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1章 序奏前奏
第8音 吃驚仰天
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【吃驚仰天】きっきょうぎょうてん
突然の出来事に、たいへん驚く事。
============
パートリーダーの六人は衝撃を受けた。
ルネアの歌は、想像以上に下手なのだ。
ノノはポカンとし、リートは失神してしまうほど。
テナーは手で耳を押さえ、アールは平然としていた。
「あー!」
とシナは止めようとするが止まらず、ラムは大きな声を出して止める。
「待ってルネア!死人が出る!」
ルネアは歌をやめると、六人の反応を見て落ち込んだ。
ラムは冷や汗を流しながらぜぇぜぇとしている。
「ごめんなさい…僕のせいでみんなが…」
「いや、リートは絶対音感持ちだから辛かっただけ…」
ラムはそう呟くと、ルネアは涙目。
「なんじゃ、さっきのは歌か?」
ノノは呆然としていて、ルネアは涙を流してしまった。
「ノノさん~酷いです~」
いつも笑顔のテナーさえも深刻な顔をしていた。
シナも機嫌を損ねたのか黙っていて、ルネアは完全に落ち込んでしまう。
「すいません…みなさんの邪魔をして…」
するとアールは言った。
「みんなが大袈裟なだけだ、…気にするな。
…でもこの音痴はなかなか治らない…かも。」
アールは持ってきていた本を読み始める。
シナはそんなアールが気に障ったのか、アールの本を取り上げた。
「アンタもよ!いつも読書や工作してるから、いつまで経っても歌が上達しないのよ。」
「アールさんも音痴なんですか?」
ルネアは目を光らせると、ラムは困った顔を見せる。
「上手いっちゃ上手いんだけど、練習を怠っているんだよ。
最近は同じパートのダニエルに先を越されそうになってて、もしかしたらアールはリーダーを降りるかもしれないんだ…。」
ラムの残念そうな表情に、ルネアは理解を示した。
(あ…アールさんが降りたらショックだもんね…)
ルネアはそう思っていると、アールはシナに言った。
「どうでもいい、私はしたい事をする…。」
やる気のないアールを見たシナは、プチンと切れてしまう。
そして、アールに本を投げつけてしまう。
「は!?ふざけないでよ!
私達がどんな思いで六人一緒に合唱やってると思ってんのよ!」
その投げた本はアールのこめかみに当たっており、ノノはシナに言った。
「シナ!何をしとるんじゃ!」
シナはふと正気に戻ると俯いてしまう。
ラムはアールに駆け寄ると言った。
「大丈夫か?」
「…生きている…から大丈夫…。」
「そういう問題じゃないだろ!」
アールの淡々とした反応にラムは言い返すが、アールは立ち上がる。
そしてアールはシナの前まで歩いてきた。
シナは俯いたまま言う。
「何よ…嫌いなら殴ればいいじゃない。
私の事、昔から憎かったでしょ?いっつもアンタの嫌がる事する私なんて…
今だって…!」
シナの言葉にテナーは驚き、ラムはなぜか震え上がった。
ルネアは何事かと思っているが、今は聞く空気ではない。
ずっと立っているだけのアールに、シナは言い放つ。
「いつまで立ってんのっ!言いたい事あるなら早く言いなさい!!」
アールは驚いて口を開けるが、すぐにまた閉じてしまった。
そこでラムは優しく言った。
「アール、無理すんなよ。」
それに対しアールは返答せず、シナに言う。
「姉さん…怒らないで…。姉さんは笑ってる方が……」
アールはそこまで言うと黙り込んでしまった。
シナは顔を上げると、今でも涙がこぼれるくらいに目が潤っていた。
それを見たアールはシナの耳元で何か囁く。
シナはアールの言葉を聞くと、溜めた涙を流し始めたのだった。
