僕が恋した犬と君

笹木紅

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初恋

はじめまして

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「僕、佐藤伊織っていうんだ。
よろしくね?」
……………………………
「うん。よろしく。私は華野眞奈美。」
初めて勇気を出せたのは多分この時。
それまでの僕は、臆病者で勇気なんて言葉が一番似合わない人間だった。
これは僕と彼女の初恋の物語。











「佐藤ってさ、なんか存在感ないよね。
いじめられてるわけじゃないけどさ…」
「うん。その……なんていうかいじめがいもないって感じで。」
「ま、よーするにさ。
つまんない人間ってこと!」
こんな理由で僕はクラスメートに避けられていた。
つまんない人間。存在感がない。
近づくと不幸になる。そんな勝手な理由だ。





最近僕の通る通学路に野良犬が住み着いているらしい。
僕は嫌われているのか毎度毎度吠えられる。僕は家で犬を飼っているからどちらかというと動物に好かれるタイプだと思ってたけど…。そして、その犬が来た頃には見かけなかった同い年位の女の子がその犬に餌をあげている。





「はい。今日はちょっと少ないけど…。
ごめんね、こんな物しかなくて。明日はお前の好きな犬缶持ってきてあげるから今日は我慢してね…………。」
なんて言いながら子犬とじゃれている。

ワンワンワンワンワンワンワンワンワン

ハッ!

タタタタタタタタタタタタッ

僕が通ると必ず悪いことをしたかのようにそそくさと逃げ帰ってしまう。
僕はクラスメイトや子犬以外にも見知らぬ女の子にまで怖がられるような容姿なのか。





ー1週間後ー

リーのエサなくなっちゃった!
今日の晩の分ないから、帰り買ってきてね!
あと、今日の晩ご飯ハンバーグだけどいいよね?
じゃ、忘れないでよね!?
                                        伽奈帆

伽奈帆というのは僕の姉。
リーというのは僕の家で飼っている犬。
うちは母さんがいない。父さんは単身赴任しているから家には僕と姉と兄と妹の4人で暮らしている。





学校の近くにある薬局で犬缶を3つ買うといつもの道を通って帰る。
今日はあの女の子は見当たらなかった。あの野良犬は物欲しそうに僕の提げている袋を見つめている。





「腹減ってんのか?」
クゥ~ン
「………。これ、食うか?」
ワン
野良犬も子犬の頃はかわいいんだな。
そんなことを考えながら子犬を見つめていると……。後ろで物音がした。

ザッ

振り向くとそこにいたのはあの女の子だった。
「あ。きみ………。」
下を向いて落ち込んでいる。
「あぁごめんね。きみいなかったからこいつお腹空いてたみたいだし……………。余計なことしちゃったね。ほんとごめん。これからはこんなこと……」
「いぇ!ありがとうございます。
今日、学校が長引いちゃって。野良犬って一度エサをあげたら続けてあげないとダメだし…時間だって大幅にずれたらダメなんです。だから助かりました。でもこれからはこんなことしなくてもいいので。お願いですから私からこの子まで奪わないでください。すいませんけどそこをどいてください。」
「…………………………。」
ワンワンワンワンワンワンワン

「ねぇ。この子まで奪うなってどういうこと?」
………………………………………
「あ。ごめんね。じゃぁ僕行くから。
あんまり遅くまでいたらダメだよ?危ないからね。」
「この子のお母さん。保健所で殺されたんです。」
……………………「それって!」
女の子はこの子の母親の過去をぽつりぽつりと話し始めた。自分を責めながら。
「雑種だったから。野良犬だったし誰も拾ってくれなくて……。私の家でも飼ってあげられなくて。兄が動物アレルギーだったので。それでも兄はこの子の母親がかわいくて薬を持ってよく家族でここに来ていました。でも学校帰りに兄とここによったある日。その犬はいなくて。隣の家のおばさんに保健所に連れて行かれたって聞いて……。兄は自分を責めてました。俺が動物アレルギーだったばっかりにって。それから兄はほんとに動物に近づかなくなったんです。あの事を思い出すのが怖いんだと思います。だからあの子に子どもがいる事も知らないんです。この子を兄に会わせてあげたいんですけど兄はこの道を通ること事態もしなくなったんです。」
「………………。」
急に重くなった空気を僕はうまく吸えないでいた。だって多分その犬に僕は会っている。
「すいません。こんな暗い話ししちゃって。」
「僕。学校の通学路がここなんだ。だから多分その犬のこと知ってる。とんと見なくなったと思ってたけど…。そんなことがあったんだね。じゃぁこの子はその犬の子どもなんだ。なんか久しぶりな感じがするよ。」
「会ってたんですね。
私、この子が保健所に連れて行かれるんじゃないかって思ってました。あなたによく吠えてるからあなたがこの子を連れて行くんじゃないかって。違ったんですね。」
「僕もこの子の世話……手伝っていいかな?この子の親とは少し遊んだこともあるし。僕の家でも犬飼ってるんだけどその子も野良犬だったんだ。この子と同じ位の大きさで。この子のことなんかほっとけないよ。」
「はい!ありがとうございます。」
「敬語はよしてよ。同い年位だろ?
僕、佐藤伊織っていうんだ。
よろしくね?」
…………………………………
「うん。よろしく。私は華野眞奈美。」


僕が彼女。華野眞奈美に恋した瞬間だ。
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