚しているからよね?だって凄かったし!晃さん、すっごく似合ってたしっ!あまりにも至福の時過ぎて興奮しすぎているのよっ!
あー、明日からまた毎日会社の生活が始まるなんて信じられないな…。
普通の生活が遠いなーと思いつつバスに揺られて東京の我が家へと帰って行った。
◇◆◇◆◇ 晃 side
「メールするんだね、晃」
「なんだ、最初はセッティングしてやらなきゃと思ったのによ。これは余計な世話ってことか?」
「…うるさい。連絡は自分でするよ」
「フーン。本当に凄いよね、綾乃ちゃん。こんな晃が見ることが出来るなんて一生無理だと思ってたのに」
「なー。あの子猫パワーかね、ミケちゃんの。じゃあちゃんと落ち着いたら晃がセッティングしろよ。俺達だって彼女と話すのは楽しいんだからな」
「そうそう。楽しいよね、彼女。報告待ってるから。あっ、相談でもいいよ。晃って女の子慣れなんてしてないしね」
「余計な世話だ。綾乃にはちゃんとするよ」
「おおおっ。晃の本気だっ!楽しみだな」
「フフフ。いい報告待ってるよ。じゃあ俺達も夕飯でも途中で食べて帰ろうよ」
「おお。明日も仕事だしなー」
「本当、面倒だけどねー。まあやりがいはあるんだけど」
もう会わないなんてことは絶対ない。次はすぐだ。
うれしいっ!って笑いながらも自分が後をつけてたってことを気にしていた彼女からは、多分連絡は来ないだろう。
けど、もっと知りたい。知った後も期待をしても裏切られないだろうって思ってしまう気持ちがある。女には何も期待なんかしたことなかったのに。
こんな思いをさせた責任は、やっぱり本人に請求しないとな。
帰っていつメールをしようか。そう考えるのが楽しい自分を感じながら帰路についた。
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