87 / 94
08 天使がやってくる
087 祈りは神への信託ではない。
しおりを挟む一方、フューレンの方では。
力が戻ったキリエルは、フューレンに誘われて共鳴の練習に付き合わされた。
教会の裏での練習だった。
以前フェオドラとフューレンが力をぶつけた時に合体した事を思い出し、キリエルの魔力でもできるかと実践をしていたのだ。
互いの力がぶつかり合う。
神力と魔力は反発し合い、抗争を続ける。
その度にフューレンとキリエルの体に負荷がかかるが、それでも続けた。
少し経ち、合体する見込みがないと知ると二人は一度力の放出をやめる。
キリエルはその場で尻餅。
「あー疲れたー!やっぱりケリスの言う通り、僕の魔力じゃダメなんだね。」
「そうみたいだな。でもなんで…?」
フューレンの問いにキリエルは考えた顔。
しかし何もわからないのか溜息をついた。
「わからないよー。フェオドラのは特殊な魔力だかなんだか知らないけど、特殊な魔力って一体何って感じー。」
「それもそうだよな。キリエルを召喚はできるのに、共鳴ができないっていうのも不思議だよな。」
キリエルは休憩していたが、フューレンはそのまま教会へと向かう。
キリエルは言った。
「フェオドラに共鳴の練習付き合わせるのー?」
「一応本人も面白がってるみたいだしな。こっちもこっちでヴァレリカ対策にフェオドラを一役借りたいし。」
それを聞いて、キリエルは無愛想な顔。
「それって、フェオドラが危険にならない?」
「どういう意味だ?」
フューレンの質問に、キリエルは俯いて言う。
「だってヴァレリカ対策って事は、ヴァレリカと衝突するかもしれないって事じゃん。
よく思い出してみてよ、ヴァレリカの事をさ。」
フューレンはそう言われると、ヴァレリカの事を思い出す。
初めて出会った時はフレノアの保育園まで、ワレリーとフレノアに弁当を届けに行った日だった。
フレノアとキリエルが頑張って戦ってくれたが、歯が立たなかった。
次に会った時はアシュターとフェオドラを連れて、役場まで共鳴の力を持った者を検索した時。
あの時は偶然やってきたフロルが強いお陰で、その上不意を突いた為に撃退できたものだった。
そして次は…、アシュターが殺された日の事。
それを思い出すと、フューレンの表情は優れなくなる。
「そうだな…。アシュターの惨敗っぷりを見ると…」
「それだけじゃないよ。フェオドラだって辛いはず。
その上、仲間を殺した天使が目の前に現れたら…!」
「気が気でなくなるだろうな…」
それに対して、キリエルは深く頷いた。
そして真摯な表情を見せる。
「僕はアシュターとはあまり関わった事なかったから、あまり実感沸かないけどさ。
でもそうじゃない人は、沢山沢山悔しくて憎くて苦しい思いを押さえつけてるはずなんだ。
僕だってもしフューレンがヴァレリカなんかに殺されたら…!嫌だよ!ヴァレリカが憎くなっちゃう!」
あまりに真面目に答えるキリエルを見て、目を丸くしてしまうフューレン。
フューレンは首を傾げて言った。
「そうなったら、地上でベナギルクァートでもするのか?」
ベナギルクァート とは、キリエルの使う氷魔法で一番強いもの。
アシュターが亡くなった日も、人のいない空でこれを放ってヴァレリカを撃退した。
一方その魔法は冷気が強すぎる為か、周囲一帯に暫く雪が降り続いたという。
キリエルは少し黙ってから答える。
「するかもしんない。
…だって、周りとか考えるより先に……相手を倒したいって思っちゃうもん。」
フューレンはそれを聞いて、キリエルの伝えたい事がよくわかった。
キリエルはもし大事な人を殺されてしまったら、その仇を真っ先に倒す事を考えてしまう。
それはきっとフェオドラも同じと考えていて、そう考えたらフェオドラの力が暴走するのは確実。
暴走すれば相手を倒せるどころか、周囲の人々までも傷つけてしまうかもしれないのだ。
キリエルは自分の力で周囲を傷つけてしまったという過去を背負っているせいか、そういう話に人一倍敏感になっている様子。
フューレンはそういった事を汲み取ってから言う。
「そうか。じゃ、フェオドラにもしっかり話を聞かないとな。」
「話…?」
「そう。ヴァレリカの事をどう思っているだとかだ。」
するとキリエルは胸に手を当てたが、顔はまだ不穏。
