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1話.〇豚は異世界に出荷される。

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 俺、二階堂 はじめ(30)は、ごく普通のサラリーマンだった。

 そんな俺の数少ない趣味はアニメBDの収集である。
 ――そんな俺だが、とあるスレッドで俺は貴族と崇められていた。

 そのとあるスレッドとは――
 アニメ作品に対して熱い議論が行われるではない。しかし、昼夜問わずアニメ作品の売り上げに対してのみ熱く議論が行われるロクでもない場所なのだ。 
 そのスレッドとは、アニメファンも敵に回し、更に製作者さえも敵に回す。
 そんな、はた迷惑なスレッドが【売りスレ】である。

 【売りスレ】では、売り上げを語るうえでアニメBDの購入者は商品の写真を証拠として、スレッドにアップロードするのがお決まりの流れになっている。
 そのスレッドで、というのは、毎年4クール(春夏秋冬)の期間に沢山のアニメ作品が始まっているにも関わらず、欠かさず毎クールごとにアニメ新作を何本も購入してスレッドに証拠アップロードする連中の事である。

 二階堂始は、そんなアンダーグラウンドなスレッドの住人だった。

 ◇◆◇◆

 仕事の残業が終わり、終電に乗って帰宅したが俺は一人暮らしだ。

 「ただいま」と、言うが当然のように返事は返ってこない。

 家に入り部屋の電気をつけるが、当然のように誰もいない――寂しい。
 そんな寂しさを紛らわせるように、今月発売分の購入した円盤をスレッドにアップロードする準備を始める。
 今月も円盤沢山購入した事をアピールをするため、商品タイトルを立てたり有名タイトルは平積みで置いて、糞タイトルをさりげなく配置したりして絵になる構図を作っていく。

 コレが二階堂流ニカイドウリュウ、インスタ映えならぬスレッド映えする配置だ!!
 俺の【ユーザーID】も忘れずに円盤の上に紙に書いて配置しておく。

 撮影を終えた俺は得意げになりながら――
 スレッドに『今月の購入分』と、書き込みを残し撮影した写真をアップロードする。

 スレッドに、『貴族キター』等の書き込みが流れる。

『おい、この貴族あのクソアニメ買ってんぞ!!
 絶対合成だろ。』と、書き込みが来たので。 
 単品で、わざわざ撮影を行い【ユーザーID】も載せて再度画像をアップロードした。
 先ほど、煽った書き込み者が、『あっ、すいません』と、書き込む。

 貴族様を疑うとか、コレは許されないよね。――そんな流れになった。
【売リスレ】的にも円盤貴族的にも、コレは非常に面白い展開だ。

『そうだね。これは、君が思う最悪の作品でも買って来てもらおうか』
 ――と、俺は悪魔のような宣告を行った。

(俺を疑ったばかりに、クソアニメを買って6000円をドブに捨てろの意味)

 一連の流れで、スレッドの書き込みが落ちついてしまい。

『逃げたな、逃げたな』等の書き込みが続く中。
『買ってきた……』と書き込みが。

【ユーザーID】と領収書付きで累計売上本数が、ものすごく低い作品をアップロードしてきた。
 こんな馬鹿な流れが大好きで、俺はこのスレッドの住人をしている。

 そんな俺だが、この行為が無駄な事であることは解っている。
 こんな、クソみたいなスレの評判より、彼女の方がよっぽど欲しいと思っている。
 それでも俺は貴族生活を辞めれない。

 そんな、いつもの葛藤を乗り越え、来期の作品の購入予約を行おうと通販サイトを開いてパソコンをみていると、急に眠気が襲ってきた――仕事明けで疲れてるからかな?
 そのまま、パソコンデスクに突っ伏した。

 こうして、俺、二階堂 始ニカイドウハジメの人生は終わったのである。

 ◆◇◆◇

 俺は、パソコンの前で眠ってたはずなのに何処だココは?
 家じゃないよな? 辺りを見回すが、この場所が明るすぎる為に状況を飲み込めず困惑した。

 ……
 …………

 しばらくして、俺の視界の先に人がいることに気づいた。
 あっ!! 綺麗なお姉さんがこっち見てる。 
 お姉さんが笑った。そして、お姉さんがコチラに近づいてきた。

「二階堂始さん。始めまして」

 初対面なのに、綺麗なお姉さんに名前を言われてしまった。どういう事だ?
 俺の聡明な頭脳が計算した結果、美人局つつもたせかなと判断した。

「いや、そういうの結構なんで!!
 あと個人的には、もっと若い子の方が好きです」

 お姉さんがあからさまに、イラっとしているのが表情にでていた。

「美人局じゃありません」

 え? 何も言ってないのに、この人エスパー?

