雌(おんな)

Tosagin-Ueco

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「雌(おんな)」No.13

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            13、
 その夜、店に四人の入れ墨男が突然に乱入して来た、客の悲鳴、怒声、店内騒然とする中、藤子は問答無用に引き摺り出されて行った、その内の一人の男の顔を見るなり、藤子はあの夜の惨劇を思い出した、
 (四人の男達が屋台の裏に現れ、
「竜次、お前、落とし前つけなあかんやろ、来い、一緒に来い、組行って落とし前付けろ」
 竜次は身を翻して屋台の隙間を縫って逃げた。男達は野良犬のように追った。
 人が一塊りに群れて騒いでいた。その囲みの中、竜次の背中に一本のナイフ、竜次は、血に塗れて痙攣していた…)

 生玉神社の境内、林の中、男四人に藤子は囲まれた、顔に見覚えのある男が藤子の腕をがっしりと掴んでいる、振り払ってもびくともしない、藤子はその男の顔にあごを突き出して食って掛かった、どうせ殺されるんなら、と藤子は腹をくくっていた、
「何や、あんたら、うちに何さらすねん。何の恨みがあんね、それとも誰かに頼まれたんか」
「どうせ、死ぬんや、姉さん、そんなん聞いてもしようないやん」
 そう答えた男、間違いなく、あの夜、見た男、だった。
「あんた、顔、覚えてんで、うちの竜次、殺したん、あんたや、うち、あんた、警察に訴えたんで」
「生きてたら、の話や、て云うてるやん、姉さん」
「なんぼでも生きたんが、どアホ」
 藤子は、掴んでいた男の指先が一瞬緩くなった隙に、普段から懐に入れている、調理用の小刀で男の腕を思いっ切り、振り払うように切り裂いた、男は、うっと呻き、腕を抱えてその場で立ち竦んだ、血が男の足許に滴り落ちている。
 藤子は尚も小刀を振り回し他の男達を挑発した。腕を切られた男が四人の頭だったか、四人の顔に、一瞬怯んだ表情を見た藤子は、囲む一人の男に体当たりし、よろけた男を突き飛ばして、神社の鳥居の方に向かって走った。後を追う男達の、石畳を踏みつける雪駄履きの鉄板の音が、すぐま後ろに迫った、割烹着姿では無理や、藤子は諦めた。
 その時、後ろで男達が互いに縺れてぶつかり合い、転倒する重い音が聞こえた、藤子は振り返らず必死に逃げた、鳥居の横の慰霊碑のところまで逃げてきた、その辺りは通りに並ぶ料理屋の提灯で道は明るく、多くの人が行き交っていた。
 石の慰霊碑に凭れて、激しい息使いが治まるのを待つ藤子の耳に、神社の中で、男達が激しく罵り合う怒声、殴り合い顎の潰れる音が聞こえて来た。
 闇に透けて、一人の男が、四人の男を相手に争っている様子が無音の影絵のように激しく動くのが見えた、藤子には、何でこんなことになっているのか判らなかった、判らないが、とにかくは逃げおおせたと安堵した。
 それでも慰霊碑の裏に隠れ、境内の様子を窺う、四人の男を相手にする男の姿が、時に提灯灯りに映えて見えた、普通の会社員ふうにカッターシャツ着た男?
 男は、四人を相手に、殴り、蹴り上げ、そして背中に背負って投げ飛ばす、入れ墨男ら四人は、何か恨み事を吠えて、逃げて行った。
 後に残ったカッターシャツ姿の男、四人の姿を見送って、膝に両手をつき、激しく息をする。
 礼を云わねば、と藤子は再び境内へと向かった。藤子の割烹着姿に気付いたカッターシャツの男は、境内の奥へと隠れて行った。
 諦めて藤子、漸く落ち着きを取り戻し、店へと戻る、歩きながら藤子は考える、
 (あの、四人の男ら、いったい、うちに何の恨みがある?恨みが有るんはうちの方や。あの、腕を切られた男、竜次を殺し、それからもう何日も何か月も経って、何で今頃、うちを殺しに来たんや?
 それに、いきなり現れ藤子を男達から助けた、カッターシャツの男、この男、いったい誰?竜次が殺された次の夜から、歯が抜けるように一軒、二軒と屋台が消えたその空き地に隠れ見えていたカッターシャツ姿の、どこかの会社員ふうの男、あの時と同じ男?
 藤子が谷川の店で働き出して間の無い頃、店に訪れ、仲居らに藤子の所在を確めた、と同じ、男?いったい、誰、何者?)
 全てが藤子には全く予期しない、全てが突然過ぎて、何を考えても答えが出ない、混乱し切って藤子の頭はすっかり疲れてしまった。
 店に戻りながら、空を見上げて藤子は、話し掛けた、
 (竜次、うち、何か判らん、判らんけど、何事もうまく行ってんのか、行ってないのんか、それも判らん、これから、何を、どないしたらええんかもさっぱり判らん…)

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