六音一揮

うてな

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3章 即興間奏

第48音 焦心苦慮

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【焦心苦慮】しょうしんくりょ
心を痛めて、あれこれ思い巡らし悩む事。

==================

アールが目覚めると、眩しい光が目に入る。
体が温かいというか熱いと言ってもいいくらいの熱。
アールは思い出す。
まめきちに風邪と言われ、ラムに運ばれて寝かされたはず。
はず。

と、アールは半信半疑だが、多分そうだろうと思う。
そこに、部屋にルネアが顔を出す。

「あ、アールさんおはようです!」

アールは起きたばかりなのに、あまり聞きたくない声を聞く。
アールはルネアを敵視している。
それは最初の頃からであり、今ではもっと敵視というかライバル。
最近ルネアはラムと仲良くなりつつあり、少しでも距離が縮まると妬ける。

そう、アールは少しでも何かあると妬けるタイプ。
テノと仲が悪いのも、実はと言うとテノがまあまあラムと仲が良いため。
アールは愛されちやほやされすぎているリートに羨ましくもそれが憎しいので意地悪を言ったり、
甘えた生き方をしていると思って厳しくあたっていた。
それがいつか周りにはリートが好きなんだと言われ、テノには勝手にライバル視され、
ラムが好きな事はバレたくなかったため、なんとなく本心は言わずにそのままにしておいた。
愛を叫ぶと言っても「すき」の一言だけであって、誰が好きとは言ってなかった。
だからラムへの愛を叫んだのだった。
テノは小さい頃から年の近いラムに近づいて、お喋りしたり時々遊んだりしていた。
それに混ざってアールもいる時はいるが、ラムとの時間が減るだけであった。

彼女に近づく人は許さないのが彼の本心。
ずっと自分と一緒にいてほしいのだ。
と思うと、何だかレイと重なるので溜息をついた。

ルネアは気づくと隣で絵本を出していた。
しかも幼稚園児に読むような本。

「むかーしむかーし」

ルネアが読んだ時、アールは即答した。

「私を馬鹿にしているのか?」

ルネアはその言葉に慌てて言った。

「父さんが僕が小さい頃によく読んでくれたの!
…寝ている時にとかです。だから…」
アールは溜息をついた。

「私はお前より子供ではない。」

「あ!そうですよね!心も体も大人っ!」

ルネアは焦って言うので、アールは呟くように言う。

「…年齢。」

二人の間に暫くの沈黙。
そこで、ルネアは昨日の話をする。

「昨日、聞きましたよ。
…魔法戦争の際にはラムが行くって…」

その言葉にアールは言う。

「ラムだけでなく、私達も行くだろうな。」

「戦争は止めたいです…」

「止められる訳がないだろう。
長い争いの間に街と街は恨み合い、隣星の権力者は東西に武器などを与え、
争いの火種を巻き、財を巻き上げ、ここまで続いてきた戦争。
簡単に止められる訳ないだろう。」

アールはそう言って背を向ける。

ルネアも黙っていると、アールは言った。

「お願いがあるんだ。」

「何ですか!?できる事ならなんなりと!」

「外に出たい。みんなには黙って欲しい。」

「駄目です」

とルネアは即答。
更にルネアは言った。

「風邪が酷くなるだけですよそんなの。
寝てくださいね。用事があるなら、僕が引き受けますから。図書館ですか?」

「…違う。」

「じゃあなんです?」

アールは言うのを躊躇った。
ルネアが首を傾げると、アールはルネアの方を見て言う。

「ルネア…よく聞いてくれ。」

これはただ事ではないと思い、ルネアは真剣になる。
アールは起きて座り込む。

「ああ!寝て寝て!」

とルネアは無理矢理寝かす。

「別に少しくらいいいだろう?」

「駄目です!少し起きればまた次も起きますので絶対!
熱上がっちゃいますよ!安静にしてください。」

アールは少し驚いた様子で、ルネアを見ていた。
ルネアはその視線に気づいた。

「なんです?」

「何でもない。」

アールは不思議な気持ちだった。
アールはそう言う言葉をあまりかけられない。
言われるとすると、ラムくらいなのだが。
ここの児童園の児童は前述の通り、直感に優れるためにアールに潜む父親の禍々しいものが
わかってしまうのか避け続けられ、周りからの優しい声かけがなかった。
しかしルネアは普通の人間で、アールに対して普通の対応。
みんなと平等な対応、というのがとても嬉しいのだった。

