屍人の陰陽師

うてな

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ヨミ編

065 レフの願い

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『はい。そして…その陰陽師の力を持つ霊能一族の中に、更に別の力を得た霊能一家もいます。
…いいえ、一つだけ…。』

(一つ…?)

『…その一つの一家だけは、私の力も貰っているのです。』

レフの言葉に、翔太郎はピンと来た。するとレフは笑みを浮かべる。

『そう…。その霊能一家こそ…ここ、神木間家なのです。
…翔太郎さんのお父様の旧姓で言いますと【伏宮(フシミヤ)】家ですが。』

その言葉は翔太郎も予測済みだったのか、一度頷いた。

(父さんの実家、伏宮神社。伏宮家の血筋は、大昔から強い霊能者が多かったと聞く…。)

ちなみに傍から見ている正晃は、ただレフが嬉しそうに翔太郎にくっついている様にしか見えない。正晃は無表情のまま、薄らと涙を浮かべた。

(翔太郎…!男になったな…!)

非常に謎ではあるが、正晃は満足した様子で立ち去る。翔太郎はそれに苦笑したが、レフは続けた。

『今言える全ては言いました。私からは、翔太郎さんにして欲しい事を改めて伝えます。』

その言葉に翔太郎は真摯な表情を浮かべる。するとレフは伝える。

『弟は光の陰陽師の霊力を全て集めて、地上の生物をどうにかしてしまうつもりです。その集めている霊力は、翔太郎さんのも込です。
だからお願いします…。翔太郎さん、貴方を狙う全ての霊能者の力を自分に集めて…私の元に居てください。弟からは私が守ります。』

(…霊能者を避けても、戦いを避けても、霊能者達は僕の力を求めてやって来る。それなら僕を襲う全ての霊能者の力を一点に集め、僕だけを守るようにしたらてっとり早い…と言う事ですか。)

『…はい。』

(…わかりました、承諾します。黄泉や霊能者が、人々を傷つける限り…僕はそうするしか他ありません。)

そこまで伝わると、レフは翔太郎から離れて言葉で話す。

「ありがとうございます…翔太郎さん。ちゃんとお願い事も…叶えますから。」

「願いも込みなんだ…」

翔太郎が思わず苦笑すると、レフは真剣な表情で頷いた。そして翔太郎は言葉に迷うと、韻の部屋の扉を見て言う。

「ちょっと韻の様子を見ようか。」

「はい。」





そしてここは、神木間家の襖のある和室。
そこには正晃が来ており、部屋の掛け軸を見つめていた。掛け軸の中心部は不思議な事に、薄い光を放っていた。まるで、掛け軸の裏側からライトを当てているよう。掛け軸は更にガタガタと動いており、部屋に物音が響き渡っている。正晃は深刻な表情を浮かべると呟いた。

「…韻を救う為に、『これ』を使うべきなのか…?しかし、『これ』に頼ってはいけない…『これ』を封じた意味がなくなる…!」

正晃は葛藤した様子になり、目を伏せて掛け軸から視線を逸らす。それから全身の力を抜いて、襖を見つめながら言った。

「…韻を信じよう。」

どうやら正晃は、何か秘密を抱えている様子だった。正晃は部屋を出たが、掛け軸はまだガタガタと震えていた。





場面は変わり、マイの家にて。
美輝はリビングのソファーにもたれかかれ、疲れきった様子を見せていた。マイは美輝とは別のソファーに座り、編み物をしている。美輝はふと呟いた。

「ごめんねぇ…マイ…。」

「何が?」

「韻くんの事だよ。僕の主治医に連れてかれて…今どこにいるかわからないんだ。」

マイはそれを聞いて驚き、思わず立ち上がった。

「なんですって…!?だってさっきは『帰った』って言ってたじゃない!警察には!?」

「秘密裏に動いて貰ってるよ。…全くハアトめ…裏切ったな…」

そう呟く美輝を見て、マイは不穏さを感じずにはいられない。

(神木間くんが…誘拐されたなんて信じられないわ…。でも本当に、お父さんが言っている事は真実なのかしら…?だってお父さんは…)

どうやらマイは、美輝を疑っている様子だった。





次の日の朝、神木間家にて。韻が部屋で未だ苦しそうに寝込んでいるのを見て、翔太郎は困った様子を見せていた。

「…レフさん、やっぱり韻って霊力のせいで苦しんでいるんですか?要くんのお兄さんが言った通り…。」

「そうですね。韻さんは妖力が主体の人間ですから、適性のない霊力に身体が追いついていないみたいです。」

「…要くんのお兄さんの話だと、韻の身体は崩壊するって話だったけど…。今の様子だと、崩壊する心配はないって事でしょうか?」

翔太郎の言葉に、レフは黙り込んでしまう。その言葉に翔太郎は嫌な予感がすると、ポチは言った。

〔この様子だと治りそうにない、いつ急変するかもわからない。僕の力でも治らなかったし…。〕

このまま韻を放っておけないと感じた翔太郎は、ある事を思いつく。

「だったら、あたるなら韻の同級生の尾崎さんだね。韻がこうなった経緯を知れば、治す方法が見つかるかも。」

ポチはそれに納得を示したが、同時に悩んだ表情で俯いた。

〔にしても…高校はどうしよう?韻は妖の事もあって、高校の最初は休み勝ちだったし…これ以上は休んでられないんだよね。〕

その言葉に翔太郎は青ざめた。するとレフはナメクジの方を見て言う。

「お兄様!」

「そうだ…!要くんのお兄さんなら…!」

翔太郎もナメクジを見たが、ナメクジは黙っていた。ポチは頭を痛めて言う。

〔要の兄さんは、そう易々と人の言う事を聞く人じゃない。〕

すると眠っていた韻は目を覚ましたのか、掠れた声を出した。

「ポ…チ…」

「韻…!」

〔韻、気づいた?〕

翔太郎とポチは一斉に韻に駆け寄ると、韻は目を閉じて言う。

「いや…呼んだ…だけ……」

「韻、朝ご飯は食べられそう?」

翔太郎がそう聞くと、韻は熱と戦っているのか反応を見せなかった。それに翔太郎は眉を困らせると、ポチは言う。

〔今日はゆっくり休みな。学校は要の兄さんが代わりに行ってくれるから。〕

しかしそれでも、韻の反応はない。するとナメクジは何かに反応して、急に姿を変えた。
変えた姿は韻で、翔太郎達は驚いた様子を見せる。要の兄は変身しても目の色は翡翠色の瞳だった。レフに関しては笑みを浮かべていた。

「やる気になったのですね…!」

しかし韻とは全く程遠い、クールな要の兄は言う。

「そうだな。腐っても韻は要の友人だ、死んでしまうなんて事があれば要が可哀想だ。私が韻のフリをして、クラスメイトに接触してみよう。」

あの悠々とした話し方も健在だ。替わってくれるのは頼もしいのだが、韻の姿で言われると翔太郎は違和感を拭えず苦笑。

「韻が言ってると…なんか違和感。」

〔要の兄さん、ありがとう。本当は優しいんだ。〕

ポチが言うと、要の兄はポチの華奢な胴体を鷲掴みにして肩へ乗せた。それに対し、ポチは不満そうに言う。

〔韻はこんな扱いしないけど。〕

「いいからお前は韻の人間関係を詳細に教えろ。潜入出来なくなる。」

そう言って韻のバッグを持って登校しようとするので、翔太郎は不安そうな表情に。

(本当に大丈夫かな…?)

「大丈夫ですよ、きっと!」

不安な翔太郎に対し、お気楽に答えるレフであった。
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