植物人間の子

うてな

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第4章 侵食―エローション―

161 多くあった方がいいのに

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守は買い物を終え、第二故郷病院の前まで帰ってきていた。
病院前では車に乗った綺瑠と誠治。
誠治は笑顔で守に手を振った。

「ファイトだよ、守!」

それに対し、笑顔で守は手を振る。

「うん!」

すると綺瑠は、お菓子の小さなラムネボトルを見せて言った。

「これありがとう。誠治と仲良く食べるよ。」

「おう!食ってけ!」

そう言って守は走って帰っていった。
それを見送った二人。
綺瑠は小さなラムネを一つ食べると、しみじみした様子で言った。

「他人から物を奢られるなんて、きぃくん以外では初めてだよ…!」

対し、誠治は苦笑。

「いや、元は奈江島さんのお金でしょう。」

「それでも感動している。」

綺瑠はそう言うと、その小さいラムネボトルを見つめて言った。

「小さい物を一つしか貰ってないのに、とても嬉しい。
今なら、初めて誠治に会った時に言われた言葉を理解できる。」

誠治は首を傾げた。

「そう言えば、奈江島さんとの出会いってもみじ公園ででしたね。
もみじ公園にはよく来ていたんですか?」

「いや、彼が減量の為にランニングをしていて、一時的にもみじ公園を利用してたんだ。
そしたら君がいつもゴミ拾いをしていて、それが不思議でたまらなくて話しかけたんだよ。」

「そんなに不思議ですか?」

誠治の言葉に、綺瑠は頷く。

「人間は損得で生きる生き物だって彼は思ってる。だから君の何も得られない行動が不思議に思えたんだ。
君は一人で公園のゴミ拾いしている時に、彼が欲しい物を訪ねた事を覚えてるかい?」

誠治はそれを思い出すと、目を剥いて言った。

「勿論です。
それで『一緒にゴミ拾いしてくれる人』って言ったら、次の日大勢のボランティアが来て。
急な出来事に困惑して、気を失ってしまって…!」

誠治はその日を思い出すと精神がやられるのか、圧倒された様子を見せる。

「そうそう。それで彼が誠治に謝罪に行ったら、誠治は何て言ったか覚えてる?」

誠治は忘れているのか首を傾げた。
すると綺瑠は、車の窓の外を眺めながら言う。

「『一緒にお話しながら、この公園の為に頑張ってくれる人なら、例え一人でも嬉しい。』って。
僕も彼も驚いたよ。多くあった方がいい物を、一つで事足りるって言い出した人は初めてでさ。」

それを聞いた誠治は目を丸くした。
すると誠治は照れた顔。

「そんな事言いましたね…!
…その日からですね、奈江島さんが一緒にゴミ拾いに来てくれる様になったのも。」

「ああ。彼はどうしても君が気になってしまってね、君って本当に不思議な人だから。」

「そんな変ですかね…?」

誠治は眉を困らせてしまうと、綺瑠は頷いて言った。

「うん、すっごく変。」

「えぇえ…。」

誠治はそう言って困惑していたが、すぐにいつもの表情に。

「あ、そうだ。
奈江島さんに唯一物を奢った『きぃくん』って誰か気になりますね。
富豪さんに物を奢る方…どんな方なんです?」

「ん?」

綺瑠はそう言うと、次にクスッと笑って微笑んだ。
穏やかな笑みだったので、誠治は目を丸くした。
綺瑠は照れた様子で言う。

「なんて言えばいいかな…。
彼で言えば誠治みたいな存在だよ、きぃくんは。」



一方、守は五階の会議室まで帰ってきていた。
数男は光の届きやすい窓際にて、歴史書を読んでいた。
守は緊張した様子を見せながら、ネクタイの入った紙袋を胸に抱えた。
サチは守を見ると言った。

「お帰り守君。」

守はビクッと驚くと、サチに言う。

「たっ、たたたたタダイマスター!」

「あれ、この袋ってエンジェルスネイティブの…。今は全店閉店してるのに。」

サチに聞かれると、守は焦った。
それから目を思い切り瞑りながら言った。

「検査したから、綺瑠さんに我儘言ったら開けてくれたの!」

サチは理解ができずに首を傾げると、そこへアンジェルがやってくる。

「服にしちゃ小さい荷物だね。小物かな?」

守はギョッとすると、サチも言った。

「守君なら小物より、とびきり可愛い服を買いそうな気もするわね。」

「うっ、うるさいさいさいさいのくにぃ!!」

守はそう言いながら、二人の間を駆け抜けた。
すると丁度数男が歩いてくる。
数男はどうやらサチに用がある様子。
守は数男にぶつかりそうな手前で足を止めた。
数男は眉を潜める。

「危ないぞ。」

「うるせぇ!」

守は反射的に言ってしまう。
すると数男は頭に来たのか、守の髪を掴もうとした。
それに恐怖で驚く守。
それを見たサチは止める。

「数男さん!暴力は駄目と言いましたよね!?」

すると数男は眉を潜め、解せない様子で手を下ろした。

「…つい癖で。」

数男はいつからか、サチの言う事なら素直に聞くようになっていた。
それを見ると、守は驚いた顔。
サチは溜息をついて数男を睨んでいると、守は紙袋を強く抱えた。

「おい数男。」

守が勇気を出して声をかけると、数男は眉を潜める。

「あ?」

すると守は紙袋を数男に押し付けた。

「やるよ。」

数男は紙袋を貰い、中の小さな箱を取り出した。
綺麗に包装されているので、サチは察したのか目を丸くした。

「守君、これって…!」

しかし数男は理解していないのか、そのまま開けた。
中から赤いネクタイが出てきたので、そこでやっと数男は目を丸くする。

「ネクタイ…?」

まるで何が起こったのか理解していない表情。
すると守は顔を真っ赤にして、サチの後ろに隠れてしまう。
サチは目を丸くすると、守は言った。

「誕生日近いんだろ!!やるよ!!」

「誕生日…?」

数男は目を丸くしたままだった。
サチも驚いた様子だったが、笑みを浮かべる。

「やっぱり、誕生日プレゼントなのね…!」

サチの言葉に数男は思う。

(プレゼント…?)

すると数男は、小さい頃を思い出していた。
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