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3章 即興間奏
第49音 艱難辛苦
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【艱難辛苦】かんなんしんく
非常な困難があって苦しみ悩む事。
===============
アールに頼まれた通り、ルネアは雪道の中一人で森を歩く。
(これで迷子になったらアールさんのせい)
森を歩いていくルネア。
(と言うか…、どこにあるか雪でわからない…)
まずそこからだった。
雪の中では見つかりにくいだろう。
「あ、そうだヒビ。」
と、ルネアはふとアールの言った事を思い出す。
――力の中心に異常が出て大地に動きが出る。
その微妙な大地のズレが、雪にヒビを入れたんだ。――
と言う事はそのヒビを辿れば、多分目的の場所に着く気がする。
ルネアはヒビを探しに下を向いて歩いていると、上の方から泣き声が聞こえる。
ルネアが上を見ると、アールらしき男性が木の枝にいた。
それは先日ラムとレイの前に出てきた青年。
子供のように「あ――ん」と泣く姿は、流石のルネアもアールだとは思えない。
すると結構前に言った、ドッペルゲンガーの事を思い出す。
「ドッペルゲンガー!」
ルネアが叫ぶと、青年は泣くのをやめて木から降りてきた。
「お化けじゃない!」
そう言って青年はルネアのところに来る。
ルネアの肩に手を乗せ、スっと首を通って隣の肩までスライド。
そのいやらしい手つきにゾッとするルネア。
「やあ少年。」
彼はルネアの顔を持って自分に向けた。
「別…人…?」
「うん!僕は違うよ!」
ルネアはその言葉にムッとして離してもらう。
「悪い…人なの?」
ルネアが聞くと、青年は笑った。
「僕ね、顔だけで悪い人判断されるけどね、
案外いい人だよ?優しいお兄さんだから安心して?」
「自分でいい人って言いますかね?」
ルネアは怪しい人を見る目で青年を見つめると、青年は困った顔。
「えー!だって僕悪い事してないもん~。」
ルネアはある程度距離をとった。
「何で泣いていたんですか?」
それを聞いた青年は、ルネアにまた近づいていくる。
ルネアは離れようとしたが、やはり近づいてくる。
仕方なく止まると、隣に来て言った。
「だって聞いてよ~!
僕がね!仲間に頼みに言ったの!
でも無理だって仲間が言ってきたの!
片割れ君を助けたいのに…。」
ルネアは話の流れがわからず、首を傾げるばかり。
「う~ん、無理でももう一回頼んでみるとか?」
ルネアが適当に言うと、彼は笑顔になった。
「おお!そうだよね!そうするそうする!
僕の取り柄ってしつこいところ~?かな?
きゃは~んっ!なんちゃって!」
キャピキャピする彼に少しついていけないルネア。
姿がアールに似ているので尚更違和感だ。
彼はルネアを見ると言った。
「君は何をしに行くの?」
ルネアは言わないように口を閉じる。
しかし、彼は笑って言った。
「そんなに僕が怪しいの?うーん、仕方ないかぁ。
ならそうだね、君の行きたそうなところ教えてあげるね。
例えば、あそこを真っ直ぐ。」
彼はある方向を、真っ直ぐに指をさす。
「何があるの?」
そう言われ、青年はニヤッとした。
「この島の力の中心、ラム少女の封印の場所。」
ルネアはその言葉に驚き、彼からサッと離れる。
「ななぜ知っているの!?女って事も…」
青年はクスクスして言った。
「僕はずっと見てきたの。
あの子達の成長を見守ってきたさ。」
「え?」
「片割れ君の求めている力の中心。
『極小さな光源はあったけれど、薄い円盤の光は無かったよ』って言えば大丈夫。
あのね、あの子を封印するためにはね、その円盤の光がある時でしかできないらしいんだ。
それができる条件はね…ふふ。これは禁句かな。」
少し落ち着いてルネアは考えてみた。
「あの、片割れ君ってまさかアールさん?」
「そうだよ。」
更にルネアは考えた。
(片割れっておかしくない?双子?)
「あの…あなたは一体…?」
ルネアはそう聞くが、青年はルネアの言葉を止めた。
「待った!まだ知らなくてもいいのさ!
あ、あと片割れ君には僕の事内緒にね。
僕はただ片割れ君を助けたいだけだから、無害だよ~。」
そう言って彼は雪の中、木の向こうへ歩いて行ってしまった。
ルネアはポツンと取り残された。
~+~+~+~+~+~+~+~+~+~+~+
ルネアは児童園に帰ってくる。
結局その目的の場所は言われた場所を見つけたのはいいものの、
やはりさっきの青年の言っていた通り、とても小さな光の欠片しかなく円盤の光とやらはなかった。
約束通り部屋に戻るルネア。
部屋を開けると、アールは寝ているようだった。
ルネアはそんなアールの寝顔を覗いてみる。
ルネアにはいつも険しい顔しか向けないアールではあるが、寝る時はやはり穏やかに寝ている。
なぜそんなに怖い顔しかできないのかとルネアは思った事もあったが、
彼の今までの生き方や人生を考えてみると、その苦しい気持ちがわかる気がした。
現に自分もみんなに黙っている事がある。
黙るという事がどんなに苦しく、辛い事か先日やっとわかった。
これ以上秘密事は増やしたくない。
すると、アールは丁度起きた。
「……ん。…ルネア……さっきのは夢…?
