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「雌(おんな)」No.17
しおりを挟む17、
男は、意を決したように座りなおすと、
「藤子さん、聞いていいですか?」
並木は刺すように藤子の眼を見る、
「何でも、どうぞ、うちに、ひと様に隠さなあかんこと、何も有らへんし」
「自分の話を聞いて何としてでも藤子さんに協力して頂きたい、自分は竜次さんが殺された次の夜、あの屋台近くで竜次さんと会うことになっていた、
自分は大分以前から、谷川と進駐軍のジョージ少佐との、米軍物資の横流しを内密に調べていた、谷川組とジョージとの闇取引は、ジョージが大阪管区に転勤してきてすぐに始まっていたが、その実態がなかなか掴めなかった、
取引現場に必ず進駐軍の兵士が数人いて、踏み込むことも出来ず、踏み込んで訴えてたところでジョージ少佐に揉み消されてしまう、なかなか手が出せずにいた、
朝鮮戦争が休戦に向かい、進駐軍も、どんどん引き上げ始めた、谷川組とジョージとの不正な物資横流しも、このままでは永久に闇に埋もれてしまう、今まで進駐軍の言い成りだった日本の警察も、徐々に警察権が復活している、ジョージ少佐が進駐軍と一緒にアメリカに還ってしまうまでに、何んとか不正取引を摘発し、関係者全員を逮捕しなければならない、それにはどうしても、実態を具体的に証明するものが必要で、手掛かりを求めて、自分は谷川組を見張っていた、ある日、谷川組の中で揉め事が発生した、
竜次さんの妹が谷川に手籠めにされて自殺した、竜次さんは最初から物資横流しを担当して、谷川にも組で一番に信頼されていて、取引も殆ど一人で仕切っていて、自分もそんな竜次さんに目を付けていた、
その竜次さんが、妹さんの死因を知って、組長を殺そうとしたが、阻止され、組を脱け、行方を眩ませていた、
或る日、竜次さんが、組事務所を見張っている自分のところに来て、
(横流しを記録した手帳を持っている、引き取った物資、日にち、その量、買取額、それの売り先、売り上げ額、を詳しく書いてある、売り先は、日本の大手物産、商事会社の名前がずらりと並んでいる、鉄も有れば、銅もある、金塊もある、進駐軍の少佐や関係者にキックバックした詳細も書いてあり、少佐直筆署名付きのレシートも付けてある、役に立つか?)
と云う、自分が喉から手が出る程欲しい物だった、報酬は?と竜次さんに訊いた、
(妹の仇を取る、奴らを叩きのめしてくれたら、それでええ)
命の保証が出来ない、と云うと、
(今、好きな女が出来た、可愛いやっちゃ、一緒に暮らしている、このまま奴らから隠れて暮らしたいが、それは無理や、俺は何れ、何処へ逃げようが谷川か進駐軍に捕まって殺される、俺が殺されたあと、その女を奴らから守ってやって欲しい、藤子って名前や、他に何も要らん)
会って渡すと約束してくれたその前の日に竜次さんが殺された、
自分は、竜次さん、絶対にその手帳、何処かに隠している、と信じていた、谷川組の男らが竜次さんの家に押しかけ、家探しした、自分は様子を見ていたが、屋台を潰し、家の中、ひっくり返す音が聞こえてきたが、家から出て来た男達の様子から、何も見つかっていないと判った、
竜次さんは藤子さんに、その手帳を渡しているか、それともどこかに隠し、その隠し場所を藤子さんに教えている筈と思い、それを聞き出したくて、こうしてあとをつけていた、
それさえあれば、ジョージ少佐を帰国前に逮捕することが出来る、谷川組を潰し、谷川だけではない、進駐軍の横流しで暴利を貪った大手の会社や、谷川の金に群がる政治家数人も一緒に世間の目にその悪事を晒して吊るし上げることも出来る…」
並木は話疲れたか、盃に手酌で酒を注ぎ、一息に呑む、
「そうなんや、そいでうちのこと、付け回してたんや、おおきに、な、並木さん、竜次だけやなし、うちも並木さんにお世話になってたんや、せやけど、うちな、ほんま、何も知らんねん、竜次さん、そんなこと、ひとことも、うちに、
うちな、谷川と取引してんや、谷川も、うちが竜次から何か渡されて持っている、それともその隠し場所を聞いて知っている、と思うてんのが判った、そいで、うちもハッタリかけて、うち、持ってもないもんを谷川に売るって話に今なってんね、そんなもの何処にも無いし、どうしたらええか、悩んでましたんや、どないしようか、と思うて」
藤子、ふと間を措いて、
「あ、ちと待ち、あ、待って、そや、あそこや、竜次さん、それ、隠してるとこ、うち、判った、絶対あそこや」
藤子は子供がはしゃぐような声を出した、
「あそこや、間違いない、この前、うちもあの家、行った、あそこだけは、あんなに周り、引っ掻き回されてんのに、何んともなってなかった」
並木の眼が輝いた、
「それ、どこ、です?」
「あ、あかん、うち、それ、云わん、そやんか、うちと並木さん、まだ、知り合うたばっかしやん、お互い、まだ、どんな人間か知ってない、その手帳、聞いてたら、飛んでもないこと、書いてあるみたいやけど、うち、それ売ったら、いや、もう売る約束してんねや、谷川と、何ぼや思う?あのどケチの、どスケベの谷川が、こんだけ出すて約束してんやで」
藤子は右手を広げて見せた、
「500万やで、あんた、普通の人間、一生かけて働いても無理や」
並木の眼が微かに動いた、
「それ、あんたに渡して竜次の仇、とって欲しいと、うちは思う、せやけど、それやったら、うち、何も無いやん、こんだけのお金、一銭もうちのもんにならへん、それに、あのどスケベ爺に、うち、殺されかけたし、うちの体もええように弄ばれたんや、で、ホテルの権利書もこの店の売り上げも一銭もうち、あの男に騙されて一銭も貰うてないねんで、あかん、折角やけど、それ、並木さんに渡されへん、悪いけど、あかん、並木さん、あんた、諦めて」
並木が応える、
「藤子さん、その手帳、谷川に渡して、谷川、500万もの金、すんなり渡すと思ってるんですか?」
「それや、それが一番心配やね、並木さん、こんなん聞いたら失礼やけど、あんたは、警察か、それともどっかのお役人さん、や思う、あんた、奥さんは?」
並木は苦虫噛んだような顔で、渋々と頷く、
「お子さんは?そう、で、どっち?男の子?そうなんや、これからお金、嫌云う程かかるんや、並木さんのお子さんやったら絶対賢い子や思う、大学も行かさなあかん、大学出てないと出世出来へん、そんなこと、並木さんが一番よう知ってはる筈や、
うち、今考えた、うちと並木さんで500万の半分、250万毎、で、どうです?おまけに並木さんはその手帳も手に出来る、これ、どう?」
並木は、予想外の提案を受けて、暫し、考え込んでいたが、腹を決めようと、冷めた酒を湯飲みに満たし、喉に流し込んだ、
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