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にゃん 3 子猫は戯れる
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◇◆◇◆◇ 晃 side
「凄いなー、綾乃ちゃんは。せっかくだから晃、ちょっと恭介のメガネも掛けてみてよ」
顔を出した自分を見つめる女のキラキラした視線が、まったく苦にならないのはどれくらいぶりだろう?
幼稚園の時でさえ、お互いに牽制し合う女の子同士の視線にうんざりしてたのに。
掛けていた和樹のメガネを返し、ホラ、と差し出された恭介のメガネを掛ける。恭介は近眼が強いから、ちょっとクラクラするが。
「ほおおおっ!フルフレームだとやっぱりメガネが強調されていいですねっ!銀の細いフレームだからラインの邪魔にもならないしっ!ああ…。でもやっぱり幅が合ってないから蝶番からテンプルの耳にかかる一番キレイなラインがずれてしまってスッゴイ勿体ないです…。やっぱり晃さんの顔のラインが一番好みですっ!」
一瞬ドキっとした。彼女に晃、と呼ばれて。好み、と言われて。
今まで肉親と和樹と恭介の家族以外には呼ぶことを許せなかった名前。それ以外の誰からも好みと言われても嫌悪感しか抱けなかったというのに。
だれもが俺のことを見ると言ったから。キレイな顔だと。絶世の美貌だと。顔を陶然と見る視線は、内面はどうでもいいと言われているようで、受け入れることは今まで一度も出来なかった。
それなのに、彼女のこの言葉は。
「ぷぷっ。それは理想のメガネ男子として、なんだろ?綾乃ちゃん」
「勿論ですっ!求め続けてもうすぐ20年アニバーサリーだったんですからっ!もう感激過ぎて本当にテンションおかしくてさっきからやばいんですよっ!」
この顔をイケメンと言った言葉が全然不快には思えなくて。
「…メガネ、選んでみるか?普段使いのものを新調しようかと思ってたんだが」
気が付いたらそう言っていた。久々に、そうもう中学以来くらいに、自分から顔を出して外を歩いてもいいかとも思ってもいた。
「ええっっ!いいんですかっ!度、入ってないブルーライトカット用のですよね!それならアウトレットのここで選んでもすぐ出来るかな?是非一緒に選ばせて貰いたいですっ!っていうかもうご馳走様って感じですっ!」
「おおっ!ミケちゃん、凄いな。晃のメガネに度が入ってないのも気が付いてたんだ」
「そりゃあそうですよっ!だって度が入ってると歪んで屈折するから分かりますから!薄く色だけ入ったレンズですよっ!青く光るからブルーライトカットですよねっ」
「クスクス。本当に凄いね、綾乃ちゃん。晃がこんなこと言い出したし。よし、気が変わらないうちにメガネ屋行こうか。せっかくだから僕のも綾乃ちゃんに見て貰おうかな」
「そうだな。俺も一番カッコよく見えるヤツでも見てもらうかな!」
ニヤニヤとこっちを見る和樹と恭介の視線がうざい。どれだけ俺が顔を出すのを嫌がっているか知っているだけに、その視線の意味など分かり切っているけど。
そんなうざい視線を向けられても、もうちょっと彼女の反応を見てみたいと思ってしまうのは何故なんだか。
「分かりましたっ!じゃあメガネ屋さん行きましょうっ!うっわー!夢みたいですっ!明日起きて夢だって分かったらもう生きて行けないくらいですっ!」
「へえー、そんなに思ってくれるんだ。じゃあ後で写真でも撮ろうか。欲しいって言ってたよね。とりあえずメガネ屋に行こう」
「はいっ!」
そのまま4人でメガネ屋まで歩きながら。夢だったら生きて行けない。という彼女の言葉が頭から離れずにいた。
◇◆◇◆◇ 綾乃 side
「うっわー!これもいい!本当にどれでも似合っちゃうって凄いですね、和樹さんっ」
「そうかな?なんかフレームがあるのって印象が重い感じがしてたんだけど。綾乃ちゃんが選ぶヤツは確かに雰囲気が重くならないでいい感じだね」
もうここは天国っ!絶対天国だからっ!!
もう神様仏様っ!綾乃はもうこれから神様がいることを疑いませんっ!願いは叶うって本当なんですねっ!
キャッホーイ!
