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出会い~ライラック王国編~
逃げるお姫様2
しおりを挟むライラック王国の王城の周りには、堀があり、橋を渡らないと城の出入りはできない。
その認識の元、橋の周りには兵士たちがいた。
橋から離れた場所に、実は少し堀の浅いところがあり、向こう岸には捕まれる凹凸があって、うまく辿れば町の水路に入れる場所がある。
ミナミはルーイに教えられた通り、物音を立てずに待っていた。
ルーイはミナミから黒いマントを取りあげ、少し待つように言ってどこかに行った。
彼が裏切るような真似はしないと断言できるが、ミナミは不安だった。
夜の海と同じように、夜の水面というのはどうしてこのように暗く不安定なのだろうか…
ミナミは安定しない堀の水面を見て自分の肩を抱いた。
一人だと、色々考えてしまう。
「…ルーイ…早く…」
ミナミは震えながら呟いた。
ボチャンと、どこかから堀に何かが飛び込む音がした。
「!?」
ミナミは音の方向を見て息を呑んだ。
「あっちだ!!」
「逃げられるな!!」
音の方向から兵士たちの声が聞こえる。
それと一緒に水路に何かが飛び込む音が続いている。
ミナミは、聞こえない小さな悲鳴を上げた。
彼女はまさかルーイがおとりになるような真似をしたのではないかと、思ったのだ。
グイっと、ミナミの震える肩が抱かれた。
驚いて声を上げそうになるが、ミナミは息を止めてこらえた。
ゆっくりと振り向くと、ルーイが息を切らしていた。
「今のうちに行くぞ。」
ルーイの手にはマントはなかった。
彼が何をしたのかわからないが、彼の言う通り、今のうちに行くしかないのはわかった。
バシャバシャと兵士たちが堀を捜索する音に紛れ、ミナミとルーイは堀に入った。
冷たいとか、水が汚いなど言っている余裕はない。
ミナミは水の魔力を持っているが、こういうときにとっさに使えるほどの鍛錬をしていない。
今更ながらきちんとしておけばよかったとミナミは思ったが、父親になるべく魔力を使うなと言われていたことを思い出した。
実際ミナミは感情のせいでたまに光ってしまうのを制御するので精一杯なので、仕方ないことだった。
ルーイはミナミを抱えて向こう岸に泳ぎ始めた。
「…掴まっていて」
ルーイはミナミの手を自分の首に回した。
ミナミはルーイの指示通り彼の首をぎゅっと抱きしめた。
ルーイは慣れた様子で堀を泳ぐ。どうやらよく抜け出しているらしい。
向こう岸に着くと、ルーイは壁を伝うように泳ぎ始めた。
「…ここから潜ると…地下の用水路に抜けられる。少し泳ぐだけだ…」
ルーイは壁の一部に亀裂を見つけ、指差した。
ルーイの言う通り、亀裂の下には水で隠れているが、大きな穴が開いている。
「…大丈夫か?」
ルーイは未だに震えるミナミを見た。
「大丈夫…」
ミナミは頷いてルーイにギュッと強く抱き着いた。
助けてくれたフロレンスや、オリオンのお陰で今ここまで逃げて来られた。
しかし、今のミナミには、ルーイしか頼れる人がいない。
父親が兄に殺されてとても悲しいし、辛くて苦しい。
それを含めても、ミナミはルーイと一緒に逃げ切らないといけない。
「…ルーイを信じる。」
ミナミは歯を食いしばり、震えを止めるように体に力を入れた。
「…行くぞ。」
ルーイは頷いた。
彼は合図をするように首を大げさに振って息を吸った。
ミナミはルーイの合図に従うように息を吸った。
ミナミが息を吸ったのを確認するとルーイはミナミを抱きかかえたまま、水に潜った。
冷たい水に驚き、思わず口を開けそうになったが、ミナミはルーイにくっついて自分を落ち着かせた。
ルーイの手がミナミの頭をそっと撫でると、彼はミナミを抱えて深く潜った。
堀の中の水は黒く、暗く、淀んでいてミナミはすぐに目を閉じた。
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