屍人の陰陽師

うてな

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サトリ編

015 ケンの隠し事

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一方、外では。
翔太郎達のいるカフェのすぐ近くにて。そこには男子高校生の幽霊がいた。身体が透け、リュックを背負って学ランを着ている男子高校生。彼は横断歩道を渡り歩くが、一定の距離を歩くと一瞬にしてカフェの近くまで戻っていた。

「まただ…」

男子高校生は恐怖を覚えた表情で呟き、頭を抱えた。

「何度歩いても、家に帰れない…!なんだよコレ…!それに…!」

男子高校生は道を歩く人々を見たが、誰も自分を見ない。いない者の様に、通り過ぎるだけ。

「誰も俺に気づかないし…!これは夢なのか?夢なら覚めてくれ…!!」

男子高校生が戻ってきた場所のすぐ隣の電柱には、人々が置いていったであろう献花でいっぱいだった。男子高校生はその電柱には目もくれず、再び帰路を歩こうとした。
その時だ。

「家に帰りたい?」

カフェの建物の影から、男子高校生に語りかける声が聞こえた。男子高校生は、その声に反応した。

「誰だ…?」

そう言ったが、返事はない。しかし、その陰からは確かに人の影が見えた。男子高校生は固唾を飲み込んだが、薄暗いカフェの裏へと歩き出した。

(この際誰でもいい…。ここを通る全ての人が俺を無視する中、俺に話しかけてくれる人がいるんだ。)

そう思いながら足を運ばせると、徐々にその影の姿があらわになる。そこにいたのはユリアだった。ユリアは札で妖を捕らえており、ユリアの周りには人魂が無数に飛んでいて幻想的である。それを見た男子高校生は、思わず笑いが込み上げてきた。

「はは…、やっぱ夢だよなこれ…。人魂が飛んでるなんて…!」

「夢じゃない、本物よ。」

そう言ってユリアは、もう一枚の札で男子高校生を拘束した。男子高校生は恐怖で動けなくなると、ユリアは男子高校生の方へ歩く。そして耳元で呟いた。

「皆、どうして貴方を見ないのかしら。…貴方…もう『死んでる』の、わかるでしょう?」

その言葉にショックを受ける男子高校生。同時に放心状態になり、呆然とするようになる。

「まさか知らなかったの?死を自覚できないなんて…これだから事故死は。」

男子高校生は、何を言っても返事をしなかった。するとユリアは呆れた表情を見せ、そして呟いた。

「はぁ、さっさと歪にしちゃいましょう。」

ユリアは二つの札を重ねると、男子高校生と妖の融合が始まる。妖は抵抗しようと、力を使った。力は赤色を帯び、やがて炎になる。しかし妖は男子高校生と重なり、炎は弾けとんだ。そしてユリアは言う。

「一緒になったら災いになれるわ。それでもって、自分を無視し続けた人々に復讐しちゃいなさいな。」

そう言われた男子高校生は、正気を失ったような目になってしまう。

「人は…みんな、俺を…」

こうして妖と幽霊は融合し、歪となる。先程の男子高校生なのだが、顔半分が炎で形づけた妖の顔になっている。まるで妖の仮面を被ったかのような姿だ。素肌の見えない学ランの下から、尻尾が生えていたりする。
そして全身に炎を軽く纏っている、人ならぬ霊ならぬ生物。ユリアは言った。

「さあ行ってらっしゃい、歪。…沢山、人を殺してきなさい。」

その言葉を聞いた途端、歪は炎を纏って建物から出て行った。道路の方から聞こえる、人々の悲鳴や大声。ユリアはそれを眺める事もなく、その場を立ち去ってしまった。





カフェの男子トイレにて、サークルメンバーのケンは留まっていた。ケンはトイレの鏡と睨めっこしている。ケンの黒い髪の毛先が少し赤く染まっていた。しかしケンが深呼吸をする毎に、その色が元の色へ戻っていくのだ。

(危なかった…。)

色が落ち着いたケンは、安堵した表情になる。ケンはトイレの出口を横目で見ながらも思う。

(霊能者の先輩がこれから幽霊と対峙…!それを考えただけでワクワクの『感情』が止まらなくなるなんて…!)

