六音一揮

うてな

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3章 即興間奏

第42音 鼓舞激励

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【鼓舞激励】こぶげきれい
大いに励まし奮い立たせる事。
励まし元気づける事。

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次の日。
今日も元気に笛の練習をする、ルネアとラム。
ちなみに本日はよくラムの行く湖で、ラムは気分転換で女に戻りつつも練習中だ。
ルネアは笛に失敗しつつも挑戦し、の繰り返しである。

「なかなかできないなぁ~」

ルネアは参ったように言う。
しかし、ラムは張り切って言った。

「ルネア!まだまだ時間はあるんだ!頑張ろうぜ!」

それを聞いたルネアは、やる気を出さざるおえない。

「よっし!頑張ります!!」

そんな二人を、影からこそこそ見ていたシナ。
二人のやる気と楽しげな様子に、自分もなんだか気分が上がってしまった。
ふと、二人の前に歌いながら歩いて出てきた。
二人は気づいてシナの歌に耳を傾ける。

楽しげに、トントンのっていけそうな歌声。
音が一つ一つ踊っており、一人で歌っているのに賑やかに感じる。
不思議とその歌声は周りを彩るようで、どんなに殺風景な場所でもそれを忘れさせてくれる。
幸せと彩を放っているような歌声。
ルネアとラムはリズムにノって体を揺らす。

シナが歌を歌い終わったタイミングで、テンポよくラムは笛を吹きだした。
綺麗な低い笛の音が湖の森に鳴り響く。
ルネアはそれに感心し、見つめている。

更にラムの暗緑色の髪が見事に陽に照られ、実に美しく見えた。
それはシナも同じの様で、思わず呟く。

「ラムって綺麗よね。」

「そうですね…」

と、ルネアは見惚れていた。

「まるで森の女神様みたいね。」

シナは穏やかに言うと、ルネアは息を飲んだ。

「確かに…」

ラムが吹き終わると同時に、ルネアは焦って笛を構えて吹きだした。
ぎこちない吹き方。
まだリズムに追いつけないのか、時々遅すぎたりする。
音が途切れたり外したり、二人は微笑ましく笑っていた。

ルネアはついには諦めたのか吹くのをやめた。

「駄目です。もっと練習する…」

その言葉にシナとラムは笑った。

「そうね、もうちょっと頑張りなさい」

「まだまだ時間があるからゆっくりな」

二人の声掛けに感謝して涙するルネア。
そこでラムは森の木々の間から、まめきちが見える事に気づく。

「まめきちさん!」

そう言ってラムは走って駆けていく。
ルネアも目を光らせ、共に走っていった。

「本当!」

しかし、シナはその場で座り込んでしまう。
まめきちさんとは関わりたくないようだ。

「まーめきーちさん!」

とルネアは話しかける。
まめきちは振り向いてきた。

「おお、ルネア君」

「まめきちさん、おはようございます」

ラムが言うと、まめきちは言った。

「随分美人になったね」

「そんな事ないです!」

ラムは恥ずかしくて顔を赤らめていた。
それを聞くと、まめきちは眉を困らせて言う。

「ごめんね、本当は女の子として生きたかっただろうけど
私がこんな無理を言ってしまったせいで…」

「そんな事ないです!むしろそのおかげで、アールと仲良くできた気もしますし!」

「そうかね。アールは未来の夫かい?」

まめきちが聞くと、ラムは顔を真っ赤にした。

「なっ…違います!ちがうっ」

「じゃあルネア君と付き合うのかな?」

まめきちは、冗談半分に聞いてきた。
すると、今度はルネアが顔を赤くした。

「そんな!無理ですよこんな美人さん!」

「美人じゃない!」

とラムが反論すると、ルネアはニヤッとしながら言う。

「美人」

その微笑ましい光景に、まめきちは笑った。

「二人の方がお似合いな気がするよ」

『え?』

二人はそう言ってまめきちの方を見る。
まめきちは驚いた顔になって言った。

「いやいや、私の偏見だよ」

二人は溜息をつくと、ルネアはシナがいない事に気づく。

「あれ?シナさんは?」

「おい!馬鹿!…シナはな…」

その時にルネアも気づいた。
シナはまめきちに避けられているらしく、近づきたくないと本人は言っている。
それをすっかり忘れていたルネア。
二人の様子を見たまめきちはこう言った。

「あの子は私の事が嫌いなのかな?」

ラムは黙っている。
ルネアはまめきちを見つめた。
まめきちは、シナへ視線を向ける。
なんだか悲しそうな苦しそうな。

「まめきちさんはどう思っているの?」

とルネアは聞いてみた。
ラムが顔を上げて驚く。

「へ!?」

そう言われ、まめきちは少し間を空けてから言った。

「嫌い…ではないよ。私の児童園の子供だからね。
児童園の子はみんな好きだよ。」

「そうなんですか」

ラムが言うと、ルネアは眉を潜めた。

「じゃあなぜシナさんを避けるんですか!?
なぜアールさんに恨まれてしまっているんですか!?」

ルネアは、そうまめきちに問いただしてみた。
まめきちは驚いた様子。
ラムも驚いた。アールに恨まれているのは初耳だった。
確かに避けているような感じはしていたが。
すると、まめきちはふふっと笑う。