もう脳内がサンバにルンバだけじゃ飽き足らず、訳のわからないテンションではしゃいで踊って飛び回って大変です!
もう、もうっ!理想のメガネ男子を3人も見つけて見ていられるだけでも至福の時だって思ったのにっ!選び放題ですよっ、奥様っ!
え・ら・び・ほ・う・だ・い、ですっっ!
大切なことだから強調しちゃいますよっ!タイプが違う理想のメガネ男子にメガネ着脱し放題ですっ!
もうこれが夢なら覚めないでいい…。ずっとこの天国に綾乃は住みます。お父さん、お母さん、ごめんなさい。
そんなテンションでメガネ店の店内をくるくる回っては3人に似合うフレームを選びまくっていた。
和樹さんはやっぱり小顔だから優しい色合いの柔らかいフォルムのフレームが滅茶苦茶似合うし!恭介さんはカッコイイのって希望だから、ラインがシャープで遊び心もあるものを。フレームだけ見るとこれは…。って思っても、ちゃんと似合う顔に掛ければ輝かないメガネなんてないんですっっ!
もう、もうっ! そ、し、てっ!
晃さんは、晃さんはっ!もうやっぱり耳までのラインがスッゴイいいから、テンプルのラインを選ぶのがもう楽しすぎてっ!まあ、何を掛けても似合うんだけどねっ!彼はっ!
「うわっ…。す、すっごい美形っ。芸能人?」
そんな声が店内のあちこちから聞こえて来るけど、気にしないっ!店内が女性ばっかりになって来たけど!
確かに晃さんはイケメン。それも超超イケメンだった!
あれからメガネ屋に着いて、鏡を見ながらちょいっと長い髪を手で分けて流したら、ああら不思議!黒ぶちメガネをとって顔を出したらどこの王子様かっ!って感じだった。
でもねっ!イケメン過ぎてもメガネが似合うことの方が大事ですからっ!今は私のメガネ着せ替え人形なのですよっっ!フフフフフっ!もう今天にも昇りそうな位に最高な気分だよ!
「あ、晃さん、これっ!これ掛けて下さいっ!このテンプルとフレームのライン、スッゴク似合うと思うんでっ!」
「わかった、これだな。…どうだ?」
「!!うっわー!やっぱりすっごいイイですねっ!もう、ブリッジが鼻のラインを引き立ててるし、テンプルの曲線も耳までのラインをキレイに見せてますしっ!これ、これが私は気に入りました!色はどうですか?もうちょっと明るめでも似合うかな、って思いますけど!晃さんの好みはどの色ですか?」
きゃああああぁんっ!すっごくイイよー!もうコレ、コレがいい!コレを付けた姿を毎日眺めていられたら、それだけでもうどうでもいい!って感じ!
晃さんは度入れなくて大丈夫みたいだから、掛けたそのままだから、選びやすいんだよね!
「お、いいんじゃない、それ。晃のちょっと人を寄せ付けない感じに凄い合ってるし。顔だしててもそれ掛けて絶対零度の視線で睨んでたら、そうそう近寄れなさそうだよ」
うをっ!和樹さん、楽しそうに凄いことを。でも、そう。ちょっと人を寄せ付けさせないイメージのままシャープな印象を強めるフレームを選んでみたのは事実だ。色も硬質な銀だ。柔らかい印象にするなら他のフレームお勧めなんだけど、多分本人は望んでなさそうだしね。
「分かりますか?シャープなイメージで一番似合うフレームだと思うんですよっ!」
「うん、いいんじゃね、それ。晃、それにしたら?俺もさっき見てもらったコレ、頼んでおこうかな。仕事終わってからのアフター用に」
フフフフフ。恭介さんにはちょっとちょい悪をイメージにカッコイイを追及してみました!
こう、いかにもカッコつけのキザなフレームじゃないですよ。ちゃんと恭介さんの顔立ちに合う、恭介さんのイメージを引き出すフレームです!だから仕事に使えない訳ではないんですが、ちょっと使う場面は選ぶかもですけどね!