それだけではない、シナは悔しそうに拳を握っている。
アールはラムの方に来ると、
「練習…するか。」
と言った。
「お、おう!」
ラムは返答をすると、ノノは手を叩いて言う。
「はいはい!練習じゃ練習!」
すると各自、男声と女声で練習を開始した。
ちなみにリートは気絶していたので、ルネアは木陰に連れて行き様子を見る事に。
リートは暫くすると目が覚めた。
「リートさん…」
「ルネア。…あの後どうなったの…?」
ルネアはさっきまでの出来事を、リートに話した。
「そうなの…」
リートはそう呟くと、歌練習している五人を見つめて言う。
「シナが怒るのも仕方ないわ。
児童園ができて、私達が初めてのパートリーダーで合唱団なんだから。
いつもこのメンバーで頑張ってきたもの、一人が欠けるだなんて聞いたら私もちょっと嫌だな…。」
ルネアはその言葉を聞くと、未来のラムを思い出した。
リートの切なそうな表情が、未来のラムと重なった気がした。
(欠ける、辛さ…。)
そして、アルネが吸血鬼に襲われた事を思い出すのである。
すると、ノノの高く美しい歌声が聞こえる。
それに負けじと、シナも楽しそうな歌声を響かせていた。
「あの二人、仲悪いんですかね。」
ルネアは苦笑して言うと、リートは微笑む。
「仲が悪いというより、お互いに高め合ってる様に見えるわ。」
それからリートは更に話した。
「ノノとシナはお互いに高め合い、ノノとテナーはお互いの力量をシェアして、
テナーはラムとアールに沢山指導するのよ。
ラムとアールは切磋琢磨しながら上手くなっていくの。
もっと言えばアールはシナから歌を習う事もあるし、
…そう、お互い気づかされながら歌を練習しているの、いつも。」
ルネアはリートの観察眼に感心する。
「凄い…!リートさん、皆さんの事をちゃんと見ているんですね…!」
それを聴いたリートは照れてしまった。
「でも、ルネアもきっとわかるわ。本当に、彼等は仲が良いの。
ルネアもさっきアールにあんな事言われちゃったけど、気にせず沢山仲良くして。」
ルネアは深く頷くと、そこにラムがやってきた。
「おーい!これ、ルネアに!」
そしてラムはルネアに一本の木の棒をパスする。
「これは?」
木をキャッチしたルネアがそう言うと、ラムは笑った。
「お前は当分歌えないんだから指揮でもやってみろよ!」
少々小馬鹿にしている為か、ルネアは頭に来る。
それからその場で歩きながら指揮の練習を始めた。
「おい肘!」
ラムに指摘されると、ルネアはムッとする。
そして、シナはリートに気づくと駆け寄ってきた。
「調子はどうリート?」
「ええ、良くなってきたわ。」
リートはシナに微笑んで答え、シナは安堵の溜息をつく。
テナーとアールは二人で歌を合わせていると、バスパートの声が聞こえずにラムのいる隣を見た。
しかし、いるべき場所にラムはいない。ラムの姿が見えず、二人はポカンとしていた。
それを見てルネアは苦笑い。
そしてノノが一人で歌っていると、ルネアはノノの背後にルカが来ている事に気づく。
「あ、ルカくんだ。」
ノノはルカに気づいておらず、ルネアはルカを呼ぼうと思った。
しかしルネアは気づいてしまう。
ルカの左手にナイフがある事に。
ルカはいつもの笑顔がなく、恐ろしい形相を浮かべていた。
ルネアは何がなんだかわからなくなる。
昨夜まで仲良くお喋りし、ノノの自慢話をしていたルカがノノにナイフを向けていた。
その目は本気だ。
しかし、ルネアの体は動かなかった。
あの時と同じだ。
アルネが襲われた時と全く同じ。
ルネアはそんな自分に、苛立ちさえ感じ始めていた。
(動け…!なんで…僕の足はいつも動かないんだ…!
またアルネの様に…!誰かを見殺しにするのかよ…!)