ケンは髪を気にしながら溜息。

(感情が昂ぶる度に、こうも髪色が変わってもらっては怪異か妖怪だと思われてしまう…。絶対にバレる訳にはいかない…!部長だけには、絶対!!)

どうやらケンは、普通の人間とは少し違うようだ。ケンは落ち着いたのか、トイレを出ようとした。
その時だった。ケンは何かの気配に気づく。

(これは…、妖の気配?)

驚くべき事実が判明する。幽霊が見えないケンが、妖の気配ならわかるというのだ。その瞬間、外から女性の悲鳴が聞こえる。ケンは咄嗟にトイレを出て、丁度死角で見えない翔太郎を横切りつつも外へ出た。すると歪が、炎を周囲に撒き散らしているのを目にする。
ケンは目の前の光景に目を疑った。火の海、傷ついた人々、真昼間に起きた地獄絵図だ。ケンは歪を凝視した。

(妖…?こんな街中でも出るのか…!)

どうやらケンは、普通の人には見えない歪が見えるようだ。
ケンは歪に向けて走り出す。歪は近くの女性に火を噴いたが、ケンはそれを庇った。

「キャーー!!」

女性は叫んだが、女性を庇ったケンは服以外は無傷だった。パニックになっている女性にケンは引っかかれ、頬から血が滲む。しかしケンの血は、不思議な事に青色をしていた。女性はそれを見て恐ろしくなって逃げ、周囲の人間は炎から逃げる。
ケンは指で青い血を拭うと、歪と睨み合いになった。歪が再び火を噴くと、ケンは遠距離なのにも関わらず歪に向けて腕を振った。
すると歪に、腕ではない何か太い物がぶつかる。歪は勢いよく吹っ飛ばされ、近くの壁に頭から強打する。不思議な事に、先程のケンと歪はそこそこの距離があった。ケンが殴ろうとしても、届かないはずの距離なのだ。
歪は怒っているのか暴走を始め、そこらに更に火を撒いてしまう。ケンは流石に限界を感じたのか、一度その場から距離を置いた。

(このままでは多くの人が巻き込まれてしまう…!)

そう思っていると、ケンは周囲を見渡す。そして見つけたのは公園の水飲み場。ケンは目の色を変えて、水飲み場へ走り始めた。その途中、カフェの窓から翔太郎が見える。翔太郎を見たケンは、一瞬目を丸くしたが走り続けた。

(部長…。)

ケンはそう思いながら、水飲み場に着いた。水飲み場には子供達が水風船で遊んでおり、騒ぎに気づいておらずとても賑やかだ。そこにケンが突然割り込んできたもので、子供達は唖然と驚いてケンを見つめた。ケンは蛇口を自分に向けると、捻ろうとする手を止める。

(俺があのサークルにいる意味はあるんだろうか…。幽霊が見えないから、部長の役に立てないし…。)

そう思いながらも、手に握る力を込める。

(俺は部長が霊能者だって知って…仲良くなれる、そう思ってた…。でも、それはきっと叶わないだろうな…。)

そして蛇口を捻り、ケンは水を全身で浴びた。唖然と見つめていた子供達は、突然の奇行に更に呆然。

するとケンの体に変化が出た。

ケンの体は水を吸い、どんどん大きく膨れるのだ。肌の色はやがて青色に染まり、膨れた体は潤いという名の光沢を帯びる。水を浴びれば浴びるほど体が肥大し、やがて化け物が誕生する。

(部長は…妖が嫌いだ…。)

そう思うケンの姿は、もう人の姿ではなかった。
高さ数十メートルの巨大なダイオウイカの様な姿となり、九の脚と二の触腕を自由に操っていた。建物に脚を巻き付け、炎の中を見つめている。

(こんな妖混じりの【半妖】が…!部長と仲良くなって良い訳ないだろう…!!)

ケンは半妖と言う名の、化け物だった。



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