「じゃあ僕もコレにしようかな。色はどう?綾乃ちゃんはどれがお勧め?」
「和樹さんは柔らかめがいいんですよね?そのフレームが和樹さんの顔立ちの柔らかさを強調してますから、色はちょっとくすんだ金のが似合うと思いますっ!会社にもアフターにも使えますよっ!」
「コレかな?お、いいね。さすが綾乃ちゃんだね。じゃあ僕はこれにしようかな。それじゃあ俺達は頼んで来るから綾乃ちゃんはちょっと待っていてくれるかな?」
「はいっ!行ってらっしゃい!」
あー、本当にここは天国じゃないのか。もう今夜は興奮しすぎて眠れる気がしないですっ!
◇◆◇◆◇ 晃 side
「これ、ブルーライトカットのレンズにして欲しいんですが。度はなしで。在庫はありますか?」
「…あ、ああ。ちょっとお待ちください。ああ、このフレームならブルーライトカット用フレームのレンズも使えそうですね。1時間お待ちいただければ出来ると思います」
「ではそれでお願いします」
男の店員を選んでも今でもコレか。
久しぶりに顔を出したから、周囲の人の反応を確認してため息をつく。逆に前よりもひどい気がする、な。
隣の女の店員からの痛いくらいのぽーっとした視線に眉をひそめる。
「晃、諦めなよ。だって晃、ちょうど首とか体つきとかさー、いい感じで男っぽくなってるから。前より反応が酷くなってても、良くはならないって」
ポンっと和樹に肩を叩かれて言われた言葉に、更に嫌気がさす。
物心ついた時からいつもこれだ。俺の顔に見とれ、そして近づいて来ようとする。顔しか見てないくせに、俺がイヤがって冷たくあしらうと、ヒドイとか言ってくる。
どっちが酷いんだか、と言いたくて仕方がなかった。顔なんて自分ではどうにもならないのに。
「まあまあ、晃。そう嫌そうな顔するなって。ホラ、ミケちゃんの方振り向いてみろよ」
視力測定が終わって近づいて来た恭介に言われ、後ろを振り向く。
こっちを見ていた彼女と目が合うとニコっと笑みを向けられた。
…普通の視線?ん?メガネを今してない、から、か?
「どうでしたか?頼めました?」
「あ、ああ。在庫があるから1時間で出来るみたいだ」
「やっぱり度がないと早いですね!レンズの在庫もあって良かったです。恭介さんのは在庫まちですか?」
普通、だよな。普通にうれしそうだよ、な。
「そうみたいだ。俺は乱視があってね。和樹はどうだ?」
「僕は丁度あるみたいだよ。晃と一緒に引き取れるね。ねえ綾乃ちゃんは視力は悪くないの?そんなにメガネが好きなのに、綾乃ちゃんはかけないの?」
「うわっ、そ、それはっ!…かけたい、かけたいんですけど、ね。私って鼻が低くてノースパットが安定しない上に滅茶苦茶メガネが似合わないんですよっっ!もうメガネへの冒涜かってくらいにっ!なんでかけられないんですよ…」
「そうなの?ちょっとかけてみてよ、コレなんてどう?…ああ、確かにあれだね。でもかわいいよ!綾乃ちゃん」
「それって多分狸みたいで、ですよねっっ!もうっ!さんざん友人に言われたんですよ…。だから尚更似合う人に憧れがあるんですよね。本当に3人とも羨ましいです」
「…かわいい、けどな」
思わず気がついたらぼそっと言ってしまっていた。
すぐ取ってしまったけど、赤い太いフチのメガネを掛けた彼女は、確かに似合ってはいないけど彼女の雰囲気には合ってるように見えた。
「お、晃。子猫より小狸が好みってか?…なあミケちゃん。ちょっと和樹とさっきのベンチのとこで待っててくれないか?ちょっと用事済ませて行くから。もうちょっとだけ俺達に付き合ってくれ」
「?いいですよ。では先行ってますね」
恭介がなぜそんなことを言い出したかはすぐに分かった。こっちを見た和樹に頷いて促す。
久しぶりだから、態度が酷くなってしまっても仕方ないよな。せっかくの楽しい気分に水を差されたんだし。
…楽しい。楽しい、か。彼女…綾乃といることを楽しいと思っているのか、俺は。
まあ、そうだな。邪魔されて気分を害したくらいには楽しんでいたんだろうな。だから。
