一羽の天使、悪魔の村にまい降りて。

うてな

文字の大きさ
60 / 61

60 サザンカ=困難に打ち勝つ

しおりを挟む
そして、ガリーナ達が海外に旅立つ当日。
ガリーナ、ニコライ、ワレリー、パーヴェル、レギーナは船着場まで来ていた。
ちなみにニコライはワレリーに抱かれており、朝早い為にウトウトしている。
今は別の船の見送りが始まっており、船着場は人で賑わっていた。
別れの挨拶をする人、抱き合う人、そんな人々を眺めていると、人に紛れてフロルがいた。

「あ!お兄様~!」

フロルは手を振ってくれるので、ワレリー達は駆け寄る。

「お待たせしました。」

フロルは頷くと、ガリーナを見てひと礼。
ガリーナも頭を下げると、パーヴェルは空に顔を向けて言った。

「あーー。もうお別れかー、寂しくなるなー。」

そう言ってパーヴェルは自分が背負っていた小さいバッグをワレリーに押し付ける。

「これあげる!誕生日プレゼント!
だから、誕生日になってから開けてください!今は開けないで!」

ワレリーは目を丸くすると、パーヴェルに微笑む。

「ありがとうございます。
そうですね、その時は手紙を書きましょう。
それと、またいつか会いに行きますから。」

パーヴェルはそれを聞くなり目を輝かせた。

「本当!?
んじゃガリーナ!」

そう言ってパーヴェルはガリーナの前に来るので、ガリーナは目を丸くする。
パーヴェルはおどけた笑顔を見せた。

「次、村に帰ってくる時は俺、めっちゃ立派になってるからな!
俺にまた惚れちゃうかも~!?」

ガリーナはそれに笑ってしまうと、パーヴェルと手を繋いで言う。

「楽しみにしてる!
でも、今のパーヴェルくんも十分に素敵よ?」

「いやいや、俺はまだまだこれからです!」

パーヴェルは謙遜してそう言うと、ワレリーもパーヴェルに近づいた。

「村をよろしく頼みます。」

「もっちろん!」

レギーナは元気なパーヴェルを見ると、目を細めて言う。

「さっさと行きなさいよ三人とも。」

それを聞いたガリーナは眉を困らせた。

「もう、レギーナったら…」

空かさずワレリーは満面の笑みでレギーナに言う。

「お腹の赤ちゃん、大事にしてくださいね。」

レギーナはワレリーに煽られたと感じたのか、怒った様子で言った。

「言われなくとも!てかアンタとおんなじ顔だったら怒るからねッ!
アンタに!」

「めっちゃ大事にしまーーす!」

パーヴェルは笑顔で返事をするので、ワレリーとガリーナは笑っていた。
すると、ニコライが反応する。

「あかちゃん…」

ニコライが目を覚ましたので、ワレリーはニコライをその場で下ろす。
ニコライはワレリーが背負ったバッグ、ガリーナの背負ったバッグを見た。

「ヤダッ!」

ニコライがそう言うので、二人は困る。

「ああ、バッグのせいでしょうか。」

ワレリーがそう言うと、ニコライは怒った様子で二人の服を引っ張ると言った。

「マサミ!ダメ!!パーパ!マーマ!ダメ!!」

それを聞いた二人は目を丸くし、ワレリーはしゃがんでニコライに微笑む。
ニコライの肩を持つと、ワレリーは言った。

「いいえ、ニコライも一緒に行くのですよ?
ほら、あちらをご覧なさい。」

ワレリーが指を差した方向を見ると、そこにはパーヴェルとレギーナが。
パーヴェルはニコライに手を振ると言う。

「じゃーな、壊すなよ眼帯。」

パーヴェルはそう言うと、レギーナは手で追い払うような仕草をして言った。

「さっさと消えて。」

ニコライはそれを見ると、以前自分がマサミと別れた事を思い出す。
自分が今度はマサミと同じ位置にいる、ニコライは理解が出来た。

ガリーナもニコライに微笑むと言う。

「お引越し先で、マサミくんに会えるかもしれないわよ。」

「マサミ…」

ニコライはそう言うと、一歩二人に近づいた。
しかし、またパーヴェル達の方を見る。
