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近づく足音
気づき始めた異変
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*
僕のターゲットはおめでたい奴だった。
保険証を盗んでもたいしてあわてもしない。家の中が変わっても気づかない。
こんな奴に僕の家族を滅茶苦茶にされたかと思うと、自分に腹が立ってくる。
待ってて、姉ちゃん。姉ちゃんの人生を奪った奴から今度は僕が奪ってやる。
そう決心して僕はまた家の中に入っていった。
*
その日私は異変に気づいた。
本当に少しだった。でも、気づいた。多分、私だけ。昨日の夜、母さんがゴミ袋を変えていた。寝る直前に。それからはまだ誰もゴミを出していないはず。なのに、私が起きたばかりの今、ゴミ袋の中には丸めたティッシュがあった。家族の誰かが入れたと思うのが普通だけど、そんなわけない。だって、まだ誰も起きていない。夜中の3時。ティッシュはまだ湿っている。ということは、このティッシュが使われたのはまだまもないということ。この家に誰かが出入りしている?家族以外の誰かが。
怖くなった私は階段を駆け上がり、自分の部屋に入った。布団を頭から被り、疲れと恐怖から気づくとまた眠りについていた。
朝起きるとみんながもう起きていた。
いつも通り普通に過ごしていて、昨日私が感じた恐怖はなんだったんだろうと思えてきた。そこで、みんなに質問を投げかけてみた。
「あのさー。昨日誰か夜中に起きた?」
そう聞くと父さんが
「ん、なんだ。うるさかったか?ごめんごめん。3時前くらいに起きたんだ。喉が渇いてな。上の冷蔵庫になんも入ってなかったから。」
「あ、そっか。」
なんだ。父さんだったのか。変な事考えちゃったじゃない。そうよ。誰かが家に出入りしているなんて、ドラマじゃあるまいし。バカみたい。
そんな私の思いは、簡単に崩された。
「じゃ、行ってくるね~。」
「あ、ちょっと。ポストになんか入ってない?とって。」
「うん。」
そう言って私がポストの中を見た時。
今思えば、私の家族が乱れ始めたのはこの時からだ。
入っていたのは、一通の手紙。切手もなく、住所も書かれていない。直接入れられたものだ。宛先は
ー那月家ー
だった。母さんの所へ持っていき、開けるよう言った。
「ねぇ、開けてみなよ。」
「そうね……。」
きれいに封がされていた。母さんがヘアピンを使って開けた。
中に入っていたものを見た私は絶句した。母さんもだ。
入っていたのは、写真だった。
母さんと見知らぬ男性が寄り添いあっている姿が写されていた。私は目を疑った。それと同時に家族は信じていいという気持ちが崩れていくのがわかった。
「母さん。これ………。」
そう問いかけても、母さんの耳には届かなかった。ただ、こう言われた。
「お願い。父さんには言わないで。
これ、お花の先生とお茶した時のなの。
混んでて、隣どうしの席しかなくて。
だから、だからね。これはっ…」
「もう、いいって!!
言い訳とかいらない。醜いだけ………」
母さんの言葉を遮り私は叫んだ。
学校に行く気力もなくて、でも家にはいたくなくて、サボる。
「葉留佳。あの…………」
「いってきます。」
「葉留佳。」
不倫。
母さんにかぎって、そんなこと。
父さんはどう思うのかな………。
やっぱり、ショック?
それとも、許せない?
どーでもいい?
*
笑っちゃうわ。私の思い通りに動いてくれるなんて。
まるで、操り人形ね。
那月葉留佳。あんたもちゃんと操ってあげるわよ。
あんたが潰れてくれれば彼は私のもの。
私が独り占めできる。
私たちの目の前からあんたは消える。
安心して、梨緒。
あんたは私の親友。絶対痛い目には合わせないから。そのまま那月葉留佳と仲良いふりして、待ってて。ちゃんと、私たちのところへ戻ってこれるから。
*
*
「誌野田ー」
「はい」
「嶋ー」
「はい」
「……………………………………………………………………………………………那月ー」
まだ来てない。
「おい、那月ー。那月葉留佳ー。なんだ休みか?連絡来てないな。まぁ後ででいいか。はい、次。新田ー」
「はい」
葉留佳。なんで、来ないの?
