屍人の陰陽師

うてな

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ヨミ編

067 瞬間冷凍

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そして放課後。
要の兄はゲッソリした様子で頭を抱えていた。そして顔を上げると、帰り道を歩きながら言う。

「なぜクラスの席が後ろなんだ…?」

〔仕方ないじゃないか、韻は後ろの席で居眠りするのが好きなんだから。〕

「いくら変異で韻の姿になれたとしても、視力は低いままなんだぞ。お陰でノートは取れん、黒板の文字が全て汚れに見える、可視範囲が狭くてストレスが…!」

〔僕は君の神経質さにストレスを感じるよ。〕

ポチは呆れた様子で言った。要の兄は溜息を吐く。

「わかっていないな。私の視力はほぼ失明しているのと一緒なのだぞ。」

〔そんな自信満々に言われても…。よくそれで道を歩けるよね。〕

「ここらの地図は全て網羅している。後は耳を頼りにしているのだ、そんな事もわからないのか。
この韻大好き兎モドキ。」

〔君ってイチイチ気に障る言い回しするよね。〕

ポチは要の兄の悪態に感情を揺さぶられている様子もなく言った。
その時だ。丁度通りかかった道で、歪を発見してしまう二人。
人の形は二足歩行という点だけで殆ど原型がなく、全身が炎の歪だった。

その歪を出した犯人、もといハアトは近くに路上駐車する車にいた。ハアトは一枚の札を見つめながら呟く。

「全くユリアは…『歪を作って』と頼んだら札だけ寄越して…。協調性がないね。まあ仕方ないか、私は黄泉様を裏切ってヒビキくんを逃がしてしまったんだ。」

どうやらその札はユリアが普段、歪を作るのに使っている札の様だ。力を貸し出せるとは画期的である。
するとハアトは目を輝かせた。

「しかしこれで、ヒビキくんの霊力をこの目で確かめられる!!…ヒビキくん…!私は君に可能性を感じているんだ…!」

ハアトは要の兄を韻と勘違いしているらしい。
一方要の兄は、無表情で歪を見上げて言う。

「無視をして奴の家へ向かっては駄目か?」

〔駄目。どうにかしないと要に言いつけるよ。〕

ポチがそう言うと、要の兄は深い溜息をついた。その溜息には「面倒」という感情が強くこもっている。要の兄は歪の前へ向かっていた。
それを遠巻きに見ているハアトは期待の眼差し。
要の兄は歪に言う。

「すまない、私ではお前を解く事は出来ない。…だから、」

そう言った要の兄の周囲に、冷気の風が吹いた。肌に刺さるような凍てついた風に、ハアトは目が点に。やがてその風は、炎を纏っている歪の周りを舞う。冷気は熱風になる事なく、やがて白い霜を纏うようになる。
すると要の兄は指を弾こうと手の準備をした。そして笑みを浮かべて言う。

「冰(こお)れ、いつまでも。」

同時に指を強く弾くと冷気は霜を強く帯び、歪を白で覆い尽くすほどになる。白で覆い尽くされたと思うと、瞬く間に歪は足元から水晶のような氷で凍らされていった。それらは全て、一秒ほどで起こった。
完全に凍らされて動けなくなった歪に、ハアトは愕然。

「う…嘘…ヒビキくん…そんな力を…!?これじゃまるで…妖力じゃないか…!」

要の兄は歪に背を向けると、スマホで誰かにメッセージを送りながらも言う。

「翔太郎が来るまで、お前はいつまでもその姿だ。」

〔韻の姿で、派手にやるね。〕

「韻は人の世で、陰陽師として名を馳せている。氷を使ったって別に変ではないだろう。」

〔いや、雷は僕のアイデンティティーでもあるから、氷で存在が掠れるとなるとちょっと。〕

「人間に見えないくせに、存在なんて気にしているのか?可笑しな妖だな。」

〔君に正論を言われると腹が立つのはなんでだろう。〕

すると要の兄は途中で足を止めた、一台の車の前で。その車の中には、ハアトが乗っているのだ。ハアトは視線が向いている事に冷や汗を浮かべると、要の兄は見ただけで歪を作った札を見破って言う。