「エスパーでもありません」

「じゃぁ、あなた誰? 俺の知り合いにお姉さんみたいな人いないと思うけど」

 俺、独男ドクオ(独身男性)だしな。

「私はノルンと言います。所謂いわゆる、女神です。
 あなたに単刀直入に申し上げます。 
 二階堂始さん、貴方は誰もいない部屋で一人寂しくお亡くなりになりました」

「えっ!?」

 いや、まてまて!! 俺は30過ぎるまで童貞続けてきてるんだ。
 魔法使いになる権利があるはずだぞ、その前に死にましたって冗談だろ。

 女神に考えをそのまま読まれてしまい……
「貴方は魔法使いにはなれませんでしたが、それに近い事は提案できますよ。
 私は運命を司る女神です。あなたに二つの選択を与えましょう」

 続けて女神は提案を話しだした。
「1つめは、新しい肉体を与え、1からやり直す俗にいう輪廻転生です。
 2つめは、貴方の知識を残したまま異世界で生き返る。
 この二つの運命の選択をあなたに与えましょう。
 そうですね――異世界だと知識はあってもその扱いに困るでしょうし、異世界での成人年齢の16歳からのスタートってのはどうでしょう?」

「新しい肉体って? 記憶はどうなるんだ?」と、俺は聞き返した。

「輪廻転生の流れに乗るのです。当然、無くなります。
 新たな個としての人生を送っていただきます」

 ちょっとまて――
 そもそも、異世界とか転生とか何言ってんだこの人? 頭おかしい人かナニカか?

「二階堂さん、あなたの考えてる事は筒抜けなので余計な事は考えないように」

 女神は完全に頭に来ている様子だったが、そこはあえてスルーした。

「あなたが仮に女神だったとしましょう。
 異世界とか行っても俺は戦えませんよ」

「わかりました、異世界に行く際一つあなたの希望を聞きましょう」

 キタキタ!! 異世界転生あるある。
 だが……残念だったな。能力一つ位あっても俺は動かんぞ。

「最初に聞いておきたい、異世界で魔王と戦えとかそういった制約は?」と、俺的重要事項の確認を取った。

「ありません。
 他の転生者もいますので、そちらの方があなたより有用でしょう」

 さらりと酷い事をいう女神だ。

「酷い事思ってるのは貴方も同じです」と、小声でブツブツと女神様が言っている。

 うーん。俺が戦う必要がないなら異世界もありかもしれない?

「それなら女神様。
 異世界で「日本」の商品を取引をできる能力って可能ですか?」と、俺は女神に質問した。

「可能です。
 ただ取引をするとしても、異世界の通貨が使えないので無意味ですよ」

 ――と、あっさりと答えられた。むむむ……他が思いつかない。

 仕方ないので駄目もとで、「能力を二つもらえませんかね?」って、聞いてみた。

「それなら、最高レベル99を上限レベル50に落とす事で、2つの希望をかなえましょう」

「じゃぁ、希望二つで【レベル上限50】でお願いします」と、俺は即答した。

「えっ、ホントにいいんですか?」

 どうせ、俺は戦わないんだし――
 レベルの上限等あってないようなものだ。

「いいのいいの。一つ目はさっき言った[異世界からでも【日本】の商品を取引]できる能力。
 2つ目は、異世界の通貨と日本の通貨を[外貨両替]できる能力だっ!!」

 勝った――俺!! 最終章......。
 そんな、アホな事を考えながら両手でガッツポーズを作っている。
 女神は、俺の姿に呆れながら事務的に話を進めていった。

「では、レベル1上がる毎に1種類扱える品数が増えるようにしましょう」

「ちょっと待ったぁあああ!!」

「なんですか急に?」

「1種類というのは、[漫画]を希望したら、どの[漫画]でも大丈夫なのか?」

「そうですね。そのあたりは幅を持たせましょう」

「そうか。それならば大丈夫だ!!
 あの漫画の続きが気になって、異世界転生するにできないところだったよ」

 呆れた感じに女神が苦笑している。

「そのあたりは、アチラに行ってから詳しく確認してください。
 それでは、異世界転生を希望でよろしいですか?」

「大丈夫だ!! 問題ない」

 俺がそう答えると――
 女神が羽衣の一部を切り取り、俺に巻き付けてきた。

「何をしてるんです?」

「異世界に送りやすいように[加工]してるの」

 グエッ、苦しい死ぬ――って、俺死んでたんだった。
 グルグルグル……。(羽衣をひたすら巻いている)

「できあがりー。
 売り豚は、異世界に出荷よー」

「(´・ω・`)そんなー!」 

 こうして俺は、異世界に転生もとい出荷されていくのであった。
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