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01 アマゾナイト:潮時
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――私には命を削ってでも、変えたい未来がある。――
花々しい結婚式場。純白の教会が立ち尽くす、海に面した絶壁の上。爽やかな潮風が吹き、澄んだ空気が式場を撫でる様に包み込む。
今日は新郎新婦の結婚式。
清潔感ある教会を使っての、盛大な結婚式が行われようとしていた。美しい大理石でできたバージンロードは、その先にある人の背丈を有に超える大窓に映った空と非常にマッチしている。多く集まる親族に友人、誰もがドレスや背広を着て静かに式に参列していた。
挙式は既に始まっており、祭壇にて新郎が新婦を待っていた。すると静まり返る式場に、どこに隠してあるのか…スピーカーから音楽が流れた。
新婦の入場だ。扉はゆっくりと開き、新婦は一人で登場。
純白を身に纏い、美しさを引き立てる多く連なったフリルは薄く作られており軽やかだ。新婦が着るそのドレスはまるで、逆さにつるしたバラのよう。更にドレスやヘッドドレスには白いバラが装飾されており、ネックレスの小さなダイヤモンドは上品に光り輝いていた。控えめなメイクをした小綺麗な新婦は、俯いた様子でバージンロードを歩いていた。
しかしその表情には「幸福」と言うより「不安」が浮かんでいた。不思議なものである。こんなめでたい瞬間に、何を不安に感じているのか。新婦は歩きながらも思っていた。
(平和な空、静かな式場…。やっと、やっと私達は幸せな結婚式を挙げられる…。)
新婦が祭壇まで上ると、挙式は進む。穏やかで爽やかな印象を与える新郎に、当たり障りのない優しい印象を与える新婦。
(「以前」は日本の式場で、結婚式を小さく挙げたわよね。更に「その前」は、小さな披露宴にしよう…って私が提案したっけ…。)
二人の式は見せ場とも言える、誓いの口付けをする時が来た。新郎新婦はお互いをじっくりと見つめ合う。この幸福な瞬間にも、新婦の頭の中は思考でいっぱいだった。
(でもどの結婚式も、失敗に終わった…。なぜなら…)
新郎は新婦のベールを捲ると、新婦に優しく微笑んだ。その新郎の笑みを見ると、新婦は照れたのか頬を赤く染める。新郎は新婦を見つめると…。
「『美夜(ミヨ)』、愛してる。」
新郎が口付けをしようとした。
その瞬間…
参列者の席の方にて、突如大きな爆発が起きる。
爆発物でも仕掛けられていたのか…神聖な儀式の中、この爆発がその空気を壊した。天井まで貼られた巨大な窓ガラスも、その爆風で式共々崩れ落ちてしまう。新郎新婦は爆破の衝撃波に押されるように飛ばされ、祭壇で転ぶ。一瞬にして炎に巻かれる会場は老若男女の悲鳴に包まれ、混乱に陥った。参列者の前列で爆発が起きた為、後ろの参列者は爆破の怪我を負いながらも逃げ出す。倒れたまま動かない人もいるが…一部の人を除き最早気にしている余裕はない。
同じく新郎新婦に神父は服で口元を庇いながらも、火の粉を振り払いながらも窓の外へ避難した。煤や焦げを服に纏いながら、新郎新婦は安全な場所へ。新郎は驚いてはいたが、比較的落ち着いた様子で言った。
「なになに?テロか何か?結婚式を邪魔されるほどの恨みを買った覚えは、確かにあるけど。あーあ、せっかくのドレスが焦げちゃったね。」
新郎は口調だけでは事の重要性をまるで理解しない、あっけらかんとした話し方だ。対し新婦は事を非常に重く受け止めており、絶望の表情を浮かべ呆然と呟いた。
「嘘…」
新郎は新婦の様子を見兼ねて颯爽と手を引き、危険が及ばない離れた場所に新婦を置いた。
「煙は吸ってない?美夜はここで待っていて、僕は式場に人が残っていないか見てくる。」
すると咄嗟に新婦の美夜は恐怖を思い出した様な顔を見せ、声を裏返すほどの声で言った。
「ダメッ!行っちゃダメ!!」
その声に目を丸くして新郎は振り返ると、美夜は強く怯えた様子で言う。
「ダメ…!『綺瑠(キル)』さんは行っちゃ…絶対にダメ…!!」
「どうしたの?怯えなくとも、僕は人助けに命を捨てたりしないよ。」
新郎の綺瑠が危機感のない穏やかな笑顔で言うと、次にウィンクをした。
「ヒーローになる男だからね!」
意味不明だが、とにかく明るい綺瑠の笑顔。緊張で張り詰めていた美夜の心は、その言葉で思いのほか緩められ…そして白けた。
(ヒーローになるから命を捨てたりしない…とは…?)
