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ライラック王国~プラミタの魔術師と長耳族編~

待たされた魔術師

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 いつまでも外にいると、どこから村人が手伝いを頼むかわからない。

 物資を提供したとはいえ、この村は復興のために人手不足なのだ。



 シューラはともかく力の強いマルコムは、広場にいたときに村人たちから探るような視線を送られている。



 マルコムの提案で、医者の真似事ができるシューラが改めて怪我人を看るということで

 水辺の小屋で手当てをしながら話を聞くという方針になった。



「でも、あれだけ騒がしかったのに怪我人の魔術師たちは静かだったね。」

「見てわかる通り、魔術師って全然動く仕事じゃないんだ。だから、もともと静かなんだよ。魔力絡むとうるさいけど。」

 シューラの呟きにイトが答えた。



 どうやら魔術師とは結構特殊な性格の者たちのようだ。



「だから、姫様はあまり目立たないようにね。」

 イトに念を押されてしまった。

 それにマルコムとシューラも頷いている。



 ミナミは自分が光ってしまうことを危惧されていると思って、ふんっと鼻息を荒くして力を込めて頷いた。

 シューラに教えてもらった魔力の制御はいい感じに身についてきたのだ。

 興奮しても光らなくなっている。



 この前、ガレリウスにブチ切れて発光したことは仕方ないことと考えると、最近は魔力の制御ができてきていると思う。

 もともと些細なことで光っていたので大した進歩だ。



「君はたぶんよくわかっていないから、大人しくしていてね」

 ミナミの様子を見てマルコムは呆れたように言った。



 怪我人のいる水辺の小屋には、もう村人たちはいなかった。

 一日あれば簡易的な小屋を建てて、そこで生活を始められるようになったのだ。



 元ゴロツキとはいえ、開拓して村を起こした背景があるため逞しい。



 それにはマルコムもシューラも感心していた。



 小屋の怪我人たちはよく眠っていた。

 そういえば、かなり出血もしていた。

 それによって、体力がかなり落ちているのだろう。



 ミナミは手当の時に見た傷口を思い出して顔を青くした。

 しかし、容体は安定したはずだ。



 シューラの薬のおかげで。



 眠る怪我人たちの寝息を聞くと安心する。



「よく寝ているね」

 イトは不思議そうに首を傾げていた。



「ああ、どんな奴だかわからないから軽い眠り薬を飲ませているんだ。急に動き出す奴だったから困るからね。」

 シューラは片手をあげて言った。



 どうやら彼はミナミの知らない間に結構怪我人のためにいろいろやっていたようだ。



 マルコムもだが、ミナミの知らない間にさっさと物事を済ませるのは少し寂しい。

 ただ、これはミナミのわがままに該当する感覚なので黙った。



「シューラ君って本当に薬に詳しいね…いや、イシュ君は。」

 イトは感心したように言った。

 途中で名前を言い直したのは、眠っているとはいえ、シューラの正体を知らないものがいるからだ。



 シューラは薬に詳しい。

 どれくらい詳しいかと言うと、その辺の草を口の中に入れて薬に変えられるくらいだ。

 意味がわからないが、詳しいとできるようになる芸当なのだろう。

 ミナミは未だにあの薬のつくり方の意味がわからない。



 ただ、シューラの中でしっかりとした仕組みがあるらしいので、問題は無いだろう。

 ミナミはあの薬のつくり方をマスターするつもりはないのだし。



「僕は小さいころから薬を飲んでいたいからね。毒もね」

 シューラは目を細めてイトをからかうように言った。ただ、言っていることは事実だろう。



 シューラもマルコムも冗談を言って他人をからかう人間ではない。

 事実を言って他人をドン引かせる人間だ。



 実際イトは引いている。