「すまないね。シナには今度謝るつもりさ。
それにアールは…仕方ないのさ…。」

とそのままどこかに行こうとしたが、ルネアは引き止めた。

「今度っていつですか!
それにアールさんについてはまた仕方ないって!」

「…知らなくてもいい事だよ。」

まめきちはそう言って、去っていってしまった。
ルネアは胸糞悪さを感じつつ、そのままシナのところへ行く。
シナは湖を見つめながらボーッとしていた。

「シナさん…」

ルネアは話しかける。
シナはルネアに振り向いて、いつも通りに聞いてきた。

「どうしたの?」

ラムも悲しそうな表情になり、シナを見つめる。
シナはそんな二人を見て言う。

「何よその顔!意味わからない。…」

とだんまりしてしまったが、ルネアは言った。

「まめきちさんが…シナさんには今度謝るって…」

シナはそれに少し驚いたような顔をして、少し黙ってからルネアに言った。

「…別にいいのに。
謝ったって謝らなくたって、別に距離は変わらないし。」

「それってどういう事だ?」

ラムは聞いた。
するとシナは、両手で顔を少し隠して言った。

「私の事…ちゃんとここの子供だって見てくれている。
でもなぜか私の事を避けて、顔も逸らしてきて。
それでも記念の日は、お祝いの手紙とかいつもくれるの…。」

ルネアとラムは顔を見合わせる。
シナは鼻で笑った。

「わからないわよね。私もわからないわ。
ただ、まめきちさんにも色々あったんだなって。
私、児童園の最初の子供だし…きっと何かあったんだわ……。」

シナは虚しいが、笑おうと頑張っている。

「何が…あったんだろう…」

ルネアは呟いた。
その暗い空気に、シナは立ち上がった。

「もう!そんなのいつかつきとめてやるわよ!
バリカンの分まで知ってやって、全部全員仲良くなってほしいの!」

空元気は少し感じるが、大きな決意が見える気がした。

「そ…そうだな!」

ラムは言う。
ルネアも頷いたが、少し不安に思っていた。

~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*

暗い園長室でまめきちは一人椅子に座っていると、部屋に誰かが移動魔法で現れた。
その者は、窓のカーテンをバッと開ける。
橙色のショートヘア。
そう、占い師と一緒にいた男性であった。

「本当に知らせなくていいのかな?」

と、その男性はまめきちに言う。
まめきちは男性に顔を上げて言った。

「知らなくていいさ。私には大事なここがある。
今頃言ったって無駄なんだ、お前だってわかっているくせに…。」

男性はクスッと笑う。

「はいはい。私にかなえば何でもお見通し!
何でもかんでもちょちょいのちょいだからね!
…別に君のやっている事は間違っていないさ、君の思う通りに進みなさい。」

それにまめきちは笑う。

「そう言う【大魔導師】はどうなんだ?
自分の未来とか、簡単に見えては仕方なくないか?」

男性はどうやら、大魔導師と呼ばれているらしい。
それを聞いた大魔導師は虚しい表情をした。

「私は見ようと思わなければ見えないよ。
でも、スロクルは自然と見えてしまうんだ。
スロクルの方が余程仕方ないさ。
スロクルも私も、こんな力要らないんだけどね。
…ツィオーネが羨ましいさ…。」

「そうだったか。
…そのツィオーネと言う女、彼女はただ弱かっただけだろう。
サグズィを守っていく、見守る使命を君たちに押し付けて消えた。
…お前もツィオーネのようにはなりたくはないだろう?
なろうとしても、させないさ。その時は私が引き戻しに向かおう。」

その言葉に目を見開く大魔導師。
そして魔法で部屋の明かりをつけた。

「ありがとう!まめきちに会えて私は幸せだよ!」

大魔導師は笑顔で言うのだった。
まめきちは焦って、部屋の明かりを消しに向かう。
そして、部屋の明かりを消すと言った。

「わかったわかった。
…だから部屋の明かりはつけるな。
カーテンも開けないでくれ」

と言いつつカーテンも閉めた。

「真っ暗だよ。いくら【魔物】は暗い方が好みだからって。」

「追い出すぞ」

少し不機嫌そうにまめきちは言った。
それに対し、大魔導師は笑う。

「冗談だよ冗談」

そう言ってまめきちから少し離れると言った。

「まめきちの大作戦。…健闘を祈るよ。」

と言って最後に一声。

「ちょちょいのちょい!」

そう言って消えてしまった。

まめきちは彼のテンションにはついていけず、思わず溜息が出た。
まめきちは椅子に座ると考えだす。

(児童園も何も、成り行きに任せてやってきたが…。
他に別の道はなかったんだろうか…。
彼らをもっと…幸せにしてやれる方法を…。)

まめきちは自分の歩んできた道、やってきた事を思い返す。
何も後悔が無いという訳ではない。
間違った事をしてしまったかもしれない。
そんな不安の中で、今日も最善を考え出そうとしているのだ。



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