「…フウ。写真も断る。一緒にも行かない。アドレスも教えないしいらない。どいてくれないかな?邪魔しないでくれ」
「そうそう、今日は俺達だけで過ごしたいんだよね。ごめんね」
いつの間にか周りには知らない女性で溢れていた。メガネの棚の間を彼女達の脇を抜けて出口に行くのが無理なくらいには。
「!!」
「っ。あ、あのっ!じゃあ名前だけでもっ」
これだけハッキリ言ったのに、何故話しかけて来れるのか。話しかけて来た相手にチラリとも視線を送ることはせずに眉間に皺を寄せた。
「俺達の名前なんて知ってどうするの?顔が目当ての女の子はもう間に合っているから、ね」
「フン」
言葉は恭介に任せて俺はただ和樹に絶対零度と言われた視線で周り見渡した。
「!!」
一瞬怯んで空いた隙間を通り抜け出口に向かう。
「くっ。な、なんであんな娘は良くて私達がダメなんですかっ。あんなちんちくりんな娘っ!」
「知りもしない相手をそうやって悪く言える女よりはいいだろ?君たちだって俺達のことはこの顔だけしか見てないくせに、ね」
思わず激高して怒鳴りそうになった俺を、恭介の冷たい声が止めた。相手にしたくもない相手だ。そんな相手の言葉なんて今までも流して来たのに。
「顔だけ見る軽薄な女は俺達には必要ない」
思わずそう言い捨てていた。それでも空気を読まずに彼女達や他の女が後をついてこないように牽制しつつ遠回りして和樹と綾乃が待つベンチへと向かう。
今日、この場で、メガネを掛けた俺の顔に彼女が見とれていたのが切っ掛けだった。その条件だけを上げれば今の女たちとあまり変わらない。違うのはー…。
「あっ、和樹さん来ましたよっ!おかえりなさいっ!大変ですねー、イケメン過ぎるっていうのも。まあ私も理想のメガネ男子だ!って見てたんですから人のことは言えないんですけどね」
そう言ってテヘヘと笑った綾乃の表情は、顔だけを見ていないる女達とは全然違って見える。
この娘は顔の表面だけを見ることはない。ちゃんと俺自身を見てくれている。
そう、初めて家族と和樹と恭介以外に信じかけている俺がいた。まだ会って何時間かしか経ってない彼女のことを。
「…ただいま、綾乃」
そう返したらビックリしたみたいな顔をして笑った彼女を。もっと知りたい、とそう思った。
「凄いなー、綾乃ちゃんは。せっかくだから晃、ちょっと恭介のメガネも掛けてみてよ」
顔を出した自分を見つめる女のキラキラした視線が、まったく苦にならないのはどれくらいぶりだろう?
幼稚園の時でさえ、お互いに牽制し合う女の子同士の視線にうんざりしてたのに。
掛けていた和樹のメガネを返し、ホラ、と差し出された恭介のメガネを掛ける。恭介は近眼が強いから、ちょっとクラクラするが。
「ほおおおっ!フルフレームだとやっぱりメガネが強調されていいですねっ!銀の細いフレームだからラインの邪魔にもならないしっ!ああ…。でもやっぱり幅が合ってないから蝶番からテンプルの耳にかかる一番キレイなラインがずれてしまってスッゴイ勿体ないです…。やっぱり晃さんの顔のラインが一番好みですっ!」
一瞬ドキっとした。彼女に晃、と呼ばれて。好み、と言われて。
今まで肉親と和樹と恭介の家族以外には呼ぶことを許せなかった名前。それ以外の誰からも好みと言われても嫌悪感しか抱けなかったというのに。
だれもが俺のことを見ると言ったから。キレイな顔だと。絶世の美貌だと。顔を陶然と見る視線は、内面はどうでもいいと言われているようで、受け入れることは今まで一度も出来なかった。
それなのに、彼女のこの言葉は。
「ぷぷっ。それは理想のメガネ男子として、なんだろ?綾乃ちゃん」
「勿論ですっ!求め続けてもうすぐ20年アニバーサリーだったんですからっ!もう感激過ぎて本当にテンションおかしくてさっきからやばいんですよっ!」
この顔をイケメンと言った言葉が全然不快には思えなくて。
「…メガネ、選んでみるか?普段使いのものを新調しようかと思ってたんだが」
