六音一揮

うてな

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1章 序奏前奏

第4音 付和雷同

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【付和雷同】ふわらいどう
しっかりとした考えがなく、他人にすぐ同調する事。

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ルネアはパートリーダーの六人に連れられ、道中を歩いていると木々の間から大きい建物が見えてくる。
リートは言った。

「ルネア、未来から来たって事はお家ないんだよね?」

「あっ!」

ルネアはそれに気づくと、テナーやノノはニコニコ。
そして、建物の前に着く。

二階は無さそうだが、横に広い建物。
建物の裏は木々に囲まれ、正面は広場や坂道はあるが全体的に見たら森に囲まれた建物だ。
その為他に建物が見当たらない。

するとテナーはスキップをし、ルネアの方を見た。

「ここが僕達の家、児童園だよ。」

とアールが通訳してくれる。
やはりルネアは、通訳の時だけ感情のある声になるアールに変な違和感を覚える。
しかし、すぐルネアの違和感は吹き飛ぶ。

「児童園!?皆さん孤児なんですか!?」

ルネアは大声で驚いたので、ラムは肩を驚かせた。

「なんだよっ、いきなり大声出すなよ!」

するとシナは落ち着いた様子で言う。

「そうよ、私達は孤児。親なんていないの。」

先程からスルーされ続けるラムの表情は少し不貞腐れている。
それを聴いたルネアは悲しそうな表情を見せた。
するとシナは言う。

「同情しなくていいわよ~私やラムやバリカンは零からここにいたし。
みんな楽しく暮らしてるもの。」

ちなみにバリカンとは、アールの事のようだ。

「そうじゃ、気にするな。ルネアも今は孤児みたいなもんじゃろ。」

ノノが笑うと、ルネアは釣られて笑顔になってしまう。

「そうですね。」

しかし空気が重くなっている。

さっき笑ったノノの表情もそこまで優れていず、テナーもなんだか悲しみの表情を浮かべていた。
そんな二人を見たシナも表情が優れなくなり、ラムとリートは悲しそうな表情を見せる。
アールは深く目を閉じた。

六人の様子にルネアまで表情が次第に優れなくなると、アールが突然傾いてラムに寄りかかる。
それに驚いたラムは背後を確認すると、それがアールと知り更に驚いた。

「おいアール!こんな所で居眠りすんなよ…っ」

なんとアールは寝ていたのである。

ラムは呆れたように言うと、アールは目が覚めた。

「ん…すまない…。おはよう…」

あくびをしながらアールは周りを見ると、六人の優れない表情と空の太陽を見上げた。

「丸一日寝たのか。」

アールの呟きに、シナは面白かったのか吹いてからクスクス笑ってしまう。
寝ぼけたアールを見ると、他のみんなにも自然と笑みが浮かんできた。
ラムはクスッと一瞬笑ったが、すぐに真面目な顔を見せて言う。

「お前、馬鹿かっ」

すると、アールは首を傾げて返事をした。

「ふむ。」

遂にはみんなが声をあげて笑うようになり、場の空気は一気に和む。
見ているルネアも温かく思うと、共に笑うのだった。
流石のラムも苦笑いだった。

「仕方ねぇ奴だなぁ」

その時、ルネアはここに来て初めて楽しさを感じたのだった。

笑うみんなを気にしないアール。
アールは、児童園の方を見た。

「来る。」

その言葉にルネアは目を丸くした。

アールの言葉に合わせ、児童園の扉が開いた。
扉からは数十人の男子が押し寄せ、ノノを囲む。
他の五人はお邪魔にならないように後すざりするので、ルネアも一歩遅れて真似た。

『ノノ様!お帰りなさいませ!!』

一斉に男子達が言った。

「おう!ただいま!」

ノノがそう言うと、男子達は盛り上がる。

「なにあれ。」

ルネアが聞くと、ラムが説明してくれる。

「アイツらはノノのファン。
バリトンとテノールの男達さ。」

「バスの人はいないんだ。」

「落ち着いてるのが多いんだ。」

ラムがそう言うと、ルネアは一つ引っかかった。

「ラムは落ち着いてないのに?」

するとラムはルネアを睨みつける。

「お前黙らねぇとどうなるか…」

しかし、ルネアはラムの乙女な部分も知っている為全く怖さを感じない。

ノノを囲う男子の中から、一人の男性が前に出てくる。

薄橙色の酷い寝癖のある男性、歯は鋭くギザギザしていた。
耳は尖っていよう様に見えるが、若干先が丸い。
ケープの色は水色を帯びた白なので、テノールパートの男だろう。
しかし、ノノを囲う男子達のケープには色のラインは皆入ってなかった。

