植物人間の子

うてな

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第4章 侵食―エローション―

152 トゲとの出会い

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その日の夜。
守は不貞腐れた顔で、会議室の真ん中でじっとしていた。
守は数男に優しく抱きしめられたその時から、誰とも話さずにこうしているのだ。
アンジェルは不思議に思って言う。

「風邪でも引いたの?守が騒がしくないなんて珍しい。」

それを聞いていたシュンはニコニコして言う。

「守はセンサイだから、そっとしとけって三笠さん言ってたぜ!」

「ずっとそこに居座られても落ち着かないから、退いてよね。」

しかし守は退かない。
アンジェルはムッとしてしまうと、守は言った。

「アンジェルってさ、両親に愛されてるって思う?」

「は?勿論僕は勉強ができるから、愛されて当然だよ。」

「勉強ができないと、愛されないの?」

守の質問に、アンジェルはふとミィシェルの事を思い出す。
ミィシェルは勉強ができないせいか、両親に半分見捨てられているのだ。
アンジェルは言った。

「そうだね。」

「シュンは?」

守が聞くので、シュンは笑顔で言った。

「俺はガキの頃に捨てられたからわからないぜ!」

親に捨てられたとしても、とっても元気なシュン。
守は溜息をついた。
するとそこに、刀の素振りを終えた三笠がやってきた。

「守君、だいぶ調子は良くなったかい?」

「三笠さん。
…ねえ三笠さん、三笠さんは両親に愛されてるって思う?」

三笠は思わず笑ってしまう。

「急にどうしたの?僕は沢山愛情を注がれてきたからそう思うよ。」

守はそれを聞くと目を輝かせ、三笠に近づいて言う。

「愛されるってどんな感じ?」

それを聞くと、三笠は首を傾げて考える。

「有難いとは思っているけど、それが当たり前だったから…どんな感じと言われてもな。」

するとシュンは言った。

「三笠さんの親ってアレだったんだろ?
確かー……過保護!」

「そうだよ。」

三笠の答えに、ますます守は興味を持つ。
守は言った。

「過保護ってどんな感じ!?」

「鬱陶しい。」

即答した三笠に、守は衝撃で凍る。
シュンは笑っていた。

「三笠さんが実家に顔を出したがらないのも、その過保護のせいなんだよな!」

「過保護っていい事じゃないの…!?」

守が言うと、アンジェルは淡々と言った。

「いや、良い事じゃないでしょ。
三笠のどこを見てまともな人間だと思うんだよ、変人でしょ。」

すると守は納得。

「確かに!三笠さんはトゲに刺されたいとか言ってる気持ち悪いマゾヒストだ!」

と、若干三笠を貶していた。
すると三笠はその場で正座をする。

「じゃあ昔話をしようか。僕とトゲの出会いを。」

守とシュンは聞く体制に入り、アンジェルは半分聞いているといった形で読書をしていた。

「…僕は両親に愛されて育ってきた。
両親は長年子供に恵まれなかったせいか、僕の事を沢山沢山可愛がってくれた。
何か成し遂げれば盛大に喜ばれ、転べば大袈裟に心配され、ずっと両親に見守られて生きてきたんだ。」