 思った通りの様子でミナミはニコニコした。

 彼女はマルコムとシューラのことがわかってきて嬉しいと感じているのだ。



「君って結構おかしいの?」

 マルコムがニコニコしているミナミを見て眉を寄せて言った。



 ミナミはどうしてマルコムがミナミに変な目を向けるのかわからないので首を傾げた。



 そんなミナミの様子を見てマルコムは深く考えるのをやめたのか

 呆れるようにため息だけついて、怪我人の方に目を向けた。



 そして、怪我人を見たマルコムの眉がピクリと動いた。



 ミナミはわけがわからず、また首を傾げた。

 マルコムは一瞬ミナミに目を向けたが、ミナミの横で気まずそうな顔をしているシューラに気付いたのかそちらを睨んだ。



 ミナミはわけがわからなかったが、イトの言葉で分かった。



「傷の様子は手当以来だけど、これって薬と自然治癒じゃないよね?」

 とイトは子供の様子を見て驚いたように言った。



 ミナミは癒しを使っていない。

 そしてこの中で癒しを持っているのは…



「イシュ君癒し持っているの?」

 イトは驚いたようにシューラを見た。

 その目はキラキラと輝いている。





「…少しだけ。だって、あの子供の身体は持たなかった」

 シューラは口を尖らせて、消え入りそうな声で言った。

 彼は子供の身体は自然治癒では持たないと判断し癒しを使ったようだ。



 マルコムはため息をついた。

 そして恨めしそうにイトに目を向けた。



 おそらく癒しを使ったことがイトにバレるのが嫌だったのだろう。



「癒し持っているの珍しいよね。すごいなー。とりあえず仲良くしよう!君たち三人とは長い付き合いになりそうだからね!末永くよろしくね!」

 イトはキラキラとした目を向け、シューラからマルコム、ミナミと顔を順々に向けて言った。



「黙れ。気色悪い。

 お嬢さん。こいつのことは、機会があったら君のお兄さんに通報した方がいいよ。」

 マルコムは嫌そうな顔をしていた。



 ミナミはとりあえずオリオンに何かの機会に連絡をするつもりだ。

 その時にマルコムの言う通り、イトという変な商人に付きまとわれたと伝えようと思っている。



 ミナミは頷いた。











 しばらくすると、怪我人の一人が起きた。

 起きたのは一番怪我が軽かった女性だ。



「本当に…女神様に似た子たち、ありがとうございます。」

 怪我人の一人である女性が寝床から起き上がり、手をついて頭を下げた。



「あの子の命を諦めずに済みました。」

 女性はチラリと怪我人の子供に目を向けた。



 その子供が、シューラが癒しを使わなければ命がもたなかったと言われた子だ。



 怪我人は全員で5人。

 危なかった子供のほかにもう一人子供がいる。

 そして今頭を下げている女性と、眠っている青年と中年の男性だ。



「薬のおかげか、私たちも体が楽になって」

 女性はどうやらシューラに処方された薬で体が楽になったようだ。

 ミナミはシューラがどんな風に薬を作っているのか知っている。



 思わず女性から目を背けた。



 背けたときにマルコムと目が合った。

 彼はシューラの薬の話をするたびに気まずそうにするミナミを見て笑っているようだ。



 その様子にミナミは驚いたが、気安く笑ってくれるようになった気がしたので

 マルコムに笑顔を返した。



 そうするとマルコムは真顔になった。

 ミナミは納得できなかった。





「常備薬のおかげだよ。僕たちの備えに感謝しなよ」

 シューラは女性の方を見ずに言った。



 言い方とか態度は、あまり褒められたものではないが、女性はそんなシューラを見て申し訳なさそうに微笑んで頭を下げるだけだった。



「私はエラといいます。この村に来たのはロートス王国に行くためとちょっとした用事です」

 頭を下げていた女性はエラと名乗った。

 彼女は青みがかった黒の髪をしており、瞳は水色だ。



 シューラとはまた違った宝石みたいな瞳で

 ミナミは思わず「綺麗」と呟いていてしまった。



