屍人の陰陽師

うてな

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サトリ編

029 あって良かった

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翔太郎はサトリの能力を導き出す為に、まずは質問をした。

「あの、ご家族について聞いていいですか?」

「あ?両親と、妹がいた。」

「ご家族の事はどう思っていますか?」

翔太郎がそう質問すると、サトリは憎しみのこもった凄い剣幕で言い放った。

「大嫌いだよッ!!あんな奴等…!」

その言葉に、翔太郎は目を剥いて驚いた。愕然とし、口を強く噤む。サトリはそのまま背を向けてしまった。
心臓が跳ね上がった時の様な表情を見せる、翔太郎の内はこうだった。

(また、僕の思考に矛盾が生じる…。彼女が家族への憎悪を膨らませると、僕も自然と家族を恨みたくなる。
後先考えない韻の相手をするのが面倒で、一方的に毛嫌いしてくる海美が嫌いで…)

翔太郎の脳裏に浮かぶ元気に友達と遊ぶ韻の姿は、常に日陰で静かに過ごしている自分とは対極だった。

(韻みたいに、強い自信が持てるようになりたい…。海美みたいに自分の気持ちを、ハッキリと我儘に言ってみたい…。)

しかしその感情に、翔太郎は苦悩を抱く。

(急になんで、こんな事を…?本当は、家族が大好きでたまらないはずなのに…複雑な感情が雪崩込んでくるように…!)

サトリの悔しくて泣きそうな様子が、翔太郎にも伝わってくる。すると翔太郎の肌を、一滴の雫が伝っていった。
翔太郎は涙を流しており、呆然とサトリを見つめた。

(これは思考の上書きじゃない…【感情の上書き】だ…)

そう思って翔太郎は涙を流すと、サトリも涙を流して泣いているのに気づく。

(相手の痛く胸が張り裂けそうな思いが…何も知らない僕の胸に伝わってくる…)

「あのっ…」

翔太郎がそう声をかけると、サトリは涙を拭ってから振り返ってきた。そして翔太郎も泣いている事に驚く。

「お前まで泣くか!?」

「泣いてしまいます…だって…」

そう言って翔太郎は顔を上げ、涙を堪えて言った。

「これがあなたの本当の能力なんですよね…?」

「は…?」

サトリが意味を理解できずにいると、翔太郎は涙を拭って言う。

「苦しくて…辛くて…霊能者である事が出来なかった、自分が情けなくて…!あなたは気丈に振舞っているようで、常に焦りを覚えていて…!」

その言葉にサトリは反応。翔太郎は俯きながらも言う。

「あなたの力…、きっと無い訳じゃないと思います。僕の涙はきっと、あなたの力で伝わったんだと思います。」

「それってどういう…?」

サトリは信じられない表情で呟くと、翔太郎は笑みを浮かべた。

「あなたには良くも悪くも、人の心を変えてしまう力があるって事です。」

その言葉にサトリは目を剥いた。そして呆然とすると、翔太郎は続けた。

「もしかしたらご家族は、あなたを心から愛していたかもしれません。
あなたがもし、ご家族を羨望で恨めしく思っていたのならば…。
もし、あなたの力で心が上書きされていなければ…。」

サトリはその言葉に心当たりを感じるのか、自分の胸に手を当てる。サトリは過去を思い出した。



――…本当に小さい頃、家族は自分を愛していた事。能力が使えなくても、優しく前向きな声をかけてくれた家族の事。
それでも家族の足を引っ張れなくて、ネガティブな感情を抱き続けた事。
…次第に、家族に負の感情をぶつけられた事…。――



「あれが全て…私の力で…?」

そう呟いたサトリの片目からは、涙がツーと流れた。徐々に流れる涙。
その瞬間、サトリの身体は薄光りを放った。それを見た翔太郎は、その光に既視感を感じる。

(この光は…僕が以前、消滅しかけた時と同じ…!じゃあサトリさんは…)

サトリは言った。

「…心を読んで、私の制約を知ったのか?」

「え?」

翔太郎は目を丸くすると、サトリは続ける。

「私の制約が、『自分の本当の力を見抜かれる事』だって…。わかっててそんな事、言ったのか…?」

予想外の出来事に翔太郎は喋る事を忘れそうになったが、すぐに我に戻った。

「…いいえ。ただ僕は、サトリさんの悩みを解決したいと思ったんです…。
いや、それがサトリさん本人の願いだったのかもしれません。」

翔太郎にそう言われると、サトリは鼻で笑った。そして弱った笑みを翔太郎に向けながら、サトリは言う。

「なんだよ…。ずっと知りたかった事を…こんなヤツに知られるとは、思わなかった…。
…バカだな、呆気ないな。」

そしてサトリは光に包まれる。サトリは吹っ切れた様に一つ溜息を吐くと言った。

「やる気をなくしたよ。もう黄泉様の命令とか…どうでもいいや。」

サトリの姿が光で見えなくなると、最期にサトリは言葉を残した。

「でも、無いと思っていたものが…本当はあって良かった。
しょうもない能力で、私は清々してるよ…」

サトリの姿が消えた瞬間、心象世界もプチっと消えた。
真っ暗な世界で、翔太郎は残される。
翔太郎はその瞬間、胸の内にチクリとした痛みを感じた。思わず手を当てると思う。

(なんだ…?サトリさんが消えた瞬間、心に穴が空いたような感覚…。わからない…なんだ、この感覚は…)





翔太郎は真っ暗な世界にいたのにも関わらず、目を覚ました。そこは自分の部屋で、翔太郎は突然の事で目を丸くした。

(いつも朝起きる時に見ている景色。ここは…部屋のベッド?)

すると視界に韻が映る。韻は翔太郎を心配した様子で覗きこんでいた。

「兄貴起きたか!っはー…良かった…。」

「韻…?」

(あれ?体の傷が治ってる…?)

翔太郎は気づくと、火傷を負ったはずの傷が癒えていた。翔太郎が起き上がると、韻は言う。

「退院の時に迎えに来るって約束だったのに全然来なくて…帰ってきたら気を失ってるって聞いてよ、心配したぜ。」

「え?琴爪さんは…?」

「琴爪?…あー、そう言えば誰かが兄貴を部屋まで運んでくれたって、かーちゃんから聞いたな。」

「そ、そう…」

(待て、なんで僕の家を琴爪さんが知っているんだ?)

翔太郎はそう思いながらも、一瞬焦りを覚えた表情で俯いた。それに韻は首を傾げると、翔太郎は韻を見る。いつもと変りない弟の顔、いつもと相違ない自分の心。

(…大丈夫、さっきみたいにサトリさんの影響を受けて家族を恨んだりはしてなさそう。)

翔太郎はそう安心して、笑みをこぼした。韻は気味が悪くて顔をしかめたが、翔太郎は思わず韻に抱きついた。
韻は驚くと、翔太郎は言う。

「退院おめでとう、韻。韻が元気で良かった。」

(本当は家族が大好きって事を再確認出来て、思わず抱きしめてしまったんだけど…誤魔化しておこう。)

「な、なんだよ兄貴…子供扱いやめろよな。」

韻はそう悪態をつこうとしたが、満更でもなくそれ以上言うのをやめた。
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