スキル【疲れ知らず】を会得した俺は、人々を救う。

２話 間章 不穏な様子

４

　※※※

　同時刻ーー。
　ここは【ビーギニング】の街の入り口である大きな鉄の門。
　そこを一台の豪華な馬車が通り抜けていき、表通りを進んでいく。
　御者台に乗る金髪の若者が手綱を操っており、馬に端を歩かせる様に動かした。だが車輪が縁石に乗り上げてしまい、車体が大きく上下に揺れた。
　「も、申し訳、…」
　すぐに金髪の若者が謝りだす。まるで怯えているようだ。
　すると間髪入れずに、ワゴンの中から男の怒鳴り声が聞こえてきた。
　「…なんだい君は、運転も真面にできないのかい？…」「前にも同じミスをしていたじゃないか、いったい何度目だい？」
　ワゴンには正面に窓が設置されており、車内の様子が確認できる。
　真正面の座席には、二人の若い男が乗っていた。
　それぞれの両脇に若い女を侍らせているようだ。
　女達も絡みつく様に、男の身体にすがりつく。ざっくりと胸元の開いた赤いドレスから見える谷間を見せつけながら、柔らかい感触を押し付けているようだった。
　「全く、…」「ふざけるんじゃないよ。」
　と、二人の若い男達は呟く。
　彼等は全く同じ顔と容姿をしていた。所謂は双子である。
　逆立った短い赤髪をしており、切れ長の鋭い目付きや、三日月を思わす開いた口が特徴的だ。また手足も長くスラリとした体型であり、座席に腰掛けていても身長が高いとすぐに解る程だった。
　「…す、すみません。…すいません、すいません。」
　と御者台に乗る金髪の若者の声が聞こえてくる。、ひたすら謝罪を、何度も繰り返しているようだ。
　「ただ謝るなんて、小さな子供でも出来るよ。…何が悪いのか、ちゃんと理由を言いたまえよ！」
　「全く、…言葉も満足に言えないとは、…」
　「…猿だって、反省のポーズは出来るぞ。…」
　「…なら、猿より知能が低いじゃないか！？！」
　だが双子は、下卑た笑みを浮かべながら、煽り続ける。全く治まる気配がなく、わざと聞こえる様に嫌みたらしく喋っていた。まるで楽しんでいるようだった。
　やがて窓の外の景色が移り変わる。
　街の大通りから住宅地や繁華街のある方にやってきていた。
　ふと双子の片割れは、車窓から外の景色を見ながら、話しかけだした。
　「ターナ。…此処だろう。…ヒナ嬢がいるのは…。」
　「あぁ、…サベル。…あの家の言うとおりだと、此処のギルドで、彼女は冒険者になるべく過ごしているんだとか。…全く、条件とはいえ、…なんとも面倒な話だ。」
　「…それも俺達のどちらかがだ。…より高みに登りつめるためだし、仕方ないか。」
　その話が終わると、「ふん。」と、兄、ーーターナは鼻を鳴らして、ふんぞり返りながら座席に腰掛け直す。
　また弟、ーーサベルも、ギロリと鋭い目付きで兄を一瞥すると、窓の方に顔を向けながら、
　「おい、…今夜はこの街で泊まるから、場所を用意しておけよ。」
　と、大声で命令を飛ばしていた。