「お前だな、歪を出したのは。」

「なんだ?私も氷漬けにする気か?」

「お前から、韻と同じ霊力を感じる…。お前なんだろ、韻に霊力を与えたのは。」

その言葉にハアトは驚いて口を噤んだ。そして呟く。

「君はヒビキくんじゃない…?」

「そうだ。氷漬けにされたくなければ、私の質問に答えろ。韻の霊力はどうすれば抜く事が出来る。」

ハアトは要の兄の質問に、鼻で笑った。要の兄は眉を潜めると、ハアトは言う。

「さあね。私はヒビキくんで実験をしている…そういう事さ。」

ハアトが笑ってそう言うと、要の兄は不快なのか相手を睨んだ。ハアトの白衣を見ると、要の兄は言う。

「とんだマッドサイエンティストだな。」

「いやいや、私は医者だ。」

予想外の言葉に、要の兄は急に睨むのもやめてハアトに言った。

「なんだ医者か。実は微熱が続いていてな、診て欲しい。」

ハアトも要の兄の唐突さに警戒しつつも、溜息を吐いてその言葉に乗る。

「いいぞ、まずは体温から測ろうか。」

そう言って車の窓を開けると、検温機を要の兄の額に向ける。すると検温機がエラーを起こす為、ハアトは眉を潜めた。

「ん?おかしい…壊れたか?ちょっと額触らせて。」

そう言ってハアトが額を触ると、あまりの冷たさに手を離した。要の兄は非常に冷たく、触れるだけで手が凍傷してしまう。

「痛っ、なんだこの冷たさァ!」

「いつもはマイナス七十度くらいなのだが、最近はマイナス五十度続きでな…微熱だ。」

「いや!いくらなんでも冷たすぎる!!肩の妖はよく平気だな…!」

ハアトは声を荒げて凍傷で真っ赤になった手を気にしていたが、当のポチは首を傾げた。

〔え?別に冷たくないけど。〕

「額だけ冷たくした。」

真顔で言いながら要の兄はハアトの腕を掴む為、ハアトのツッコミは止まない。

「診察受ける気ないだろ!」

すると要の兄は掴んだ腕を自分に引き寄せ、手を口元まで持っていく。ハアトは何事かと思うと、要の兄はハアトの指先を舌で舐めた。それに対し、ハアトは顔を真っ赤にして大声を上げた。

「変態!!変態だ!!いやぁ!」

ハアトは初々しくも涙目になり、震えていた。それに要の兄は興冷めした様子に。

「おいヤブ医者、韻の霊力を抜く方法を教えろ。」

そう言われるとハアトは息を整え、涙を拭いてから言う。

「ヤブではない…!言っておくが、私にもわからないのだ!霊力は力を与える事が出来ても、力を取り出す事は出来ない。」

「ちっ…」

要の兄が睨みながら舌打ちをすると、ハアトは怯んだ。すると要の兄がハアトの腕を強く掴むので、ハアトは次は何をされるのかと驚いた様子を見せる。

その瞬間、ハアトの身体に異変が起きた。身体が少しずつ縮んでいくので、ハアトは慌てる。

「なっ、身体がっ…!」

「私はな、知ってる遺伝子の味なら相手を変異させる事も出来るんだ。だからお前は、蚕にでもなっとけ。」

するとハアトの身体が蚕の成虫になってしまい、ハアトは悲鳴を上げた。あげたかったが、蚕の姿では叫ぶ事もできない。要の兄は蚕をポチに渡すと言う。

「食うなよ。」

〔僕は虫を食べないよ。〕

「ならいいが。…さて、予定通り奴の家へ行くか。」

〔ちょっと…変異させた子も連れてくの?〕

「ああ。」

そう言い合いをしながらも、二人は目的地へと向かうのであった。
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