ルネアにお遣いを頼んだんだが…」
それにドテッとするルネア。
「あのー、天然発揮ですかねー?
僕はさっき頼み事聞いて帰ってきたばかりです。」
それを聞いたアールは納得した顔。
「それで、どうだったんだ?」
すると思わず、ルネアは口走ってしまう。
「円盤は無かったです」
「円盤。お前何か知ったのか?」
アールは驚いた顔をした。
ルネアは思わず焦ってしまう。
「ちょ…ちょっと本で…」
「…そうか。」
風邪がしんどいのだろうか、あまり思考が働いていなさそうだ。
そこにシナが通りかかる。
開いた扉の先を見ると、ルネアが部屋にいたのでルネアを廊下に引っ張った。
ルネアは突然の事で驚いた。
「え!?」
「ちょっと!アイツ風邪になるとなかなか治らないのよ!
あんまり相手しないで頂戴!」
「そうなの?」
「アイツは昔から風邪は人一倍長引くの。」
ルネアはそれを聞いて、目を丸くしていた。
シナはルネアの背中を押す。
「あと。笛の練習どうしたの?ラム、もう練習始めているわよ」
それにルネアは、思わず思い出した顔。
「やばい!
教えてくれてありがとうね!」
そのまま駆けて行くルネア。
シナはそれを見守る。
ふうっと溜息をつくと、中からアールの声がした。
「…姉さん…。」
シナはゲッと驚いてアールの方を見た。
「…何よ。」
「風邪が治ったら…また…、」
それを聞くと、シナはムッとして言った。
「ダメよ!もうアンタの言いなりにはならないわ!
私決めたの!アンタの事もまめきちの事も!仲良しになってやるんだから!
アンタにとって私の暴力が何なのかはわからないけど、きっとロクな事じゃないわ。
頭を冷やしなさい。」
そう言うとシナはそのまま扉を閉め、立ち去ってしまう。
アールは声を出そうと思っても掠れてしまった。
(違う…っ。まめきちとかじゃない…。
私は…私が…今……どこにいるのか…教えて……。)
と涙の代わりなのか、布団を思い切り握り締める。
アールの頭は真っ白になる。
虚しさよりも恐怖が増すのだった。
しかしあまりの熱と怠さで耐え切れず、今は眠るしかないようだ。
非常な困難があって苦しみ悩む事。
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アールに頼まれた通り、ルネアは雪道の中一人で森を歩く。
(これで迷子になったらアールさんのせい)
森を歩いていくルネア。
(と言うか…、どこにあるか雪でわからない…)
まずそこからだった。
雪の中では見つかりにくいだろう。
「あ、そうだヒビ。」
と、ルネアはふとアールの言った事を思い出す。
――力の中心に異常が出て大地に動きが出る。
その微妙な大地のズレが、雪にヒビを入れたんだ。――
と言う事はそのヒビを辿れば、多分目的の場所に着く気がする。
ルネアはヒビを探しに下を向いて歩いていると、上の方から泣き声が聞こえる。
ルネアが上を見ると、アールらしき男性が木の枝にいた。
それは先日ラムとレイの前に出てきた青年。
子供のように「あ――ん」と泣く姿は、流石のルネアもアールだとは思えない。
すると結構前に言った、ドッペルゲンガーの事を思い出す。
「ドッペルゲンガー!」
ルネアが叫ぶと、青年は泣くのをやめて木から降りてきた。
「お化けじゃない!」
そう言って青年はルネアのところに来る。
ルネアの肩に手を乗せ、スっと首を通って隣の肩までスライド。
そのいやらしい手つきにゾッとするルネア。
「やあ少年。」
彼はルネアの顔を持って自分に向けた。
「別…人…?」
「うん!僕は違うよ!」
ルネアはその言葉にムッとして離してもらう。
「悪い…人なの?」
ルネアが聞くと、青年は笑った。
「僕ね、顔だけで悪い人判断されるけどね、
案外いい人だよ?優しいお兄さんだから安心して?」
「自分でいい人って言いますかね?」
ルネアは怪しい人を見る目で青年を見つめると、青年は困った顔。
「えー!だって僕悪い事してないもん~。」
ルネアはある程度距離をとった。
「何で泣いていたんですか?」
それを聞いた青年は、ルネアにまた近づいていくる。
ルネアは離れようとしたが、やはり近づいてくる。
仕方なく止まると、隣に来て言った。
「だって聞いてよ~!
僕がね!仲間に頼みに言ったの!
でも無理だって仲間が言ってきたの!
片割れ君を助けたいのに…。」
ルネアは話の流れがわからず、首を傾げるばかり。
「う~ん、無理でももう一回頼んでみるとか?」
ルネアが適当に言うと、彼は笑顔になった。
「おお!そうだよね!そうするそうする!
