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第4章 侵食―エローション―
154 記憶に住む者
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次の日。
第二故郷病院の外にて。
外に生える巨大植物の前に、数男とサチはいた。
サチは昨晩の事もあって不機嫌な様子で言う。
「どうしたんですか?話したい事って。」
「実は、以前から変な夢を見ていてな。」
予想していた流れとは違った為か、サチは不機嫌を忘れて目を丸くした。
「変な夢…?」
「親しげな親子が散歩する夢を毎日見ていた。だが、ミンスが復活してからはパタリと止んでな…」
「ほう。」
「親視点の夢で、談笑をしながらもずっと子供を眺めている夢だ。
色々考えたんだが、その子供があの研究所のボンボンにそっくりなんだよ。」
サチは驚いた。
「奈江島さんの事ですか?」
それに対し、数男は頷いた。
「その子供は親を石っ子ちゃんと呼んでいた。」
「あ。奈江島さんって、石の巫女を石っ子ちゃんって呼んでますね。
石の巫女視点の夢って事ですか…?」
「そして、アイツの母親は石の巫女に捕われたんだろう?
そんな母親の息子に、石の巫女が親しげな会話をするのは意味不明だと私は思うんだ。」
数男の言葉に、サチは考え込む。
「確かにその子供が欲しかったとかではない限り、母親を殺した挙句その子供に優しくなんてできませんね。
…だけど、ただの夢ですよ?」
それに対し、数男は鼻で笑った。
「前にボンボンと石の巫女が仲良くしていたと、三笠が言ってたろう。
それを踏まえて、もしかしたらアイツの母親の記憶が石の巫女にあるんじゃないかと私は考えた。
私がその夢を見る理由はわからないが。」
サチは目を丸くした。
「確かに考えられますね。
その記憶が石の巫女に無ければ、真っ先に秋田親子を殺害してそうですもの。
財力もあり、自分を追いかける力もある。先に始末していなかった方が不思議なくらいです。」
すると数男は巨大植物に近づいて触れた。
「ミンスに初めて触れた時、その日からその夢を毎日見るようになった。
ミンスに力が戻った時、その夢はパタリと止んだ…。
つまり、ミンスのどこかにアイツの母親が…」
その時だ。
植物から優しげな女性の声が聞こえる。
――「その心の動きは……五島数男さん、ですね?」――
「誰だ!」
数男が思わず言うと、サチは首を傾げる。
「どうしたんですか?誰かいました?」
その反応に驚く数男。
サチには何も聞こえていないようだ。
――「急に驚かせてすいません…。
わたくしの声は、石の巫女の力を貰っている植物人間の頭の中にしか聞こえないようなのです…。」――
数男はそれを聞くと驚きながらも、頭の中で言う。
(つまり、私の考えている事も筒抜けか?)
――「はい。
まさか、貴方からわたくしに話に来るとは思いませんでした…。」――
(お前は奈江島喜美子、それでいいんだな?
なぜお前は意識を保っているんだ?)
――「…貴方の仰る通り、わたくしは奈江島喜美子です。
貴方の疑問はわたくしにも詳しくはわかりかねますが、石の巫女がわたくしを心として取り入れたのが原因だと思われます。」――
(心…?)
――「石の巫女は人の心を知りたくて、わたくしの記憶を取り入れた…。わたくしは、彼女の記憶の一部となったのです。」――
(じゃあお前の息子と遊んでた石の巫女の記憶は、事実だな?)
――「はい。二年も見ない内に大きくなった息子を見て、わたくしの感情が抑えきれなくなったようです。」――
(私が夢で見ていたのは…あれはお前のせいか?)
それを数男が問うと、喜美子は少し間を空けてから返事をする。
――「…多分、そうです…。」――
(多分?…なぜそんな事を。)
――「…貴方の心は、わたくしが石の巫女の記憶に最初に触れた時と、よく似ていたからです…。
植物人間の心は常に虚無に満たされている…わたくしはそう感じました。
石の巫女が愛を知ったように、貴方にも伝える事ができたら…と、いつも語りかけていました。
それが、わたくしの記憶が流れる原因だったのかもしれません…。」――
数男は黙り込んだ。
それを傍から見ているサチは、さっきから黙っている数男に首を傾げていた。
数男は続ける。
(お前のせいで、私は感情を、思いやりを、愛情を知るハメになった。)
――「わたくしの勝手のせいで…ご迷惑でしたか…?」――
その言葉に、数男は再び沈黙。
それから数男は答えた。
(損した気分でも、得した気分でもない。)
それに対し喜美子は何も答えない。
数男は続ける。
(お前は今、ミンスの記憶の中にいるのか?)
