六音一揮

うてな

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3章 即興間奏

第47音 破釜沈船

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【破釜沈船】はふちんせん
決死の覚悟で出陣する事。
生きて帰らない決意を示す事。

=============

ユネイは園長室の扉をノックする。
しかし何の返事もない。
ユネイはまめきちはいないのかと思っていると、背後からまめきちがやってくる。

「ユネイ、どうしたのかな?」

外に出ていたのか、雪が少し上着についている。
アール達が逃げたのではないかと思ったあの日から、暫くまめきちは帰ってきていなかった。

「園長 先日言ったベスドマグ隊長がラムに話をしに来ました
今 アールが向かっているもようです
場所は応接室です」

ユネイが言うと、まめきちは少し考えてから答えた。

「そうか…。報告ありがとうね。私も行ってくるか…」

そう言って、まずは園長室に入るまめきち。
ユネイは報告を終えるとさっさと帰ってしまう。



アールは応接室の扉をノックする。

「はいどうぞ」

とどこか嬉しそうな声が聞こえる。

「失礼します。」

アールは部屋に入った。
すると、ベスドマグとラムが対面して椅子に座っていた。

「お前…か。確かにお前っぽいな」

とベスドマグは言う。
更にベスドマグは言った。

「お前、妨害魔法をかけたろう?
さあ、上に報告されたくなければ、あの日のようにそこの扉にもかけてみろ。」

その言葉に正直アールはイラつきを覚えたが、いつもの表情のまま扉に振り向く。

「そうそう。これを軍に知られたら、今の法だとお前等は死刑だからなぁ。
お前の変に巧妙な魔法に惚れた。
さあ、そこに完全防御の魔法でもかけてくれ。」

とベスドマグは言うのであった。
アールは悔しい顔をする。
しかし、そんな表情は二人からの視点では見えない。

アールは大人しく魔法をかける事にした。
人差し指の指先を扉に当てる。
指先に魔法力を込めて扉に一気に魔法をかけた。
それを見るとベスドマグは更に言う。

「扉単体じゃない。部屋全体にかけるんだ」

それにアールは、思わず怒りの表情あらわにしていた。

(何が目的でこんな事を…。遊んでいるのかっ…!)

アールはそう思いつつも、人差し指を止めて手のひらを壁につけた。
そして、また魔法を込める。
一瞬の手元の閃光。
他は目には見えないが、ラムにはわかる。

「…すげぇ。アールお前こんな事できたのか…。」

と、術の完成度にラムは歓喜。

「このくらいの小部屋なら。」

アールは平常心に戻り、ラムにそう答えた。
ベスドマグは笑った。

「ハッ、まあ座れぇ」

アールはベスドマグに目を合わせる事なく、ラムの隣に座った。
ベスドマグはアールに言う。

「お前、よくも力も封印されているのにここまでやるな。たまげたぁ…」

アールはその言葉に眉を潜める。
ラムは先日の青年の言っていた事を思い出した。

「どういう事でしょうか。」

アールは聞いた。

「お前にはおかしな封印がかかってる。
中に禍々しい何かがいるようだ。今でも暴れ出ようとしている。
こりゃ解かねぇ方が身の為だな。」

アールは今の言葉で自分の中に、父の記憶や意思がある事を確信する。
ラムはわからないフリをする為に言った。

「な…何なんだよそれ!」

「…さあな。」

アールも知らんフリをする。
するとベスドマグはラムに言った。

「お前は最高にいい力を持っているはずだ。
俺はわかるぜ、きっと面白い力だ。」

ベスドマグやラムのように他人の魔法力を感じ取ったりはできないが、
ラムの底知れぬようなパワーは、見ているだけでも感じてしまう。
ラムは正直怖いようだ、ベスドマグが。
アールはベスドマグに言う。

「ラムの力を面白いやそこらで片付けてもらわれては困ります。
彼の力は異常なまでの戦力になり兼ねません。」

「それがいいんだろう?すぐに片がつく」

ベスドマグは言った。
アールは少し口を噤んだ。
その後ラムに体を向けて言った。

「ラム、お前が決めるんだ。
ベスドマグ隊長はお前を戦争に連れて行くつもりだ。
断るか…、引き受けるか…。」

すると、勿論ラムは即答で言った。

「了承できません。」

それを聞いたベスドマグはつまらなそうな顔をした。

「軍にバレてもいいのか?
そこの子、どうにかして説得できねぇか?」

ラムは少し焦っていたが、アールは無言だ。
ベスドマグはアールを見る。
アールは少しの沈黙の後に言った。

「…わかりました。」

無理に抵抗するのは良くない。
これを断ってしまえばラムは処刑されるだろう。
反逆をするとしても、誰かの命を奪うのは確実だ。
そんな事は、ラムも誰も望まないだろう。
ここは一つ、従うしかないのかもしれない。