僕の取り柄ってしつこいところ~?かな?
きゃは~んっ!なんちゃって!」
キャピキャピする彼に少しついていけないルネア。
姿がアールに似ているので尚更違和感だ。
彼はルネアを見ると言った。
「君は何をしに行くの?」
ルネアは言わないように口を閉じる。
しかし、彼は笑って言った。
「そんなに僕が怪しいの?うーん、仕方ないかぁ。
ならそうだね、君の行きたそうなところ教えてあげるね。
例えば、あそこを真っ直ぐ。」
彼はある方向を、真っ直ぐに指をさす。
「何があるの?」
そう言われ、青年はニヤッとした。
「この島の力の中心、ラム少女の封印の場所。」
ルネアはその言葉に驚き、彼からサッと離れる。
「ななぜ知っているの!?女って事も…」
青年はクスクスして言った。
「僕はずっと見てきたの。
あの子達の成長を見守ってきたさ。」
「え?」
「片割れ君の求めている力の中心。
『極小さな光源はあったけれど、薄い円盤の光は無かったよ』って言えば大丈夫。
あのね、あの子を封印するためにはね、その円盤の光がある時でしかできないらしいんだ。
それができる条件はね…ふふ。これは禁句かな。」
少し落ち着いてルネアは考えてみた。
「あの、片割れ君ってまさかアールさん?」
「そうだよ。」
更にルネアは考えた。
(片割れっておかしくない?双子?)
「あの…あなたは一体…?」
ルネアはそう聞くが、青年はルネアの言葉を止めた。
「待った!まだ知らなくてもいいのさ!
あ、あと片割れ君には僕の事内緒にね。
僕はただ片割れ君を助けたいだけだから、無害だよ~。」
そう言って彼は雪の中、木の向こうへ歩いて行ってしまった。
ルネアはポツンと取り残された。
~+~+~+~+~+~+~+~+~+~+~+
ルネアは児童園に帰ってくる。
結局その目的の場所は言われた場所を見つけたのはいいものの、
やはりさっきの青年の言っていた通り、とても小さな光の欠片しかなく円盤の光とやらはなかった。
約束通り部屋に戻るルネア。
部屋を開けると、アールは寝ているようだった。
ルネアはそんなアールの寝顔を覗いてみる。
ルネアにはいつも険しい顔しか向けないアールではあるが、寝る時はやはり穏やかに寝ている。
なぜそんなに怖い顔しかできないのかとルネアは思った事もあったが、
彼の今までの生き方や人生を考えてみると、その苦しい気持ちがわかる気がした。
現に自分もみんなに黙っている事がある。
黙るという事がどんなに苦しく、辛い事か先日やっとわかった。
これ以上秘密事は増やしたくない。
すると、アールは丁度起きた。
「……ん。…ルネア……さっきのは夢…?
ルネアにお遣いを頼んだんだが…」
それにドテッとするルネア。
「あのー、天然発揮ですかねー?
僕はさっき頼み事聞いて帰ってきたばかりです。」
それを聞いたアールは納得した顔。
「それで、どうだったんだ?」
すると思わず、ルネアは口走ってしまう。
「円盤は無かったです」
「円盤。お前何か知ったのか?」
アールは驚いた顔をした。
ルネアは思わず焦ってしまう。
「ちょ…ちょっと本で…」
「…そうか。」
風邪がしんどいのだろうか、あまり思考が働いていなさそうだ。
そこにシナが通りかかる。
開いた扉の先を見ると、ルネアが部屋にいたのでルネアを廊下に引っ張った。
ルネアは突然の事で驚いた。
「え!?」
「ちょっと!アイツ風邪になるとなかなか治らないのよ!
あんまり相手しないで頂戴!」
「そうなの?」
「アイツは昔から風邪は人一倍長引くの。」
ルネアはそれを聞いて、目を丸くしていた。
シナはルネアの背中を押す。
「あと。笛の練習どうしたの?ラム、もう練習始めているわよ」
それにルネアは、思わず思い出した顔。
「やばい!
教えてくれてありがとうね!」
そのまま駆けて行くルネア。
シナはそれを見守る。
ふうっと溜息をつくと、中からアールの声がした。
「…姉さん…。」
シナはゲッと驚いてアールの方を見た。
「…何よ。」
「風邪が治ったら…また…、」
それを聞くと、シナはムッとして言った。
「ダメよ!もうアンタの言いなりにはならないわ!
私決めたの!アンタの事もまめきちの事も!仲良しになってやるんだから!
アンタにとって私の暴力が何なのかはわからないけど、きっとロクな事じゃないわ。
頭を冷やしなさい。」
そう言うとシナはそのまま扉を閉め、立ち去ってしまう。
アールは声を出そうと思っても掠れてしまった。
(違う…っ。まめきちとかじゃない…。
私は…私が…今……どこにいるのか…教えて……。)
と涙の代わりなのか、布団を思い切り握り締める。
アールの頭は真っ白になる。
虚しさよりも恐怖が増すのだった。
しかしあまりの熱と怠さで耐え切れず、今は眠るしかないようだ。
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