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第4章 侵食―エローション―
153 三笠の哲学
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一方、サチは風呂上がりで病院の廊下を歩いていた。
廊下の休憩スペースには数男が一人、読書をしている。
するとサチはくしゃみをした。
「くしゅっ!」
その声で数男はサチの存在に気づく。
「風邪を引くなよ。」
「わかってます。」
サチはそう言って立ち去ろうとしたが、数男は呼び止めた。
「待てサチ、こっちに来い。」
廊下で二人きりな為か、サチは乗り気ではない。
しかし断れば後でネチネチ言われるのは確かである。
それが嫌で、サチは数男の前に立った。
「なんですか?手短にお願いします。」
しかし数男の視線はサチの目に向けられたままで、話す様子もない。
数男の脳裏に過るのは、久坂を救ってくれた時のサチの眩しい姿。
サチは目を細めて呆れる。
「からかっているんですか?」
「からかう…?」
数男は呆然とそう呟くと、本を置いて席を立った。
そしてサチに近づくので、思わずサチは後退する。
「なっ、なんですか!」
サチは驚いていたが、やがて背が壁に着いた。
その瞬間に数男はサチの行く手を阻む様に片手を壁に添える。
いわゆる壁ドンであった。
サチは肩を驚かせたが、数男はずっとサチを見つめたまま顔を近づける。
二人の顔が近距離まで近づくと、サチは顔を真っ赤にして顔を逸らし目を強く瞑った。
そんなサチを間近で見つめると、数男は鼻で笑う。
その声にサチは目を開いて数男を見上げると、数男は笑みを浮かべて言った。
「からかうって言うのは、こういう事を言うんだサチ。」
サチは数男にハメられた為か顔を紅潮させ、声にならない声を上げた。
数男はそんなサチを見て笑う。
「おかしいな、今日はお前が可愛く見える。」
「これ以上のセクハラは許しません…!」
サチは数男を睨むが、数男はそれでも柔らかな笑みを浮かべた。
「馬鹿な女。」
数男はそう言ってサチから離れると、本を持って立ち去る。
サチは速くなった鼓動を落ちつけながらも、数男の背を睨んだ。
(あの人はいつも…!)
しかし次の瞬間、大きな溜息を吐く。
(護衛の術はあるし、やろうと思えば懲らしめられるのに…五島さんに一度もした試しがないな。…なんでだろう?
…護衛対象だからかな?)
サチはそう思いながら、謎のジレンマに悩まされていた。
場面は戻り。
三笠は守を見て首を傾げる。
「守君はどうして、両親の愛を知りたがっているの?」
「え…」
守は驚いた顔。
それからもじもじとした。
「えっと…えっとね……
最近数男が柔らかくなってきたから…そういうのに強く興味が出てきたというか…」
「そうかぁ…。」
三笠はそう答えると、シュンは目を丸くして言った。
「刺す刺される関係に興味が出てきたのか?」
すると反射的に守は答える。
「違うわい!!」
「守君。」
三笠は守に言った。
守は三笠の方を見ると、三笠は微笑んで言う。
「つまり守君は、五島先生から愛情を貰いたいんだよね?」
「うん…」
守が呟くと、三笠は頷いた。
「だけどね、五島先生は親子の愛を知らないんだよ。
君も言ってたろう?五島先生は暴力をされて育ってきた。つまり五島先生は、子供にはそうするものだと思っているはずだよ。」
守は期待外れなのかムスっとしてしまう。
三笠は続けた。
「でもね、君の言う『最近五島先生が柔らかくなってきた』っていうのは、僕も本当だと思うよ。
もしかしたら、五島先生は何かに気づいたのかもしれないね。思いやりや、愛情を。」
それを聞いて、守は顔を上げて三笠の顔を見た。
三笠は言う。
「守君は、お母さんにどうやって愛情を貰ってきたか覚えているかい?」
「沢山看病してもらった!沢山心配してくれた!お喋りしたら一緒に笑ったり悲しんだりしてくれた!
いつも病院にも付き添ってくれて…お誕生日プレゼントもホンット嬉しかった…!
