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二人の罪人~ライラック王国編~

まけない青年

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 牛車の様子から、町を出ることは出来たようだ。あとは、農地にうまく入れればいいだけだ。



 郊外の道に入ると検問を敷かれているなら突破することは難しい。



 町を出ることを確認した段階で、藁に潜るようにしていた状態から、藁を退けて四人が座る空間を作った。

 何かあった時にいつでも飛び出せるようにするためだ。



 検問があるかどうかも様子を見る必要があるからだ。



 しかし…



「…検問が敷かれていないのは…王国が怠惰なのか…」

 シューラは腕を組んでオリオンを見ていた。



「…さあな。俺に隠れて色々やっているらしいからな…帝国が来てからはそれが顕著になった。」

 オリオンは自嘲的に笑っていた。



 今は警戒態勢であるのに関わらず、検問はなかった。もしかしたら農地以降にあるのかもしれないが、些か無警戒過ぎる。

 ミナミでもそう感じる。

 おそらく、帝国との連携を嫌がる勢力がいるせいだろう。





「アロウさんなら尾行されていても撒けると思うが…帝国側は彼でも察知できないほどの尾行をするのか?」

 ルーイはもうシューラに対して必要以上の警戒はしなかった。

 だからと言って仲がいいというのは決してない。



「さあ?ただ、僕の知っている帝国騎士は尾行や隠密行動にすごく長けている人物だよ。彼が動いているなら、僕やマルコムもだけどアロウさんも察知することが難しいんじゃないかな?」

 シューラは両手を広げて笑いながら言った。



 その様子を見てオリオンは納得したように溜息をついた。



「お兄様…誰だかわかるの?」



「リランだろう?…」



「よくわかったね。彼は元々隠密行動を得意とする小技系の騎士だったからね。昔からマルコムもその能力は買っていたから相当だよ。」

 シューラは人差し指を立てて「せいかーい」と笑った。



「リランは、ミナミがお城から逃げた日に俺の元に来た。そして、夜明けに誰も察知されることなく居なくなった。窓から去って行ったが、身軽で動きに慣れがあった。魔力を使わずともあんな動きができるなんて、末恐ろしい限りだ。」

 オリオンは若干疲れたような顔で言った。



「お兄様…部屋に人を入れたの?」

 ミナミはリランが去ったことよりもオリオンが部屋に他人を入れたことに驚いていた。



「俺の部屋が一番の隠れ場所だったからな…」

 オリオンは少し後悔してる様子だった。

 何があったのかは聞きたい気がしたが、ミナミは聞かないことがオリオンのためなのかもしれないと変な気を遣った。



 そして、今更だがオリオンがリランと過ごしたことに少しだけ羨ましく思った。



「…やっぱり検問は無いですね…」

 外を警戒していたルーイは不安そうに言った。



「じゃあ、農地に入ったら合流地点じゃなくて、あちこち転々としながら隠れて向かおう…」

 シューラは険しい顔をして居る。



 オリオンは表情が曇ってきている。

 何か良くないことが起こっているのはミナミでもわかった。



 農地や牧場特有の土の匂いと肥料の匂いが漂って来た。



「そろそろ降りよう。」

 幾つかの林が見えた地点でシューラが提案した。

 ルーイもオリオンもそれに賛成し、ゆっくりと走る牛車から順番に下りた。



 あまり王都から出たことのない、生粋の箱入り娘のミナミは、空の広さに感動した。



「ミナミ。早く。」

 ルーイが空をぼーっと見ているミナミに声をかけ手を引いた。



「あ…うん。」

 ミナミは慌てて動き出し、木の後ろで身を隠すようにしているシューラやオリオンの元に向かった。



 幸い人目は無い。



 さっきまでミナミたちが乗っていた牛車は、何事も無かったかのように走り続けている。



「…じゃあ、付いてきて。」

 シューラを先頭にミナミたちは目的地の小屋を目指し、農地を隠れながら進んだ。



 途中で木が茂っている川沿いに向かってシューラは進んだ。

 どうやら身を隠しやすいという目線からのようだ。



 彼の選択にルーイも何も言わずに付いて行った。



 やはり、逃亡の経験値は圧倒的にシューラが上だからだろう。



 シューラは足を止めた。

 ミナミたちもそれに倣い、足を止めた。



 目的の小屋が見え始めていた。

 ただ、その周りにも他の小屋がある。



 何よりも、シューラが足を止めた理由は別にあった。



 ミナミも様子を見て理由が分かった。



「…あれ…」



 オリオンは表情を曇らせている。ルーイも険しい顔をしている。



 目的の小屋にではないが、近くの小屋に一つの馬車が止まっていた。



 その馬車は、町で牛車に乗り込む前にルーイが乗らないかと提案していた輸送用の馬車だった。



 そして、その馬車から数人の男が出てきた。



「…結構やばいね…」

 シューラはミナミたちになるべく姿を隠すようにジェスチャーで指示した。

 言われなくてもミナミも状況が良くないのはわかったし、見つかってはいけないのはわかった。



 馬車から出てきた男の内の1人はアロウだった。



 そして、彼は帝国騎士団に囲まれているのだった。



 つまり、アロウが捕まったのだ。

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