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23 ダチュラ:偽りに満ちた魅力
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数日後の朝、洗濯を干し終えたガリーナはリビングへ向かう。
するとワレリーとニコライがいて、二人は保育園のダンスの練習をしていた。
「おーはな おーはな」
とワレリーは歌っているが、ニコライは楽器で遊ぶだけ。
「踊ってくれない?」
ガリーナは聞くと、ワレリーは微妙な反応を見せる。
「そうですね、先は長そうです。」
ガリーナはそれに笑ってしまうと、ワレリーも一緒に笑った。
(パーヴェルくん、最近はずっと穏やかだなぁ。)
二人の和ましい声を聞いたニコライは、楽器をさっきよりも強く鳴らす。
ニコライの反応に二人は癒されていると、ワレリーはニコライを抱っこした。
ニコライはふと、ワレリーのピアス穴に注目。
ワレリーの耳に触れたので、ワレリーは驚く。
「うるさい!」
ニコライが言うので、ワレリーの耳に声が響いた。
ワレリーは一瞬怯んでいると、ガリーナは困った顔をしてニコライを止める。
「やめなさい、パパが嫌がってるわよ。」
ガリーナはそう言って抱っこを代わってやると、ワレリーのピアス穴に気づいた。
「あれ、このピアス穴…」
ワレリーは反射的にその耳を手で隠してしまうと、ガリーナは眉を潜める。
「いつ開けたの?パーヴェルくんと同じ場所に開けちゃってさ…」
ガリーナが聞くと、ワレリーはガリーナから視線を逸らした。
ワレリーは一度深呼吸。
(そうです。
いつまでも私がパーヴェルと偽っていたら、本物のパーヴェルに戻った時どうなる…?
またニコライが、ガリーナが悲しい思いをするのでは…?
いっそ入れ替わりの日が近い今、明かすべきではないですか…?
私は…あなたの本当の夫ではなかったと…。
本物のワレリーであった事を…)
ワレリーは思い切って、目を開いてガリーナを見つめる。
「申し訳ありません。
…私は、あなたの夫ではないワレリーです。」
ワレリーの四白眼を見たガリーナは、驚きで一歩後すざりしてしまった。
ニコライは楽しげに楽器を振っていたが、二人の様子を見て黙り込む。
ワレリーは続けた。
「地震のあった日、仕事を効率良く進める為にパーヴェルと入れ替わりました。」
「なんで黙ってたの…?」
ガリーナが聞く。
「それはあなたもおわかりでしょう?」
それを聞いたガリーナは恐怖を感じた表情を見せた。
ニコライをギュッと庇うように抱きしめ、今一度ワレリーから距離を置く。
「私を…悪魔の儀式の生贄に捧げようとして近づいた…のね…。」
しかしワレリーは腑に落ちない表情を見せた。
ガリーナの表情は悲しみに満ち、目に涙を溜める。
「でももうダメ…。私、死ねないもん…!ニコライの為に生きるって決めたもん!」
ガリーナの言葉にワレリーは動きを止めると、それを受け止めたのか頷いた。
しかしガリーナはワレリーから視線を逸らしていた為に気づかない。
「ニコライに優しくしてたのはパーヴェルくんじゃなくて、儀式の為に近づいたワレリーさんで…!
私っ…ずっとパーヴェルくんが穏やかになったんだって思ってたのに…!思ってたのに…」
「事実はいづれ言おうと考えていました…。
しかし、…ニコライが成長する度に、あなたが幸せな顔を見せる度に言いづらくなり…」
ワレリーの言葉を聞いたガリーナは涙を流して言い放つ。
「酷いっ!ワレリーさん…いつもいつも私達を騙してばっかり…!
レギーナだって…パーヴェルくんの事が好きなのに、あなたがレギーナを愛したフリして!
