一羽の天使、悪魔の村にまい降りて。

うてな

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11 アジサイ:団欒

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地震が起こった為、村は混乱状態に陥っていた。
ガタがきた建物がそこそこある為に、家にいるのが不安になってきた人が出てきたのだ。

ガリーナはニコライと手を繋いで、村の人が集まる広場にやってきた。
広場には多くの花が咲き乱れており、ニコライは跳ねて喜ぶ。
それを傍に広場の人は、ガリーナを見つけると言う。

「ああ、ガリーナさん。牧師様は今どこにおられますか?」

「ワレリーさんは…」

(置いてきちゃった…)

ガリーナは苦笑してしまう。

「えっと、はぐれちゃいました。夫に何か用ですか?」

「村の緊急事態だからこそ、神の助言が必要なのです…!
我々は、これからどうすればよろしいのでしょうか…」

するとガリーナは顔を引き攣った。

(そ…そんな事パーヴェルくんに聞いてもわからないだろうし…どうしましょ…)

ガリーナが焦る中、ニコライは花を毟り、そこらに色とりどりの花びらを散らせて遊んでいた。

 =================================

パーヴェルは村の人に助言を求められたりと疲れており、なかなかガリーナを探しに行けない。

(て言うか俺じゃ助言なんて無理だ…!ワレリー兄様助けて…!)

パーヴェルは村人に囲まれながらもそんな事を考えていると、そこにワレリーが走ってきた。

「ワレリー兄様!少しお話があるのでこちらに来ていただけますか!」

ワレリーの声を聞いたパーヴェルは、目を輝かせてワレリーの元へ走る。

「わっかりました!」

そう言って二人は村の花畑を通り、森に向かう。
森に着くと、二人は人の気配のない茂みに隠れた。
ワレリーはパーヴェルに言う。

「今、村が大騒ぎなのはわかってますよね?パーヴェル。」

「はい。」

パーヴェルは頷くと、ワレリーは自分の服を指でつまむと言った。

「入れ替わった私とあなた、一度戻しましょう。
あなたは村の為に物資の供給を、私は村人に指示を出します。
わかりましたね?」

「勿論ですワレリー兄様!」

パーヴェルの元気のいい返事に、ワレリーは微笑むとその場で服を脱ぎ始める。

「自動車の運転の仕方は覚えていますか?四年も運転していないでしょう?」

パーヴェルも牧師服を脱ぎながら上の空を見て言った。

「ま、なんとかなるでしょ。」

「ふふ、パーヴェルらしいです。」

ワレリーは笑うと、服を取り替える。
パーヴェルは自分の仕事着を見ると言った。

「ひゃー四年ぶりだ!服のサイズもちゃんと変わってる!」

「四年も経てば体も成長しますからね。…サイズに関してはお互い問題ありませんね。」

ワレリーの言葉を聞いて、パーヴェルはニッコリ笑う。

「ですね!だって一つしか歳違わないし!」

パーヴェルも着替えを終えると、ワレリーは耳のピアスをパーヴェルに渡した。
パーヴェルはピアスを受け取ると、ワレリーのピアス穴を見て言う。

「バレないですか?穴。」

「その時はその時です。」

パーヴェルはそれを聞いて笑いながらもピアスをポケットにしまう。

「ワレリー兄様がピアス付けていると新鮮でしたね。どうでした?ピアス。」

「穴を開けないタイプのピアスが欲しいと思いました。」

ワレリーはニコニコした顔で言うと、パーヴェルは笑った。

「じゃ、今度俺が作りますよ?ワレリー兄様の誕生日にでも!」

「おや、手先が器用なパーヴェルなら任せて安心ですね。楽しみにしています。」

「どーんと来いです!」

二人は茂みから出ると、お互いの服装を見る。
パーヴェルはワレリーの牧師姿を見つめると笑った。

「なんか、昔に戻りましたね!」

「お互いだいぶ大きくなってしまいましたがね。」

ワレリーも笑って言うと、パーヴェルは声をあげて笑う。
するとワレリーはふと思い出した顔をして言った。

「あ、そう言えばあなたの家にもガタが来ていましたので、何かあれば家に来てください。」

パーヴェルはそれを聞いてギョッとしてから苦笑。

「あっちゃ~そっか!ま、なんとかなりますって!
そんな事より!俺のガリーナに手を出しちゃダメですよ!」

「おやおや、心配なのですね。もう少しお兄様を信頼してください。」

(とは言い、機会があればあの日の儀式を行うつもりですが。)

