一羽の天使、悪魔の村にまい降りて。

うてな

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34 オダマキ=愚か

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パーヴェルとレギーナは、共に談笑を楽しんでいると村人が家を訪ねてくる。
レギーナは扉を開けると、村人は慌てて言った。

「大変です!牧師様に伝えてください!
レギーナが見知らぬ軍人に攫われたんです!」

「軍人…!?」

レギーナはすぐ、フロルの事だと察する。
パーヴェルは歩いてやってくると、村人は言った。

「牧師様!レギーナが見知らぬ軍人に攫われました!」

「なんですって…!」

パーヴェルは目を見開いて驚くと、村人は続ける。

「今村中の者が探しているのですが全く見つかりません!
どうしましょう牧師様!」

そう言われると、パーヴェルは慌てた様子になった。

(え、俺が指示出さなきゃなんないの…!?
こんな時、ワレリー兄様がいてくれりゃ…!
お願い…!神様答えて…!俺なんて指示すればいいんですか…!)

パーヴェルは何も分からず、思考停止してしまった。
村人はパーヴェルの様子に違和感を感じると、レギーナは眉を潜める。

(このままだと、違和感の正体に気づかれてあの牧師じゃない事がバレるかも…)

レギーナはパーヴェルを庇うと言った。

「ごめんなさい、今日ワレリーさん調子が悪いみたいなの。
辛いみたいだから部屋で寝かしながら指示を聞いてきますわ。」

「ああ、そうでしたか。」

村人がそう言うと、レギーナはさっさとパーヴェルを部屋に連れて行く。
パーヴェルはベッドに座ると、レギーナに言った。

「ありがとう…ガリーナ。」

「いえいえ。」

レギーナがそう答えると、パーヴェルはベッドに潜って言う。

「俺…兄様の代わりなんてできないよ…!
ガリーナと近づく事ができるからって安易に引き受けたけど、こんな難しい事だったなんて…!」

それを聞いたレギーナは眉を潜めた。

「ねえ、なんでパーヴェルくんはワレリーさんの言う事ばかり聞くの?」

「…兄様が指示すれば、なんでも上手くいったから…
兄様は、神様の声を聞くお方だから…」

レギーナは顔を歪める。

「本当に彼が神の声を聞く人間なら、この事態にも気づいて逸早くあなたの元に駆けつけてる気がするんだけど。
本当に聞こえてるのかしら。」

するとパーヴェルは黙り込んでしまう。

「ねぇ?聴いてる?」

レギーナは強めに聞いてしまうと、パーヴェルは毛布を握り締めた。

「兄様が自分で言ってた。神の声なんて聞こえないって。
でも…俺全く信じられなくて…!」

レギーナは少し考えた。
パーヴェルとの過去を思い出し、パーヴェルの事を考えている。

「そう言えば、パーヴェルくんって愚直よね。」

「俺、そんなに素直かな。
いっつも村の人の前では兄様っぽく振舞ってるし。」

「それは、ワレリーさんに言われたからそうしてるだけでしょ。
そうなってない時は、素直すぎるいい子だったわよ。
昔はよく悪戯もしたし、さっきも自分の焦りを隠しきれてなかったし。」

それを聞くと、パーヴェルは呟いた。

「兄様なら、上手く全部隠し通せるんだろうな…」

「そうね。」

レギーナは、パーヴェルとして一緒に過ごしたワレリーを思い出す。
嘘が巧み過ぎて、パーヴェルと錯覚する様な立ち居振る舞いが多かった。

(あの牧師はパーヴェルに命令し、ルールでパーヴェルの自由を奪ってる。
あの牧師、きっと自分がパーヴェルを縛ってるんだって知ってるわ。
そうじゃないと、私が気づかないほどの立ち居振る舞いなんてできない…!)

レギーナは恨みの表情を浮かべつつ、パーヴェルに言う。

「パーヴェルくん、嘘の仮面を被せられているんだよ、ワレリーさんに。
なんでもああしろこうしろって、パーヴェルくんの自由を奪ってく。
パーヴェルくんを村の偽善者共と同じように染めていくヤツなんだよ。」

パーヴェルは若干ガリーナが言いそうにない言葉に驚いたが、それよりも内容に驚いた。

「確かに…兄様の言う事ばかり聞いていて…大きくなった今では自分の事なんか…」

レギーナはそれを聞くと、パーヴェルが見ているわけでもないのに深く頷いた。

「そう。だから相手の言う事ばっかり聞かないでさ、もっと思うがままに生きてみなよ。

私は…素直なパーヴェルくんが大好きなの…。」

「ガリーナ…」

パーヴェルはそう呟くと、毛布から顔を出してレギーナを見つめる。

(素直…)


