屍人の陰陽師

うてな

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サトリ編

004 潜在能力

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「レフさんの願いを教えてください。」

「…今、貴方を飛ばした生物がいましたでしょう?止めていただきたいのです。」

翔太郎は即座に出来ないと判断し、頭を軽く抱えた。

「…お断りします。不可能ですよ。僕は霊能者ですが、相手の心を読む事しかできなくて。」

丁重に断った翔太郎だが、レフは自信満々にも言う。

「できますとも!案外霊力でどうにかなっちゃうものですから…止める方法もお教えます!」

「と、言われましても…」

翔太郎は渋っていると、レフは焦った様子になる。どうしてもレフは翔太郎にその役をしてもらいたいようだ。

「か、神木間寺の陰陽師なんでしょう!?私も噂で聞きました、数多の妖を退治した陰陽師の話を!」

翔太郎のお寺はどれほど有名なのだろう。それはさておき、翔太郎は困った様子で言う。

「それは僕じゃないんです、僕の家族の話であって…!」

「なら翔太郎さんにもできます!翔太郎さんには誰よりも強い霊力があるんですから!」

レフが引き下がらない為、翔太郎は弱ってしまう。

(いくら霊力を持っていようと、僕は無力な霊能者だ…。止めるだなんて出来るはずはない…だけど…
僕がやらなかったら、別の誰かが巻き込まれるのかな…?)

翔太郎は険しい表情を浮かべた。同時に自分の家族の事を思う。さっきのスマホのホーム画面に写っていた、自分以外の五人。

(それが家族だったら…?)

霊能者である自分が誘われているくらいなので、同じく霊能家系である家族が巻き込まれる可能性を翔太郎は考えた。霊能家系は珍しい為、探しても簡単には見つからない。レフが霊能者を仮に探しているとなれば、次に出会うのは自分の家族だろう。
すると翔太郎は心に決めた様子になり、真摯な表情を浮かべてレフに言う。

「やっぱりその役、僕が買います。」

翔太郎は立ち上がった。それを聞いたレフは無邪気な笑顔を見せる。

「ではでは、まずはその凹んだ身体をどうにかしませんと!翔太郎さんが死んでいるだなんて、バレたら大変です!」

「そうですね、バレたら大騒ぎです。」

「騒ぎ?いえいえ翔太郎さん、もっと大変な事があります。」

レフが目を丸くしてそう言ったので、翔太郎は首を傾げる。

「翔太郎さんは二度目の命を受けたペナルティーで、『人間に死人である事を知られたら、その場で消滅する』んです。」

その言葉を聞き、翔太郎は無言で呆然とした。体感的には十秒ほどだが、本当は一秒しか経っていない。レフは続ける。

「消滅したら幽霊として彷徨う事もできず、黄泉の国にも行けず、来世も無く…ただただ消滅します。」

そこまで言うと、レフは嬉しそうな笑顔を見せた。

「あ、でも安心してください。『人間に知られたら』と言いましたが、正確に言うと『知られたと翔太郎さんが認知したら』です。難しくないでしょう?」

翔太郎はただ呆然と…とは行かず、涙を流しながらレフに訴えた。

「尚更駄目ですよそれ!!思い込み激しいんです僕!勘違いで消滅する気しかしません!!」

「勘違いって分かっているのなら大丈夫です。さあ、あの【歪(イビツ)】を止めに行きましょう!」

初めて聞く単語に翔太郎は我に返り、いつもの調子を取り戻す。

「歪…?」

「あの生き物は、歪と呼んでます。詳しい話は現場に着いてからです。まずは服に詰め物でもして凹んだ身体をカバーしましょう!」

無責任にもそう言われ、思わず涙を浮かべてしまう翔太郎。

「待って待って!これからずっと凹んだ身体で過ごさなきゃいけないんですか!?キツいですよ…!」

そう言いつつも所持していたバッグからタオルを出して、服の下に巻いてカモフラージュを試みる。どうにか胸のサイズを直した所で、血だらけの身体を見た。

「この血、どうしましょう…?」

「歪さんが水を出すじゃないですか、それを利用しましょう!」

「また潰されろと…!?痛いんですよこれ!?」

翔太郎は精一杯訴えても、レフは痛みなど知らんこっちゃなのかウィンクをして言う。

「霊力を使えば、どうにかスピードを抑えられますよ!そうですね…」

レフはそう言って、歪の方向へ手を振って声を上げた。

「こっちですよ~!」

まさかの挑発である。それを見た翔太郎は、慌ててレフの口を塞いだ。

「何を言っているんですか!挑発したらまた水が…!」

すると、遠くから歪が水をこちらへ噴いているのを確認。翔太郎は二度目を覚悟して硬直してしまうが、レフは翔太郎の背にピッタリくっついて言う。その際にレフの胸部が翔太郎の背に当たるので、翔太郎は驚きを隠せない。