守は目を輝かせて聞いていた。
シュンはそんな守を見ながらも、守の真似をして目を輝かす。
三笠は続けた。

「でも僕は、過保護な両親に飽きてしまってね。
自分だけの力で成し遂げられる何かを、時には刺激を追い求めた。
…そこで出会ったのが、剣道の教室だったのさ。」

「確かに高校では三笠さん、剣道の顧問してるよね。数男と一緒に。」

守が言うと、三笠は笑顔で答える。

「面を打たれる瞬間が好きなんだよ僕は。」

すると守は、三笠が面打たれた時に清々しいほど爽快感のある顔をしているのを想像する。

「うっわっ!」

守は引いた顔でそう言った。
三笠は動じずに続ける。

「剣道は楽しかったさ。
容赦のない攻撃、普段聞く事のない甲高い声。全てがスリルだったんだよ。」

守は若干話が逸れてきた気がしたので、微妙な顔をし始める。
三笠は更に続けた。

「そこにある日、美しいトゲが現れた。
僕より小さな女の子だ。
その子は教室の誰よりも努力を怠らず、その花の様な美しさから皆は『撫子』と呼んでいた。」

「は、はあ。」

すると三笠は温和な笑顔の中にどこか恍惚とした様子を交える。

「僕は何より、彼女のトゲが大好きだった。
容赦ない叱咤、厳しい一発。何もかも、彼女はトゲだらけだった。
僕が両親に淡く求めても、一切もらえなかった物…それを彼女は持っていた。
だから僕はいつしか思っていた…。
 一度でもいい…、彼女のトゲに刺されてみたい…と。」

三笠の語りに、守は引いた顔を隠せない。
アンジェルも呆れた顔をしていた。
しかしシュンはニッコリ笑顔。
守は言った。

「なんか三笠さんがマゾに目覚めるまでの話みたいになってるけど。」

すると三笠は頷く。

「ああ、そうだよ。トゲとの出会いの話だからね。
一言で言えば、両親からの過剰な愛があって僕はこういう人間になったんだよって言いたかったんだ。」

守はそのままの表情で言った。

「あの研究所の代表と仲良くできるんじゃないの。
愛とか言って暴力するような親だし。子供の方だって受諾してたみたいだし。」

それを聞くと三笠は苦笑。
そして首を横に振った。

「分かっていないね守君は。
あの親子は刺す側と刺される側の、理想の形とは言えないよ。」

「刺す側と刺される側?」

守が言うと、シュンは小声で言う。

「三笠さん、マゾを刺される側、サドを刺す側ってよく言うんだ。」

「うげ…」

守が更に引くと、三笠は続けた。

「いいかい?
…刺す側と刺される側、大事なのは思いやり。その双方はね、いつもお互いを思いやるんだよ。」

「数男みたいに一方的に殴ってきたりするんじゃなくて?」

守が思わず聞いてしまうと、三笠は首を横に振る。

「人とコミュニケーションを取る時、みんなは最低限の礼儀を払うだろう。
それは刺す刺される関係でも同じだということさ。
本当に相手の傷を抉る真似はしないし、一番はお互いに楽しむ事が大事なんだよ。」

するとアンジェルは言った。

「なんで急にアブノーマルな話が始まるワケ。」

三笠は深く考え込んだ顔をして言う。

「だから僕は思っているんだよ…。本当にあの親子は、刺す刺される関係だったのか、と…。」

「変な所に想像力働かせなくてヨロシイ!」

と守。
そう言われると、三笠は笑った。

「と言うのは冗談で、僕は刺す刺される関係はそういうものだと思っている。
だからね、秋田さんの様に暴力を押し付けてしまう人がパートナーだったら、僕だって嬉しくないと思うよ。」

「僕もそんなのは嫌だ!」

守はそう言い、それを聞いた三笠は微笑みながら頷いた。
シュンは言う。

「三笠さんは俺達の知らない世界を沢山知ってんだな!」

「大人だからね。」

三笠がそう言うと、シュンは痺れている様子で言った。

「くぅ~!俺もそんな事言ってみてぇ!」

しかしどこかわざとらしく見えたアンジェルは言う。

「本当にそう思ってる?」

シュンは何も答えずに痺れた様子を見せるだけ。
アンジェルは呆れて溜息をついた。
守は微妙な反応をしつつも三笠に言った。

「この変態男!」

「うん。」

三笠は頷いた。
アンジェルは思わず鼻で笑う。

「変だって自覚はあるんだね。」

「勿論。変わる気は更々ないけどね。」

三笠の言葉を聞いて、アンジェルは言った。

「まあ、この病院にいる植物人間にまともな人なんてほぼいないか。」
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