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二人の罪人~ライラック王国編~
追及される青年2
しおりを挟むオリオンに先導されるまま、ミナミたちは地下水路から出た。
ルーイは、イシュ改めシューラを変わらず警戒していた。
ただ、シューラが不敵に笑う様子から、たぶんルーイに勝ち目は無いのは確かだと思われる。
そもそも、帝国騎士団の副団長と渡り合っていたシューラが新人兵士のルーイに負けるはずが無かった。
「…これに乗れ。」
オリオンは牛が引いている藁が乗った牛車を指した。
「あの馬車とかはどうですか?荷台に乗れます。」
ルーイはいくつかある馬車の中で運搬用と思われるものを指した。
「藁の中に入った方が安全だ。会話をしていても外に漏れにくい。それに、あれは囮になる。」
オリオンは首を振った。
「確かに…仲良くなろうよ。」
シューラはルーイに対して挑発するように笑った。
ルーイはシューラを横目で睨んだ。
「それよりも…オリオンお兄様のことを聞きたい。」
ミナミは何故オリオンがここに来たのかが気になった。
「…待て。先に乗ってしまおう。」
オリオンは人の気配を感じたのか、人差し指を立てて言った。
オリオンが言い終える前にとっととシューラは乗り込み、藁の中に潜り込んだ。
その次にルーイが乗り込んだ後にミナミ、オリオンと潜り込んだ。
藁は、さすがに人間四人が入るとかさ上げされる。
ただ、幸いなことに大雑把な人間が管理しているようで、牛車は簡単に動き出した。
あまり姿は見えないが、シューラ、ルーイ、ミナミ、オリオンとシューラに戻るように輪になる位置関係にあるようだ。
「…じゃあ、ミナミに聞かれたから話そうと思う…あまり驚くなよ。」
オリオンはミナミに確認を取るように訊いた。
ミナミは、藁の中オリオンに見えているか分からないが、とりあえず頷いた。
オリオンはミナミの様子が見えたのか分からないが話し始めた。
宿に来た理由はアロウが帝国にマークされていたこと、城の中は信用できるものが少ないこと。
帝国側も王国側もミナミを狙っていること。
ホクトの命を救った大臣が犯人という嘘がミナミは覆すことができる。
協力とは違い実行犯となればホクトの死罪は免れないだろう。それが正しいことなのだろうが、オリオンは利用されただけのホクトにそんな裁きは望まない。
ちなみに覆ることが嫌なのはオリオンだけじゃないはずだ。
帝国もそうだが、国内にもうまく隠れているホクト派の者もいるうえに、帝国の言いなりになりつつあるオリオンを良く思わない者も多い。
なによりも、命の危険もあるが、ミナミを担ぎ上げようとする動きがあってもおかしくない。
「お姉さまの言った通りだ…」
ミナミはアズミの言ったことを思い出していた。
「…ああ。命の危険もあるが、傀儡の危険もある。」
オリオンはわずかに声が震えていた。
おそらく自身の無力感に歯がゆさを感じているのだろう。
「それに…俺もミナミも…ライラック王国の王族の力を強く持っている。いつ第三者が関わってくるかわからない」
オリオンは悔しそうだった。
ミナミもその話はアズミから聞いていてわかっているが、オリオンの言葉で本当に危険であるのがわかった。
「そういえば…マルコムに会ったんでしょ?」
シューラは少し軽い口調でオリオンに訊いた。
「ああ。…助けてくれたのもあるが…なんとなく彼は信用できる気がした。」
「罪人ですよ。」
オリオンの言葉にルーイが噛みついた。
「王国や帝国よりかはずっとましだと思うよ。」
シューラはルーイに態度に怒ることなく、冷やかすように笑いながら言った。
ルーイはシューラの言っていることが事実なだけに少し黙った。
「そうだ。マルコムの方に副団長さんが行ったと思うから、たぶん今相手に疲れているんじゃないかな?」
シューラは何でもないことのように呟いた。
「副団長…?エミールさんか?」
「うん。途中で外に出ている廊下の床板壊れていたでしょ?あれ、僕が副団長さんを落とすために壊したの。」
「…マルコムの言う通りにだったな…」
オリオンは困ったようにため息をついた。
暫く牛車がガタガタと動く音と、揺れの振動だけが響いていた。
「シューラ・エカ…少しいいか?」
オリオンが声を潜めてシューラに話しかけた。
「…何?」
シューラが応えると、オリオンが何やらひそひそと話し始めている。
ミナミやルーイには聞こえない音量だ。
「…逃げるんだよな…ミナミ。」
ルーイは藁の中でいまいち顔は見えないが、ミナミの手をぎゅっと握ってきた。
「うん…それしかないし…でも、アロウさんも一緒だし…オリオンお兄様は…どうするんだろう?」
ミナミはどうして今、オリオンが同行しているのかわからなかった。
確かにミナミたちの元に来た理由はわかるが、オリオンは伝えたらすぐに戻ればいい。その方が彼にとっては安全だ。
「…なら、アロウさんと…あの二人と…俺か…」
ルーイはしみじみとしたように呟いた。
そのルーイの呟きが、ミナミに取ったらピンと来なかった。
イシュとモニエル改め、シューラとマルコムのことじゃない。
それは、ルーイのことだった。
「…ねえ…」
「なんだ?」
「…ルーイはお城に戻りなよ。」
ミナミはルーイがお城から出て自分と逃げることに違和感があったのだ。
「え?」
「だって、逃亡したらルーイは将軍になれないよ。」
ミナミに取ったらルーイの夢を潰すのはダメなのだ。
ミナミと逃げたら、ルーイの夢である将軍は遠くなる。不可能ではないが、下手したら反逆者として扱われる。
「お前を、あいつ等と一緒にいさせろと言うのか?」
ルーイは怒った口調で言っていた。
ミナミの手を握る強さも強くなっている。
「…うん。」
「俺は…」
ルーイが何かを言おうとしたが、迷うように言葉を止めた。
ルーイが何を言おうとしているのかミナミにはわからなかったが、ミナミにはルーイの夢のため以外にもっと大事な理由があった。
それはどうしても譲れないものだ。
ミナミはルーイの手を頼りに彼の頭を見つけた。
そして、彼の耳に顔を寄せた。
「…ルーイ。…オリオンお兄様を…一人で戦わせないで…」
ルーイにだけ聞こえるように囁いた。
「!?」
ミナミにとったら一番大事な理由。
オリオンは味方が誰だか分からない状況で、ミナミとホクトを守ろうとしている。
オリオンは言っていた。
ライラック王国の王族の力を強く引き継いでいるミナミは危険だと。
それはオリオンも同じなのだ。
たとえ王になったとしても、一度崩れたライラック王国の状況では安全だとは言えない。
そんな彼に、確実な味方がいて欲しいのだ。
一人でもいいから…
「お願い…ルーイ。」
ミナミの言葉にルーイはただ、彼女の手を強く握っただけだった。
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