彼は軽快にノノに話しかける。

「ノノ様!先程の発表はいかがでしたか?」

するとラムは、ルネアにわざわざ説明してくれる。

「お前が来る前、ノノとテナーで近くの広場で歌の発表があったんだ。」

「すご~い…!」

感心するルネア。
ノノはその男性に言った。

「まあまあじゃな、今日はあまり調子が出んかったのじゃ。」

すると彼は何かに気づいたのかハッとし、次に自分の服の乱れを直す。

「着衣に乱れが。」

さっきとは違って男らしい声を出し、キリっとした様子で姿勢を正した。

ルネアはその様子を面白く思い、思わず「ふっ」と笑ってしまう。
ラムはそんなルネアを見てから言った。

「アイツはこの児童園のエンターテイナーさ。
いつもみんなを楽しませてくれる、ノノファンの会長。」

その男性はそのままの状態で

「失礼。」

とノノに言ったので、ルネアは更に「ふふっ」と声が出てしまう。
自分だけ笑って恥ずかしくなってきたルネアは一度目を逸らすと、近くの木に隠れている男性を発見。

高身長だが、ラムよりは低いだろう。
坊主頭でなぜか上半身が裸で筋肉質、その上から短めのケープを着ていた。
ケープの色的には、バリトンパートの男性。

指を唇に当ててずっとルネアを見つめている。

「あ、あのー…」

ルネアは恐る恐る話しかけると、相手は気づいていないのか見つめるだけ。

「あのー!」

と次は大きな声で話しかけると、相手は驚く。

「あ…あらっ」

相手はそう言って口に手を添えた。
すると男性はゆっくり歩いてやってくる。
一歩一歩、踏みしめるような歩き方だ。
ラムはその男性に気づくと言う。

「ん?ダニエル、どうした?」

すると男性は、ラムに軽く手を振ってからルネアに言った。

「あら初めまして、私【ダニエル・ロンタ】。
あなたは何の用でここに来たの?」

それに対しラムは答える。

「ルネアって言うんだコイツ。
ちょっと身寄りがいないみたいでよ、できたらここに入園出来たらなって。
おうルネア、コイツはオカマなんだよ。」

「えぇ!?入園していいんですか!?」

ルネアが言うと、ラムは眉を潜めた。

「だって、そのままにしとくのも悪いだろうがよ…。」

ルネアは目に涙を溜めて感謝していると、ダニエルは言う。

「でも、この子は人間よ?いいのかしら。」

ルネアはその言葉に目を丸くすると、背後から背の低い少年が話しかけてきた。

「おかしいと思ったよね?そうだよ、僕達みんな普通の人間の姿だもんね!」

くせ毛のない、目を奪うほど美しいプラチナブロンド、透き通るような緑の瞳。
ケープの色からして、彼はアルトパートの孤児。

「綺麗…君は?」

ルネアが聞くと、少年はニッコリしてから言った。

「やあ!僕は【ツウタム・レジス】。
ツウって呼んで、よろしく。」

「よ、よろしくね。」

ルネアは急にあだ名を教えてきたツウに顔が強張ると、ツウは続けた。

「僕らは見た目は人間だけど、人間じゃないんだよ。
ねえ、ルネアは未来から来たんだよね?」

ルネアは驚くと、ツウは笑った。

「ビックリした?ごめん、さっき僕ら盗み聞きしちゃったから。」

(僕ら…?)

ルネアは更に目を丸くすると、ツウの後ろからさっきの会長さんの顔がひょこっと現れた。
会長は目つきと言い鋭い牙といい、若干怖い印象を与える。

「俺と、ツウと、ダニエルで見たんだよ~ん。
お取り込み中だったから帰っちった。」

ルネアは頷きつつもその男の容姿を見た。
周囲の孤児は比較的人間らしい体をしているが、彼は耳や歯が人間らしくない。
彼はその視線に気づくと、立ち上がってからツウの前に出てきてキメ顔をする。

「初めましてルネアくん!
俺はいつかテノールの頂点に立ちたい【ルカ・プレズ】!よろしく!」

それを聞いた途端、ルネアは驚く。

(プレズ…!?アルネの名前と一緒…
だけど偶然だよね…!アルネは他惑星の住人だもん…!)

「よ、よろしくです。」

ルネアはそのテンションについていけずに苦笑すると、ルカはダニエルとツウに視線を向けた。
二人はそれを確認した。
するとルカは決めポーズをし、二人はそれを囲った。
最初にバリトンのダニエルが声を出し、次にテノールのルカ、最後にアルトのツウが声を出す。
綺麗にハモったところで、三人は声出しをやめてルカは言う。

「俺達!」

次に三人揃って言った。

『クレッシェンド3!』

「略してC3!」

と最後に付け加えたのはツウ。
ルネアはポカンとして思う。

(???)

どうやら一ミリも理解できなかったようだ。
ルカはそんな反応を見てしょぼんとした顔。
ダニエルは気にしておらず、もっと気にしていないツウはさっきの話の続きをした。

「僕らは人間じゃない。
ここの児童園の孤児はみんな人間ではない生物なんだよ。
殆どが異種族と人間のハーフ、人型しか受け付けないのさ。」

ルネアはポカンとした。
異種族だなんて、未来のサグズィには滅多にいないからだ。

するとダニエルは言う。

「【まめきち】さんって園長がいるんだけどね、よく他の惑星に行ってたまに孤児を拾ってくるのよ。」

更にルカは言った。

「まめきちさんとは誰か。
普段何をしているのか、何者なのか、更には何を考えてるかもわからない不思~議な生物。」

「ほう…」

ルネアはそう呟くと、ある質問をした。

「異種族って魔法使えたりするんですか?」

それに対してルカは言う。

「使える人は使えるよん、限られてるけどねん。
持っているだけで発揮できない奴もいるからな~」

ルネアは更に首を傾げると、ラムは言った。

「ここの孤児の殆どは、魔法を持っていても自由に操れず力を引き出すのに苦労してる奴が多いんだ。
案外魔法って、使うのに苦労するらしくてよ。」

ルネアは頷きながら聞いていると、児童園の扉からもう一人出てくる。
それを見た孤児達は一斉に

「まめきちさん!」

と言うのだった。

ルネアはまめきちと言う人を見ると、天然のアールではないが首を傾げてしまった。

まめきちは、人の形はしているが
頭部が黒い大きな箱だったのだ。



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