すると、アールの言葉を思い出した。
――「信用を得るにはそれ層の事をしなければならない。
…お前は変えるべき過去に遡ってきたのだろう?ならわかるはずだ。
悲劇は近い。…私はそう考える。」――
(これが…悲劇なのかな…、これを阻止できなかったら…!)
ルネアの脳裏に、未来のラムの悲しそうな表情が浮かぶ。
(僕は…何もできないの…?)
ルネアは再び悔しい感情に支配されてしまう。
その時だ。
「ノノッ!!」
突如、ルネアの耳に入った声。
その声にルネアは不思議と鼓舞され、自分の持った木の棒を握り締めて走った。
近くにいたパートリーダーの視線は、一度はアールに向いた。
それを見ていたルネアは、今の声の主はアールなんだと気づく。
緩んだ気を奮い立たすような声。
普段のアールからじゃ想像もできないくらい力強い声だった。
そしてみんなの視線が一気にルネアに向くと、ナイフを持っていたルカがナイフを振り上げる。
「ノノさんしゃがんでぇえっ!!」
ルネアが木を構えてそう叫ぶと、ノノは咄嗟にしゃがんだ。
ルネアは意外と足が速く、ルカのナイフを木の棒で受け止める事に成功する。
ルネアはナイフを受け止めた瞬間、目の前がブレた。
そして、謎の記憶が流れた。
――目の前に恐怖で叫びそうなラム、表情に乏しいアールが驚いた顔をして絶句していた。
リートはシナに隠れ、シナはリートを庇う。
テナーは絶望に包まれた表情をしていた。
ふと、目の前の地面に倒れる赤髪が見える。
すると視線は自分の手にいき、両手は血で濡れていた。
「ああ…ノノ様ぁ…俺…お…れ…」
と聞こえたのはルカの声だった。――
不思議なビジョンを見たルネア。
目の前には恨みのこもった表情のルカ。
気のせいか、牙や耳がいつもより鋭い気がした。
ルネアは肘で急所を狙って気絶させようと試みるが、手違いで失敗。
「ありゃ」
目が点になるルネア。
今度はルネアにナイフを振りかざすルカ。
終わりだ。
その時、突然鈍い音が聞こえてルカが倒れる。
倒れるルカを見ていたルネアは、ゆっくりと顔を上げると目の前にはダニエルがいた。
「あ~らいないと思ったら大変な事に。大丈ー夫?」
(痛そう…)
ルネアはそう思いつつも、ダニエルにお礼を言う。
「大丈夫です、ありがとう。」
ダニエルはお礼を言われると、照れまくり腰を左右に揺らしていた。
更にツウが駆けつけ、ルカに駆け寄る。
「ルカ兄!起きて!
…ダニエル…ちょっとさ、やりすぎ。」
「仕方ないじゃない~」
パートリーダー達が集まると、ルカの様子を観察。
シナは言った。
「耳が尖ってる、きっと魔法にかかったのね。
ルカは魔法にかかると、耳や歯が鋭くなる体質なのよ。」
「ほう、私はもうすぐで殺されていたんじゃな。」
ノノはあまり気にしていない様子。
その様子に一同は溜息をついた。
「魔法でルカを操ったってなら、犯人はノノを恨んでいるのか?」
と言ったのはラム。
みんなは考えている中、アールはいつもより険しい顔を見せていた。
テナーは手を叩きアールの気を引く、するとアールはテナーの通訳をする。
「ルネア、ありがとう。君のお陰でノノが助かったよ。」
ルネアはそれに照れながらも言った。
「いえ、でもあの時アールさんが声を出してなかったら何もできなかったです、僕。
足がすくんで動けなかったので…。」
しかしアールは何も反応を見せず、黙ってルネアを見つめるだけだった。
妙な視線にルネアは冷や汗。
ノノもルネアの前に来ると言った。
「うむ、ありがとな!命の恩人よ!」
そしてパートリーダーやツウ達に囲まれるルネア。
ルネアは胸の中が暖かくなり、孤児のみんなに一つ認められた事を感じたのだった。