――「…はい。
これもわたくしの勝手ですが…この世界を、壊して欲しくないのです…。」――
(世界を壊す…?隕石の事か。)
――「ええ。あんな恐ろしい出来事…二度も起こしてはなりません…!
わたくしは彼女の心の中に残ります。そうする事で、彼女がいつまでもこの世界を愛せるのなら…。
愛せるのなら、きっと恐ろしい事はしないと考えております…。」――
喜美子の悲しくも強い思いが感じられた数男。
数男は真摯な表情を見せた。
(お前も私達と考えている事は似ている…か。
…じゃああまりここに長居されても困るな。さっさとミンスの記憶に戻った方がいい。)
喜美子はそれを黙って聞いていると、数男は何かを思ったのか聞いた。
(息子に…言っておきたい事はないか?)
すると喜美子は少しの沈黙の後に言う。
――「わたくしの事はどうか綺瑠には伝えないで…。
例えわたくしが彼女の中にいると勘づいていても、真実は伝えないであげてください…。
いつまでも、…いつまでも。」――
最後の言葉に、数男は多少の違和感を感じつつも返事をした。
(わかった…。すまない、時間を取らせたな。)
――「いいえ…。
五島さん、貴方に幸あらん事を…」――
喜美子はそう言い残すと、声が聞こえなくなってしまう。
数男は巨大植物から手を離し、植物を見上げた。
サチはやっと聞く。
「何があったんですか?ずっとボーッとして。」
「…いいや、何でもない。」
「え?」
サチが目を丸くすると、数男は眉を潜めて言う。
「帰るぞ。」
そう言って立ち去るので、サチは首を傾げながらも数男を追いかけた。
数男はサチを見ながらも思う。
(お前は嘘をつくのが苦手だからな…。言わない方が為かもしれない。)
第二故郷病院の外にて。
外に生える巨大植物の前に、数男とサチはいた。
サチは昨晩の事もあって不機嫌な様子で言う。
「どうしたんですか?話したい事って。」
「実は、以前から変な夢を見ていてな。」
予想していた流れとは違った為か、サチは不機嫌を忘れて目を丸くした。
「変な夢…?」
「親しげな親子が散歩する夢を毎日見ていた。だが、ミンスが復活してからはパタリと止んでな…」
「ほう。」
「親視点の夢で、談笑をしながらもずっと子供を眺めている夢だ。
色々考えたんだが、その子供があの研究所のボンボンにそっくりなんだよ。」
サチは驚いた。
「奈江島さんの事ですか?」
それに対し、数男は頷いた。
「その子供は親を石っ子ちゃんと呼んでいた。」
「あ。奈江島さんって、石の巫女を石っ子ちゃんって呼んでますね。
石の巫女視点の夢って事ですか…?」
「そして、アイツの母親は石の巫女に捕われたんだろう?
そんな母親の息子に、石の巫女が親しげな会話をするのは意味不明だと私は思うんだ。」
数男の言葉に、サチは考え込む。
「確かにその子供が欲しかったとかではない限り、母親を殺した挙句その子供に優しくなんてできませんね。
…だけど、ただの夢ですよ?」
それに対し、数男は鼻で笑った。
「前にボンボンと石の巫女が仲良くしていたと、三笠が言ってたろう。
それを踏まえて、もしかしたらアイツの母親の記憶が石の巫女にあるんじゃないかと私は考えた。
私がその夢を見る理由はわからないが。」
サチは目を丸くした。
「確かに考えられますね。
その記憶が石の巫女に無ければ、真っ先に秋田親子を殺害してそうですもの。
財力もあり、自分を追いかける力もある。先に始末していなかった方が不思議なくらいです。」
すると数男は巨大植物に近づいて触れた。
「ミンスに初めて触れた時、その日からその夢を毎日見るようになった。
ミンスに力が戻った時、その夢はパタリと止んだ…。
つまり、ミンスのどこかにアイツの母親が…」
その時だ。
植物から優しげな女性の声が聞こえる。
――「その心の動きは……五島数男さん、ですね?」――
「誰だ!」
数男が思わず言うと、サチは首を傾げる。
「どうしたんですか?誰かいました?」
その反応に驚く数男。
サチには何も聞こえていないようだ。
――「急に驚かせてすいません…。
わたくしの声は、石の巫女の力を貰っている植物人間の頭の中にしか聞こえないようなのです…。」――
数男はそれを聞くと驚きながらも、頭の中で言う。
(つまり、私の考えている事も筒抜けか?)