喉が焼けるような感覚がする。
あまりの悔しさに後ろの首筋がピンと張るように感じる。
気づかない間に息を止めていた。

ラムはアールに見られてドッキリと鼓動が高くなる。

「ラム…。すまない、引き受けてくれ。
反抗すればお前も私も命はない。」

アールはラムに頭を下げるのであった。
ラムは焦った。なんだかアールらしくない。
年下に頭を下げるなんて絶対にしない。
いつものアールと比べ、とても潔い気がした。

ラムはアールがそれ程必死なのだからと、俯いてから答えた。

「…了承…します…」

するとアールは、両手の拳を強く握り締めた。
ラムはそんなアールを見て目を剥いて驚いた。
常に無感情とも言えるアールが、悔しそうに両手を握り締めていた。
俯いてはいたが、きっと相当悔しがっている。
自分の事でそう思ってくれているのだろうと、少しでも心が軽くなった。
ベスドマグは笑う。

「おう、ありがとな。おっと逃走とかも無しだからな。」

そう言って、扉の前に行く。
そしてその扉の防御を解除して出ようと思うと、突然勢いよく扉が開いてベスドマグは驚いて避けた。
開けたのはまめきちだった。
アールのかけた魔法で通れず、更に声も聞こえなかったようだ。

「…!
…一体何を話していたのか。」

まめきちはベスドマグに聞く。

「ラム・ローフ等はもし魔法戦争が始まったならば、戦地で戦ってくれるだそうだ。」

そう言って外に出てしまい、帰ってしまった。
まめきちは驚いて、ラムのところに来た。

「本当なのかい?」

その言葉にラムはゆっくり頷く。
まめきちは驚いたまま、アールを見た。
アールはさっきからラムに頭を下げたままだった。
ラムは焦ってアールに言う。

「おい、もう上げろよ。大丈夫だって。」

「…守る…。」

とアールは呟く。
二人共その小さな声に気づいてアールを見つめる。
すると彼は顔を上げて、ラムの両手を掴んだ。

「お前は絶対に私が守るっ…!」

アールはいつになく真剣な眼差しで言った。
握る手は強く、掴まれている手首は熱を帯びるようだった。
真剣なのに少し虚しい気もする瞳。

アールは悔しかった。
あんな意地の悪い隊長の言う事を従うのはとても嫌だった。

相手に逆らえない自分が悔しい。
魔法戦争の後の処刑で魔法で抵抗しようとする、ならば魔法封じの使い手が現れるだろう。
と、どこに張り巡らせても同じ結果になる。

まめきちも驚いてアールを見ていた。
彼が人前では感情をあらわにせずに、誰もいないようなところで発散していた事は知っていた。
だからこそ今の状況が驚きなのだ。

ラムはアールの心が不安定になっている事を悟ると、ラムはアールに優しく声をかけた。

「アール」

アールは我に戻り、手を離した。
すると、ラムはアールを優しく抱きしめる。

「今日はなんかお前らしくない事ばっか。
相当疲れてんだな…。大丈夫、俺は大丈夫だって。」

それを見ていたまめきちは、小さく溜息をつく。
アールは呟いた。

「……すまない…。」

そう言いつつも、ラムから離れる。

(…私らしいって…何も言わない私がか…。)

アールはそんな自分が周りに定着している事を改めて知る。

ラムは謝った理由はわからなかった。
アールは立ち上がり、部屋を出ようとするがまめきちが目の前にいて通れない。

「…通してください。」

「魔法戦争が終わったらラムは処刑されるかも。」

その言葉にアールは一つ呼吸をして、それから答えた。

「させません…。」

まめきちは目を丸くした。

(まさか彼女の封印を…)

まめきちはそう思っていた。
どうやらまめきちは、ラムの事を知っているようだった。
まめきちは眉を潜める。

(封印すれば、長い年月を超えなければ目覚める事は許されない。
彼女を封印し、アール自身は処刑されるつもりなのだろう。)

まめきちはそう考えていたが、アールを見て気づく。

「ねえ君、顔が凄く赤いよ?」

まめきちがアールに言う。

「興奮しすぎました。」

アールはそう言ったが、体がフラつく。
まめきちは困った顔をすると言った。

「風邪…だね」

ラムは慌ててアールを支えた。

「アール…!今部屋に連れて行くから!」

そう言って、アールを抱えて部屋を出た。
アールは何が今起こっているのか段々とわからなくなる。
そして次第に、気が遠くなっていくのであった。



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