屍人の陰陽師

うてな

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サトリ編

016 背を向け、目を背け

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ケンはダイオウイカの様な姿となり、九の脚と二の触腕を自由に操っていた。

(こんな妖混じりの『半妖』が…!部長と仲良くなって良い訳ないだろう…!!)

ケンは半妖と言う名の、化け物だった。

ケンの嘆きに近い心の声は、この姿では叫ぶ事もできない。地上の人々は半妖のケンが見えるのか、更に混乱を増している。そのままケンは火の海へと直進し、やがて外へ出てきた翔太郎を見つけた。翔太郎はケンを見て、恐怖に満ちた表情をしていた。それを目視するケンは思う。

(そうだ…。その反応は、別に変じゃない。霊能者だって妖を見る事は出来ない。きっと部長も、妖を見たのはこれが初めて…。)

そう思うとケンは、急に虚しさを感じる。

(絶対に…この事は内緒にしよう…。)

次の瞬間、余所見をする翔太郎に歪が火を噴いた。それを見逃さないケン。ケンは触腕の先から水を噴射した。まるで消火ホースから出る水の様に、歪の火を消すケン。翔太郎はイカが自分を守ってくれた事に気づき、目を丸くした。

(あのイカの化け物…僕達を守ってくれた…?)

ケンは両方の触腕から水を出し、消火に励む。
しかし、水の量が足りない。

〔足りない…!〕

その悍ましいイカの化け物の声は翔太郎にも聞こえ、翔太郎は驚いた。ケンはそう言いながらも、消火栓のあるマンホールの蓋を荒々しく開ける。そして消火栓を無理にへし折り、管から水が大量に噴き出た。その水を浴びたケンは、更に体が肥大化する。それを見上げる翔太郎の横に、レフがやってくる。

「翔太郎さん、歪が全身濡れて火を出すのが困難になっています。今ですよ…!」

翔太郎は我に戻ると、歪を確認する。火を出せない事を目視で確認すると、翔太郎は歪に向かって走った。それに驚いたのはケン。

(部長…!近づいたら危険だ…!)

そして脚を翔太郎に向けて伸ばしたが、翔太郎が片手を前方に出しているのに気づいて止めた。翔太郎は言った。

「行ける…!!」

翔太郎は歪に触れ、翔太郎の目が一瞬だけ水色の光る。その瞬間、翔太郎には強い耳鳴りが鳴った。翔太郎は表情を歪めたが、やがて気を失うように倒れてしまった…。





翔太郎は目を覚ますと、そこはさっきの道路だった。
しかし、周りに炎なんてない。
それどころか、誰もいないのだ。さっきまで背後にいた大きなイカも、近くにいたレフも、歪もだ。

(心象世界に来たのか…。)

翔太郎は周囲を見渡すと、一本の電柱が目に入った。
そこには、一人の男子高校生が電柱に背を向けて蹲って泣いていた。翔太郎は歩いて近づくと、男子高校生の前でしゃがんで話しかける。

「そこで何をしているの?」

すると男子高校生は、顔を上げた。しかしその表情には恐怖が深く刻まれており、目も焦点が合わない。
男子高校生の膝には炎を纏った妖がおり、男子高校生が顔を上げた途端にその炎が暴走した。周囲が火の海になり、翔太郎は少し驚いた様子になる。しかし翔太郎はここが心の中と知っている為か、慌てる事はなかった。
男子高校生は震えた声で言う。

「た…助けて…止まらないんだ…!俺のせいで…みんなが死んじゃうよ…!!」

それを落ち着いた様子で見る翔太郎。翔太郎は男子高校生の手に触れると、優しく言う。

「落ち着いて、自分の膝をよく見てごらん?
 …君のせいじゃないよ。」

男子高校生はそれを聞き、数秒だけ呆然とした。次に膝の上を見ると、妖が荒れ狂うように火を噴いている事に気づく。翔太郎は男子高校生が驚く前に、妖を優しく抱き上げて離してあげた。妖はまだ荒れている様子で、翔太郎は困った顔をした。
すると、妖の声が聞こえる。

〔ここはどこだ…!思考が乱れて…頭が壊れそうだ…!〕

「ここは、人間の心の中だよ。」

翔太郎は冷静にそう答えると、更に妖の声が聞こえた。

〔ここはうるさい…どうにかしろ、人間…!!〕

妖の見下した様な言葉。翔太郎は何の言葉も示さず、妖をその場で下ろした。
それから男子高校生に近づくと、翔太郎は優し気な表情を浮かべる。

「質問、いいかな?」

「え…?はい。」

男子高校生は目を丸くしてそう言うと、翔太郎は言った。

「君は、この場所に思い入れがあるの?」

翔太郎の質問に、男子高校生は目を丸くしたまま。それから周囲を見渡すと、正直に言う。


「いや別に…。いつもの登下校道だけど、それ以外には何も…」

と言った瞬間、男子高校生は思い出す。

ユリアから言われた、『貴方は死んだ』という言葉を。

電柱の前で手を合わせて黙祷を捧げる知り合いの姿、家族の姿を。

男子高校生はそれに加え、自分が事故に遭った瞬間を思い出したのだ。


男子高校生はそれを思い出してしまうと、崩れる様に再び蹲る。

「し…知らない!俺は死んでない!!死んでない…!」

頭を抱えて苦しむ男子高校生。それと同時に心象世界も、電気を失った電灯のようにチカチカと点滅する。それを見ると、翔太郎は胸が痛むのか胸に手を添えた。

「そっか…君だったんだね。」

「違うって言ってんだろォ!!」

男子高校生の剣幕に、翔太郎は一歩下がってしまう。それでも翔太郎は諦めず、男子高校生に向けて話す。

「この電柱にはね、根元が見えないくらい多くの花が手向けられているんだ。毎日、君の為にここを訪れる人もいる。」

その言葉を阻むように、男子高校生は耳を塞いだ。

「うるさい…!!うるさい!」

言葉で翔太郎の声を塞ごうともした。徐々に点滅が激しくなる。翔太郎は胸に添えていた手を強く握り、真摯な表情を見せて言った。

「君の帰りを待っている人がいる!」

その言葉を聞いて、男子高校生は驚いた顔をして口を噤む。同時に心象世界の点滅も収まる。男子高校生が静かになると、翔太郎は続けた。

「僕は霊能者だ。普通の人間とは違う、幽霊が見えてしまう霊能者。
…そんな僕の元に、君の家族から『君を探して欲しい』と相談が来ている。」

男子高校生は反応を見せたが、呆然としたままだ。翔太郎は話を続ける。

「君を待っている人がいる。真実から逃げていたら君とその人は、永遠に会えない。
…それでもいいの?君を待っている人は、きっと君の大切な人だ。」

男子高校生は認めきれない様子でいたが、やがて苦虫を嚙んだような表情を見せた。
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