心に密かに温かい何かを感じる。
ラムと一緒にいる時と似ている気がする。
アールは目を閉じ、それを感じ取っていた。

「アールさん?」

ルネアが言うと、アールは我に戻る。
自分の嫌いな相手に、情が湧く自分が悔しい。
その少し悔しい顔を苦しい顔に見えたのか、ルネアはアールの額に手を当てた。

「熱…あるはありますけど…大丈夫ですか?」

アールはその手を払って言った。

「全く問題はない。」

「へぇ~。で、続きは?」

アールは溜息をついてから言った。

「……ラムを封印する。」

その言葉を聞いてルネアは驚いて「えっ!?」と声に出る。

「戦争に出さなければラムも処刑される。
他に案を考えたが…、どれも失敗に終わりそうだ。
一番安全な策は、ラムを封印する事。」

アールが落ち着いたように言うと、ルネアは怒った。

「そ…!それってアールさんはどうなるの!?
アールさんも魔法使ったじゃないですか!」

「…処刑される。」

「何を考えているんですかっ!ラムを助けて自分は死ぬんですか!?
そんなの僕が許しませんっ!」

アールはルネアの方を見て言った。

「お前の許しなど要らない。私の決めた事だ。」

ルネアは何も言い返せずに黙っている。
そして涙を流すと言った。

「…これじゃ…これじゃ未来と変わらないですっ!
誰かが欠けるなんて…僕が作りたい未来は違う!」

ルネアの心が痛む。
仲良く暮らしてきた仲間が減る。
未来を変えたいと言う気持ちが、いつの間にかここの平和を保ちたいと言う気持ちに変わっていた。

それにアールは言った。

「何も全て目的通り行くわけがない。流石に未来は一直線みたいだな…。」

ルネアは目に涙を溜めながら言う。

「わかってます…。でもまだ死ぬって決まってません!
…こんなの、やり方次第です。」

ルネアはそう言うと、アールの前に来た。
アールはルネアを見上げると、ルネアは言う。

「あなたがラムを守るなら、僕はあなたも守ります。」

ルネアが言うと、アールは真顔ながらも鼻で笑った。

「二人も守るだなんて大きな事を言うものだな。」

「全員です!僕は全員を守るよう言われてやってきたのですから!」

アールはそれに溜息をつくと、ルネアに言う。

「頼み事をしてもいいか?」

「なんですか?
あ、外に出たいはなしですよ!」

「一度言われればわかる。
未来、ラムの封印されていた場所に行って欲しい。」

「なぜです?」

「…何か変化があるか見てきてほしい。
よく見て…その場所の情景を教えて欲しい。」

そうアールが言うので、ルネアは首を縦に振った。
その姿に虚しさを感じたルネアは、不穏な感じがしてしまう。

「なんか死んじゃう雰囲気出さないでくださいよっ
ちゃんと見に行きますから!生きててください!」

と言って、すぐに外に出て行ってしまった。
部屋に一人になるアール。
アールは呆れた顔をしていた。

(…誰が風邪で死ぬんだ。)

そこにラムが部屋に入ってくる。
アールはそれに気づくと呟く。

「…ラム。」

ラムはダニエル特製のお粥を持ってきてくれたようだった。

「ダニエルがお前のために作ってくれたんだ。」

と笑顔で言うラム。
この笑顔さえ見られなくなると思うと悲しくなる。
と思ったアールだが、一つ心残りが。
ラムがアールの近くにお粥を置くと言う。

「自分で食べられるか?それとも…」

少し顔を赤くするラム。
アールは起き上がり、自分で器を持った。

「いただきます。」

ラムは思わず苦笑い。

(だよなぁ…)

そこで食べさせてあげると、仲が深まるかなと思ったラム。
しかしアールは甘えた事が苦手で、相当緊急でないと何かを頼んだりはしない。
ルネアの事は緊急の内なのかは不明。
アールはお粥を口にすると呟く。

「美味しい…。」

ラムはいつも通りのアールみたいで安心した。
昨日のアールは真剣な様子であったが、見ていたこっちは正直怖かった。
いつもと違うだけで、こんなにざわつく。
そんな事を昨日思ったようだ。

アールは少し黙ると器を下ろした。

「どうしたんだ?」

ラムが聞くと、アールはふと呟く。

「ルネア。」

「えっ!?」

ラムは大袈裟に驚く。
しかも頬が少し赤いかもしれない。
そんなラムを見たアールは、内心やるせない気分だ。

「…さっきここに来たんだ。余計な事も言ってきてな。」

アールが言うと、ラムはクスッと笑った。

「アイツは余計な事まで言うからなぁ。」

「余計な…優しさ。」

「確かに」

ラムは笑顔で赤面姿をしのごうとする。
アールはスプーンを持つ手を強く握った。

(絶対に負けたくない。)

その心境がレイと被っていると思っていても、この際気にしない。
その時、アールは何かに気づいた顔をする。

「どうしたんだ?」

ラムは聞いたが、アールは首を横に振るだけだった。

アールは気づいた。
ラムを封印するのに一番大事なものがない事を。



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