突然の出来事に、たいへん驚く事。
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パートリーダーの六人は衝撃を受けた。
ルネアの歌は、想像以上に下手なのだ。
ノノはポカンとし、リートは失神してしまうほど。
テナーは手で耳を押さえ、アールは平然としていた。
「あー!」
とシナは止めようとするが止まらず、ラムは大きな声を出して止める。
「待ってルネア!死人が出る!」
ルネアは歌をやめると、六人の反応を見て落ち込んだ。
ラムは冷や汗を流しながらぜぇぜぇとしている。
「ごめんなさい…僕のせいでみんなが…」
「いや、リートは絶対音感持ちだから辛かっただけ…」
ラムはそう呟くと、ルネアは涙目。
「なんじゃ、さっきのは歌か?」
ノノは呆然としていて、ルネアは涙を流してしまった。
「ノノさん~酷いです~」
いつも笑顔のテナーさえも深刻な顔をしていた。
シナも機嫌を損ねたのか黙っていて、ルネアは完全に落ち込んでしまう。
「すいません…みなさんの邪魔をして…」
するとアールは言った。
「みんなが大袈裟なだけだ、…気にするな。
…でもこの音痴はなかなか治らない…かも。」
アールは持ってきていた本を読み始める。
シナはそんなアールが気に障ったのか、アールの本を取り上げた。
「アンタもよ!いつも読書や工作してるから、いつまで経っても歌が上達しないのよ。」
「アールさんも音痴なんですか?」
ルネアは目を光らせると、ラムは困った顔を見せる。
「上手いっちゃ上手いんだけど、練習を怠っているんだよ。
最近は同じパートのダニエルに先を越されそうになってて、もしかしたらアールはリーダーを降りるかもしれないんだ…。」
ラムの残念そうな表情に、ルネアは理解を示した。
(あ…アールさんが降りたらショックだもんね…)
ルネアはそう思っていると、アールはシナに言った。
「どうでもいい、私はしたい事をする…。」
やる気のないアールを見たシナは、プチンと切れてしまう。
そして、アールに本を投げつけてしまう。
「は!?ふざけないでよ!
私達がどんな思いで六人一緒に合唱やってると思ってんのよ!」
その投げた本はアールのこめかみに当たっており、ノノはシナに言った。
「シナ!何をしとるんじゃ!」
シナはふと正気に戻ると俯いてしまう。
ラムはアールに駆け寄ると言った。
「大丈夫か?」
「…生きている…から大丈夫…。」
「そういう問題じゃないだろ!」
アールの淡々とした反応にラムは言い返すが、アールは立ち上がる。
そしてアールはシナの前まで歩いてきた。
シナは俯いたまま言う。
「何よ…嫌いなら殴ればいいじゃない。
私の事、昔から憎かったでしょ?いっつもアンタの嫌がる事する私なんて…
今だって…!」
シナの言葉にテナーは驚き、ラムはなぜか震え上がった。
ルネアは何事かと思っているが、今は聞く空気ではない。
ずっと立っているだけのアールに、シナは言い放つ。
「いつまで立ってんのっ!言いたい事あるなら早く言いなさい!!」
アールは驚いて口を開けるが、すぐにまた閉じてしまった。
そこでラムは優しく言った。
「アール、無理すんなよ。」
それに対しアールは返答せず、シナに言う。
「姉さん…怒らないで…。姉さんは笑ってる方が……」
アールはそこまで言うと黙り込んでしまった。
シナは顔を上げると、今でも涙がこぼれるくらいに目が潤っていた。
それを見たアールはシナの耳元で何か囁く。
シナはアールの言葉を聞くと、溜めた涙を流し始めたのだった。
それだけではない、シナは悔しそうに拳を握っている。
