一羽の天使、悪魔の村にまい降りて。

うてな

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50 ナンテン:私の愛は増すばかり

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レギーナとワレリーは夕食の準備を進めていた。
レギーナはスープを煮込んでいると、隣で野菜を切っているワレリーが目に入る。

「気持ち悪い。」

「おや、妊娠の初期症状にしては早すぎませんか?」

するとレギーナは怒ったのかワレリーに言い放つ。

「お前が気持ち悪いのッ!」

ワレリーはその大声に耳を塞ぎつつ、眉を困らせてクスリと笑った。

「理不尽ですね。存在するだけで気持ち悪いと言われるだなんて。」

「気持ち悪いもんは気持ち悪いのよ!一人で料理させて!」

ワレリーはレギーナの顔を横目で見る。
レギーナは微かに涙目になっていて、今にも泣きそうだった。
ワレリーはそれを見ると、野菜を切るのをやめてその場を離れる。
ワレリーは物音を立てないようにしてリビングの椅子に座ると、ぼーっとレギーナの後ろ姿を眺めていた。

レギーナは既に泣いているのか、鼻水をすする音が聞こえる。
ワレリーはそれを黙って見ていると、レギーナは言った。

「アンタも何か言いなさいよ…!
ガリーナ以外の女を抱いて、とっても嫌な思いしたって…!」

しかしワレリーは言う。

「私、レギーナも好きですよ。」

するとレギーナは顔を引き攣った。
レギーナはワレリーに振り返ると言う。

「気持ち悪いッ!アンタ、本当に意味わかんない!
いっつも澄ました顔して!少しは不幸な顔見せてみなさいよ!
この女垂らしッ!」

そう言われると、ワレリーは俯いて言った。

「そうですね。私は変かもしれません。」

レギーナは俯いたワレリーを睨んでいると、ワレリーは顔を上げて微笑む。

「私は、望みを持った人間を見ると、愛しさを感じてしまうようです。」

レギーナは理解できずに目を細めてしまうと、ワレリーは続けた。

「レギーナのパーヴェルを救う決心が、今とっても愛おしい。
パーヴェルの牧師を続ける決意で、昔以上に弟が好きになっていく。
ガリーナの耐えぬ希望と強い心が…昔も今も、大好きなのです。
なぜ…こうなのでしょう。」

レギーナはそれを聞いてふと呟く。

「…本当に…お前って気持ち悪い。」

「そうですね、自分でも変だと思います。」

ワレリーは即答すると、次に窓を見つめて言った。

「私はガリーナが好きと言いましたが、そういう意味での好きかもしれないのです。
だから私は、ガリーナと結ばれようとは思わない。
こんな不自由な愛、人間に向けてはならないのですよ。」

レギーナは鼻で笑うと言う。

「そうね、賢明な判断だわ。」

ワレリーは深く頷くと、レギーナは付け加えた。

「ま、本当にそういう好きだったらの話ね。」

「はい?」

ワレリーはそう言うと、レギーナは料理を終えてワレリーの方を見る。

「ただの博愛主義者でしょアンタ。
…それに、ガリーナのどこが希望に溢れて強い心持ってんのよ。
小さい頃から私見てきたけど、アイツいっつも泣いてばっかで、俯いてばっかで、弱虫だもの。
今も変わんないわ。」

それを聞いたワレリーは少し驚いた顔を見せた。
レギーナは見下すようにワレリーを見る。

「アンタが希望を持てるように仕向けてるだけなんじゃないの?
パーヴェルを操るようにさ、ガリーナも操ってんでしょ。

…アンタがアイツの心に響くコト言ってさ。
アイツ、いつもアンタに慰められて嬉しそうにしてたから。」

ワレリーはそれを聞くと、目を丸くした。
そして以前ガリーナに言われた言葉を思い出すのだ。


――「ワレリーさんは、いつもいつも私が泣いていたら慰めてくださった。
心に響く言葉を、必ず私に投げかけてくださるの。
そんな言葉をかけられるワレリーさんが憧れで…!魅力的で。」――


ワレリーは呆然とすると、テーブルを見つめる。

(私が…失望に堕ちたガリーナに希望を与えていたのですか…?
つまり…ガリーナは他の村人と変わらない……悪魔だったという事…ですか…?)

