一羽の天使、悪魔の村にまい降りて。

うてな

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45 赤ラナンキュラス:あなたは魅力に満ちている

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次の日、早朝からガリーナとワレリーは外に出ていた。
森の中を歩き、隣町を目指す。

「村の人に見つからないよね…?」

ガリーナはキョロキョロしていると、ワレリーは周囲を見ながら言った。

「物音はしていませんし、周囲で歩いている気配もありませんね。
それに、森を通って町へ行く村人などいませんからね普通。」

「じゃあワレリーさんは?」

ガリーナが聞くと、ワレリーは満面の笑み。

「私とここの村人を一緒にしないでください。」

ガリーナはその回答に苦笑すると、抱えていた紙袋を開く。
紙袋の中には、昨夜のパン。
ガリーナは一口食べると、眉を潜めた。

「やっぱり一日経つと固くなるな~」

「お父様に手紙を届けるついでに、隣町で買いますか?」

「え、いいの?と言うか、お金とか持ってきてる?」

ガリーナが聞くと、ワレリーは微笑む。

「多少は持ってきていますが、ただ買い物するだけじゃ楽しくないですよね?」

ワレリーのその笑みを見ていると、何か考えているのだとガリーナは察する。
ガリーナは嫌な予感がして顔を引き攣った。

「えっと…何をするんですか?」

 ===========

村の隣町は、村から歩いて一時間かかる場所にある。
その町は商店街の様に店が建ち並び、多くの人で賑わっていた。
ガリーナは初めて来る隣町に、心を躍らせる。

「わあ!こんなところ、村にはないわ!」

ガリーナははしゃいでいると、近くの果物屋がワレリーに話しかけてきた。

「よおパーヴェル!今日は彼女と一緒か?」

ワレリーは相手に気づくと笑う。

「ちょっとお使いがありましてねー」

ワレリーはそう言うと、ふと果物屋に聞いた。

「八月中旬って、レモン仕入れることできる?」

「え?具体的な日を言えば仕入れてやらん事もないぞ。」

果物屋の答えに、ワレリーは笑顔を見せる。

「じゃあ十六日!
次の日が兄様の子供の誕生日だから、レモンパイ焼いてあげたいんだ!」

ガリーナはそれを聞いて目を丸くすると、果物屋は涙を浮かべた。

「パーヴェル…!お前いいやつだな!
わかった、ちゃんと仕入れといてやるから…!
おら、今日はりんご二つくれてやる。彼女と一緒に食べんだぞ。」

果物屋はりんごを二つくれるので、ワレリーは笑顔。

「ありがと!」

そう言ってワレリーは立ち去ると、ガリーナは焦る。

「え、タダで貰っちゃっていいの…!?」

ワレリーはりんごをガリーナに渡すと言った。

「果物屋さんの気持ちは受け取れないのですか?」

そう言われると、ガリーナは大人しくりんごを受け取った。
ワレリーはりんごを齧ると、ガリーナも真似してりんごを齧った。

「美味しい。」

「ええ。」

ガリーナはりんごを食べながらも聞く。

「ニコライの誕生日、知ってたんだね。」

「勿論。一緒にヒマワリ畑を見る約束…でしたがね。」

それを聞いてガリーナは目を見開くと、困った顔をした。

「そうだ…ワレリーさんは村の花畑に易々立ち入れないよね…」

「仕方のない事です。本当はパーヴェルとガリーナとニコライの三人で見て欲しいものですが…
今は考えるより、出来る事からです。」

そんなワレリーにガリーナは思わず微笑んでしまうと、ワレリーもガリーナを見て微笑んでしまう。

すると、近くの建物に大勢の人が集まっているのを発見。
二人はその集まりに気づくと、人々の声を聞く。

「わ…煙突の上に子猫が。」

「私の子猫なの…!誰か助けて!」

その声を聞いて二人は屋根を見上げると、そこには煙突に乗ったまま降りれなくなった子猫。
それを見るとワレリーはガリーナに自分のりんごを託す。

「持っていてください。」

「えっ、はい。」

ガリーナが返事をすると、ワレリーは走って建物へ向かった。
そして高く跳ぶと建物の窓に手足を引っ掛け、屋根まで登る。
ガリーナはワレリーの身体能力に驚いていると、周囲の目がワレリーに集まった。
すると、一部の人の顔色が笑顔に変わる。