「そう…だね。」
教会内では、ワレリーとフェオドラが今までの罪を見返していた。
フェオドラは『ヴァレリカと衝突』した旨の内容を見る度に不機嫌な顔を見せていた。
「おや、この日もヴァレリカと衝突があったのですね。命辛々逃げましたっけ…」
ワレリーの言葉に、フェオドラは無愛想な顔をして言う。
「ヴァレリカ嫌い。」
「急にどうしたのですか?」
ワレリーの問いに、フェオドラは怒った顔をして言った。
「だってアシュターを殺したんだもん!酷い天使だもん!」
それを聞いたワレリーは、一度書から目を離す。
「そうですね…。アシュターの事は残念でしたね。」
「私やっぱりアシュターの仇取る!共鳴して、カオスリートってのになる!」
フェオドラの言葉に、ワレリーは少し間を空けて言う。
「確かにヴァレリカは残忍な天使ですね。」
「うん!」
「…しかしフェオドラ、単なる恨みで仇討ちするのは良くありませんよ。」
「どうして!?」
「恨みだけで力を得ようものなら…これから先、幾度となく誰かを恨み、その度に憎しみを重ねる事になります。
憎しみを糧に生きてきた者が、幸福になっている所を私は見た事がありません。」
するとフェオドラは膨れる。
「不幸になる意味がわからない。恨んで仇を取った所で不幸にならないもん!」
「そうですか?
じゃあ質問しますが、恨みを抱く時、フェオドラはいい気分はしますか?」
「しない!」
「ですよね。
ではもう一つ質問です。フェオドラは以前魔術科学園の大会で優勝しましたよね。
皆さんに賞賛されて、どう感じましたか?」
それを聞くと、フェオドラは真っ先に目を輝かせた。
「楽しかった!!嬉しい!もっと褒めて欲しかった!!」
「ですよね。
皆さんと戦うのもきっと楽しかったでしょう。
何よりも大会で優勝すれば、皆さんに褒めてもらえる事をフェオドラは知っていますよね?」
「うん。それが何?」
フェオドラは首を傾げた。
ワレリーは続ける。
「恨みも同じです。
一度恨みを晴らしてしまえば、恨みはそういった方法で解消できると知ります。」
フェオドラはそれを黙って聞いていた。
ワレリーは言った。
「恨みを抱く度、最悪な気分に苛まれます。
それを解消できるなら…と、罪を重ね続ける可能性もあります。
私はそれを危惧しているのです。」
フェオドラは目を丸くして聞いていた。
ワレリーはフェオドラの頭を優しく撫でる。
「私は、フェオドラがそういう人になってしまったら悲しいです。」
フェオドラは呆然と聞いていたが、やがてワレリーから目を逸した。
「でも…もうすぐフェオドラ達は処刑されるもん。
将来なんて、ないもん。」
フェオドラの言葉に、ワレリーは驚いたのか目を丸くした。
「処刑…フェオドラ、意味はわかって使っているのですか?」
フェオドラは頷いた。
「死んじゃうんでしょ。知ってる…だって、フェオドラも沢山知らない人を殺してきたもん。
きっと殺されて当然…だもん。」
小さいながらに肝の据わったフェオドラを見て、ワレリーは驚いたまま。
しかしフェオドラは、膨れたまま微かに目を潤めていた。
ワレリーは眉を困らせたが、やがてフェオドラに言った。
「フェオドラは死にませんよ。」
「え…?」
フェオドラはワレリーの顔を見ると、ワレリーは微笑む。
「絶対に死なせませんから。」
フェオドラはボーッとワレリーを見ていた。
「パーパ…何か考えてる?」
「私はフェオドラや教会の皆さんが長生きする事だけを考えていますから…。」
ワレリーはそう言ったまま、何も答えない。
フェオドラは思わず無愛想な顔をワレリーに見せる。
するとワレリーは穏やかに目を閉じたまま、両手を組んだ。
まるで、願うように。
フェオドラは再び目を丸くしてしまう。
「私が教会を束ねる悪魔使いである事、改めて神に感謝せねばなりませんね…。」
「か…神にパーパが祈ってる…!自分の事を神だと思ってるパーパが…!」
フェオドラは驚いていた。
ワレリーはその様子にクスリと笑った。
「祈りはいつでもするものです。…神にではなく、実感を得る為に。」
それを聞いたフェオドラは驚いた様子のままだったが、やがて書に向かって言う。
「続き、見よ。」
「ええ。」
ワレリーはそう答え、フェオドラと一緒に罪の見返しを続けた。
0
