屍人の陰陽師

うてな

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サトリ編

017 自分の足で

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翔太郎は話を続ける。

「君を待っている人がいる。真実から逃げていたら君とその人は、永遠に会えない。
…それでもいいの?君を待っている人は、きっと君の大切な人だ。」

男子高校生は認めきれない様子でいたが、やがて苦虫を嚙んだような表情を見せながらも呟く。

「本当は信じたくない…ずっと見ないようにしてた…」

男子高校生はそう言うと、背を向けていた電柱と向き合う。するとそこには、幾つもの花束が添えられていた。電柱の根元が見えなくなるくらい、埋め尽くされた献花。
それをジッと眺める男子高校生。

「何度も帰ろうと歩いても、この場所から離れられなくって…!辛くて…苦しくて…!」

男子高校生は涙を流していたのか、顔を服の袖で拭う。次に話す男子高校生の声は震えていた。

「もう…家族にも忘れられたかと思った…」

すると男子高校生は目を閉じ、思い出す事があった。



――電柱に花束を添える家族の姿。
しかしそこには、いつも母の姿がないのだ。――



その瞬間、男子高校生は顔を上げて呟く。

「母さん…一度も俺に会いに来なかった…」

それを聞くと、翔太郎はゆっくりと頷いた。

「お家で君の帰りを待っているよ。」

男子高校生は翔太郎の方に振り返ると、翔太郎の前までやってきて言う。

「どうやったら母さんに会える…?他の家族にも会いたいよ…!」

「君はお母さんに会える。でも、お母さんは君を見る事ができないかもしれない。」

それに男子高校生はショックで呆然とした。しかし男子高校生は真摯な表情で言う。

「最悪、見えるのは俺だけでもいい。母さんの姿を見たいんだ…!母さんの所へ連れて行って欲しい…!」

強く言う男子高校生に、翔太郎は思わず男子高校生に微笑んだ。

「僕が連れて行かなくとも、君はもう自分の足で家へ帰れるよ。君の霊力と…強い意思さえあれば、地縛を解く事は可能だから。」

「本当…?」

「勿論。」

翔太郎にそう言われ、力強く頷く男子高校生。それと同時に、妖の容態も良くなったのか普通に立ち上がるまでになる。
その瞬間、周囲が優しい光に包まれた。歪は解けたのだ。





翔太郎が目覚めると、そこはさっきの道路。周囲の火は既に鎮火され、落ち着きを取り戻しつつあった。
誰かが翔太郎の身体を揺すっていた。

「部長…!」

その声は人の姿のケンで、ケンの声で翔太郎は目覚めた。

「ケンくん…?」

「一体どうしたんですか…!急に倒れて…!」

それに対し、翔太郎は苦笑しつつも言う。

「も、元から体が弱くて…貧血持ちなんだよね…。」

「そうでしたか…!すいません、そんな部長に俺は気を使えず…。」

「い、いいんだよ!全然気にする事じゃないよケンくん!」

「しかし…!」

罪を重く受け止めるケンに、止める言葉にも迷ってしまう翔太郎。翔太郎はある事に気づき、周囲を見渡す。

すると近くで、先程の男子高校生がいる事に気づいた。男子高校生は笑顔で翔太郎に手を振っており、それから下校道を歩いた。もう電柱の前に引き返される事もなく、男子高校生の姿は遠くなる。
ちなみに妖も歪から解放されているのか、翔太郎達を近くで見物していた。

するとそこへ、翔太郎の同級生の木戸が走ってやってきた。随分息を切らせている様子で、必死に走ってきたことが伺える。手には花束を持っており、どうやら弟へ手向ける物のようだ。

男子高校生は木戸に気づくと、木戸を横切るように通った。そして肩に優しく手を添えると、すれ違いながらも呟いた。

「いつもありがと…兄ちゃん。」

そう言って横切る男子高校生。木戸はその瞬間に立ち止まってしまい、後ろを振り返った。

しかし、後ろを見ても誰もいない。木戸は呆然としてしまうが、そこへ翔太郎がやってくる。

「どうかした?」

「え…?今…弟の声が聞こえた気がして…」

「『いつもありがとう、兄ちゃん。』」

と翔太郎が呟くと、木戸は驚いた様子を見せた。

「なっ、なんでわかった!?」

すると翔太郎は笑顔で答える。

「木戸くんの弟さん、木戸くんの肩に触れてそう言っていたよ。声が聞こえたんだね。」

そう言われると、木戸は自分の肩に触れた。そして木戸はジワリと頬を赤くし、自然と目に涙が溜まる。木戸は呟いた。

「わかんなかったよ…触られてた事…。…でも……そっか……近くにいたんだ…。」

木戸は感動のあまりに俯いてしまう。俯くと同時に涙が零れ落ち、静かに涙を流す木戸。すると翔太郎は言った。

「多分、弟さんはお母さんの元へ向かったと思う。今から帰ったら追いつくかも。」

それを聞いた木戸は顔を上げ、指で涙を拭う。木戸の表情は、穏やかなくらい笑顔だった。

「いや、事件聞きつけてここまで走ってヘトヘトだから、花添えてからゆっくり帰るよ。」

それを聞くと、翔太郎も笑顔になる。

「そっか。…じゃあ僕達はこれで、またね。」

翔太郎はそう言って立ち去ろうとすると、木戸は言った。

「ありがとう!むかしに「変な部活」って言った事、取り消すよ!」

それを聞いた翔太郎は笑みで応えた。一部始終を知らないケンは、ただただ感心の眼差しを向けるだけ。

「部長…!いつの間に幽霊と和解したのですか…!」

そう言われると、照れた様子になって翔太郎は言う。

「まあ…ちょっとね。」

「そのちょっとを知りたいんです俺は!」

二人は暫く、この様なやり取りを続けていた。それを後ろで見ているレフも、ニコニコだった。





カフェの建物裏にて。ここはさっきまでユリアがいた場所。
今はそこに、翔太郎の大学の同級生である琴爪がいた。琴爪は陰から翔太郎を眺めていた。

「霊能力者か…。これは厄介な話になってきたな。」

琴爪はそう意味深な言葉を置いて、この場を立ち去るのであった。
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