酷い…!私も同じ事されたんだわ…!」
ガリーナは泣き崩れてしまうと、ニコライはガリーナを見た。
「マーマ。」
ニコライの声を聞いたガリーナは、ニコライの頭を手で押さえながら抱きしめる。
ワレリーはガリーナを見つめ、落ち着いた様子で言った。
「ごめんなさい…私と話した事は全てお忘れなさい。」
ガリーナは何も答えずに泣いているので、ワレリーは家を立ち去る。
ニコライは急に離れ離れになった二人に、キョロキョロと辺りを見回していた。
===============================
ワレリーはパーヴェルの家まで来ていた。
パーヴェルの家には誰もおらず、静かだった。
ワレリーはリビングまで歩くと、暫くボーッとする。
魂が抜かれたような、呆然と何かを考えている顔だった。
ワレリーはボーッとしていると、急に思い立って冷蔵庫を開いた。
冷蔵庫の中は数日分の食料がギッシリ詰まっており、よく食べるパーヴェルらしい冷蔵庫内。
ワレリーは冷蔵庫の食料に手を出すと、三つの卵と肉とマヨネーズを手に取った。
更にフライパンを用意すると、火にかけてたっぷりの油を引く。
そして先程手に取った卵三つと肉を焼くと、ジューッといい音が鳴り響いた。
肉の香り、焼ける食材を見つめるワレリー。
そして食材を調理し終えると、皿に盛って机に置いた。
手に持っていたマヨネーズを食材に溢れんばかりにかけると、ワレリーは席に着いて食べ始める。
「うっ…」
言わずもがな、薄味を好むワレリーにこの味はキツイ。
声をあげて口を押さえてしまうが、それでも食事を続けた。
==================
夕方、パーヴェルは帰宅。
リビングのいい匂いに、パーヴェルは鼻を利かせた。
(レギーナが料理でもしてんのかな?飯飯~)
パーヴェルは料理が楽しみでリビングを覗くと、そこにはワレリー。
パーヴェルは目を丸くした。
机の上に皿が数枚、机の上に水の入ったコップ、使用後のフライパン、なくなりかけのマヨネーズ瓶、諸々を見てワレリーが食事をしているものと知る。
しかもただの食事ではない、過食である。
パーヴェルはワレリーの正面に座ると言った。
「どうしたんですかワレリー兄様?暴食に走るだなんて珍しいですね~」
ワレリーは抜け殻の様な顔をして呟く。
「勝手に食べて申し訳ありません…全て弁償しますから…」
それを聞くとパーヴェルは笑った。
「いいですって!それよりもワレリー兄様どうしたんですか?
兄様さ、上手くいかない事があると取り憑かれた様に食べるようになりますから。」
ワレリーはそう言われると、見透かされた事にぶわっと顔を赤くする。
そして下唇を軽く噛むと、次に頭を抱えて言った。
「私は…とんでもないヘマをしたのです…!」
「どゆこと?」
パーヴェルは鼻で笑うと、ワレリーは流し込むように水を飲む。
「申し訳ございませんパーヴェル…私の正体と、あなたが本当の夫である事がガリーナに知られました。」
ワレリーの告白にパーヴェルは驚いた。
「えぇっ!?で、ガリーナはガリーナは!?」
「…私がガリーナも、レギーナも騙してきたのです。怒られたに決まっているでしょう。」
「え、でも俺だって入れ替わってたわけだし…!俺も嫌われたかな…」
パーヴェルは焦った様子で言うと、ワレリーは落ち着いた様子になってからパーヴェルに微笑む。
「私が言い出した事です。あなたが責任を感じる必要はありません。
勿論、真実を知ってもあなたを責める者はいません。私を信じなさい。」
「はい…」
パーヴェルは困った様子で返事をすると、次にワレリーの顔色を伺った。
俯いて考え、手に持ったコップを強く握る。
そんなワレリーを見てパーヴェルは言った。
「ワレリー兄様…?まさか、責任感じてます…?」
「当たり前でしょう。」
「気にしないでくださいよ兄様!兄様は村を背負ってるビッグなお方なんですからね!
生まれた頃から兄様を見てきてる俺ならわかります!兄様なら大丈夫!」
パーヴェルは精一杯慰めたつもりだが、ワレリーには響くどころか重荷に感じる。
しかしワレリーはパーヴェルの気持ちだけは受け取れたのか、無理に微笑んでくれた。
「そうですね。お兄様に全てお任せなさい、パーヴェル。」
「へへ!それでこそ兄様です!」
パーヴェルは陽気に笑うと、ワレリーは言う。
「パーヴェル、あなたは家に帰りなさい。愛する者がいる家へ。」
「は…」
パーヴェルはいつもの慣れで返事をしようとしたが、笑顔のまま言い直した。
「今夜だけいさせてください!仕事残ってますので!