一同は異変を感じて眉を潜めていると、ニコライはガリーナ達を見て言った。

「ヤダ!」

そう言ってニコライはレギーナの足に捕まると、レギーナのお腹を見る。

「あかちゃん!」

レギーナは顔を引き攣ってしまうと、ニコライを押し飛ばして言った。

「まだ言ってんのか!」

「レギーナ!ニコライを突き飛ばさないでよ!」

ガリーナは叱るが、ニコライはめげずにレギーナの足にしがみつく。
レギーナは嫌になったのかガリーナを指差した。

「あーもう!そんなに兄弟が欲しいならアイツに産んでもらえばいいじゃない!」

ニコライは指を差した方向を見ると、ガリーナは目を丸くする。
それから真面目な顔をして言った。

「い、いいわよ…!赤ちゃん作りますよ?」

ガリーナは自分のお腹を撫でて言うが、ニコライはそれでも首を横に振る。

「ヤダ!あかちゃん!こっち!」

ニコライはレギーナから離れないので、パーヴェルは困った顔をした。

「えー?どういうこったー?何があったんだよコイツ。」

ワレリーは考えていたが、首を傾げてからニコライに聞く。

「どうして二人がいいのですか?」

ニコライはワレリーを見ると、ワレリーの言葉と仕草から聞きたい事を大体察する。
ニコライは一度レギーナから離れると言った。

「あかちゃん!なく!」

そう言ってニコライはレギーナの真横に立ち、レギーナの真似をして怒る仕草をする。
それから逆方向に立ち回って泣くフリをした。
一同は目を丸くすると、ニコライは続ける。

「あかちゃん!なく!」

次はその場で寝転がるので、一同は驚く。

「そこで寝ちゃダメよニコライ…!」

ガリーナは言ったが、寝ているニコライの目から涙が一滴流れているのを見た。
一同は驚いて言葉を失うと、ニコライは言う。

「あかちゃん…なく」

それを見たワレリーは、ニコライの誕生日に三人で寝た事を思い出した。
ニコライがベッドで泣いていた事を思い出す。

更にニコライは太陽を見上げてから自分の影を見ると、隣を見て言った。

「あかちゃん、なく!」

隣には影はない、ニコライの影しかそこにはない。
ニコライは更にレギーナのお腹を撫でた。

「あかちゃん!よしよし!」

ニコライはそう言い、次に肩車をするフリ、更に手を繋いで一緒に歩くフリ、
そして、楽器を持ってニコライは笑顔で振る。

「あーー!」

パーヴェルは完全に意味を理解できておらず、目を丸くするだけ。
ワレリーは意味を理解できたのか言った。

「もしかして…産まれてくる赤ちゃんの面倒を見たいと言っているのでしょうか?
ニコライは、きっとパーヴェルとレギーナの元で寂しい思いをしたのでしょう。
だから、赤ちゃんにはそういう思いをさせないように…」

「三歳になったばかりのガキがそんなのわかんの?」

パーヴェルはそう言うと、ワレリーは難しい顔をする。

「しかし、それ以外何が考えられるでしょうか…」

「そんな…」

ガリーナは呟く。
ガリーナは目に涙を溜めるとニコライに言った。

「ダメよニコライ!ニコライは悪魔の瞳を持っていて、村人に見つかったら殺されてしまうのよ!?
ダメ、ダメよ…!こっちにいらっしゃい!」

しかしニコライは首を横に振る。
ガリーナは泣いてしまうと、ガリーナも首を横に振った。

「ダメ…!私ニコライを危険な目に遭わせたくないよ…!」

ガリーナはしゃがんで泣き崩れると、パーヴェルとワレリーは眉を困らせる。
ニコライはガリーナに近づくと、手を伸ばして頭を撫でた。

「よしよし!
パーパ!よしよし!して!」

ニコライはワレリーに怒るので、ワレリーは言われた通りにガリーナの頭を撫でる。
ガリーナは顔をあげてニコライを見ると、ニコライは真摯な表情を見せていた。
ガリーナはニコライの表情に驚くと、ワレリーも驚く。
ワレリーの目に見えていたニコライの姿が、なんと天使になっていた。

