斯くて少女は、新たな一歩を踏み出す

takosuke3

文字の大きさ
10 / 29
二章 ~広がり始める世界~

決して望まなかった再会

しおりを挟む
 暗闇の中から街灯の光の下に姿を現したのは、輝かんばかりの美しい娘。異性はおろか、同性も見惚れずにはいられない美しさは、忘れようにも忘れられない。
 特に、
『相変わらずの出来損ないぶり、出涸らしぶりか』
 嫌悪と侮蔑に満ちた歪な美貌は、記憶そのままだった。
『エリッサ‥‥‥どうして、貴方が‥‥‥』
『どうして、だと?』
 ようやく絞り出したアレクシアの問いかけに、エリッサと呼ばれた娘は嘲笑で答えた。
『禁忌を犯した愚かな大罪人の処刑に決まっているだろう。そんな当然のことも分からんとは、頭まで悪くなっていたようだな』
『ふ、ふざけないでよっ!』
 禁忌を犯した──その言葉に、アレクシアの頭は一瞬で沸騰した。
『それは、エリッサでしょうっ! 禁庫に入ったのも、禁術を使ったのも、私を実験台にしたのも、貴方の友達を死なせたのも、全部、全』
『出来損ないが、一丁前に喚くな。耳障りだ』
『っ!』
 エリッサの周囲に法力が集まり、いくつもの稲妻が撃ち出される。アレクシアは咄嗟に障壁を展開するが、あっさり突き破られ、弾き飛ばされた。
「~~~~~っ」
 地面を転げながらも、どうにか法力を集め、形成した火球を撃ち出す──その筈だった。
『‥‥‥焦熱系法術の代表とも言える〝燁焔フローブラン〟に名を連ねながら、この程度とは』
 現れたのは指先にも及ばない小さな灯火、〝撃ち出された〟には程遠く、宙を力無く漂うだけ。エリッサだけでなく、放った当のアレクシアですら呆れるような、小さな小さな火だった。
『系統が違う私ですら、このくらいは出来るというのに』
 エリッサが法力を集めると、瞬く間に巨大な火球が現れ、勢いよく撃ち出される。それは、儚い小火などあっさり飲み込んで、アレクシアへと向かい、
『爆ぜろ』
 眼前で爆発──その衝撃が、再びアレクシアを弾き飛ばした。今度は頭を打ってしまったためか、すぐには置き上がれなかった。
『それと』
 アレクシアを、エリッサは蹴りつける。
『‥‥‥貴様如きが気安く〝エリッサ〟と呼ぶなっ!』
 何度も、何度も。
『貴様のような、出来損ないが、おぞましいっ!』
 最後にアレクシアの頭を踏みつけて地面にめり込ませると、エリッサは少しは溜飲を下げたのか、大きく息を吐きだし、
『たった二週間では、変わるべくもないとは思っていたが‥‥‥いや、察しが悪くなったことも含めれば、より酷くなってしまったか。野蛮人と汚物に浸かっていては、それも無理ないか。まあ、愚行の前例という意味では役に立ったしな、その点は認めてやろう』
『‥‥‥っ、‥‥‥』
 アレクシアは言い返そうとするが、激痛に加え顔を押し付けられているため、呻き声にしかならなかった。
 言い放題に言って満足したのか、エリッサは清々しい顔で懐から短剣を取り出し、
『出来損ないとして生まれて来たことを、この世と全ての人々に詫びて──っ?』
 エリッサの罵声が不意に途切れ、甲高い音を立てて短剣が零れ落ちた。アレクシアの位置と姿勢では見えなかったが、投げられた小石がエリッサの手の甲に直撃したのだった。
 たじろいだエリッサの足が離れたため、アレクシアはようやく顔を上げる。
『‥‥‥何だ、貴様は』
 最初に目についたのは、屈辱で顔を歪めるエリッサ。その視線を追えば、面倒そうな顔で面倒そうに歩み寄ってくる少年が目についた。
『いや、そもそもどうやって入ってきた? 法力を持たない野蛮人に破れるような』
『ソーマ‥‥‥』
 安堵しかけて、しかしすぐに今の状況を思い出して声を張り上げる。
「蒼真、ダメっ! この人、トテモ強いっ! 逃ゲテっ!」
「へいへ~いっと」
 気の無い返事を口にしつつ、蒼真は残りの石を全て投げる。合わせて五つの投石は、一つも違わず正確にエリッサに迫るが、その前にエリッサが飛び退いたために空を切ってしまう。
 その結果、エリッサはアレクシアから大きく離れることになった。その間に、駆け寄った蒼真は、倒れたアレクシアを見るなり、さもおかしそうに吹き出し、
「こんなとこで寝てんなや。お袋が見たら、お行儀悪いって怒られんぞ~」
 と、軽々とアレクシアを肩に担いで、さっさと歩きだした。
 エリッサの事など、気にも留めず──というか、まるでそこにいないかのように。
『貴様‥‥‥っ』
 当然ながら、そんな態度は火に油。エリッサの放った稲妻が、蒼真の鼻先を掠めて足元に落ちた。それでようやく、蒼真の足は止まる──仕方なし、と言いたげに。
『今すぐその娘を置いて立ち去りなさい、下民』
 少々引き攣ってはいるが、慈しみを含んだ笑みでエリッサは言った。初心な少年はもちろん、初心な少女も簡単に堕ちるだろう。実際、アレクシアもそれで何度も騙された。
『さすれば、その無礼を許してやらなくも』
『‥‥‥ワタシ~ワッカリマセ~ン』
 と、語彙も発音も酷く拙い言い草で、蒼真はエリッサの言葉を遮った。
『ダッテ~‥‥‥下民、デシュカラ~』
 そのくせ、〝下民〟の部分だけは、やたら流暢な発音であった。拙い言い草も、見るからにわざとらしいから、完全におちょくっていた。傍で聞いてるだけでも苛つかされるのだから、向けられた当の本人など、
『下民が‥‥‥』
 慈しみは完全に消え、怒気に満ち満ちていた。エリッサの怒気が殺意に変換され、それに法力が呼応する。
 そんなエリッサの姿を見た瞬間、アレクシアの中で何かが消えたような気配があった。気にしなければ何でもない、とてもとても小さなモノであったが。
 もちろん、今はそんな小さすぎることを気にしてる場合ではなかった。
 エリッサの法力によって生み出され、今に持けしかけられんとしているいくつもの稲妻──ではなく、
『その不遜、後悔するが──何っ?』
 強固なはずの結界を外側から強引に引き裂きながら飛び込んできた、その存在に。