兄様、久しぶりに一緒に寝ましょ!」
ワレリーはそれを聞いてキョトンとするが、パーヴェルと同じで微笑む。
「ええ。」
===
夜。
今日の空は薄い雲に覆われ、星は薄光を放っている。
ワレリーとパーヴェルは同じベッドの上で寝ていた。
一人用のベッドである為か、青年二人の体では窮屈。
大人しく眠っているパーヴェルを見つめるワレリー。
ワレリーは天井を見上げると考え事をした。
(二人に事実を話した時、どこか期待していた。
私を…受け入れてくれるのではないかと…密かに…。
二人が望んでいるのは、私ではなくパーヴェルだというのに…)
ワレリーは拳を握った。
(私は…彼女達の愛に期待していたのですか…?)
すると、ワレリーの脳裏に教会の裏側での出来事が浮かんだ。
初めて教会の裏の真実を知った時、神が存在しない事に深い絶望を感じた事。
教会に来る村人の実態を知り、失望をした事。
苦しそうにワレリーは眉を潜め、胸の前で手を組む。
(私は何を考えているのですか…!期待など…愚かです…!
どれだけものを与えても、村人達は変わらない…彼等は悪魔のまま…!
あの時理解したではないですか…!)
ワレリーは目をゆっくり閉じると、ニコライが思い浮かんだ。
ワレリーが家に来てから、ワレリーの目に見えるニコライの悪魔の角や翼が引っ込んできている。
最初は小さな魔王の様な容姿だったものの、今では悪魔か小悪魔程度の容姿なのだ。
(でもニコライは変われた…
悪魔から…徐々に人間へ…)
ワレリーはそう思うと、更にパーヴェルやガリーナの笑顔が浮かび上がる。
(ならば彼等にも希望はありますか…?
…星の花となる希望が…
私の目から悪魔が消える日は来るのでしょうか…)
ワレリーは思いを脳裏に描くと、握る手に力を込める。
(私の勤めは、この身を削ってでも村を守りぬく事…。
それは村の幸福を祈り、害悪を取り除く事。)
ワレリーはガリーナの言葉を思い出す。
――「ニコライの為に生きるって決めたもん!」――
(彼女の決意を無駄にはできない。
私は、あの一家が幸せの為ならばどうなってもいい…。)
するとワレリーは目を開く。
覚悟を決めた目だ。
(となれば、私の果たすべき事はただ一つ…)
するとワレリーとニコライがいて、二人は保育園のダンスの練習をしていた。
「おーはな おーはな」
とワレリーは歌っているが、ニコライは楽器で遊ぶだけ。
「踊ってくれない?」
ガリーナは聞くと、ワレリーは微妙な反応を見せる。
「そうですね、先は長そうです。」
ガリーナはそれに笑ってしまうと、ワレリーも一緒に笑った。
(パーヴェルくん、最近はずっと穏やかだなぁ。)
二人の和ましい声を聞いたニコライは、楽器をさっきよりも強く鳴らす。
ニコライの反応に二人は癒されていると、ワレリーはニコライを抱っこした。
ニコライはふと、ワレリーのピアス穴に注目。
ワレリーの耳に触れたので、ワレリーは驚く。
「うるさい!」
ニコライが言うので、ワレリーの耳に声が響いた。
ワレリーは一瞬怯んでいると、ガリーナは困った顔をしてニコライを止める。
「やめなさい、パパが嫌がってるわよ。」
ガリーナはそう言って抱っこを代わってやると、ワレリーのピアス穴に気づいた。
「あれ、このピアス穴…」
ワレリーは反射的にその耳を手で隠してしまうと、ガリーナは眉を潜める。
「いつ開けたの?パーヴェルくんと同じ場所に開けちゃってさ…」
ガリーナが聞くと、ワレリーはガリーナから視線を逸らした。
ワレリーは一度深呼吸。
(そうです。
いつまでも私がパーヴェルと偽っていたら、本物のパーヴェルに戻った時どうなる…?
またニコライが、ガリーナが悲しい思いをするのでは…?
いっそ入れ替わりの日が近い今、明かすべきではないですか…?