そんな美夜を見て、綺瑠は楽しそうにクスクスと笑っていた。すると美夜の視界に、一人の女性が映った。綺瑠からざっと十メートルほど離れた場所に立っている女性。その女性は恨みを連ねた凍えた表情で、綺瑠を見つめていた。
それを目視したのも束の間、綺瑠の背後にその女性は静かに迫ってくる。女性の手には、鋭利な刃物。綺瑠は気づかずにいると、その女性は両手で鋭利な刃物を持って綺瑠の背を貫いた。綺瑠の穏やかな笑顔が、一瞬にして呆然と目を剥いた表情となってしまう。美夜は目に涙を浮かべて「イヤっ…!」と言い、綺瑠は自分の腹から血が滲むのを見て、信じ難い状況に驚きを超えて笑いが込み上げた。
「誰…?」
そう言って振り向いた先には若い女性。それを見た綺瑠は冷や汗を浮かべた顔で言う。
「『コトネ』ちゃん…?」
コトネと呼ばれた女性は正気とは思えない恨みの表情を浮かべ、綺瑠から刃物を抜き取ると冷笑を浮かべた。
「久しぶり、クズ男。」
すると、何度も何度も綺瑠の背を刺し始める。綺瑠は痛みで立膝を着いてしまうが、コトネはやめない。コトネの白い服や肌に血が飛ぶ。それらを見た美夜は顔を真っ青にすると、危険を顧みず綺瑠に駆け寄った。
「もう…もうやめてッ!もう綺瑠さんを傷つけないでッ!!」
「逃げて美夜ッ…!僕の事はいいから…!!」
「イヤぁっ!」
美夜はそう言って綺瑠を庇うと、コトネは綺瑠を手にかけて嬉しいのか「アハハ…!」と狂気的に笑う。
「お前もだ。二人で幸せな顔して……壊してやるッ…!」
鋭利な刃物が美夜に向く。綺瑠の血を滴らせたその赤い刃は、美夜に絶望を思い出させた。美夜は失意の目をする。
(そうだ…。いつもこんな感じで、私達は殺されそうになる。)
――思い出したのは、日本のとある式場での出来事。
ウェディングドレスを身に纏った美夜、タキシードを纏った綺瑠。二人で控え室にて、談笑を楽しんでいた。そんな控え室に、ヘアメイク係が入ってきた。綺瑠はメイク係を見ると、何かに気づいたのか笑顔で言う。
「誰かと思えばコトネちゃん!久しぶり!」
綺瑠がそう言うと、コトネは微笑んだ。
「久しぶりね、綺瑠。」
そう言ってコトネは綺瑠に近づくと、コトネは笑顔で言う。
「このクズ男。」
「え?」
綺瑠が目を丸くすると、コトネは背に隠していた長い刃物を綺瑠の胸に振り落とした。無残に引き裂いたせいか周囲に血が飛び散り、美夜は突然の出来事と恐怖で声が出ない。美夜の顔にも血が飛び散っており、美夜は震え始めていた。
「あーあ。本当は女の方から殺す予定だったけど、クズの顔を見たら先に殺したくなったわ。」
コトネはそう言い、次に美夜を見ると怪しく笑った。
「お前も殺してやる。死後の世界で楽しく二人で…って、クズ男は地獄行きかぁ~!」
コトネは狂気混じりの笑いを見せ、美夜にも刃物を振り下ろした。――
美夜はコトネを見て思う。
(私が以前【タイムスリップ】した時と同じ人…。彼女は…綺瑠さんの元カノ…。)