気が付いたらそう言っていた。久々に、そうもう中学以来くらいに、自分から顔を出して外を歩いてもいいかとも思ってもいた。
「ええっっ!いいんですかっ!度、入ってないブルーライトカット用のですよね!それならアウトレットのここで選んでもすぐ出来るかな?是非一緒に選ばせて貰いたいですっ!っていうかもうご馳走様って感じですっ!」
「おおっ!ミケちゃん、凄いな。晃のメガネに度が入ってないのも気が付いてたんだ」
「そりゃあそうですよっ!だって度が入ってると歪んで屈折するから分かりますから!薄く色だけ入ったレンズですよっ!青く光るからブルーライトカットですよねっ」
「クスクス。本当に凄いね、綾乃ちゃん。晃がこんなこと言い出したし。よし、気が変わらないうちにメガネ屋行こうか。せっかくだから僕のも綾乃ちゃんに見て貰おうかな」
「そうだな。俺も一番カッコよく見えるヤツでも見てもらうかな!」
ニヤニヤとこっちを見る和樹と恭介の視線がうざい。どれだけ俺が顔を出すのを嫌がっているか知っているだけに、その視線の意味など分かり切っているけど。
そんなうざい視線を向けられても、もうちょっと彼女の反応を見てみたいと思ってしまうのは何故なんだか。
「分かりましたっ!じゃあメガネ屋さん行きましょうっ!うっわー!夢みたいですっ!明日起きて夢だって分かったらもう生きて行けないくらいですっ!」
「へえー、そんなに思ってくれるんだ。じゃあ後で写真でも撮ろうか。欲しいって言ってたよね。とりあえずメガネ屋に行こう」
「はいっ!」
そのまま4人でメガネ屋まで歩きながら。夢だったら生きて行けない。という彼女の言葉が頭から離れずにいた。
◇◆◇◆◇ 綾乃 side
「うっわー!これもいい!本当にどれでも似合っちゃうって凄いですね、和樹さんっ」
「そうかな?なんかフレームがあるのって印象が重い感じがしてたんだけど。綾乃ちゃんが選ぶヤツは確かに雰囲気が重くならないでいい感じだね」
もうここは天国っ!絶対天国だからっ!!
もう神様仏様っ!綾乃はもうこれから神様がいることを疑いませんっ!願いは叶うって本当なんですねっ!
キャッホーイ!
もう脳内がサンバにルンバだけじゃ飽き足らず、訳のわからないテンションではしゃいで踊って飛び回って大変です!
もう、もうっ!理想のメガネ男子を3人も見つけて見ていられるだけでも至福の時だって思ったのにっ!選び放題ですよっ、奥様っ!
え・ら・び・ほ・う・だ・い、ですっっ!
大切なことだから強調しちゃいますよっ!タイプが違う理想のメガネ男子にメガネ着脱し放題ですっ!
もうこれが夢なら覚めないでいい…。ずっとこの天国に綾乃は住みます。お父さん、お母さん、ごめんなさい。
そんなテンションでメガネ店の店内をくるくる回っては3人に似合うフレームを選びまくっていた。
和樹さんはやっぱり小顔だから優しい色合いの柔らかいフォルムのフレームが滅茶苦茶似合うし!恭介さんはカッコイイのって希望だから、ラインがシャープで遊び心もあるものを。フレームだけ見るとこれは…。って思っても、ちゃんと似合う顔に掛ければ輝かないメガネなんてないんですっっ!
もう、もうっ! そ、し、てっ!
晃さんは、晃さんはっ!もうやっぱり耳までのラインがスッゴイいいから、テンプルのラインを選ぶのがもう楽しすぎてっ!まあ、何を掛けても似合うんだけどねっ!彼はっ!
「うわっ…。す、すっごい美形っ。芸能人?」
そんな声が店内のあちこちから聞こえて来るけど、気にしないっ!店内が女性ばっかりになって来たけど!
確かに晃さんはイケメン。それも超超イケメンだった!
あれからメガネ屋に着いて、鏡を見ながらちょいっと長い髪を手で分けて流したら、ああら不思議!黒ぶちメガネをとって顔を出したらどこの王子様かっ!って感じだった。
でもねっ!イケメン過ぎてもメガネが似合うことの方が大事ですからっ!今は私のメガネ着せ替え人形なのですよっっ!フフフフフっ!もう今天にも昇りそうな位に最高な気分だよ!