…でも、数男の暴力については全然信じてもらえなかった…」
守は一喜一憂しながらも答えると、三笠は静かに頷いた。
「守君は父親の愛を知らずとも、こうやって愛を知る事が出来ているよね。
それは、愛情を教えてくれる人が傍にいたからだ。」
「でも数男は…」
守が言うと、三笠は笑顔になって言う。
「なぁに、守君が五島先生に愛情を教えてあげればいいんだよ。」
「エッ!?」
守が驚くと、三笠は続けた。
「人はね、貰ってきた物を相手に与えようとする生き物なんだよ。
…守君もそうじゃないかい?自分達を蔑ろにする五島先生を、同じく蔑ろにしてきたろう?」
三笠の言葉に、守は言葉を詰まらせた。
三笠は頷いた。
「それが五島先生にとっては当たり前なんだ。親に蔑ろにされ、自分も相手を軽んじる。
守君のお母さんもきっと、誰かに沢山愛されてきたから、守君を大事にしてくれているんだと思うよ。」
「で、でも…数男はいくら母さんに愛されたって…母さんの事嫌ってるもん。
嫌だって、勝手に決められた女だからって、…母さん、あんなに頑張ってるのに…!」
守は涙を溜めて言うと、三笠は同情しているのか眉を困らせる。
それから弱々しい笑みを見せた。
「五島先生も、いつまでも親に首を絞められている。
奥さんの話をする度に、親の話が出てくるからね。きっとそのせいかもしれない。」
守はその言葉に反応すると、三笠は続ける。
「きっと五島先生も、親子ってなんだろうって思っているよ。
それはきっと、五島先生一人じゃ知る事は出来ないだろうね。」
三笠の言葉を聞いて、守は瞳を潤わせながらも黙って聞いていた。
それから守は俯いて黙る。
守は迷った顔をして、頭を抱えた。
しかし急に真摯な表情をすると、思い立って立ち上がる。
「僕、数男に教えてやるよ!アイツ、わからず屋だし!」
「おっ。」
三笠が期待の声を出すと、守は頷いた。
「アクションしてやるし…!アイツが血の通った人間だって事、僕が証明してやる!」
そう言ってドスドスと守は歩いて行った。
三笠は思わずクスクスと笑う。
「もう、五島先生の言葉を真似なくてもいいのに。」
するとシュンは目を輝かせながら言った。
「これが親子の愛かぁ…!すげぇな弟!」
赤子に言うと、赤子は言った。
「まもうー。」
それを聞くと、三笠は目を丸くした。
「あれ?守君の名前を覚えさせたの?」
それに対し、シュンは笑顔で頷くのであった。
廊下の休憩スペースには数男が一人、読書をしている。
するとサチはくしゃみをした。
「くしゅっ!」
その声で数男はサチの存在に気づく。
「風邪を引くなよ。」
「わかってます。」
サチはそう言って立ち去ろうとしたが、数男は呼び止めた。
「待てサチ、こっちに来い。」
廊下で二人きりな為か、サチは乗り気ではない。
しかし断れば後でネチネチ言われるのは確かである。
それが嫌で、サチは数男の前に立った。
「なんですか?手短にお願いします。」
しかし数男の視線はサチの目に向けられたままで、話す様子もない。
数男の脳裏に過るのは、久坂を救ってくれた時のサチの眩しい姿。
サチは目を細めて呆れる。
「からかっているんですか?」
「からかう…?」
数男は呆然とそう呟くと、本を置いて席を立った。
そしてサチに近づくので、思わずサチは後退する。
「なっ、なんですか!」
サチは驚いていたが、やがて背が壁に着いた。
その瞬間に数男はサチの行く手を阻む様に片手を壁に添える。
いわゆる壁ドンであった。
サチは肩を驚かせたが、数男はずっとサチを見つめたまま顔を近づける。
二人の顔が近距離まで近づくと、サチは顔を真っ赤にして顔を逸らし目を強く瞑った。
そんなサチを間近で見つめると、数男は鼻で笑う。
その声にサチは目を開いて数男を見上げると、数男は笑みを浮かべて言った。
「からかうって言うのは、こういう事を言うんだサチ。」
サチは数男にハメられた為か顔を紅潮させ、声にならない声を上げた。
数男はそんなサチを見て笑う。
「おかしいな、今日はお前が可愛く見える。」
「これ以上のセクハラは許しません…!」
サチは数男を睨むが、数男はそれでも柔らかな笑みを浮かべた。
「馬鹿な女。」
数男はそう言ってサチから離れると、本を持って立ち去る。
サチは速くなった鼓動を落ちつけながらも、数男の背を睨んだ。
(あの人はいつも…!)