あの時と同じく刃物が振り下ろされ、反射的に目を閉じる美夜。しかし振り下ろされた刃物は、綺瑠がコトネの腕を掴んで阻止した。綺瑠は冷汗を浮かべ、痛みを耐えつつ言った。
「憎いなら僕だけを殺せばいいだろ…!コトネェ!」
急に人が変わったように綺瑠の声色が暗くなり、怒りの表情で立ち上がりコトネの腕を拘束した。その様子を見たコトネは笑う。
「クズ男、やっと本性を現しやがったね!!お前のその顔、そこの女にも見せてやりな!!」
綺瑠はコトネを憎しみの表情で睨みつけ、低い声で囁く。
「この表情は、美夜を傷つけようとした…君だけにあげられるプレゼントだよ。コートーネ。」
綺瑠は刃物を奪うと、コトネの首筋に向ける。そして大きく目を見開いて、無表情でコトネに言った。
「あーあ、たっくさん出血しちゃった…。もうすぐで僕死んじゃうかも。ねえねえ、一緒に死のうよコトネ。」
そう聞くと、コトネは何やら思惑があるのか「ふっ」と笑った。綺瑠がそれに違和感を覚えていると、美夜の背後に更に別の女性がやってくる。
「いたいた、金の生る木。」
美夜はその声に反応すると、綺瑠も反応して振り返った。そのまま美夜は女性に拘束され、その女性によって首筋にナイフを向けられる。
「きゃっ!」
綺瑠は女性を見ると、信じられないのか呆然とした様子で言った。
「は…?なんで【マヒル】もいるの…?離してよ…美夜を。」
予想外の出来事に、綺瑠はコトネに向けた刃を下ろしてしまう。マヒルは言った。
「嫌よ。だってお金が貰えるんですもの。」
美夜の絶望は既にピークに達しており、目を強く瞑って思う。
(どうして…?どうしていつも、結婚式を挙げようとすると彼女達が邪魔をするの…?披露宴では人が少ない事で隙を突かれて、日本の教会では控え室にいる隙を突かれ、今度は大勢のいる海外での結婚式だったのに…!
どこで結婚式を挙げても、どうしても私達を必ず殺しに向かうの……一体なぜ…?)
綺瑠は出血が酷く目の前が霞み、足の力が抜けてガクッと体勢を崩す。
「ああ……君達の事、侮りすぎたね…僕……」
そう言って綺瑠は、力尽きて倒れてしまった。美夜はその音に気づくと、綺瑠が倒れたのを見て涙を流す。
「綺瑠さんッ!!」
美夜は必死に抵抗し、相手を抓ってまででもその拘束を解いて綺瑠の方へ向かおうとした。すると抵抗した拍子に、首筋に当たっていたナイフが美夜の首を切ってしまう。するとマヒルは焦った様子で言った。
「ちょっと、嘘でしょ…!」
切れた首筋から大量の血が吹き出ると、美夜は虚ろな瞳のまま思う。
(またやり直そう…。私は絶対に、綺瑠さんと幸せな未来を……!)
すると、美夜の容姿に変化が出る。茶髪だった髪が漆黒に染まり、黒い瞳が真っ赤になり、ピンク色の肌が死んだように真っ白になる。それを見たマヒルは目を丸くした。
「これは…!」
続いてコトネは言う。
「それがこの女の【本当の姿】?化物ね。」
それに対して美夜は眉を潜める。それと同時に、美夜は眠るように徐々に瞼をゆっくりと落としていく。
(私は…化け物なんかじゃない…!)
