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サトリ編
019 臆病兄貴
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翔太郎はレフに目配せして言った。
「何の石かわかりますか?」
「ふむ…、似たような物なら見た事があります。これは力を凝縮した石ですね。お二人の言う通り、霊力を凝縮した物でない事は確かです。」
「じゃあつまり…!霊力以外にも力があって、その力をにーちゃんが使ってる可能性が…!」
海美が目を丸くしてそう言うと、レフは眉を困らせて言う。
「その可能性があるとして、海美さんはどうする気なのですか?」
「にーちゃんがしてる事はわかんねぇけど、それを手伝いたいんだ。そしたらにーちゃんが大怪我する事もなくなるはず!」
その言葉に、翔太郎は過剰に反応した。翔太郎は真摯な表情で声を張った。
「手伝いたいって…!?韻が霊力ならざる力を操っていて、海美もその事情に深入りする気か!?危険すぎる!」
(もしも海美も妖の力を受けるような事があったら…!そんな事、絶対にさせない…!)
翔太郎の剣幕に、海美は一瞬怯みそうになる。しかし海美は眉を釣り上げて反論した。
「なんだその口ぶり、にーちゃんが変な力持ってる事を肯定したそうじゃねぇか。」
「僕はただ…二人が危険な目に遭って欲しくないから…!」
海美はその言葉が嫌いなのか、更に怒りを浮かべる。
「弱兄貴は口を開けば『危険』『危険』…否定ばっかだ!だからにーちゃんにも『臆病兄貴』って言われんだよ!」
その言葉にも反論しそうな勢いの翔太郎だったが、海美は胡座をかいていたのが立ち上がった。
「要が死んだ、百妖災の時…!にーちゃんだけが戦っていたのが海美悔しいんだよ!!海美があの時戦えてたら、要はいなくならなかったかもしんねぇのにっ!海美もにーちゃんも、悲しい思いしなくて済んだのにッ…!」
海美の目には、涙が浮かんでいる。それを見て翔太郎は思わず口を噤んでしまうと、海美は再び座り込んですすり泣いてしまう。するとレフが聞いた。
「あの翔太郎さん、要さん…とは?」
そう言われると、翔太郎はスマホで写真を見せた。韻とランドセルを背負った海美と一緒に写っている、元気そうな少年。翔太郎は悲しそうな表情を浮かべると、レフに事情を説明した。
「親戚でね。家族が亡くなられて独りになってしまったから、養子になって僕達の家族になった子なんだ。だけど…百妖災のせいで彼は…」
それを聞くと、レフはピンと来る。
「いつも翔太郎さんの家のご飯は、いつも席が二人分空いていますが…一つは海美さん、もう一つはその要さんの席という事ですね。」
「うん。要くんは海美とも仲が良かったし、特に韻とは家族で親友みたいな関係だった…。」
翔太郎はそこまで言うと、黙り込んで口を噤んだ。そしてすすり泣く海美を見上げると、やがて観念したように口を開く。
「…海美。韻は確かに、霊力ならざる力を持っている。」
その言葉に海美は顔を上げると、翔太郎は続けた。
「でもそれを使って韻が何をしようとしているのか、僕にはわからない。もしかしたら、目的なんてないかもしれない。海美が今言っている事は、単なる想像の一人歩きだろう。」
海美は黙って聞いていたが、やがて涙が止まったのか涙を服で拭いた。そしてベッドを降りて言う。
「だったら本人に直接聞きゃいい。」
そう言って部屋を出ようと扉の前へ歩くと、海美は捨てるように言った。
「例えにーちゃんに何も目的がなかったとしても…海美はにーちゃんの為に強くなる。もう、にーちゃんが傷つくのは見たくねぇ。」
海美は部屋を出て行くので、翔太郎は溜息を吐く。翔太郎は疲れてその場で寝転がると、レフに対して言った。
