屍人の陰陽師

うてな

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ヨスガ編

030 自分の道を曲げてまで

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次の日の事、神木間家にて。
海美は韻を自室へ呼んでいた。海美の部屋は女性らしいとも言えない特徴のない部屋で、物がある程度整理整頓されていた。常用品は基本的には机の上に出しっ放しだが、汚いと言うほどではない。

「どうした海美、話って。」

「にーちゃんって百妖祭の時、私達には見えない化物と戦ってたんだよな。」

それに韻が反応すると、韻の肩の上にいるポチは言った。

〔韻が妖と戦っているのはどこ行っても噂されてるし、かつて戦っていた事は認めてあげれば。〕

そう言われると韻は了承したのか、頭を掻いてから言う。

「ああ、それがどうしたんだ。」

「今も戦ってんだろ!?だから先日あんな大怪我…!」

「だったらなんだよ。兄貴みたいに心配か?」

韻は心配されるのが嫌なのか、不機嫌な様子を見せた。しかし海美は首を横に振る。

「海美にも戦わせてくれ!」

「はぁ…?」

韻は目を丸くした。海美が真摯な瞳で韻を見るので、韻は弱る。

「無理だよ。つーか、見えないのに戦える訳ねぇじゃん。」

「じゃあにーちゃんはどうやって見えるようになったんだよ!てか、最近にーちゃんが怪我した時のは見えたし!」

「教えたところで海美に力を貸す化物はいねぇよ。人間に力を貸せるヤツなんて、超珍しいんだからな!」

「じゃあ探す!」

「いやだから見えねぇだろって!」

韻はそうツッコミを入れ、ポチは特別扱いされた為に胸を張っていた。海美はそれでも諦めたくない表情をしていたので、韻は思わず溜息。
それから韻は困ってから海美の頭に手を乗せる。海美は照れるのか頬をピンクにすると、韻は軽く笑みを浮かべて言った。

「いくらにーちゃんが怪我したって、こりゃにーちゃんが選んだ道なんだぜ?海美が自分の道を捻じ曲げてまで一緒に歩く道じゃねぇぞ。
…でもま、にーちゃんも怪我しねぇように気をつけるよ。それでいいだろ?」

韻に頭を撫でられ、海美は俯いたまま黙り込む。韻は首を傾げて海美の様子を見ていると、海美は顔を上げた。海美は韻の笑みを見ると不服そうに言う。

「…にーちゃんの為だけじゃねぇ…海美の為でもあるんだ。」

その言葉に韻は目を丸くすると、海美は虚しいような悲しいような顔を見せた。そして韻が撫でる手を、両手でゆっくりと引き剥がした。

「独りが…嫌だ。」

そう呟く海美の脳裏には、普段から神木間寺で過ごす韻達が浮かんだ。対し自分は学校の寮におり、殆どの時間を家族と過ごせない事。翔太郎や韻が謎の化物と戦っている事。
しかし自分は変化もなく、相変わらず弱いままと言った感じである。それを思うと、海美は目が潤んだ。
海美はそのまま部屋を立ち去ろうとすると、韻は言う。

「何かあったのか?俺で良ければ聞くけど。」

「ねぇよ、バーカ…
…友達と遊ぶ約束あるから。」

海美はそう言って廊下へ出て、そのまま玄関へ直行し出て行ってしまった。韻はそんな海美の後ろ姿を見ていたが、海美の真意がわからないのか難しい顔をしていた。





一方、翔太郎の方では。
翔太郎はケンと出かけていた。とは言っても、場所は先日の公園である。翔太郎はサトリを消滅させてしまった場所で、黙祷を捧げていた。
ケンは近くの木製の屋根のある休憩所で、ベンチに座って紙パック牛乳片手に翔太郎の様子を眺めていた。

(部長、成仏させた霊に黙祷を捧げるだなんて…なんとお優しい方なんだ…!)

続いて、ケンは悔しそうな表情を浮かべた。そんなケンの視線の先は、コーンで囲まれた星夜の開けた地面の凹み。

(にしても昨日の通り雨…!アレさえ無ければ部長と霊の戦いが見れたのに…!部長が空けた穴とあらば…俺はそこをパワースポットと説きたい…!!)

ケンは大きな勘違いをしているようで、その勘違いも当の翔太郎には伝わっていない。翔太郎は黙祷を終えると、もの寂しそうに公園の景色を眺めた。それを隣で浮遊するレフは言う。

「そんな事で気を落としていますと、この先が大変ですよ?」

「そうですけど…」

翔太郎はそう言って、黙り込んだ。レフはそれを見かねて言う。

「それにしても『感情の上書き』…ですか。翔太郎さんはサトリさんの霊力を得たので、その能力も使えるようになりましたよ。」

「発動すると面倒なので、その力は意識して押さえ込みますね…」

翔太郎は先が思いやられるのか、既に疲れた表情を見せていた。レフはそんな翔太郎を見て、クスクスと笑っている。そこへケンがやって来て、翔太郎に言った。

「部長、そんな暗い顔しないでください!気分転換に飯食いに行きましょう。」

翔太郎は腕時計を確認して、午後の四時である事を確認する。翔太郎は難しい顔をした。

「夕飯にはまだ早い気が…。」

「まあまあ、たまにはそういう日があってもいいじゃないですか。あ、俺は牛乳とパエリアが美味い店がいいです。」

「い、いいね。僕も好き。」

ケンの押しに負け、翔太郎はそれを承諾した。
するとそこへ、一台の大きなバイクが走ってくる。黒のメタリックな車体は、綺麗な光沢を帯び隅々まで手入れがされている事がわかる。そしてバイクの搭乗者も黒で包まれていた。
翔太郎達の前に止まるので、翔太郎達は目を丸くする。ケンが小声で「いいバイク…」と呟いていると、バイクの主はヘルメットを外した。
一瞬チラつく金色のピアス、ヘルメットの中から出てきたのは星夜だった。
普通は驚くべき場面が、バイクのカッコ良さから翔太郎とケンは惚れた様子で思う。

((カッコイイ…!))

その謎の視線に星夜は一瞬戸惑いの表情を見せたが、すぐにいつものムスっとした無愛想な表情に戻った。

「翔太郎、今日はサークルメンバーを巻き込んで幽霊退治か?」

「ち、違います。黙祷を捧げに来たんです!」

一瞬にして切り替えて言い返す翔太郎だが、星夜はバイクを降りて翔太郎の方へ来る。それを見ていたケンは、強い動揺を覚えていた。

(部長と噂の琴爪が仲良し…?いつの間に!?)

「火傷は治ったのか、人間の癖に早いな。」

星夜がそう呟くと、翔太郎は焦った様子で星夜の口を塞いだ。星夜は塞がれて驚いた様子を見せており、ケンはそれを怪しく思う。

(何か秘密のお話を…!?二人で…?)

翔太郎は冷や汗を浮かべながら、満面の笑みで一人芝居を始めた。

「こ、こんな所で会うなんて奇遇ですね琴爪さん…!え?『向こうで二人で話がしたい』って?
わかりました!じゃあケンくん、ちょっと待っててね。」

そう言って、翔太郎は星夜を連行する。ケンは一人残され、小さな声で返事をした。

「あ、はい…」

ケンはしゅんと、寂しそうな表情を浮かべていた。
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