屍人の陰陽師

うてな

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サトリ編

006 その後

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翔太郎が目覚めると、そこは大学前。目の前にはもう歪はおらず、代わりに心象世界にいた妖だけが倒れていた。すると視界にヒョコっとレフが現れ、笑顔を見せて言う。

「成功です、翔太郎さん!歪の【浄化】、完了です。」

そう言われ、翔太郎は力が抜けたように笑みを浮かべた。

「そう…ですか。それなら良かった…」

すると翔太郎は、そのまま気を失ってしまうのだった…。





そしてこれは先程浄化された、男性の幽体のその後…。

男性は病院へ一直線に向かっていた。院内へ入ると、家族が寝ている大部屋へと向かっていく。
青年が怪我をして眠っている病室にて、男性はその青年を見つめていた。青年は悪夢を見ているのか、うなされている様子。男性が青年の傍に来ると、悪夢にうなされていた青年の表情が一瞬で和らいだ。

「元気に暮らすんだぞ…。」

男性がそう呟くと、青年は寝言で呟く。

「……父ちゃん…」

その声を聴いて、男性は涙を浮かべそうになって青年から視線を背けた。そして、声を震えさせながらも言う。

「父ちゃんはいつでも、お前の幸せを願っている…」

そう言って、男性はさっさと病室を抜け出した。
眠っている青年は、その瞬間に目が覚める。いつの間にか、青年の目には涙が浮かんでいた。青年は涙を拭くと、起き上がって呆然とした。

「…変な…夢だったな…。」

そう呟いて。



一方男性は、別の病室へ向かっていた。そこは個室で、一人の女性が重傷の怪我を負って入院していた。
『日野 秋江』と言うネームプレートのある病室。
女性は目を閉じていたが、男性が入ってきた瞬間に目を覚ました。秋江に見えたのは、男性のいる位置に黒い人の影。下半身は薄く消えており、顔もわからない。その影は秋江の目が覚醒すると同時に、徐々に薄くなって消えていく。秋江が目を開いて呆然としているのを見て、男性は驚いた様子で言う。

「秋江…。」

そしてゆっくり近づき、秋江と呼ばれる女性の手を優しく握る。すると秋江は気づいた顔をして、男性の方を見た。しかし男性には気づいていない様で、握られた手を見つめる。どうやら、手に何か触れたと気づいたようだ。男性の握った手が、秋江が手を動かすだけで透けてしまう事に驚いた。

「秋江…!」

男性がそう言うと、秋江はキョロキョロとした。それから秋江は悲しそうな表情をして、深く目を閉じて呟いた。

「どうか…奇跡が起きますように…!【淳(ジュン)】さんが一命を取り留めますように…!」

それを聞き、男性もとい淳は呆然とした。自然と目から涙が零れるのだ。秋江は淳の存在に気づかず、深い祈りを捧げ続けた。それに淳は笑みを見せながらも涙を流すと、日差しの見える窓まで向かった。

「あとは…任せた…。」

そう呟き、ヒッソリと病院を出て行った淳。



 … その僅か二時間後、危篤状態であった 日野 淳 は息を引き取った … 。





一方、大学より少し距離の離れた場所にて。
翔太郎の知り合いであるケンは、未だに翔太郎の指示を聞いてその場に留まっていた。ケンは通り行く人に不審に思われながらも、凛々しい表情で牛乳を飲みながら思う。

(俺はいつまで待っていればいいんでしょうか…部長…。)

なんとも可哀想なケンであった。





気絶していた翔太郎は、ふと目が覚めた。
場所は薄暗く湿った場所で、ひと目でさっきの路地裏と気づく。しかしそんな翔太郎の目に、人の顔が映りこんだ。
プラチナブロンドの少年で、髪が寝癖で少しボサボサしている。その少年は落ち着いた目でこちらを見つめていた。翔太郎は少年の姿を見ると知り合いの誰かと重なるのか、意識朦朧としつつも呟く。

「【韻(ヒビキ)】…?」

「目が覚めたのかい?…災難だったね、妖みたいなのに襲われて。」

その優しい声に、翔太郎は確信した。

(あれ…弟かと思ったけど…声が違う…。)

少年は翔太郎の頭に手を伸ばすと、手から優しい光を放つ。その光を浴びると、翔太郎は安らかに目を閉じた。

(この光を浴びると、痛みが引いていく…。)

それだけではない、傷だらけだった翔太郎の身体が回復しているのだ。そこで、翔太郎はある事に気づく。

(大変だ、僕が死んでいる事がバレた…!?)