私は…あなたの本当の夫ではなかったと…。
本物のワレリーであった事を…)
ワレリーは思い切って、目を開いてガリーナを見つめる。
「申し訳ありません。
…私は、あなたの夫ではないワレリーです。」
ワレリーの四白眼を見たガリーナは、驚きで一歩後すざりしてしまった。
ニコライは楽しげに楽器を振っていたが、二人の様子を見て黙り込む。
ワレリーは続けた。
「地震のあった日、仕事を効率良く進める為にパーヴェルと入れ替わりました。」
「なんで黙ってたの…?」
ガリーナが聞く。
「それはあなたもおわかりでしょう?」
それを聞いたガリーナは恐怖を感じた表情を見せた。
ニコライをギュッと庇うように抱きしめ、今一度ワレリーから距離を置く。
「私を…悪魔の儀式の生贄に捧げようとして近づいた…のね…。」
しかしワレリーは腑に落ちない表情を見せた。
ガリーナの表情は悲しみに満ち、目に涙を溜める。
「でももうダメ…。私、死ねないもん…!ニコライの為に生きるって決めたもん!」
ガリーナの言葉にワレリーは動きを止めると、それを受け止めたのか頷いた。
しかしガリーナはワレリーから視線を逸らしていた為に気づかない。
「ニコライに優しくしてたのはパーヴェルくんじゃなくて、儀式の為に近づいたワレリーさんで…!
私っ…ずっとパーヴェルくんが穏やかになったんだって思ってたのに…!思ってたのに…」
「事実はいづれ言おうと考えていました…。
しかし、…ニコライが成長する度に、あなたが幸せな顔を見せる度に言いづらくなり…」
ワレリーの言葉を聞いたガリーナは涙を流して言い放つ。
「酷いっ!ワレリーさん…いつもいつも私達を騙してばっかり…!
レギーナだって…パーヴェルくんの事が好きなのに、あなたがレギーナを愛したフリして!
酷い…!私も同じ事されたんだわ…!」
ガリーナは泣き崩れてしまうと、ニコライはガリーナを見た。
「マーマ。」
ニコライの声を聞いたガリーナは、ニコライの頭を手で押さえながら抱きしめる。
ワレリーはガリーナを見つめ、落ち着いた様子で言った。
「ごめんなさい…私と話した事は全てお忘れなさい。」
ガリーナは何も答えずに泣いているので、ワレリーは家を立ち去る。
ニコライは急に離れ離れになった二人に、キョロキョロと辺りを見回していた。
===============================
ワレリーはパーヴェルの家まで来ていた。
パーヴェルの家には誰もおらず、静かだった。
ワレリーはリビングまで歩くと、暫くボーッとする。
魂が抜かれたような、呆然と何かを考えている顔だった。
ワレリーはボーッとしていると、急に思い立って冷蔵庫を開いた。
冷蔵庫の中は数日分の食料がギッシリ詰まっており、よく食べるパーヴェルらしい冷蔵庫内。
ワレリーは冷蔵庫の食料に手を出すと、三つの卵と肉とマヨネーズを手に取った。
更にフライパンを用意すると、火にかけてたっぷりの油を引く。
そして先程手に取った卵三つと肉を焼くと、ジューッといい音が鳴り響いた。
肉の香り、焼ける食材を見つめるワレリー。
そして食材を調理し終えると、皿に盛って机に置いた。
手に持っていたマヨネーズを食材に溢れんばかりにかけると、ワレリーは席に着いて食べ始める。
「うっ…」
言わずもがな、薄味を好むワレリーにこの味はキツイ。
声をあげて口を押さえてしまうが、それでも食事を続けた。
==================
夕方、パーヴェルは帰宅。
リビングのいい匂いに、パーヴェルは鼻を利かせた。
(レギーナが料理でもしてんのかな?飯飯~)
パーヴェルは料理が楽しみでリビングを覗くと、そこにはワレリー。
パーヴェルは目を丸くした。
机の上に皿が数枚、机の上に水の入ったコップ、使用後のフライパン、なくなりかけのマヨネーズ瓶、諸々を見てワレリーが食事をしているものと知る。
しかもただの食事ではない、過食である。
パーヴェルはワレリーの正面に座ると言った。
「どうしたんですかワレリー兄様?暴食に走るだなんて珍しいですね~」
ワレリーは抜け殻の様な顔をして呟く。
「勝手に食べて申し訳ありません…全て弁償しますから…」
それを聞くとパーヴェルは笑った。
「いいですって!それよりもワレリー兄様どうしたんですか?