                                  *****

 長大な巨体を強固な鱗で覆い、頭には猛々しい双角がそびえ、口には岩も噛み砕きそうな牙がずらりと並べ、四肢には鉄も切り裂きそうな爪が伸び──そんな禍々しい威容ながら、壮麗な優美さを感じさせ、しかしそこにいるだけで押し潰されそうな威圧は、相手が雲上の存在であり、自身が矮小な存在であることを、問答無用で思いしらせてくる。理屈ではなく本能が。
 そこにいるだけで他を圧倒する存在感ゆえに、〝魔王〟と同級、あるいは同義に恐れられ、ある者は神の化身とも崇めると言われる。
 その存在の名は、
『ド、ドラゴンだとっ? 何故こんな場所に‥‥‥っ?』
 エリッサの悲鳴じみた問いかけには、隠しきれない畏怖が溢れ出ていた。アレクシアなどは、一瞬でも気が遠くなりかけた。
『何を驚いておる? この地はあらゆる種族が共存する、そなたたちの言うところの〝混沌の東地〟じゃ。ドラゴンが現れても、おかしくはあるまいて』
 聞こえてきたのは、覚えのある女の声が答える──耳に響いたというよりは、頭の中に意思が直接届いたというべきか。
 そのおかげで、アレクシアは我に返った。その言い回しと、強大ながらその魔力の質は、紛れもない、
『‥‥‥リンヨウ?』
『さすがに姿を変えただけでは、そなたの目は誤魔化せぬか。ともあれ、話は後じゃて』
 静かに降りてきた皇龍は、その巨大な右手を伸ばし、アレクシアと蒼真を諸共抱え上げる。そして左手には、自転車が握られていた。
『お、おのれっ!』
 思い出したように、エリッサは法力を集める。それらは、いくつもの稲妻となって飛び去ろうとする燐耀に向かい、
『龍を相手に雷撃で挑もうなどと‥‥‥』
 呆れた思念と共に、稲妻は儚く消えた。燐耀に触れることすらなく。
『雷とはこう使うのだ』
 轟音──術によって作られた稲妻もどき・・・ではなく、天から墜ちる本物の・・・雷がその場に降り注いだ。
「──っ」
 直撃こそしなかったが、落ちた地面にはすり鉢の様な穴を穿ち、その衝撃と閃光は、エリッサを木の葉のように吹き飛ばした。
 幼体でも強靭な肉体と生命力を誇り、成体ともなれば高い知性まで兼ね備え、例え大軍を擁しても屠ることは困難を極める。中には、有り余る魔力によって天変地異をも引き起こすという伝説もある。
 ただの伝説だと、思っていた──真実・・を目の当たりにするまでは。
『せいぜい精進するがよい、小娘』
 土煙の向こうにいるエリッサに向かって告げると、燐耀は二人と自転車を抱えて、夜天へ舞い上がる。
「協力感謝。それと荷物持ちご苦労さん」
『礼には及ばぬ。前者に限っては、じゃが』
「へいへい。今度食堂の一号定食奢ってやるからよ」
『その言葉、忘れるでないぞ‥‥‥て、どうした、アレクシアよ?』
 燐耀が思念で呼びかけるが、この時点で気を失っていたアレクシアには、届くはずもなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。 12/23 HOT男性向け1位

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

処理中です...