アールはラムの方に来ると、
「練習…するか。」
と言った。
「お、おう!」
ラムは返答をすると、ノノは手を叩いて言う。
「はいはい!練習じゃ練習!」
すると各自、男声と女声で練習を開始した。
ちなみにリートは気絶していたので、ルネアは木陰に連れて行き様子を見る事に。
リートは暫くすると目が覚めた。
「リートさん…」
「ルネア。…あの後どうなったの…?」
ルネアはさっきまでの出来事を、リートに話した。
「そうなの…」
リートはそう呟くと、歌練習している五人を見つめて言う。
「シナが怒るのも仕方ないわ。
児童園ができて、私達が初めてのパートリーダーで合唱団なんだから。
いつもこのメンバーで頑張ってきたもの、一人が欠けるだなんて聞いたら私もちょっと嫌だな…。」
ルネアはその言葉を聞くと、未来のラムを思い出した。
リートの切なそうな表情が、未来のラムと重なった気がした。
(欠ける、辛さ…。)
そして、アルネが吸血鬼に襲われた事を思い出すのである。
すると、ノノの高く美しい歌声が聞こえる。
それに負けじと、シナも楽しそうな歌声を響かせていた。
「あの二人、仲悪いんですかね。」
ルネアは苦笑して言うと、リートは微笑む。
「仲が悪いというより、お互いに高め合ってる様に見えるわ。」
それからリートは更に話した。
「ノノとシナはお互いに高め合い、ノノとテナーはお互いの力量をシェアして、
テナーはラムとアールに沢山指導するのよ。
ラムとアールは切磋琢磨しながら上手くなっていくの。
もっと言えばアールはシナから歌を習う事もあるし、
…そう、お互い気づかされながら歌を練習しているの、いつも。」
ルネアはリートの観察眼に感心する。
「凄い…!リートさん、皆さんの事をちゃんと見ているんですね…!」
それを聴いたリートは照れてしまった。
「でも、ルネアもきっとわかるわ。本当に、彼等は仲が良いの。
ルネアもさっきアールにあんな事言われちゃったけど、気にせず沢山仲良くして。」
ルネアは深く頷くと、そこにラムがやってきた。
「おーい!これ、ルネアに!」
そしてラムはルネアに一本の木の棒をパスする。
「これは?」
木をキャッチしたルネアがそう言うと、ラムは笑った。
「お前は当分歌えないんだから指揮でもやってみろよ!」
少々小馬鹿にしている為か、ルネアは頭に来る。
それからその場で歩きながら指揮の練習を始めた。
「おい肘!」
ラムに指摘されると、ルネアはムッとする。
そして、シナはリートに気づくと駆け寄ってきた。
「調子はどうリート?」
「ええ、良くなってきたわ。」
リートはシナに微笑んで答え、シナは安堵の溜息をつく。
テナーとアールは二人で歌を合わせていると、バスパートの声が聞こえずにラムのいる隣を見た。
しかし、いるべき場所にラムはいない。ラムの姿が見えず、二人はポカンとしていた。
それを見てルネアは苦笑い。
そしてノノが一人で歌っていると、ルネアはノノの背後にルカが来ている事に気づく。
「あ、ルカくんだ。」
ノノはルカに気づいておらず、ルネアはルカを呼ぼうと思った。
しかしルネアは気づいてしまう。
ルカの左手にナイフがある事に。
ルカはいつもの笑顔がなく、恐ろしい形相を浮かべていた。
ルネアは何がなんだかわからなくなる。
昨夜まで仲良くお喋りし、ノノの自慢話をしていたルカがノノにナイフを向けていた。
その目は本気だ。
しかし、ルネアの体は動かなかった。
あの時と同じだ。
アルネが襲われた時と全く同じ。
ルネアはそんな自分に、苛立ちさえ感じ始めていた。
(動け…!なんで…僕の足はいつも動かないんだ…!