「いいですか?翔太郎さん。一度だけ、力の使い方を教えます。」

「え…?」

翔太郎がそう反応すると、レフから翔太郎の体に力が流れ込んでくる。翔太郎はその力に目を剥いた。

(ち…力強い霊力…!流石は父さんのお守りが効かないだけある…!)

すると翔太郎は自然と、両手を前に出していた。噴水は目の前まで来ている。
その時だ。
翔太郎の瞳が水色に一瞬だけ光り、目の前に青白い光の壁が現れたのだ。噴水はその壁を壊せず、翔太郎は身を守る事に成功した。

「これは、結界…!?」

「そうです、翔太郎さんの霊力を使ってみました!このくらい、翔太郎さんにとっては朝飯前なんですよ。そして…」

どうやら翔太郎は人の心を読むだけでなく、結界を使用する事も出来るようだ。レフがそう言うと、結界が緩くなって水が貫通してくる。しかし貫通した水はシャワーの様に細やかになっており、翔太郎を涼ませた。

「涼しい…!」

「はい。力加減を変えるだけで、水浴びもできちゃいます。つまり、血も洗い流せます。」

和んだ様子で涼んでいた翔太郎だったが、急に我に返って思う事があった。

「ずっと守れますけど…、反撃はどうすれば?」

そう言われると、レフは目を丸くした。

「霊力は攻撃専門じゃないので、反撃はできませんよ。」

「じゃあどうやって歪を止めるんです!?」

そこで最大の疑問を翔太郎は投げかけた。レフは笑顔で呑気にも言う。

「ここで歪の正体なんですが、歪とは『幽霊』と『妖』の融合体なんです。」

「融合体?」

歪の事も妖の事もよくわからない翔太郎にとっては、首を傾げたくなるような話だ。それでもまずは相手の言葉に耳を傾けた。

「はい。だから、歪には幽霊と妖…二つの自我が入り乱れているんです。それで我を失って暴れているだけなので、それを鎮めればどうにかなります!」

「そ、その方法とは…?」

「結界を張ったまま、歪に近づいてください。」

「は、はい。」

翔太郎はゆっくり近づいていき、やがて路地裏から出てくる。歪が暴れているせいか、周囲には警察以外は殆どいなくなっていた。翔太郎が歩いていると、横からレフが語りかける。

「歪に接触すれば、貴方の『能力』が発動するはずです。」

「それって…相手の心を読む能力ですか?」

「はい。そして貴方の心を読む能力は、それだけではない『本当の力』があるのです。
力に全集中を注いでください。そうすれば…歪の『心象世界』へ入れるはずです。」

「心象世界…?」

「ええ。貴方の力は心を読むだけでなく、相手の心の奥へ干渉できてしまう力なのです。そこでは皆精神の状態ですので、攻撃を受ける事もないはずです。対談をして、魂を鎮めてください。」

(僕にそんな力が…?ただ人に気味悪がられる能力だと思っていたけど…。…もし本当に心象世界へ行けて、この無差別に攻撃をする歪を鎮める事ができるのなら…)

「やってみます…!」

二人が会話している間に、翔太郎は歪の前に到着した。歪は翔太郎を見ると、なぜか口から水を噴くのをやめる。翔太郎は空かさず、歪に触れた。

(魂を鎮める事なら、何度かした事がある。魂を鎮めるという事は、人の死に触れ、心に触れ、霊に死を受け入れさせる事だ。
…この霊はどうして亡くなられたのか…、この霊は世界に何の未練を残しているのか…)

歪の水の身体に、翔太郎は飲み込まれそうになる。しかし翔太郎は集中をし、自分の能力を使用した。
すると、翔太郎は急に気を失って倒れる。翔太郎は歪の中に沈みながら、歪の心象世界へと向かった…。
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