「お!パーヴェルじゃん!」

「がんばれ~!落ちんなよ~!」

周囲の応援の声にガリーナは一瞬だけ視線を奪われるが、再びワレリーの方に視線を向けた。
ワレリーは屋根に登ると、煙突にいる子猫にゆっくり近づく。

「いい子です。こちらにおいで。」

それでも子猫は足元ばかりを見て動かないので、ワレリーはそっと手を伸ばして捕まえる。
子猫を優しく抱え、ワレリーは屋根の端まで歩いた。
周囲の人は歓声を上げていると、近くの服屋が大きく丈夫な布を抱えてやってくる。

「ほら、お前たちも手伝って。パーヴェルが降りれないでしょう。」

服屋の言葉に、周囲の人は服屋に協力を始めた。
布を広げ、ワレリーが降りたらクッションになるようにしてくれる。
ガリーナは一丸となる周囲に感心すると、ワレリーは子猫を抱えたまま降りた。
布のクッションは見事成功し、ワレリーも子猫も無事。
猫の飼い主は子猫を抱くと、ワレリーに頭を下げた。

「ありがとうございます…!」

「いえいえ、無事でなによりです。」

ワレリーがそう言うと、周囲の人は大笑い。

「パーヴェルが改まってるわ。」

「珍しー!」

周囲の言葉にワレリーは照れた様子を見せつつ、小走りでガリーナの元まで帰ってくる。
そしてワレリーはせっせと歩くので、ガリーナは笑顔。

「凄い!パーヴェルくんって町では有名人なんだ!」

「パーヴェルは人懐っこくて、顔が広いですからね。
いつも町の人を楽しませたり、人助けをしたり、たまに悪戯したり…なんだかんだで町の人に愛されているようです。
彼の自由な精神が、人の心に響いているのかもしれませんね。」

ワレリーは微笑んでそう言うと、ガリーナは想像をしているのかほっこり。

「へぇ~!
きっと人助けは、ワレリーさんの影響なんだろうなぁ~」

ガリーナがそう言うと、ワレリーは笑う。

「そうかもしれません。」


そして二人は、とある飲み屋にやってきた。

「ここは?」

ガリーナが聞くと、ワレリーは言う。

「お父様が気に入っている店らしいです。
生憎お父様達が今どこに泊まっているか知らないので、家族の誰かを探し、お父様への手紙を託します。」

それを聞くと、ガリーナは緊張しているのか気合を入れ直す。

「よし!」

ガリーナは固くなっている。
するとワレリーは扉に手をかけ、優しい声で言った。

「肩の力を抜いて。」

ガリーナはそう言われて力を抜くと、ワレリーはさっと扉を開けてしまう。
それを見たガリーナは慌てる。

「待って…!」

中は多くの種類の酒が並ぶ、カクテルバーの様な店。
ワレリーは周囲を見渡すと、カウンター席に座っている一人の男性を見て驚いた。

「お父様…!」

ガリーナもワレリーの方を見ると、そこには黒髪の男性。
黒髪の男性は声に気づくと振り返ってきた。
真っ白な肌にワレリーと同じ青い目を持っているが、ワレリーに似ているとはとても言い難い。
男性はワレリーを見ると、目を丸くしてから飛び込んできた。

「マリヤ~!」

ワレリーは呆然としてしまうと、なんと男性はワレリーに接吻。

「げっ!」

ガリーナは顔を真っ青にすると、ワレリーは男性から顔を逸らした。

「お父様!私です、ワレリーです!お母様ではありません!」

「え?」

男性はそう言うと、ワレリーの胸を触る。
すると目を見開いて驚き、それから高笑いをした。

「なーんだワレリーかぁ~!あまりにもマリヤに似てたから驚いたぞ!」

ガリーナは冷汗を浮かべつつもワレリーに聞く。

「これがお父さんのアンドレイさん?」

「ええ。見ての通り飲んだくれなのです。」

アンドレイのいた席には、幾つか空のワイン瓶が置いてあった。
ガリーナは苦笑してしまうと、アンドレイはワレリーの頭を撫でる。

「大きくなったなぁ~!十五年前は麦より小さかったのになぁ!」

「十五年も経てば麦より大きくなりますよ。」

ワレリーは即答すると、アンドレイは何度も頷いた。
そしてアンドレイはガリーナを見ると、目を丸くする。

「おお?すっごい美人さんだー。ワレリーの奥さん?」

「パーヴェルの奥さんです。」

「えぇ!?不倫!?まー若い内はそういうの経験するのも良い。」

アンドレイがそう言うので、ガリーナはムスっとすると言った。

「不倫じゃないです。」

「え~?!」

アンドレイは酔った様子で驚くので、ワレリーは溜息をつく。

「あの、大事な話があって来たのですが。」

「結婚か?」

「違います!」

ワレリーはそう言ったが、一度落ち着くとアンドレイに言った。

「お父様の酔いが覚めたら話します。」


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