美夜の身体は幻想的に淡く輝く。対し美夜の視界は、徐々に暗くなっていく。
(私は……【人間】よ…。)
美夜が目を閉じたその瞬間、美夜の姿がこの場から消え去ってしまう。驚いた様子でマヒルが見ると、コトネは舌打ちをした。
「【時を遡った】…か。」
花々しい結婚式場。純白の教会が立ち尽くす、海に面した絶壁の上。爽やかな潮風が吹き、澄んだ空気が式場を撫でる様に包み込む。
今日は新郎新婦の結婚式。
清潔感ある教会を使っての、盛大な結婚式が行われようとしていた。美しい大理石でできたバージンロードは、その先にある人の背丈を有に超える大窓に映った空と非常にマッチしている。多く集まる親族に友人、誰もがドレスや背広を着て静かに式に参列していた。
挙式は既に始まっており、祭壇にて新郎が新婦を待っていた。すると静まり返る式場に、どこに隠してあるのか…スピーカーから音楽が流れた。
新婦の入場だ。扉はゆっくりと開き、新婦は一人で登場。
純白を身に纏い、美しさを引き立てる多く連なったフリルは薄く作られており軽やかだ。新婦が着るそのドレスはまるで、逆さにつるしたバラのよう。更にドレスやヘッドドレスには白いバラが装飾されており、ネックレスの小さなダイヤモンドは上品に光り輝いていた。控えめなメイクをした小綺麗な新婦は、俯いた様子でバージンロードを歩いていた。
しかしその表情には「幸福」と言うより「不安」が浮かんでいた。不思議なものである。こんなめでたい瞬間に、何を不安に感じているのか。新婦は歩きながらも思っていた。
(平和な空、静かな式場…。やっと、やっと私達は幸せな結婚式を挙げられる…。)
新婦が祭壇まで上ると、挙式は進む。穏やかで爽やかな印象を与える新郎に、当たり障りのない優しい印象を与える新婦。
(「以前」は日本の式場で、結婚式を小さく挙げたわよね。更に「その前」は、小さな披露宴にしよう…って私が提案したっけ…。)
二人の式は見せ場とも言える、誓いの口付けをする時が来た。新郎新婦はお互いをじっくりと見つめ合う。この幸福な瞬間にも、新婦の頭の中は思考でいっぱいだった。
(でもどの結婚式も、失敗に終わった…。なぜなら…)
新郎は新婦のベールを捲ると、新婦に優しく微笑んだ。その新郎の笑みを見ると、新婦は照れたのか頬を赤く染める。新郎は新婦を見つめると…。
「『美夜(ミヨ)』、愛してる。」
新郎が口付けをしようとした。
その瞬間…
参列者の席の方にて、突如大きな爆発が起きる。
爆発物でも仕掛けられていたのか…神聖な儀式の中、この爆発がその空気を壊した。天井まで貼られた巨大な窓ガラスも、その爆風で式共々崩れ落ちてしまう。新郎新婦は爆破の衝撃波に押されるように飛ばされ、祭壇で転ぶ。一瞬にして炎に巻かれる会場は老若男女の悲鳴に包まれ、混乱に陥った。参列者の前列で爆発が起きた為、後ろの参列者は爆破の怪我を負いながらも逃げ出す。倒れたまま動かない人もいるが…一部の人を除き最早気にしている余裕はない。
同じく新郎新婦に神父は服で口元を庇いながらも、火の粉を振り払いながらも窓の外へ避難した。煤や焦げを服に纏いながら、新郎新婦は安全な場所へ。新郎は驚いてはいたが、比較的落ち着いた様子で言った。
「なになに?テロか何か?結婚式を邪魔されるほどの恨みを買った覚えは、確かにあるけど。あーあ、せっかくのドレスが焦げちゃったね。」
新郎は口調だけでは事の重要性をまるで理解しない、あっけらかんとした話し方だ。対し新婦は事を非常に重く受け止めており、絶望の表情を浮かべ呆然と呟いた。
「嘘…」
新郎は新婦の様子を見兼ねて颯爽と手を引き、危険が及ばない離れた場所に新婦を置いた。
「煙は吸ってない?美夜はここで待っていて、僕は式場に人が残っていないか見てくる。」
すると咄嗟に新婦の美夜は恐怖を思い出した様な顔を見せ、声を裏返すほどの声で言った。
「ダメッ!行っちゃダメ!!」
その声に目を丸くして新郎は振り返ると、美夜は強く怯えた様子で言う。
「ダメ…!『綺瑠(キル)』さんは行っちゃ…絶対にダメ…!!」
「どうしたの?怯えなくとも、僕は人助けに命を捨てたりしないよ。」
新郎の綺瑠が危機感のない穏やかな笑顔で言うと、次にウィンクをした。
「ヒーローになる男だからね!」
意味不明だが、とにかく明るい綺瑠の笑顔。緊張で張り詰めていた美夜の心は、その言葉で思いのほか緩められ…そして白けた。
(ヒーローになるから命を捨てたりしない…とは…?)