兄様さ、上手くいかない事があると取り憑かれた様に食べるようになりますから。」
ワレリーはそう言われると、見透かされた事にぶわっと顔を赤くする。
そして下唇を軽く噛むと、次に頭を抱えて言った。
「私は…とんでもないヘマをしたのです…!」
「どゆこと?」
パーヴェルは鼻で笑うと、ワレリーは流し込むように水を飲む。
「申し訳ございませんパーヴェル…私の正体と、あなたが本当の夫である事がガリーナに知られました。」
ワレリーの告白にパーヴェルは驚いた。
「えぇっ!?で、ガリーナはガリーナは!?」
「…私がガリーナも、レギーナも騙してきたのです。怒られたに決まっているでしょう。」
「え、でも俺だって入れ替わってたわけだし…!俺も嫌われたかな…」
パーヴェルは焦った様子で言うと、ワレリーは落ち着いた様子になってからパーヴェルに微笑む。
「私が言い出した事です。あなたが責任を感じる必要はありません。
勿論、真実を知ってもあなたを責める者はいません。私を信じなさい。」
「はい…」
パーヴェルは困った様子で返事をすると、次にワレリーの顔色を伺った。
俯いて考え、手に持ったコップを強く握る。
そんなワレリーを見てパーヴェルは言った。
「ワレリー兄様…?まさか、責任感じてます…?」
「当たり前でしょう。」
「気にしないでくださいよ兄様!兄様は村を背負ってるビッグなお方なんですからね!
生まれた頃から兄様を見てきてる俺ならわかります!兄様なら大丈夫!」
パーヴェルは精一杯慰めたつもりだが、ワレリーには響くどころか重荷に感じる。
しかしワレリーはパーヴェルの気持ちだけは受け取れたのか、無理に微笑んでくれた。
「そうですね。お兄様に全てお任せなさい、パーヴェル。」
「へへ!それでこそ兄様です!」
パーヴェルは陽気に笑うと、ワレリーは言う。
「パーヴェル、あなたは家に帰りなさい。愛する者がいる家へ。」
「は…」
パーヴェルはいつもの慣れで返事をしようとしたが、笑顔のまま言い直した。
「今夜だけいさせてください!仕事残ってますので!
兄様、久しぶりに一緒に寝ましょ!」
ワレリーはそれを聞いてキョトンとするが、パーヴェルと同じで微笑む。
「ええ。」
===
夜。
今日の空は薄い雲に覆われ、星は薄光を放っている。
ワレリーとパーヴェルは同じベッドの上で寝ていた。
一人用のベッドである為か、青年二人の体では窮屈。
大人しく眠っているパーヴェルを見つめるワレリー。
ワレリーは天井を見上げると考え事をした。
(二人に事実を話した時、どこか期待していた。
私を…受け入れてくれるのではないかと…密かに…。
二人が望んでいるのは、私ではなくパーヴェルだというのに…)
ワレリーは拳を握った。
(私は…彼女達の愛に期待していたのですか…?)
すると、ワレリーの脳裏に教会の裏側での出来事が浮かんだ。
初めて教会の裏の真実を知った時、神が存在しない事に深い絶望を感じた事。
教会に来る村人の実態を知り、失望をした事。
苦しそうにワレリーは眉を潜め、胸の前で手を組む。
(私は何を考えているのですか…!期待など…愚かです…!
どれだけものを与えても、村人達は変わらない…彼等は悪魔のまま…!
あの時理解したではないですか…!)
ワレリーは目をゆっくり閉じると、ニコライが思い浮かんだ。
ワレリーが家に来てから、ワレリーの目に見えるニコライの悪魔の角や翼が引っ込んできている。
最初は小さな魔王の様な容姿だったものの、今では悪魔か小悪魔程度の容姿なのだ。
(でもニコライは変われた…
悪魔から…徐々に人間へ…)
ワレリーはそう思うと、更にパーヴェルやガリーナの笑顔が浮かび上がる。
(ならば彼等にも希望はありますか…?
…星の花となる希望が…
私の目から悪魔が消える日は来るのでしょうか…)
ワレリーは思いを脳裏に描くと、握る手に力を込める。
(私の勤めは、この身を削ってでも村を守りぬく事…。
それは村の幸福を祈り、害悪を取り除く事。)
ワレリーはガリーナの言葉を思い出す。
――「ニコライの為に生きるって決めたもん!」――
(彼女の決意を無駄にはできない。
私は、あの一家が幸せの為ならばどうなってもいい…。)
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