どうしたの?風邪でもひいたの?
今日は修旅の班決めって、盛り上がってたじゃない。なんかあったの?
無断欠席なんてした事なかったから、私は心配になって、電話をかけに行こうとした。
「先生ー。保健室行ってもいいですか?なんか、頭痛くて。」
「おー。お前もか?那月といつも一緒だからなー。うつったか。」
先生に承諾してもらって私は教室を出た。ケータイで葉留佳の番号を出して電話をかけた。
しばらくすると、
「はい」
元気のない声が聞こえてきた。
「あ、葉留佳?
どーして学校来ないの?」
「ごめん。ちょっと具合悪くて。
先生に言っといて。じゃ、ごめんね。」
「あ、ちょっとー。」
葉留佳って最近勝手だ。でも、私はそんな葉留佳のこと、嫌いじゃない。だから葉留佳をいずれ裏切るなんて、できるのかな。裏切っていいのかな。そんなことを最近よく考える。でも、そんな時いつもあの言葉がよぎる。
『梨緒。私たち親友だよ。私は梨緒のこと大好き。』
だめ、やっぱり私はあの子が裏切れない。ごめん、葉留佳。でも、許して。
あなたが悪いんだから。
私は裏切るよ。葉留佳、あなたを。
いや、裏切るんじゃない。
あなたを正してあげるの。
真っ直ぐで友達のためになれる人間に。
*
梨緒、あなたも私を裏切ったよね。
10年たっても、あの裏切りは忘れられないよ。信じてたのに。私は葉留佳の味方なんて言ってたのに。ひどいよ。だから、あんたはあんな目にあったのよ。
梨緒。今頃天国で、悔しい思いをしてるんでしょ。私を恨まないでよね。あんたが先に私をあいつらに売ったんだから。
罪を償えなかったあんたが悪いんだから。
僕のターゲットはおめでたい奴だった。
保険証を盗んでもたいしてあわてもしない。家の中が変わっても気づかない。
こんな奴に僕の家族を滅茶苦茶にされたかと思うと、自分に腹が立ってくる。
待ってて、姉ちゃん。姉ちゃんの人生を奪った奴から今度は僕が奪ってやる。
そう決心して僕はまた家の中に入っていった。
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その日私は異変に気づいた。
本当に少しだった。でも、気づいた。多分、私だけ。昨日の夜、母さんがゴミ袋を変えていた。寝る直前に。それからはまだ誰もゴミを出していないはず。なのに、私が起きたばかりの今、ゴミ袋の中には丸めたティッシュがあった。家族の誰かが入れたと思うのが普通だけど、そんなわけない。だって、まだ誰も起きていない。夜中の3時。ティッシュはまだ湿っている。ということは、このティッシュが使われたのはまだまもないということ。この家に誰かが出入りしている?家族以外の誰かが。
怖くなった私は階段を駆け上がり、自分の部屋に入った。布団を頭から被り、疲れと恐怖から気づくとまた眠りについていた。
朝起きるとみんながもう起きていた。
いつも通り普通に過ごしていて、昨日私が感じた恐怖はなんだったんだろうと思えてきた。そこで、みんなに質問を投げかけてみた。
「あのさー。昨日誰か夜中に起きた?」
そう聞くと父さんが
「ん、なんだ。うるさかったか?ごめんごめん。3時前くらいに起きたんだ。喉が渇いてな。上の冷蔵庫になんも入ってなかったから。」
「あ、そっか。」
なんだ。父さんだったのか。変な事考えちゃったじゃない。そうよ。誰かが家に出入りしているなんて、ドラマじゃあるまいし。バカみたい。
そんな私の思いは、簡単に崩された。
「じゃ、行ってくるね~。」
「あ、ちょっと。ポストになんか入ってない?とって。」
「うん。」
そう言って私がポストの中を見た時。
今思えば、私の家族が乱れ始めたのはこの時からだ。
入っていたのは、一通の手紙。切手もなく、住所も書かれていない。直接入れられたものだ。宛先は
ー那月家ー
だった。母さんの所へ持っていき、開けるよう言った。
「ねぇ、開けてみなよ。」
「そうね……。」
きれいに封がされていた。母さんがヘアピンを使って開けた。
中に入っていたものを見た私は絶句した。母さんもだ。
入っていたのは、写真だった。
母さんと見知らぬ男性が寄り添いあっている姿が写されていた。私は目を疑った。それと同時に家族は信じていいという気持ちが崩れていくのがわかった。
「母さん。これ………。」
そう問いかけても、母さんの耳には届かなかった。ただ、こう言われた。
「お願い。父さんには言わないで。
これ、お花の先生とお茶した時のなの。
混んでて、隣どうしの席しかなくて。
だから、だからね。これはっ…」
「もう、いいって!!