そんな美夜を見て、綺瑠は楽しそうにクスクスと笑っていた。すると美夜の視界に、一人の女性が映った。綺瑠からざっと十メートルほど離れた場所に立っている女性。その女性は恨みを連ねた凍えた表情で、綺瑠を見つめていた。
それを目視したのも束の間、綺瑠の背後にその女性は静かに迫ってくる。女性の手には、鋭利な刃物。綺瑠は気づかずにいると、その女性は両手で鋭利な刃物を持って綺瑠の背を貫いた。綺瑠の穏やかな笑顔が、一瞬にして呆然と目を剥いた表情となってしまう。美夜は目に涙を浮かべて「イヤっ…!」と言い、綺瑠は自分の腹から血が滲むのを見て、信じ難い状況に驚きを超えて笑いが込み上げた。
「誰…?」
そう言って振り向いた先には若い女性。それを見た綺瑠は冷や汗を浮かべた顔で言う。
「『コトネ』ちゃん…?」
コトネと呼ばれた女性は正気とは思えない恨みの表情を浮かべ、綺瑠から刃物を抜き取ると冷笑を浮かべた。
「久しぶり、クズ男。」
すると、何度も何度も綺瑠の背を刺し始める。綺瑠は痛みで立膝を着いてしまうが、コトネはやめない。コトネの白い服や肌に血が飛ぶ。それらを見た美夜は顔を真っ青にすると、危険を顧みず綺瑠に駆け寄った。
「もう…もうやめてッ!もう綺瑠さんを傷つけないでッ!!」
「逃げて美夜ッ…!僕の事はいいから…!!」
「イヤぁっ!」
美夜はそう言って綺瑠を庇うと、コトネは綺瑠を手にかけて嬉しいのか「アハハ…!」と狂気的に笑う。
「お前もだ。二人で幸せな顔して……壊してやるッ…!」
鋭利な刃物が美夜に向く。綺瑠の血を滴らせたその赤い刃は、美夜に絶望を思い出させた。美夜は失意の目をする。
(そうだ…。いつもこんな感じで、私達は殺されそうになる。)
――思い出したのは、日本のとある式場での出来事。
ウェディングドレスを身に纏った美夜、タキシードを纏った綺瑠。二人で控え室にて、談笑を楽しんでいた。そんな控え室に、ヘアメイク係が入ってきた。綺瑠はメイク係を見ると、何かに気づいたのか笑顔で言う。
「誰かと思えばコトネちゃん!久しぶり!」
綺瑠がそう言うと、コトネは微笑んだ。
「久しぶりね、綺瑠。」
そう言ってコトネは綺瑠に近づくと、コトネは笑顔で言う。
「このクズ男。」
「え?」
綺瑠が目を丸くすると、コトネは背に隠していた長い刃物を綺瑠の胸に振り落とした。無残に引き裂いたせいか周囲に血が飛び散り、美夜は突然の出来事と恐怖で声が出ない。美夜の顔にも血が飛び散っており、美夜は震え始めていた。
「あーあ。本当は女の方から殺す予定だったけど、クズの顔を見たら先に殺したくなったわ。」
コトネはそう言い、次に美夜を見ると怪しく笑った。
「お前も殺してやる。死後の世界で楽しく二人で…って、クズ男は地獄行きかぁ~!」
コトネは狂気混じりの笑いを見せ、美夜にも刃物を振り下ろした。――
美夜はコトネを見て思う。
(私が以前【タイムスリップ】した時と同じ人…。彼女は…綺瑠さんの元カノ…。)
あの時と同じく刃物が振り下ろされ、反射的に目を閉じる美夜。しかし振り下ろされた刃物は、綺瑠がコトネの腕を掴んで阻止した。綺瑠は冷汗を浮かべ、痛みを耐えつつ言った。
「憎いなら僕だけを殺せばいいだろ…!コトネェ!」