「ニコライ…」

ワレリーはそう呟いていると、ニコライは頭に手を当てて踊りだした。

「おーはな おーはな さーいた さーいた」

これは、保育園で発表するはずだった踊り。

「くーるる ひーらら はーなーびーらーがーまーうー」

多少音程はズレていたが、ニコライは一生懸命に歌って踊っている。
ガリーナは真摯な顔をして踊るニコライを見ると、大粒の涙がボタボタと落ちた。

「おーはな おーはな さーいた さーいた」

たった数ヶ月前はワガママを言ったり、つい最近まではダダをこねて泣いてしまう子だったニコライ。
そんなニコライが、今は大人を慰め、更には赤ちゃんの面倒を見ようと決めているのだ。

「くーるる ひーらら はーなーびーらーがーまーうー」

ニコライは踊り終えると、楽器を出してガリーナに笑顔で振る。

「あーー!マーマ!」

ガリーナは泣きながらニコライに抱きつくと、静かに泣いた。
ニコライの頭をひたすら撫で、苦しいくらいに強く抱きしめる。
返すようにニコライはガリーナの頭を撫でた。

「よしよし」

ワレリーはガリーナの隣に立つと言う。

「これは一本取られました。
そうです、私達はニコライの道を、聞くのを忘れていましたね。」

ワレリーはそう言ってニコライを見た。
ニコライは顔を上げてワレリーを見つめると、ワレリーはニコライに微笑んだ。

「私はニコライの決心を受け止めます。
ガリーナはどうしますか?」

ガリーナはそれを聞くと、涙を拭ってからニコライを離す。

「私も受け止める…!ニコライが決めた事って言うなら…!」

ガリーナはパーヴェルとレギーナを見て言った。

「ニコライを、お願いします…!」

「私からも。」

ワレリーもそう言うと、二人に頭を下げる。
レギーナは嫌そうな顔をするが、パーヴェルはニコライの腕を引っ張った。

「おい、俺は優しいパパじゃねえぞ?それでもいいのか?」

するとニコライはそのままの表情で言う。

「うるさい!あくま!」

それを聞いたパーヴェルはお怒りなのかニコライと睨めっこを始めた。

「あん?お前生意気だな。」

パーヴェルはそう言うと、ワレリー達の方を見て言う。

「仕方ないです。そうとなればコイツが自立できるまで、俺が面倒見ます。」

ワレリーとガリーナはそれに微笑むと、レギーナは黙って頷いた。

「ありがとう…パーヴェルくん…!」

ガリーナは礼を言うと、パーヴェルは笑顔を見せる。

「うん!ガリーナも兄様も!お達者で!」

「ありがとうございます。」

ワレリーはそう言うと、そこでフロルが言う。

「もう時間ですよ!お二人共!」

「はーい!
…行きますよ、ガリーナ。」

ワレリーはガリーナの背中を押すと、ガリーナは歩き出した。
ガリーナは泣きながらも、三人の方を見ながらも手を振る。

「行ってきます!パーヴェルくん!レギーナ!ニコライ!」

「行ってらっしゃい!ガリーナ!兄様!」

パーヴェルは大きく手を振った。
レギーナはこぢんまりと手を振り、ワレリーも黙って手を振る。
ニコライはと言うと、そんな手を振る一同を見て真似をした。

「いってらっしゃい!」

ニコライの元気な声を聞くと、ガリーナは込み上げる涙を拭って素敵な笑顔を見せる。

「またね!」

ワレリーはニコライを見つめていた。
ニコライの天使の姿は、船に乗った時でも、船が出発した後も、輝いて見えた為に見失う事はなかった。

そして、それを見守るニコライ。
ニコライの姿は、数ヶ月前とは見違えるほど立派であった。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

処理中です...