言い訳とかいらない。醜いだけ………」
母さんの言葉を遮り私は叫んだ。
学校に行く気力もなくて、でも家にはいたくなくて、サボる。
「葉留佳。あの…………」
「いってきます。」
「葉留佳。」
不倫。
母さんにかぎって、そんなこと。
父さんはどう思うのかな………。
やっぱり、ショック?
それとも、許せない?
どーでもいい?
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笑っちゃうわ。私の思い通りに動いてくれるなんて。
まるで、操り人形ね。
那月葉留佳。あんたもちゃんと操ってあげるわよ。
あんたが潰れてくれれば彼は私のもの。
私が独り占めできる。
私たちの目の前からあんたは消える。
安心して、梨緒。
あんたは私の親友。絶対痛い目には合わせないから。そのまま那月葉留佳と仲良いふりして、待ってて。ちゃんと、私たちのところへ戻ってこれるから。
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「誌野田ー」
「はい」
「嶋ー」
「はい」
「……………………………………………………………………………………………那月ー」
まだ来てない。
「おい、那月ー。那月葉留佳ー。なんだ休みか?連絡来てないな。まぁ後ででいいか。はい、次。新田ー」
「はい」
葉留佳。なんで、来ないの?
どうしたの?風邪でもひいたの?
今日は修旅の班決めって、盛り上がってたじゃない。なんかあったの?
無断欠席なんてした事なかったから、私は心配になって、電話をかけに行こうとした。
「先生ー。保健室行ってもいいですか?なんか、頭痛くて。」
「おー。お前もか?那月といつも一緒だからなー。うつったか。」
先生に承諾してもらって私は教室を出た。ケータイで葉留佳の番号を出して電話をかけた。
しばらくすると、
「はい」
元気のない声が聞こえてきた。
「あ、葉留佳?
どーして学校来ないの?」
「ごめん。ちょっと具合悪くて。
先生に言っといて。じゃ、ごめんね。」
「あ、ちょっとー。」
葉留佳って最近勝手だ。でも、私はそんな葉留佳のこと、嫌いじゃない。だから葉留佳をいずれ裏切るなんて、できるのかな。裏切っていいのかな。そんなことを最近よく考える。でも、そんな時いつもあの言葉がよぎる。
『梨緒。私たち親友だよ。私は梨緒のこと大好き。』
だめ、やっぱり私はあの子が裏切れない。ごめん、葉留佳。でも、許して。
あなたが悪いんだから。
私は裏切るよ。葉留佳、あなたを。
いや、裏切るんじゃない。
あなたを正してあげるの。
真っ直ぐで友達のためになれる人間に。
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梨緒、あなたも私を裏切ったよね。
10年たっても、あの裏切りは忘れられないよ。信じてたのに。私は葉留佳の味方なんて言ってたのに。ひどいよ。だから、あんたはあんな目にあったのよ。
梨緒。今頃天国で、悔しい思いをしてるんでしょ。私を恨まないでよね。あんたが先に私をあいつらに売ったんだから。
罪を償えなかったあんたが悪いんだから。
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