その瞬間、翔太郎の身体は薄光りに包まれていく。翔太郎の身体も透けていき、成仏しかけている様だ。少年はそれを見て、驚いた様子になって慌てる。

「いや待ってくれ、僕は人間じゃない!だから『人間』に君の死がバレた訳じゃない、安心してくれ!」

その言葉を聞くと、翔太郎を包む薄光りは一瞬にして消えた。すると素直に薄れていた身体も元通りになり、少年は安堵の溜息を吐く。すると少年は翔太郎から離れ、立ち去りながら言った。

「そのくらい元気なら、もう大丈夫だ。…あまり無理はしないようにね。」

「ま、待って!君は一体…!」

翔太郎はそう言って起き上がったが、既にその少年はそこにはいなかった。翔太郎は呆然としていると、そこにレフがやってくる。

「良かったですね翔太郎さん、お体を再生してもらえて。」

「レフさん、彼を知っているんですか?」

それに対しレフは首を横に振るので、翔太郎は肩をすくめた。次に翔太郎は、ついさっきを思い出してレフに尋ねる。

「そうだ!歪はどうなりましたか!?」

その問に、レフは微笑んで答えた。

「浄化され…霊と妖は分裂して、元の姿に戻れましたよ。」

その言葉に翔太郎はホッとすると、レフは翔太郎にニコニコ笑顔で言う。

「ではでは、翔太郎さんにはもっと多くの歪を浄化していただきましょう。」

「え?」

思わぬ発言に翔太郎は目が点に。

「歪を浄化して、歪を作り出している犯人を捕まえるまでが翔太郎さんのお仕事です。」

「犯人…?歪って、誰かが意図して作っているんですか?」

「はい。そして見事犯人を捕まえたのなら…翔太郎さんのお願い事、なんでも叶えますよ。…どんな願いかまだ聞いてませんでしたね。」

そう言われてしまうと、翔太郎は思わず黙り込む。願いを考えても、翔太郎にはピンと来ないのだ。そして少し考えた様子を見せると、翔太郎は立ち上がって言った。

「…願いは今の所ありません。人々の生活を害する歪という存在がなくなるなら…僕はそれでいいです。」

「人間として生き返るって願いが、一番ポピュラーですよ?」

「何を言っているんですか、人の命は誰しも一つです。誰もが死に方を選べませんし、ましてやもっと生きたかった人だっているはずです。それなのに、僕だけ強欲にも命を求められません。
今の状況だって…死者によっては形容しがたいくらいの贅沢ですよ…!」

翔太郎が真摯にもそう答えると、レフは目を丸くしていた。レフの顔を見てから翔太郎は少し恥ずかしく思うと、レフは笑みを浮かべる。

「魂が綺麗なんですね、翔太郎さんは。」

そんな言葉は心に響かないのか、翔太郎はレフから視線を逸らして言う。

「…そんな事はないですよ。」

するとレフは笑みを見せた。

「地上には勿体無いです。今すぐあの世に来てくださいませんか?」

「行きませんよ!?てか僕がいたら何かあります!?」

「ええ、心が癒されると言いますか…」

レフが白けた様子で笑みを浮かべると、翔太郎は何かを察した様子で言う。

「えっと…あの世は恐ろしい魂しか存在しないのでしょうか?」

レフは白けた様子のまま、返事がなかった。翔太郎は話を掘り下げるべきではないと、レフをそっとしようと決める。するとレフは話を変えた。

「そう言えば、さきほど翔太郎さんは『自分は神木間寺の陰陽師じゃない、家族にいる』と言いましたよね?翔太郎さんじゃなきゃ、一体誰なんですか?」

翔太郎はその問に沈黙してしまうが、やがて答えた。

「…僕の弟です、韻って言うんですけど。」

それを聞くなり、レフは目を輝かせた。

「おぉ!翔太郎さんのご兄弟さんって事は、物凄い霊力をお持ちなのですね!?」

「いいえ。韻は霊力じゃなくて…妖の力を借りて百妖災を止めたんです。」

妖の力を借りるという事が、レフにはイメージが沸かない。

「妖の力を借りる…?どうやってでしょう?」

「わかりません。韻も全容を語ってくれませんし、僕は妖さえも見えないのに…。」

翔太郎はそう言いつつ、歪の心象世界にいた生物を思い出した。

(あれが妖なのかな?…でも、僕はいつを境にあの類の生物が見えるようになったんだ?)

それを大人しく見守っているレフ。レフは言う。

「きっと一度死んだお陰で、妖が見えるようになったのでしょうね。」

見透かされた様な言葉に、反応を見せる翔太郎。翔太郎は虚ろな瞳を見せた。

(そうか…。僕、もう死んでるんだった。死を境に、見えなかったものも全て見えるようになってしまったんだ…。)

そして翔太郎は路地裏を歩き、近くに落ちていた自分のバッグを拾って背負った。路地裏を出ると、すぐそこに大学が見える。大学を見ると、翔太郎は我に返った。

「今何時!?急がないと…!」

「お昼過ぎくらいですかね?」

「大変だ…!」

翔太郎は走り出すと、急いで大学へ向かうのであった。
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