急に人が変わったように綺瑠の声色が暗くなり、怒りの表情で立ち上がりコトネの腕を拘束した。その様子を見たコトネは笑う。
「クズ男、やっと本性を現しやがったね!!お前のその顔、そこの女にも見せてやりな!!」
綺瑠はコトネを憎しみの表情で睨みつけ、低い声で囁く。
「この表情は、美夜を傷つけようとした…君だけにあげられるプレゼントだよ。コートーネ。」
綺瑠は刃物を奪うと、コトネの首筋に向ける。そして大きく目を見開いて、無表情でコトネに言った。
「あーあ、たっくさん出血しちゃった…。もうすぐで僕死んじゃうかも。ねえねえ、一緒に死のうよコトネ。」
そう聞くと、コトネは何やら思惑があるのか「ふっ」と笑った。綺瑠がそれに違和感を覚えていると、美夜の背後に更に別の女性がやってくる。
「いたいた、金の生る木。」
美夜はその声に反応すると、綺瑠も反応して振り返った。そのまま美夜は女性に拘束され、その女性によって首筋にナイフを向けられる。
「きゃっ!」
綺瑠は女性を見ると、信じられないのか呆然とした様子で言った。
「は…?なんで【マヒル】もいるの…?離してよ…美夜を。」
予想外の出来事に、綺瑠はコトネに向けた刃を下ろしてしまう。マヒルは言った。
「嫌よ。だってお金が貰えるんですもの。」
美夜の絶望は既にピークに達しており、目を強く瞑って思う。
(どうして…?どうしていつも、結婚式を挙げようとすると彼女達が邪魔をするの…?披露宴では人が少ない事で隙を突かれて、日本の教会では控え室にいる隙を突かれ、今度は大勢のいる海外での結婚式だったのに…!
どこで結婚式を挙げても、どうしても私達を必ず殺しに向かうの……一体なぜ…?)
綺瑠は出血が酷く目の前が霞み、足の力が抜けてガクッと体勢を崩す。
「ああ……君達の事、侮りすぎたね…僕……」
そう言って綺瑠は、力尽きて倒れてしまった。美夜はその音に気づくと、綺瑠が倒れたのを見て涙を流す。
「綺瑠さんッ!!」
美夜は必死に抵抗し、相手を抓ってまででもその拘束を解いて綺瑠の方へ向かおうとした。すると抵抗した拍子に、首筋に当たっていたナイフが美夜の首を切ってしまう。するとマヒルは焦った様子で言った。
「ちょっと、嘘でしょ…!」
切れた首筋から大量の血が吹き出ると、美夜は虚ろな瞳のまま思う。
(またやり直そう…。私は絶対に、綺瑠さんと幸せな未来を……!)
すると、美夜の容姿に変化が出る。茶髪だった髪が漆黒に染まり、黒い瞳が真っ赤になり、ピンク色の肌が死んだように真っ白になる。それを見たマヒルは目を丸くした。
「これは…!」
続いてコトネは言う。
「それがこの女の【本当の姿】?化物ね。」
それに対して美夜は眉を潜める。それと同時に、美夜は眠るように徐々に瞼をゆっくりと落としていく。
(私は…化け物なんかじゃない…!)
美夜の身体は幻想的に淡く輝く。対し美夜の視界は、徐々に暗くなっていく。
(私は……【人間】よ…。)
美夜が目を閉じたその瞬間、美夜の姿がこの場から消え去ってしまう。驚いた様子でマヒルが見ると、コトネは舌打ちをした。
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