屍人の陰陽師

うてな

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サトリ編

009 いつも通り勝ちゃいいんだよ!

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一方、韻の方では。
韻は気が収まらない様子で、夜の公園までやってきた。ブランコに腰を下ろし、スマホを触りながらブツブツと言う。

「絶対に兄貴、何か隠してんだろ…。」

韻の見るスマホの画面には、昼間の噴水事件のSNS反応。そこには翔太郎が噴水に向かっている写真もあった。ポチはレフとの話で概要を知ってはいるが、翔太郎が隠している為か黙っている。韻はブランコを揺らしながらも、溜息を吐いていた。するとポチは言う。

〔不貞腐れているね。そんなに気になるのかい?〕

「そうじゃなくて…。いっつも俺ばっか無力ってか…。」

韻はそう言うと、頭を抱える。ポチは理解できないのか、首を傾げた。

〔韻は妖退治に置いては一流だと思うけどね。〕

「妖退治なんて将来の役に立たねぇだろ。兄貴も海美も、頭が良くて賢くて…俺とは次元が違うって言うか。その上、兄貴には頭が上がらないくらい世話になってるし…こんな俺でも役に立ちたいとか思ったりするんだよ。」

〔だけど韻にはスポーツができる。〕

「サッカーだけだっつーの。」

そう言いながら韻は、ワイヤレスイヤホンを片耳にだけ着けて、音楽を流した。ちなみに音楽は、若者にしては珍しい演歌だった。それを聞いたポチは言う。

〔歌も歌える、古い歌だから上手さはわからないけど。〕

「演歌好きで悪かったな…!」

韻は頭を痛めた様子でそう答えた。





そして公園の遊具広場から、少し離れた場所にて。
公園の散歩コースに、茂みや木々の多い場所がある。その場所の一角で、一人の女子高生が韻の後ろ姿を眺めている。

「いた、神木間寺の陰陽師。」

透き通るような声。黒髪ロングの女子高生で、灰色の瞳が特徴的だ。白と黒だけで構成されたセーラー服を着ており、華奢で凛とした雰囲気がある。
女子高生の傍には、札で拘束された女性の霊がいた。霊は悶え苦しみながら言う。

「【ユリア】様…!お願いします、離してください…!」

「駄目よ。」

そう言ってユリアが人差し指をクイっと引くと、それだけで札の拘束がキツくなる。女性の霊は叫び声を上げていた。するとユリアは呟く。

「そうね、お手並み拝見と行きましょうか。」

ユリアはそう言って、札を袖の中から取り出した。そして霊力を込めると、札は光り輝いた。札は一匹の妖を磁石の様に引き寄せ、そのまま妖を引きつけた札と女性の霊を拘束する札を重ねた。

「融合。」

ユリアの掛け声と共に妖と女性の霊は重なり合い、そのまま融合して歪へと変化する。女性の歪は動物に近しい体になっており、四足歩行で立ち歩いている。歪には自我というものを一切感じられない。ユリアはそんな歪の頬を撫でるように触れると、韻の方を見て言った。

「捕えて、陰陽師を。」

その瞬間、歪は韻に向かって襲いかかるのだった。

ズドォーン!

歪が放った攻撃が、近くの木を切り崩した。韻は目を丸くし、歪を見ると思わず困惑してしまう。

「変人コスプレイヤー…?」

〔何を馬鹿な事を言っているんだ!アレには妖の気配がする、木を切り刻んだ時点で妖の仕業だとわかるだろう!〕

「人間型の妖…?妖にしちゃ、なんか狂気に満ち満ちていると言うか。」

韻は余裕があるのか、相手を前にしても平気そうだった。しかしポチは警戒を怠らない。

〔様子が変だよ…!今までの妖とはまるっきり違う!〕

そう言われても、韻はニヤリと笑って言う。

「まるっきり違うって言われても、俺がやるしかねぇだろ。」

韻は能力を使ったのか、韻の目が一瞬だけ黄色に光る。すると韻の全身は電気を帯びた。これは韻が操る妖力で出来たものらしく、韻自身が帯びてもノーダメージだ。それを遠目で見ていたユリアは呟く。

「ほう…光を操るのね、陰陽師は。」

帯びた電気はやがて韻の前でボール状になり、韻はサッカーボールの様に足に乗せる。電気に触れているのにも関わらず、感電すらしない韻。韻は不敵な笑みを浮かべ、ボールを蹴り飛ばした。

「いつも通り勝ちゃいいんだよ、勝ちゃ!」





一方、神木間家では。
翔太郎が夕食を摂っていると、海美と母がテレビを見て急に騒ぎ出した。

「にーちゃん!?」

「韻っ…!一体何してんの!?」

その言葉にテレビに視線を向けると、公園の騒ぎが中継されていた。公園の木々は、刃の様なもので多く切り落とされた形跡がある。そして韻が、歪と接戦を繰り広げているのが偶然映ったのである。翔太郎は飲んでいた味噌汁を喉に詰まらせ、咳き込む。

「大丈夫ですか?翔太郎さん。」

「あ、ああ。」

レフの心配に翔太郎は答えると食事の途中だが、韻をそのままにもしておけず廊下へ出る。それを見た海美は、同じくリビングを出た。呆然とテレビを眺めている母は、歪が見えない為かこう呟く。

「一人で何でエアサッカーやってるのかしら?なんか無駄な動き多いし…母親として恥ずかしいわ…。」

翔太郎が玄関で靴を履いていると、そこへ海美がやってきた。

「飯でも食ってろよ弱兄貴。にーちゃんは私が助ける。」

「あの生き物は、僕でないと止められないんだ。」

翔太郎がそう言うと、海美は気に障ったのか翔太郎を睨む。

「海美にもできるかんな!」

「海美、大人しくしてくれ。」

翔太郎はそう答えると、さっさと家を出て行った。海美はそれが悔しいのか翔太郎を睨みつけると、海美も靴を履いてその後を追いかけた。
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