一羽の天使、悪魔の村にまい降りて。

うてな

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51 カルミア:野心

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ワレリーとガリーナは、教会の裏の館に帰ってきていた。
とある一室に入ると、ガリーナはワレリーに聞く。

「なあに?今日は大事な用があるから泊まってって。」

ガリーナは目を丸くして聞くと、ワレリーは微笑む。

「今は何月ですか?」

「八月!」

するとワレリーは視界に入らないソファーの裏から、大きな紙袋をドンと出した。
袋の中には紙やら色んな小道具が入っている。
ワレリーは笑顔で言った。

「ニコライの誕生日は十七日。
少しずつ、お誕生日会の準備を進めましょう。」

それを聞くと、ガリーナは目を光らせる。

「わぁ…!どこでお誕生日会するの!?」

ワレリーはそれを聞くと、顎に手を当てて考える。

「家と言いたいところですが…ここでもいいでしょうか?」

「え?」

ガリーナは目を丸くすると、ワレリーは微笑んだ。

「家でやると誕生日前にニコライに気づかれる可能性があるので、サプライズに欠けます。」

「確かに…!」

ワレリーは紙袋から色紙を幾つか引っ張り出す。

「素敵な会場を作りましょうね。」

「うん!早速作っちゃお!」

二人は紙を広げると、ワレリーは青い大きな紙を持って言う。

「お花、作りませんか?」

するとガリーナは目を丸くした。

「どうやって!?」

ワレリーは適当な大きさに紙を切ると、その紙を細く蛇腹折りにする。
最後まで蛇腹折りしたものを半分に折ると、折った所を指で摘み外側を開いた。

「一つだけだと物足りませんが、これを二つか三つ繋げたら…お花の様になるんですよ。」

「凄い…!青いお花かぁ…どんな花があるかなぁ。」

ガリーナはそう言って青い花を想像していると、ワレリーはその青い紙を見つめて言う。

「私はブルーデージーという花を連想しますね。」

「ブルーデージー?」

ガリーナは首を傾げると、ワレリーは頷いた。

「綺麗な花ですよ。
『幸運』『恵まれている』『純粋』などの意味が花にはあるのだとか。」

「素敵ねぇ。」

ガリーナが言うと、ワレリーはガリーナを見つめる。
ガリーナはワレリーの視線に気づくと、ワレリーは言った。

「私は、ブルーデージーを見るとあなたを思い出します。」

「え?別に私は幸運じゃないけど…」

ガリーナがブツブツと言うと、ワレリーは笑う。

「あなたの様な人間には、ピッタリの言葉です。」

ガリーナは意味がわからず眉を潜めてしまった。
するとガリーナはふと聞く。

「ねえ、ニコライはどんな花だと思う?」

ワレリーはそれを聞くと苦笑。

「まだ人間性がわからないので…これとは言えませんね。」

「そっか…」

ガリーナはそう呟くと、天井を見上げた。

「ニコライ、将来はどんな子になるのかな。」

「彼次第です。」

ワレリーはそう言うと、製作の続きをする。
ガリーナもそれを手伝いながらも話の続きをした。

「パーヴェルくんみたいな明るい子になるのかな。
それとも、ワレリーさんを真似して心優しい人になるのかな?」

その言葉にワレリーは笑ってしまうと、ふざけて言う。

「おや、ガリーナの様な泣き虫になるかもしれませんよ?」

ガリーナはそれを聞いて怒ったのかムスっとした。

「酷い!ニコライは周りと比べても全く泣かない強い子なんだからね!」

「おやおや、全く泣かない子供が必ずしも強いとは限りませんよ。」

「うぅっ…」

ガリーナは言葉に詰まると、ワレリーは微笑む。

「元気な子にはなると思いますがね。」

ガリーナは目を丸くすると、それから笑ってワレリーと背中を合わせる。

「そうだね!ニコライはきっと私達を照らす太陽になるよ!」

「ええ。」

ワレリーは無意識にガリーナの手を握ってしまうと、二人とも驚く。
ワレリーは手を離すと黙った。
二人とも手を止めてしまうと、ワレリーは急に歌いだす。

「おーはな おーはな
…ニコライ、当日ちゃんと踊ってくれるでしょうか。」

それを聞いたガリーナはハッと気づいた顔をした。

「確かに…!保育園の発表会は八月末だよ?早いなぁ。」

ワレリーは天井を見上げると呟く。

「あなたとニコライが海外に出るのは、九月の頭です。」

それを聞くと、ガリーナは俯いた。
ワレリーはガリーナの異変を察知し、ガリーナの方を見る。

「ワレリーさん、実は…」

「またパーヴェルに止められましたか?」

「うん。ニコライの為にって私は言ってるだけで、自分の為に行くわけじゃないって言われて…。
自分の為に…自分の幸せの為に動けって言われたの…。
私自身が…海外に出たい理由…。それが、わからないの。」