「止められなかった…。」
「海美さんは止められなさそうですね。」
レフがそう言うと、翔太郎は天井を見つめた。すると呟くように言う。
「百妖災の真っ最中…、韻が妖と戦っている事を知ったんです。」
その言葉にレフが反応すると、翔太郎は続ける。
「僕は韻が危険な目に遭うのが嫌で…止めたけど、韻は止めませんでした。そのあと、韻の選択を受け入れる事にした僕ですが…やっぱり心のどこかで受け付けないようです。」
そこまで言うと、翔太郎は腕で自分の目を伏せて声を震わせた。
「二人の人生ですから…僕が止める理由も、諭す理由もないはずなのに…。本当は二人のやりたい事を、応援してあげたいのに…僕はどうしてこう、すぐに否定してしまうんだろう…。」
レフはそれを静かに聞いていると、翔太郎は歯を食いしばった様子で黙り込む。翔太郎は翔太郎なりに、葛藤に苛まれているようだ。そして全身の力を抜いて、腕を退けて再び天井を見つめた。
「ごめんなさいレフさん、こんな話を聞かせてしまって。」
「いえ、翔太郎さんも苦労が絶えないようで…。」
レフが畏まってそう言うと、翔太郎は思わず「ふふっ」と笑ってしまう。それから笑みを浮かべたまま言った。
「海美に言われて気づいたんですが、僕って韻と妖の関係とか全然わかってませんよね。わかるのは、韻が妖の力を扱えるって事くらいです。」
「そうですね。正面から聞いてしまっても、妖が見える事を怪しまれますし。」
「だから難しいんです…。…まあ僕の目的からしたら韻の事を全て知る必要は無いし…。僕の願いが叶いさえすれば、韻は妖と縁が切れるわけで…」
そこまで言うと、翔太郎は思う事があるのか黙り込む。レフが翔太郎に視線を向けると、翔太郎は言った。
「やっぱり韻が、妖の力で何をしたいのかっていうのは知った方が良さそうですね。何か理由があるなら、僕が勝手に妖との縁を切るわけにもいきません。」
「私がポチさんに理由を聞く…と言いたいところですが、韻さんとポチさんは別行動しませんよね。」
小言のように言っていたその時、翔太郎はふと思う。
「そう言えば海美が持っていた石、あれは妖が持っている力の塊だったりするんですかね?」
「多分違う物だと思います。【妖力】には霊力を増幅させるなんて特性、ないはずですもの。」
レフの答えに、翔太郎は眉を思わず潜めた。
「霊力と妖力に次ぐ、三つ目の力があるとでも言いたげですね。」
「実際にありますよ?翔太郎さんの目的には一切関係ない力ですが…知りたいですか?」
レフが笑顔を見せるので、翔太郎は顔を引きつってから頭を抱え寝返りを打った。そして青ざめながらも言う。
「関係が無いのならいいです…知るとややこしくなるので…。」
翔太郎はこれ以上の面倒事が増えそうな予感がして、その話から逃げる事にした。とは言え、翔太郎は嫌な予感がする。いずれ知る日があるのではないかと…そういう不安だ。
「何の石かわかりますか?」
「ふむ…、似たような物なら見た事があります。これは力を凝縮した石ですね。お二人の言う通り、霊力を凝縮した物でない事は確かです。」
「じゃあつまり…!霊力以外にも力があって、その力をにーちゃんが使ってる可能性が…!」
海美が目を丸くしてそう言うと、レフは眉を困らせて言う。
「その可能性があるとして、海美さんはどうする気なのですか?」
「にーちゃんがしてる事はわかんねぇけど、それを手伝いたいんだ。そしたらにーちゃんが大怪我する事もなくなるはず!」
その言葉に、翔太郎は過剰に反応した。翔太郎は真摯な表情で声を張った。
「手伝いたいって…!?韻が霊力ならざる力を操っていて、海美もその事情に深入りする気か!?危険すぎる!」
(もしも海美も妖の力を受けるような事があったら…!そんな事、絶対にさせない…!)