しかし次の瞬間、大きな溜息を吐く。
(護衛の術はあるし、やろうと思えば懲らしめられるのに…五島さんに一度もした試しがないな。…なんでだろう?
…護衛対象だからかな?)
サチはそう思いながら、謎のジレンマに悩まされていた。
場面は戻り。
三笠は守を見て首を傾げる。
「守君はどうして、両親の愛を知りたがっているの?」
「え…」
守は驚いた顔。
それからもじもじとした。
「えっと…えっとね……
最近数男が柔らかくなってきたから…そういうのに強く興味が出てきたというか…」
「そうかぁ…。」
三笠はそう答えると、シュンは目を丸くして言った。
「刺す刺される関係に興味が出てきたのか?」
すると反射的に守は答える。
「違うわい!!」
「守君。」
三笠は守に言った。
守は三笠の方を見ると、三笠は微笑んで言う。
「つまり守君は、五島先生から愛情を貰いたいんだよね?」
「うん…」
守が呟くと、三笠は頷いた。
「だけどね、五島先生は親子の愛を知らないんだよ。
君も言ってたろう?五島先生は暴力をされて育ってきた。つまり五島先生は、子供にはそうするものだと思っているはずだよ。」
守は期待外れなのかムスっとしてしまう。
三笠は続けた。
「でもね、君の言う『最近五島先生が柔らかくなってきた』っていうのは、僕も本当だと思うよ。
もしかしたら、五島先生は何かに気づいたのかもしれないね。思いやりや、愛情を。」
それを聞いて、守は顔を上げて三笠の顔を見た。
三笠は言う。
「守君は、お母さんにどうやって愛情を貰ってきたか覚えているかい?」
「沢山看病してもらった!沢山心配してくれた!お喋りしたら一緒に笑ったり悲しんだりしてくれた!
いつも病院にも付き添ってくれて…お誕生日プレゼントもホンット嬉しかった…!
…でも、数男の暴力については全然信じてもらえなかった…」
守は一喜一憂しながらも答えると、三笠は静かに頷いた。
「守君は父親の愛を知らずとも、こうやって愛を知る事が出来ているよね。
それは、愛情を教えてくれる人が傍にいたからだ。」
「でも数男は…」
守が言うと、三笠は笑顔になって言う。
「なぁに、守君が五島先生に愛情を教えてあげればいいんだよ。」
「エッ!?」
守が驚くと、三笠は続けた。
「人はね、貰ってきた物を相手に与えようとする生き物なんだよ。
…守君もそうじゃないかい?自分達を蔑ろにする五島先生を、同じく蔑ろにしてきたろう?」
三笠の言葉に、守は言葉を詰まらせた。
三笠は頷いた。
「それが五島先生にとっては当たり前なんだ。親に蔑ろにされ、自分も相手を軽んじる。
守君のお母さんもきっと、誰かに沢山愛されてきたから、守君を大事にしてくれているんだと思うよ。」
「で、でも…数男はいくら母さんに愛されたって…母さんの事嫌ってるもん。
嫌だって、勝手に決められた女だからって、…母さん、あんなに頑張ってるのに…!」
守は涙を溜めて言うと、三笠は同情しているのか眉を困らせる。
それから弱々しい笑みを見せた。
「五島先生も、いつまでも親に首を絞められている。
奥さんの話をする度に、親の話が出てくるからね。きっとそのせいかもしれない。」
守はその言葉に反応すると、三笠は続ける。
「きっと五島先生も、親子ってなんだろうって思っているよ。
それはきっと、五島先生一人じゃ知る事は出来ないだろうね。」
三笠の言葉を聞いて、守は瞳を潤わせながらも黙って聞いていた。
それから守は俯いて黙る。
守は迷った顔をして、頭を抱えた。
しかし急に真摯な表情をすると、思い立って立ち上がる。
「僕、数男に教えてやるよ!アイツ、わからず屋だし!」
「おっ。」
三笠が期待の声を出すと、守は頷いた。
「アクションしてやるし…!アイツが血の通った人間だって事、僕が証明してやる!」
そう言ってドスドスと守は歩いて行った。
三笠は思わずクスクスと笑う。
「もう、五島先生の言葉を真似なくてもいいのに。」
するとシュンは目を輝かせながら言った。
「これが親子の愛かぁ…!すげぇな弟!」
赤子に言うと、赤子は言った。
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