「なるほど…。パーヴェルの言う事にも一理ありますね。
あなたは自分の事を後回しにする傾向がありますので、私も心配です。」

それを聞いたガリーナは眉を潜めた。

「ワレリーさんもそうじゃない…。」

ワレリーはその言葉に黙り込むと、ガリーナは続けた。

「パーヴェルくんは、ワレリーさんを海外に出したいって。
リスクを背負ってまで村にいて欲しくないとかで…。」

「私は出ませんよ。」

「…村が心配なの?」

ガリーナはそう聞くと、ワレリーは黙る。
それからワレリーは首を横に振った。

「村はパーヴェルに任せると決めました。
もう村に居る意味はきっとない…でも、特別出て行く理由がない為に立ち去れない自分がいます。
こんな場所にいても、自分の心が荒むだけなのに。」

ワレリーは虚しく語った。
ガリーナはそれを聞くと言う。

「ワレリーさんはきっと、村の人を大事に思ってるんだよ。」

「そうですかね?」

ワレリーが疑問を浮かべると、ガリーナは微笑んで頷いた。

「うん。
村人の自我が足りないのを見て、ワレリーさんは心を痛めてる。
状況を変えようと頑張ってる。でもイマイチわからないから、迷ってる。
どこかに逃げようって考えていても、村の人が心配できっと出られないんじゃないかって。」

ワレリーは俯いてその事について考えてみると、ガリーナは続ける。

「私ね、ワレリーさんから沢山いい言葉、お話を聞いてきた!
だから思うの。ワレリーさんは、人を希望の光で照らせる人なんだって…!」

「それが何か。」

ワレリーはそう言うと、ガリーナは真剣な顔を見せた。

「だからね、
…村の外にも、希望の光が必要な人間は沢山いるんじゃないかって思うの。
ワレリーさんにしか助けられない人がきっといるんじゃないかって。」

ガリーナは切ない顔をして俯く。

「きっとね、村の人は変われない部分もあると思う。
産まれた頃から掟に従って生きてきたからこそ、それにつき従う人もいる。
でもそれに善悪なんてない。
私はニコライを認めきれないパーヴェルくんを見ててそう思ったの。
パーヴェルくん、本当はとっても優しくて熱い人なのに。」

そしてガリーナはワレリーの目を見つめて言った。

「村人には彼等なりの生き方がある…!
だから、無理に変えようとしなくていいと思う。
それよりも変わりたいと思う人々の為に…そんな人々を助ける為に…村を出るのもいいんじゃないかなって私は思うよ。」

ワレリーは目を丸くして聞いていた。
それを聞くと、ワレリーはクスッと笑う。
ガリーナは首を傾げると、ワレリーは天井を見上げて言った。

「私は大切な事を忘れていました。
そうです、私が無理に変えるべきものではないですよね。」

ガリーナは首を傾げるとワレリーは続ける。

「エゴール…あなたのお兄様は素晴らしい方でした。」

「え…?」

ガリーナは眉を潜めると、ワレリーはガリーナに向かって微笑む。

「彼はこの村で生きてきたのにも関わらず、自ら立ち上がり、自ら道を切り開いた。
例え欲望や利己の塊であろうとも、強く希望を持ち続ける人間。
私は美しいと思いました。

だから私は…、私はそういった人間の為にこの身を捧げていきたい。と思っていました。
これを今まで忘れていた。
私はただ身を滅ぼすんじゃない、己の為に試練をも惜しまない…そんな人間の為に身を滅ぼすのです。」

ガリーナは目を丸くして聞いていると、ワレリーは嬉しそうにしてソファーに座り込んだ。

「ありがとうガリーナ。
私はもう少し、考えるべきかもしれませんね。」

「…うん!」

ガリーナは笑顔で答える。

(ワレリーさんは人の為に生きるって決めている…。
でもワレリーさんの場合はただ人を救うんじゃなくて、望みを叶えたくて…現実に抗う人。
私の考える人助けよりも…きっと立派だ。)


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