――「はい。
まさか、貴方からわたくしに話に来るとは思いませんでした…。」――
(お前は奈江島喜美子、それでいいんだな?
なぜお前は意識を保っているんだ?)
――「…貴方の仰る通り、わたくしは奈江島喜美子です。
貴方の疑問はわたくしにも詳しくはわかりかねますが、石の巫女がわたくしを心として取り入れたのが原因だと思われます。」――
(心…?)
――「石の巫女は人の心を知りたくて、わたくしの記憶を取り入れた…。わたくしは、彼女の記憶の一部となったのです。」――
(じゃあお前の息子と遊んでた石の巫女の記憶は、事実だな?)
――「はい。二年も見ない内に大きくなった息子を見て、わたくしの感情が抑えきれなくなったようです。」――
(私が夢で見ていたのは…あれはお前のせいか?)
それを数男が問うと、喜美子は少し間を空けてから返事をする。
――「…多分、そうです…。」――
(多分?…なぜそんな事を。)
――「…貴方の心は、わたくしが石の巫女の記憶に最初に触れた時と、よく似ていたからです…。
植物人間の心は常に虚無に満たされている…わたくしはそう感じました。
石の巫女が愛を知ったように、貴方にも伝える事ができたら…と、いつも語りかけていました。
それが、わたくしの記憶が流れる原因だったのかもしれません…。」――
数男は黙り込んだ。
それを傍から見ているサチは、さっきから黙っている数男に首を傾げていた。
数男は続ける。
(お前のせいで、私は感情を、思いやりを、愛情を知るハメになった。)
――「わたくしの勝手のせいで…ご迷惑でしたか…?」――
その言葉に、数男は再び沈黙。
それから数男は答えた。
(損した気分でも、得した気分でもない。)
それに対し喜美子は何も答えない。
数男は続ける。
(お前は今、ミンスの記憶の中にいるのか?)
――「…はい。
これもわたくしの勝手ですが…この世界を、壊して欲しくないのです…。」――
(世界を壊す…?隕石の事か。)
――「ええ。あんな恐ろしい出来事…二度も起こしてはなりません…!
わたくしは彼女の心の中に残ります。そうする事で、彼女がいつまでもこの世界を愛せるのなら…。
愛せるのなら、きっと恐ろしい事はしないと考えております…。」――
喜美子の悲しくも強い思いが感じられた数男。
数男は真摯な表情を見せた。
(お前も私達と考えている事は似ている…か。
…じゃああまりここに長居されても困るな。さっさとミンスの記憶に戻った方がいい。)
喜美子はそれを黙って聞いていると、数男は何かを思ったのか聞いた。
(息子に…言っておきたい事はないか?)
すると喜美子は少しの沈黙の後に言う。
――「わたくしの事はどうか綺瑠には伝えないで…。
例えわたくしが彼女の中にいると勘づいていても、真実は伝えないであげてください…。
いつまでも、…いつまでも。」――
最後の言葉に、数男は多少の違和感を感じつつも返事をした。
(わかった…。すまない、時間を取らせたな。)
――「いいえ…。
五島さん、貴方に幸あらん事を…」――
喜美子はそう言い残すと、声が聞こえなくなってしまう。
数男は巨大植物から手を離し、植物を見上げた。
サチはやっと聞く。
「何があったんですか?ずっとボーッとして。」
「…いいや、何でもない。」
「え?」
サチが目を丸くすると、数男は眉を潜めて言う。
「帰るぞ。」
そう言って立ち去るので、サチは首を傾げながらも数男を追いかけた。
数男はサチを見ながらも思う。
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