ワレリーの顔を見ると、レギーナは鼻で笑った。

「何?自分で操っておいて気づいてなかったの?
アイツ、アンタがいなきゃ間違いなくただの落ちこぼれなんだけど。」

ワレリーは呆然と考え始めていた。

(私はなぜ彼女が天使に見えていた…?
彼女が天使であって欲しかったからなのですか…?)

そこにパーヴェル達が帰宅。
パーヴェルはリビングに顔を見せると笑顔。

「兄様ただいまー!お父様やお母様達に会ったよ~!」

ワレリーはパーヴェル達に気づくと、すぐに笑みを見せた。

「お帰りなさい、皆さん。」

ガリーナはニコライを抱えていて、ニコライは楽しそうに楽器を振っている。
ワレリーはガリーナを見ると、ふとガリーナの姿が天使ではなく人間である事に気づいた。
ワレリーは俯くと思う。

(人間…)

レギーナは夕食の準備を始めて言った。

「お帰りパーヴェル。アンタ達もここで夕御飯食べていきなさい。
用意してあるから。」

「ほんと!?嬉しい!ニコライと久しぶりに夕食だ~!」

ガリーナはそう言って喜ぶ。
ニコライも両腕を上げて喜んだ。

「あーー!」


そして、五人での夕食。
ニコライはいつも通りガリーナからスプーンを貰うと言った。

「いーたーだーきーまーすぅー!」

そう言ってニコライが夕御飯を食べると、ガリーナとワレリーは笑う。
二人の笑顔を見ると、ニコライは言った。

「マーマ!パーパ!」

穏やかな二人の顔を見ていると、パーヴェルは急に言う。

「ガリーナママ!ワレリーパパ!」

ニコライの真似でもしたのだろうか。
レギーナはつい顔を引き攣ってしまうと、ガリーナとワレリーは笑ってしまう。

「も~!驚いたじゃない~!」

「おや、パーヴェルがニコライのお兄ちゃんをやってくれるのですか?」

「嫌です!」

パーヴェルはそのままの表情で言うと、二人は更に笑った。
するとニコライは周囲をキョロキョロして言う。

「マサミ。」

一同はニコライを見ると、ニコライはずっとキョロキョロ。

「マサミ!マサミ!」

キョトンとしている人が多い中、ワレリーは切ない表情を見せた。

「おや、きっとマサミを探しているのですよ。」

それに呆れたパーヴェルは言う。

「おいおい、マサミは隣町だぞ?そして明日には町を出るし。」

ガリーナは言った。

「仕方ないわ。今日一日で、兄弟みたいに仲良くなった子だもの。」

「明日になったら忘れてるわよー」

レギーナがそう言うと、ワレリーは眉を潜める。
そこでパーヴェルはワレリーに聞いた。

「そう言えば、さっき何か用事あったんですよね?
村の事ですか?」

ワレリーは反応するが、答えるかどうか迷う。
パーヴェルは言い憚るワレリーを見て、頬を膨らませた。

「お~い~、何隠してるんですかあ~?
俺にナイショでマヨ一瓶食ったとか!?」

「なわけ無いでしょう。」

ワレリーは即答すると、パーヴェルは大笑い。
パーヴェルは笑っていると、ふとワレリーのうなじに引っかき傷が幾つかあるのを発見。

「何これ、痛そう。」

パーヴェルが言うと、ワレリーは反射的に手で隠してしまう。
レギーナもギョッとして黙り込むと、パーヴェルは目を細めた。

「村で言われた腕の傷といい、兄様はコソコソしすぎ!
俺達にもっと言ってくれなきゃ困ります!」

「言えるほどのものであったら今頃言ってます。」

「ハア!?」

パーヴェルがわざと厳つく反応すると、ワレリーは笑って誤魔化す。

「大体兄様は俺達に隠しすぎっていうかー、もっと相談してくれなきゃダメでしょー!」

「ごめんなさい口下手で。」

「そーじゃないです!」

ワレリーの煽りの強い口調に、パーヴェルはムキっとした顔で怒った。
そして二人は軽い口喧嘩を始めるので、食卓は賑やかな空気に包まれるのであった。


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