抜け目のないワレリー。
そんな事も知らずに、ワレリーの言葉に笑ってしまうパーヴェル。

「はいはい!じゃ、さっさと行きましょう!」

「パーヴェル、あなたは早速村の外から布団の代わりになるものと、特に保存のきく食料。
来月分の資金も使いなさい。
生活に必要な物をできるだけ多く…多少強引な手を使っても構いません、村の為に収集なさい。いいですね?」

ワレリーの指示に、パーヴェルは笑顔で答える。

「仰せのままに、お兄様!」

ワレリーはパーヴェルの顔を見て頷くと、歩き出した。
パーヴェルはワレリーが歩き出すと、走って持ち場に向かう。
こうして二人は、お互い本来の仕事に向かった。

 ================

ガリーナは広場で村人と共にパーヴェルを待っていると、牧師服を着たワレリーが現れた。
村人はゾロゾロとワレリーに集まると、ガリーナもワレリーに気づく。
ワレリーは村人に向かって言った。

「村の学校を開放しました。
家が駄目になってしまった方は、学校の教室を使ってください。
布団等は弟のパーヴェルに任せて今集めてもらっています。
ですが数が足りない場合もありますので、自宅から持参できる人は持ってきてください。」

ガリーナは目を輝かせていた。

(パーヴェルくん…!やればワレリーさんみたいな事できるじゃない…!)

なんと、ガリーナは本物のワレリーである事に気づいていない。
ワレリーは更に続けた。

「地震の被害に遭ったのはこの村だけではありません。
その為、これから食料や物資不足などの問題が多く発生するでしょう。

後先考えない物資の消費は厳禁とします。
皆さん、お互い助け合いながら頑張りましょうね。」

『はい』

村人は一斉に返事をすると、ワレリーの案内で村人は学校へ向かう。
ガリーナは感心していると、手を繋いでいたニコライに言った。

「パパかっこいいね。」

しかしニコライはワレリーには無関心。
ニコライは急に叫ぶ。

「わー!」

そう言って誰もいなくなった広場をぐるぐると走り回った。
深い意味はないのだろうが、ただただひたすら走る。
ガリーナは笑ってしまうと、後ろからニコライを追いかけた。
ニコライは背後のガリーナに気づくと、走るスピードを早くしていく。

「マーマーッ!」

「待てー!」

ガリーナは追いかけていると、地面の凹凸に足を引っ掛けて転んでしまった。

「うぅ…」

ガリーナは立ち上がろうとすると、ニコライが背中を踏みつけて走り続ける。

「ぐはっ」

ガリーナはニコライに意地悪をされた気分になる。
ニコライは踏んだ事も気づいていないのか、ずっと走り続けていた。

「酷い…」

ガリーナは涙目になっている。
ニコライは夢中になって走っていると、木に留まった鷹を発見。

「ねっこ!」

ニコライは鷹に近づくと、ガリーナはそれを見て慌てる。

「ダメよニコライ!」

ガリーナは走ってニコライに向かっていくと、鷹は糞を落とした。
その糞は見事ニコライの顔面にかかると、ガリーナは絶叫。

「キャーッ!
に、ニコライ大丈夫!?」

ニコライは口まで滴る糞を食べようとしているのか口を開けるので、ガリーナは全力で阻止。

「ダメ!ダメよニコライ~!」

ハンカチでニコライの顔を拭くと、ガリーナはニコライを連れて家へ帰る。
ガリーナは悲しさからか、また涙を流していた。

そしてガリーナの不祝儀の涙のせいか、空は厚い雲に覆われていった。


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