植物人間の子

うてな

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第2章 正体―アイデンティティ―

068 それが君の望みなら

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二人はとあるホテルにやってきていた。
夜景の見えるエレベーターに乗る二人。
アカネはボーッと外を眺めながらも思っていた。

(総作様に言われてスパイみたいな事をしてはいるが…今の所は全然普通の男性って感じだな。
本当に心の病気を抱えているのかしら。)

すると綺瑠はアカネの体を自分の方に向ける。

「アカネ。」

「ほへっ…?」

アカネは呆然と綺瑠を見上げると、綺瑠はアカネの唇を奪ってしまう。
数秒続く濃厚な時間、それが終わると綺瑠はニヤリと笑った。

「アカネは僕の女になる気はなぁい?アカネのホシイ物、僕ならあげられるかもしれない。
ねえ、なんでも言ってごらん。」

「えっ…急に言われてもわかんないかも…」

雰囲気が若干変わった綺瑠に、アカネは少し警戒を抱く。

「そう?じゃあゆっくり答えを聞こうかな?」

「綺瑠ちゃん…」

するとエレベーターは目的地に到着。
綺瑠はそれに気づくと微笑む。

「部屋で話そうか。」


部屋に到着した二人。
高級感漂う広い部屋だったので、アカネは思わず呆然。

(こういうお金のかけ方は辰矢様そっくり。)

綺瑠はベッドの横にあるライトの位置を調整しに向かった。

「綺瑠ちゃん、ここ、すっごく高そう。」

アカネは渾身の感想を言うと、綺瑠は笑う。

「驚いてくれたのなら嬉しいな。
……ねえアカネ、おいで。」

綺瑠は手を伸ばしてきた。
アカネは歩いて近づくと、綺瑠は手を掴んで抱き寄せる。

「アカネはいい子。
今日はちょっぴりお話しただけだったけど、僕にはそう伝わったよ。
…でもこれからは、もっとお互いを知れるといいな…」

綺瑠はアカネが顔を上げると、アカネの目をじっと見つめた。

「ねえ、君を愛してもいいかい?」

アカネは目を丸くしたが、恥ずかしそうにして言う。

「え、えっと…綺瑠ちゃんがいいなら…」

「ありがとうアカネ、愛している。」

そう言うと、綺瑠はベッドの毛布の中から何かを取り出した。
アカネは首を傾げていると、それはなんと鞭だった。
アカネは驚いて青ざめると、綺瑠は不気味な笑顔を浮かべて言う。

「今から愛してあげるからね、ア カ ネ 。」

アカネは腕を掴まれるので、思わず振り払おうとする。
しかし綺瑠の力は意外と強かった。

「綺瑠ちゃん嫌…!やめて!」

「なんで拒むんだい?」

「こんなの愛じゃないわ!暴力よ!」

「君は何を言っているの…?」

綺瑠は鞭をアカネに向けたので、アカネは綺瑠を睨む。

(そうだ、坊ちゃんは暴力を愛だと思ってる。なら、私を愛せなくしてやればいいんだ。)

そしてアカネは演技をやめ、真面目な表情を浮かべた。

「坊ちゃん、そこまでですよ。総作様のご命令で私は今日、坊ちゃんに会いに来ました。」

アカネがそう言うと、綺瑠は目を剥いてその手を離した。
アカネは溜息をつくと、綺瑠は呟く。

「父さんの命令…?僕を騙していたのか…?」

「そういう事になります。
坊ちゃんが女性といる間の記憶がよく消えているそうなので、総作様から見てくるように言われました。」

すると綺瑠は無表情になる。
アカネは様子が変わった綺瑠を見て眉を潜めた。
綺瑠は言う。

「ああ、彼が出てきていなくて本当によかった。」

「彼…?」

綺瑠はベッドに座り込んだ。

「にしても腹立つね。ただでさえ父さん、僕から逃げてるのにこんな事してくるなんてさ。」

アカネは眉を潜めて聞いていると、綺瑠はアカネの方を見て言った。

「…アカネ、僕を観察しに来たのなら帰って欲しい。僕は彼が望む事以外は何もできない。」

それを聞いたアカネは首を傾げた。
すると綺瑠は頭を抱えて言う。

「あと、もうこんな事はやめてくれって、父さんにも言っておいて。
…彼が傷つく…。それにさ…」

そう言うと、綺瑠は手に持った鞭を握り締めて言った。

「僕もそろそろ怒っちゃいそう。」

今までにないくらいに低い声。
アカネはその言葉に悪意を感じて、一歩後退してしまう。
綺瑠はそう言って立ち上がると、立ちくらみがしたのかそのまま倒れ込んだ。
アカネは驚くと、綺瑠は偶然にもベッドに倒れたので怪我はなし。

「坊ちゃん!」

と言ったが、綺瑠はすぐに起き上がる。
そして綺瑠はキョロキョロ。

「あれ?いつものホテル?」

綺瑠はアカネを見ると、瞬乾をいくつかした。
アカネも呆然としていると、綺瑠は頭を抱えて苦笑。

「ごめん…ちょっと具合悪いから、また今度でいい?」

「え…」

アカネは驚いたままでいると、綺瑠はそのまま立ち去った。
アカネは綺瑠の後ろ姿を見て思う。

(まさか…入れ替わった?)



綺瑠はホテルの外へ出ると、近くの店の窓で服装を確認。
私服を着ているのを見て、綺瑠は冷や汗。

(僕はさっきまで研究所で休憩してたはず…。
着替えて出てきてるって事は、やっぱり久坂が言ってた精神病って本当の事…?)

綺瑠は急に真面目な顔をした。
そして携帯を開き、見知らぬアドレスや電話登録を全て削除する。

(駄目だ、今は研究に集中しなきゃならない。
他の人格とやらに邪魔されては間に合わないかもしれないのに…!)

すると、綺瑠は携帯の中のメモに気づく。

(あれ、メモ機能なんて使ったっけ?)

メモにはこうあった。

『綺瑠へ。
君とは直接話せないから、ここに書く事を許してくれ。
君は最近、 あの事 が気がかりで研究を急いでいるだろう?
僕も君もそうだ。石の巫女のあの言葉で、僕達は抗おうと必死になっている。
抗っているせいで、自分で自分の首を絞めている。
僕はいい加減諦めた方がいい気がするけどね。君はどう思うんだい?』

綺瑠は呆然とした。

(これ…僕が書いたの…?)

『君はどう思うんだい?』の文字を見つめる綺瑠。
綺瑠は眉を潜めると、メモの続きに書いた。

『僕は諦めない。
君がもし、僕が知らない内に動いている僕なら、もう研究の邪魔はしないで欲しい。』

そう書くとメモを保存。
綺瑠は携帯を胸に当てると、深く目を閉じた。

(…僕は抗いたいんだよ。
石っ子ちゃんがかつて僕に語ってくれた、『未来』にさ。)

その未来とは一体なんだろうか。
綺瑠は目を開くと、研究所へ足を運ばせるのであった。
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