――パーヴェルは小さい頃を思い出していた。
まだパーヴェルが五歳の頃、パーヴェルは同い年の子達に悪戯をしては楽しんでいた。
子供達は涙し、皆パーヴェルから離れていく。

そんなパーヴェルを見て、ワレリーは言う。

「悪戯はおやめなさい。人には親切にしなければなりませんよパーヴェル。
これは村でも決められている事なのです。」

しかしパーヴェルは首を傾げた。

「村で決まってる?なんで?」

「人に悪い事をする者は、悪魔だからですよ。」

「じゃあ俺は悪魔なの?」

それに対し、ワレリーは微笑んだまま言う。

「悪戯さえやめれば、悪魔と言われずに済みます。」

「じゃあ、俺は悪魔だ。俺はみんなに悪戯がしたい!」

すると、ワレリーは急に冷たい目を見せて言った。

「駄目です。
この村に悪魔など必要ないのです…
私の言う事は素直に聞きなさい、パーヴェル。」

パーヴェルは平然とワレリーを見つめたまま、少し間を空けてから返事をする。

「はい。」

ワレリーはパーヴェルの頭を優しく撫でると言った。

「いい子です、パーヴェル。」――


パーヴェルは過去を思い出すと思う。

(小さい頃の兄様はいつも、村のはぐれ者である俺を正してくださった。
俺のやってる事は間違いで、村のやってる事は正しいって。
…懐かしい…。あの時は兄様の言う事は聞いていても、やる事全てが悪魔っぽかったなぁ。

素直について考えてたのに、なんで急に俺が悪だった頃を思い出したんだろう。)

「パーヴェルくん?」

レギーナが呼ぶと、パーヴェルは我に戻る。
それからパーヴェルは綻ぶような笑顔を見せた。
レギーナはパーヴェルを見ると、ドキッときたのか頬を赤くする。

(パーヴェル、あんな顔するんだ。)

「ありがとガリーナ!俺もガリーナが大好きだ!」

そう言われると、レギーナは顔を真っ赤にした。

「う、う、うん!」

レギーナは戸惑いながらそう答えると、パーヴェルは笑う。
それから自分の頬を両手で叩くと言った。

「そうだな、兄様が指示を出せない時こそ、俺がしっかり考えないとな!
この世に産まれてからずっと、兄様を見てきたんだから!俺ならできるぜ!」

レギーナはそれに微妙な反応。

「そうじゃなくて…」

レギーナはパーヴェルの勘違いに呆れると、指示を待っている村人を思い出して話すのを一度やめた。
しかしそれでも、パーヴェルはなんだか楽しそう。

(何にもわかってないじゃない…。
パーヴェルって本当に馬鹿なんだな…)


そして外で指示を待っている村人は、室内の妙な賑やかさに微妙な反応を見せる。

(まだかな…。)

するとパーヴェルが家から勢いよく出てきて、村人は驚いた。

「とりあえず村を探してくれますか!私も探します!」

あまりに元気なので、村人は冷汗。

「えっと…具合は…?」

「言ってられませんよ!村の一大事にね!」

「あ、はい、では他の者にも言ってまいります…」

村人はドン引きしながらも立ち去ると、家の中からニコライの声が。

「そとー!」

そう言ってニコライは楽器片手に外へ出てきた。
ニコライの右目には眼帯が不器用ながらにもついている為、パーヴェルは目を丸くする。

「お前、自分で付けたのか?」

ニコライは話がわかっていないのか、急に歌いだす。

「おーはな おーーはな」

すると眼帯がズレ落ちるので、パーヴェルは慌ててつけてあげた。

「おおっと危ない!」

パーヴェルは眼帯をしっかり付けてあげると、パーヴェルはふと思う。

(ニコライも、もしかしたら悪魔じゃなくなったりするかな。
昔の俺みたいに…。

兄様、どうやって俺を正したっけ…)

パーヴェルはそう考えていると、ニコライはそのまま走り去る。

「そとー!」

それを見たパーヴェルは呆れてしまった。

(いや、でもコイツは根っからの悪魔だからなぁ…)

ニコライは暫く走ると、パーヴェルに振り返る。

「パーパ!そとーー!」

パーヴェルはニコライにそう言われると、ムスっとした顔を見せて言った。

「わかったからそこで待ってろ!」

そして、パーヴェルはニコライを追いかける。
ニコライはパーヴェルが追いかけてくると知ると、無邪気に笑って逃げ出すのであった。


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