またアルネの様に…!誰かを見殺しにするのかよ…!)
すると、アールの言葉を思い出した。
――「信用を得るにはそれ層の事をしなければならない。
…お前は変えるべき過去に遡ってきたのだろう?ならわかるはずだ。
悲劇は近い。…私はそう考える。」――
(これが…悲劇なのかな…、これを阻止できなかったら…!)
ルネアの脳裏に、未来のラムの悲しそうな表情が浮かぶ。
(僕は…何もできないの…?)
ルネアは再び悔しい感情に支配されてしまう。
その時だ。
「ノノッ!!」
突如、ルネアの耳に入った声。
その声にルネアは不思議と鼓舞され、自分の持った木の棒を握り締めて走った。
近くにいたパートリーダーの視線は、一度はアールに向いた。
それを見ていたルネアは、今の声の主はアールなんだと気づく。
緩んだ気を奮い立たすような声。
普段のアールからじゃ想像もできないくらい力強い声だった。
そしてみんなの視線が一気にルネアに向くと、ナイフを持っていたルカがナイフを振り上げる。
「ノノさんしゃがんでぇえっ!!」
ルネアが木を構えてそう叫ぶと、ノノは咄嗟にしゃがんだ。
ルネアは意外と足が速く、ルカのナイフを木の棒で受け止める事に成功する。
ルネアはナイフを受け止めた瞬間、目の前がブレた。
そして、謎の記憶が流れた。
――目の前に恐怖で叫びそうなラム、表情に乏しいアールが驚いた顔をして絶句していた。
リートはシナに隠れ、シナはリートを庇う。
テナーは絶望に包まれた表情をしていた。
ふと、目の前の地面に倒れる赤髪が見える。
すると視線は自分の手にいき、両手は血で濡れていた。
「ああ…ノノ様ぁ…俺…お…れ…」
と聞こえたのはルカの声だった。――
不思議なビジョンを見たルネア。
目の前には恨みのこもった表情のルカ。
気のせいか、牙や耳がいつもより鋭い気がした。
ルネアは肘で急所を狙って気絶させようと試みるが、手違いで失敗。
「ありゃ」
目が点になるルネア。
今度はルネアにナイフを振りかざすルカ。
終わりだ。
その時、突然鈍い音が聞こえてルカが倒れる。
倒れるルカを見ていたルネアは、ゆっくりと顔を上げると目の前にはダニエルがいた。
「あ~らいないと思ったら大変な事に。大丈ー夫?」
(痛そう…)
ルネアはそう思いつつも、ダニエルにお礼を言う。
「大丈夫です、ありがとう。」
ダニエルはお礼を言われると、照れまくり腰を左右に揺らしていた。
更にツウが駆けつけ、ルカに駆け寄る。
「ルカ兄!起きて!
…ダニエル…ちょっとさ、やりすぎ。」
「仕方ないじゃない~」
パートリーダー達が集まると、ルカの様子を観察。
シナは言った。
「耳が尖ってる、きっと魔法にかかったのね。
ルカは魔法にかかると、耳や歯が鋭くなる体質なのよ。」
「ほう、私はもうすぐで殺されていたんじゃな。」
ノノはあまり気にしていない様子。
その様子に一同は溜息をついた。
「魔法でルカを操ったってなら、犯人はノノを恨んでいるのか?」
と言ったのはラム。
みんなは考えている中、アールはいつもより険しい顔を見せていた。
テナーは手を叩きアールの気を引く、するとアールはテナーの通訳をする。
「ルネア、ありがとう。君のお陰でノノが助かったよ。」
ルネアはそれに照れながらも言った。
「いえ、でもあの時アールさんが声を出してなかったら何もできなかったです、僕。
足がすくんで動けなかったので…。」
しかしアールは何も反応を見せず、黙ってルネアを見つめるだけだった。
妙な視線にルネアは冷や汗。
ノノもルネアの前に来ると言った。
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