「あ、晃さん、これっ!これ掛けて下さいっ!このテンプルとフレームのライン、スッゴク似合うと思うんでっ!」
「わかった、これだな。…どうだ?」
「!!うっわー!やっぱりすっごいイイですねっ!もう、ブリッジが鼻のラインを引き立ててるし、テンプルの曲線も耳までのラインをキレイに見せてますしっ!これ、これが私は気に入りました!色はどうですか?もうちょっと明るめでも似合うかな、って思いますけど!晃さんの好みはどの色ですか?」
きゃああああぁんっ!すっごくイイよー!もうコレ、コレがいい!コレを付けた姿を毎日眺めていられたら、それだけでもうどうでもいい!って感じ!
晃さんは度入れなくて大丈夫みたいだから、掛けたそのままだから、選びやすいんだよね!
「お、いいんじゃない、それ。晃のちょっと人を寄せ付けない感じに凄い合ってるし。顔だしててもそれ掛けて絶対零度の視線で睨んでたら、そうそう近寄れなさそうだよ」
うをっ!和樹さん、楽しそうに凄いことを。でも、そう。ちょっと人を寄せ付けさせないイメージのままシャープな印象を強めるフレームを選んでみたのは事実だ。色も硬質な銀だ。柔らかい印象にするなら他のフレームお勧めなんだけど、多分本人は望んでなさそうだしね。
「分かりますか?シャープなイメージで一番似合うフレームだと思うんですよっ!」
「うん、いいんじゃね、それ。晃、それにしたら?俺もさっき見てもらったコレ、頼んでおこうかな。仕事終わってからのアフター用に」
フフフフフ。恭介さんにはちょっとちょい悪をイメージにカッコイイを追及してみました!
こう、いかにもカッコつけのキザなフレームじゃないですよ。ちゃんと恭介さんの顔立ちに合う、恭介さんのイメージを引き出すフレームです!だから仕事に使えない訳ではないんですが、ちょっと使う場面は選ぶかもですけどね!
「じゃあ僕もコレにしようかな。色はどう?綾乃ちゃんはどれがお勧め?」
「和樹さんは柔らかめがいいんですよね?そのフレームが和樹さんの顔立ちの柔らかさを強調してますから、色はちょっとくすんだ金のが似合うと思いますっ!会社にもアフターにも使えますよっ!」
「コレかな?お、いいね。さすが綾乃ちゃんだね。じゃあ僕はこれにしようかな。それじゃあ俺達は頼んで来るから綾乃ちゃんはちょっと待っていてくれるかな?」
「はいっ!行ってらっしゃい!」
あー、本当にここは天国じゃないのか。もう今夜は興奮しすぎて眠れる気がしないですっ!
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「これ、ブルーライトカットのレンズにして欲しいんですが。度はなしで。在庫はありますか?」
「…あ、ああ。ちょっとお待ちください。ああ、このフレームならブルーライトカット用フレームのレンズも使えそうですね。1時間お待ちいただければ出来ると思います」
「ではそれでお願いします」
男の店員を選んでも今でもコレか。
久しぶりに顔を出したから、周囲の人の反応を確認してため息をつく。逆に前よりもひどい気がする、な。
隣の女の店員からの痛いくらいのぽーっとした視線に眉をひそめる。
「晃、諦めなよ。だって晃、ちょうど首とか体つきとかさー、いい感じで男っぽくなってるから。前より反応が酷くなってても、良くはならないって」
ポンっと和樹に肩を叩かれて言われた言葉に、更に嫌気がさす。
物心ついた時からいつもこれだ。俺の顔に見とれ、そして近づいて来ようとする。顔しか見てないくせに、俺がイヤがって冷たくあしらうと、ヒドイとか言ってくる。
どっちが酷いんだか、と言いたくて仕方がなかった。顔なんて自分ではどうにもならないのに。
「まあまあ、晃。そう嫌そうな顔するなって。ホラ、ミケちゃんの方振り向いてみろよ」
視力測定が終わって近づいて来た恭介に言われ、後ろを振り向く。
こっちを見ていた彼女と目が合うとニコっと笑みを向けられた。
…普通の視線?ん?メガネを今してない、から、か?