あなたにおすすめの小説
無能妃候補は辞退したい
水綴(ミツヅリ)
ファンタジー
貴族の嗜み・教養がとにかく身に付かず、社交会にも出してもらえない無能侯爵令嬢メイヴィス・ラングラーは、死んだ姉の代わりに15歳で王太子妃候補として王宮へ迎え入れられる。
しかし王太子サイラスには周囲から正妃最有力候補と囁かれる公爵令嬢クリスタがおり、王太子妃候補とは名ばかりの茶番レース。
帰る場所のないメイヴィスは、サイラスとクリスタが正式に婚約を発表する3年後までひっそりと王宮で過ごすことに。
誰もが不出来な自分を見下す中、誰とも関わりたくないメイヴィスはサイラスとも他の王太子妃候補たちとも距離を取るが……。
果たしてメイヴィスは王宮を出られるのか?
誰にも愛されないひとりぼっちの無気力令嬢が愛を得るまでの話。
この作品は「小説家になろう」「カクヨム」にも掲載しています。
【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~
ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。
王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。
15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。
国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。
これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
私は、夫にも子供にも選ばれなかった。
その事実だけを抱え、離縁を突きつけ、家を出た。
そこで待っていたのは、最悪の出来事――
けれど同時に、人生の扉がひらく瞬間でもあった。
夫は愛人と共に好きに生きればいい。
今さら「本当に愛していたのは君だ」と言われても、裏切ったあなたを許すことはできない。
でも、子供たちの心だけは、必ず取り戻す。
妻にも母にもなれなかった伯爵夫人イネス。
過去を悔いながらも、愛を手に入れることを決めた彼女が辿り着いた先には――
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ
鮭とば
ファンタジー
剣があって、魔法があって、けれども機械はない世界。妖魔族、俗に言う魔族と人間族の、原因は最早誰にもわからない、終わらない小競り合いに、いつからあらわれたのかは皆わからないが、一旦の終止符をねじ込んだ聖女様と、それを守る5人の英雄様。
それが約50年前。
聖女様はそれから2回代替わりをし、数年前に3回目の代替わりをしたばかりで、英雄様は数え切れないぐらい替わってる。
英雄の座は常に5つで、基本的にどこから英雄を選ぶかは決まってる。
俺は、なんとしても、聖女様のすぐ隣に居たい。
でも…英雄は5人もいらないな。
ゲーム未登場の性格最悪な悪役令嬢に転生したら推しの妻だったので、人生の恩人である推しには離婚して私以外と結婚してもらいます!
クナリ
ファンタジー
江藤樹里は、かつて画家になることを夢見ていた二十七歳の女性。
ある日気がつくと、彼女は大好きな乙女ゲームであるハイグランド・シンフォニーの世界へ転生していた。
しかし彼女が転生したのは、ヘビーユーザーであるはずの自分さえ知らない、ユーフィニアという女性。
ユーフィニアがどこの誰なのかが分からないまま戸惑う樹里の前に、ユーフィニアに仕えているメイドや、樹里がゲーム内で最も推しているキャラであり、どん底にいたときの自分の心を救ってくれたリルベオラスらが現れる。
そして樹里は、絶世の美貌を持ちながらもハイグラの世界では稀代の悪女とされているユーフィニアの実情を知っていく。
国政にまで影響をもたらすほどの悪名を持つユーフィニアを、最愛の恩人であるリルベオラスの妻でいさせるわけにはいかない。
樹里は、ゲーム未登場ながら圧倒的なアクの強さを持つユーフィニアをリルベオラスから引き離すべく、離婚を目指して動き始めた。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