翔太郎の剣幕に、海美は一瞬怯みそうになる。しかし海美は眉を釣り上げて反論した。
「なんだその口ぶり、にーちゃんが変な力持ってる事を肯定したそうじゃねぇか。」
「僕はただ…二人が危険な目に遭って欲しくないから…!」
海美はその言葉が嫌いなのか、更に怒りを浮かべる。
「弱兄貴は口を開けば『危険』『危険』…否定ばっかだ!だからにーちゃんにも『臆病兄貴』って言われんだよ!」
その言葉にも反論しそうな勢いの翔太郎だったが、海美は胡座をかいていたのが立ち上がった。
「要が死んだ、百妖災の時…!にーちゃんだけが戦っていたのが海美悔しいんだよ!!海美があの時戦えてたら、要はいなくならなかったかもしんねぇのにっ!海美もにーちゃんも、悲しい思いしなくて済んだのにッ…!」
海美の目には、涙が浮かんでいる。それを見て翔太郎は思わず口を噤んでしまうと、海美は再び座り込んですすり泣いてしまう。するとレフが聞いた。
「あの翔太郎さん、要さん…とは?」
そう言われると、翔太郎はスマホで写真を見せた。韻とランドセルを背負った海美と一緒に写っている、元気そうな少年。翔太郎は悲しそうな表情を浮かべると、レフに事情を説明した。
「親戚でね。家族が亡くなられて独りになってしまったから、養子になって僕達の家族になった子なんだ。だけど…百妖災のせいで彼は…」
それを聞くと、レフはピンと来る。
「いつも翔太郎さんの家のご飯は、いつも席が二人分空いていますが…一つは海美さん、もう一つはその要さんの席という事ですね。」
「うん。要くんは海美とも仲が良かったし、特に韻とは家族で親友みたいな関係だった…。」
翔太郎はそこまで言うと、黙り込んで口を噤んだ。そしてすすり泣く海美を見上げると、やがて観念したように口を開く。
「…海美。韻は確かに、霊力ならざる力を持っている。」
その言葉に海美は顔を上げると、翔太郎は続けた。
「でもそれを使って韻が何をしようとしているのか、僕にはわからない。もしかしたら、目的なんてないかもしれない。海美が今言っている事は、単なる想像の一人歩きだろう。」
海美は黙って聞いていたが、やがて涙が止まったのか涙を服で拭いた。そしてベッドを降りて言う。
「だったら本人に直接聞きゃいい。」
そう言って部屋を出ようと扉の前へ歩くと、海美は捨てるように言った。
「例えにーちゃんに何も目的がなかったとしても…海美はにーちゃんの為に強くなる。もう、にーちゃんが傷つくのは見たくねぇ。」
海美は部屋を出て行くので、翔太郎は溜息を吐く。翔太郎は疲れてその場で寝転がると、レフに対して言った。
「止められなかった…。」
「海美さんは止められなさそうですね。」
レフがそう言うと、翔太郎は天井を見つめた。すると呟くように言う。
「百妖災の真っ最中…、韻が妖と戦っている事を知ったんです。」
その言葉にレフが反応すると、翔太郎は続ける。
「僕は韻が危険な目に遭うのが嫌で…止めたけど、韻は止めませんでした。そのあと、韻の選択を受け入れる事にした僕ですが…やっぱり心のどこかで受け付けないようです。」
そこまで言うと、翔太郎は腕で自分の目を伏せて声を震わせた。
「二人の人生ですから…僕が止める理由も、諭す理由もないはずなのに…。本当は二人のやりたい事を、応援してあげたいのに…僕はどうしてこう、すぐに否定してしまうんだろう…。」
レフはそれを静かに聞いていると、翔太郎は歯を食いしばった様子で黙り込む。翔太郎は翔太郎なりに、葛藤に苛まれているようだ。そして全身の力を抜いて、腕を退けて再び天井を見つめた。
「ごめんなさいレフさん、こんな話を聞かせてしまって。」
「いえ、翔太郎さんも苦労が絶えないようで…。」
レフが畏まってそう言うと、翔太郎は思わず「ふふっ」と笑ってしまう。それから笑みを浮かべたまま言った。
「海美に言われて気づいたんですが、僕って韻と妖の関係とか全然わかってませんよね。わかるのは、韻が妖の力を扱えるって事くらいです。」
「そうですね。正面から聞いてしまっても、妖が見える事を怪しまれますし。」
「だから難しいんです…。…まあ僕の目的からしたら韻の事を全て知る必要は無いし…。僕の願いが叶いさえすれば、韻は妖と縁が切れるわけで…」
そこまで言うと、翔太郎は思う事があるのか黙り込む。レフが翔太郎に視線を向けると、翔太郎は言った。
「やっぱり韻が、妖の力で何をしたいのかっていうのは知った方が良さそうですね。何か理由があるなら、僕が勝手に妖との縁を切るわけにもいきません。」
「私がポチさんに理由を聞く…と言いたいところですが、韻さんとポチさんは別行動しませんよね。」
小言のように言っていたその時、翔太郎はふと思う。
「そう言えば海美が持っていた石、あれは妖が持っている力の塊だったりするんですかね?」
「多分違う物だと思います。【妖力】には霊力を増幅させるなんて特性、ないはずですもの。」
レフの答えに、翔太郎は眉を思わず潜めた。
「霊力と妖力に次ぐ、三つ目の力があるとでも言いたげですね。」
「実際にありますよ?翔太郎さんの目的には一切関係ない力ですが…知りたいですか?」
レフが笑顔を見せるので、翔太郎は顔を引きつってから頭を抱え寝返りを打った。そして青ざめながらも言う。
「関係が無いのならいいです…知るとややこしくなるので…。」
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