「どうでしたか?頼めました?」
「あ、ああ。在庫があるから1時間で出来るみたいだ」
「やっぱり度がないと早いですね!レンズの在庫もあって良かったです。恭介さんのは在庫まちですか?」
普通、だよな。普通にうれしそうだよ、な。
「そうみたいだ。俺は乱視があってね。和樹はどうだ?」
「僕は丁度あるみたいだよ。晃と一緒に引き取れるね。ねえ綾乃ちゃんは視力は悪くないの?そんなにメガネが好きなのに、綾乃ちゃんはかけないの?」
「うわっ、そ、それはっ!…かけたい、かけたいんですけど、ね。私って鼻が低くてノースパットが安定しない上に滅茶苦茶メガネが似合わないんですよっっ!もうメガネへの冒涜かってくらいにっ!なんでかけられないんですよ…」
「そうなの?ちょっとかけてみてよ、コレなんてどう?…ああ、確かにあれだね。でもかわいいよ!綾乃ちゃん」
「それって多分狸みたいで、ですよねっっ!もうっ!さんざん友人に言われたんですよ…。だから尚更似合う人に憧れがあるんですよね。本当に3人とも羨ましいです」
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思わず気がついたらぼそっと言ってしまっていた。
すぐ取ってしまったけど、赤い太いフチのメガネを掛けた彼女は、確かに似合ってはいないけど彼女の雰囲気には合ってるように見えた。
「お、晃。子猫より小狸が好みってか?…なあミケちゃん。ちょっと和樹とさっきのベンチのとこで待っててくれないか?ちょっと用事済ませて行くから。もうちょっとだけ俺達に付き合ってくれ」
「?いいですよ。では先行ってますね」
恭介がなぜそんなことを言い出したかはすぐに分かった。こっちを見た和樹に頷いて促す。
久しぶりだから、態度が酷くなってしまっても仕方ないよな。せっかくの楽しい気分に水を差されたんだし。
…楽しい。楽しい、か。彼女…綾乃といることを楽しいと思っているのか、俺は。
まあ、そうだな。邪魔されて気分を害したくらいには楽しんでいたんだろうな。だから。
「…フウ。写真も断る。一緒にも行かない。アドレスも教えないしいらない。どいてくれないかな?邪魔しないでくれ」
「そうそう、今日は俺達だけで過ごしたいんだよね。ごめんね」
いつの間にか周りには知らない女性で溢れていた。メガネの棚の間を彼女達の脇を抜けて出口に行くのが無理なくらいには。
「!!」
「っ。あ、あのっ!じゃあ名前だけでもっ」
これだけハッキリ言ったのに、何故話しかけて来れるのか。話しかけて来た相手にチラリとも視線を送ることはせずに眉間に皺を寄せた。
「俺達の名前なんて知ってどうするの?顔が目当ての女の子はもう間に合っているから、ね」
「フン」
言葉は恭介に任せて俺はただ和樹に絶対零度と言われた視線で周り見渡した。
「!!」
一瞬怯んで空いた隙間を通り抜け出口に向かう。
「くっ。な、なんであんな娘は良くて私達がダメなんですかっ。あんなちんちくりんな娘っ!」
「知りもしない相手をそうやって悪く言える女よりはいいだろ?君たちだって俺達のことはこの顔だけしか見てないくせに、ね」
思わず激高して怒鳴りそうになった俺を、恭介の冷たい声が止めた。相手にしたくもない相手だ。そんな相手の言葉なんて今までも流して来たのに。
「顔だけ見る軽薄な女は俺達には必要ない」
思わずそう言い捨てていた。それでも空気を読まずに彼女達や他の女が後をついてこないように牽制しつつ遠回りして和樹と綾乃が待つベンチへと向かう。
今日、この場で、メガネを掛けた俺の顔に彼女が見とれていたのが切っ掛けだった。その条件だけを上げれば今の女たちとあまり変わらない。違うのはー…。
「あっ、和樹さん来ましたよっ!おかえりなさいっ!大変ですねー、イケメン過ぎるっていうのも。まあ私も理想のメガネ男子だ!って見てたんですから人のことは言えないんですけどね」
そう言ってテヘヘと笑った綾乃の表情は、顔だけを見ていないる女達とは全然違って見える。
この娘は顔の表面だけを見ることはない。ちゃんと俺自身を見てくれている。
そう、初めて家族と和樹と恭介以外に信じかけている俺がいた。まだ会って何時間かしか経ってない彼女のことを。
「…ただいま、綾乃」
そう返したらビックリしたみたいな顔をして笑った彼女を。もっと知りたい、とそう思った。
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