 ミナミの呟きを聞いて、エラは微笑んだ。

 それにミナミもニコニコと微笑み返した。



 綺麗なお姉さんに微笑まれて嬉しい。



 エラは美人の部類だろう。

 ミナミは心の中で美人のお姉さんと分類した。



 彼女はスラリとした細身で華奢だ。



 ミナミは、自分の体型や太さは気にしたことが無いが、

 エラのようなスタイルはかっこいいと思った。



「お嬢さん勝手に幸せ脳内にならないで。話進めたいからどけてね。」



 ミナミは気が付いたら身を乗り出して、エラの前でニコニコしていたらしく

 マルコムがミナミの身体を抱き上げて脇にいるシューラの前にどかした。



 その様子を見てエラがおかしそうに笑っていた。





 それにしても

 エラは美人だというのに、マルコムもシューラも無反応だ。





 美人には男性は盛り上がるものだと思っていたミナミは不思議だった。



 まあ、あの二人が女性に目を輝かせるところなど想像できないので、驚くことは無い。



 ちなみにオリオンも盛り上がらない人間だ。

 といっても、美人だとしてもオリオンの方が美形なことが多いので仕方ない部分もある。



 だが、イトも無反応であるのは意外だった。

 彼は、彼女を一瞥しただけだ。



 一番盛り上がっていたのはミナミだった。



 マルコムにどかせられたあとも、ミナミはフラフラと歩いていたらしく、シューラに手を握られ隣に立つように促された。



 ミナミはいけないいけない!と慌ててシューラに従い、彼の隣で姿勢を正した。



 その様子をマルコムは呆れたように見ていたが、ミナミがシューラの隣に落ち着くとエラに目を向けた。



「で、エラさんは魔術師?」

 マルコムはエラを探るように見て、鋭い口調で言った。



 エラはマルコムの言葉に目を丸くした。



「どうして…」



「プラミタから来たという噂を聞いたからね。」

 マルコムは未だに横たわっている怪我人とエラを交互に見て言った。



 エラの様子を見る限り、彼女は魔術師のようだ。





 魔術師



 その言葉にミナミは目を輝かせた。



 魔力を扱うプロフェッショナル。

 火をおこしたり水を操ったりする話はよく聞く。



 マルコムが期待しない方がいいと言っていたが、好奇心がくすぐられる。



「そうですね。わけあってロートス王国に向かっていると思ってください。ただ、私が一番怪我が無いのは、一番強い子が守ってくれたからなの」

 エラはそういうと一番怪我がひどかった子供に目を向けて悲しそうな顔をした。



 たしか、ミナミの事を女神様と呼んだ子だ。



「その子が君たちの中で一番の実力者である魔術師か」

 シューラは何か心当たりがあるのか納得したように頷いた。



 マルコムは怪我人に全員に視線を巡らせた後にイトを睨んだ。



「いや。知らなかったって。ただ、帝国からの話を…」



「あれ?もしかしてあなたが私に話を聞きたかったって人ですか?約束の日になっても来なかったのでてっきり冷やかしだと…」

 マルコムに言い訳をしているイトの話を聞いて、エラは驚いたように言った。



 ただ、これではっきりしたことがある。



「お前が悪い」

 マルコムはイトの背中を乱暴に蹴飛ばした。



 ミナミもそれは同感だ。

 彼が早くこの村に来ていればエラ達の怪我も軽く済んだかもしれないし、ガレリウスの動きも違ったかもしれない。



「普段は迷う時間も考えて待ち合わせを設定するんだけど、今回は船を捨てて命からがら来たから…」

 イトはマルコムに蹴られた背中をさすりながら言った。



 どうやら黒い死神とのひと悶着で遅れたらしい。

 しかし、同時期にそのあたりにいたと思われるガレリウスはすでに村にいたはずだ。



「壊滅的な迷子だな…」

 マルコムは呆れていた。





 エラは何とも言えない顔をイトに向けていた。

 イトは申し訳なさそうにしている。



「とはいえ、帝国に何しに来たんだ?

 傲慢なプラミタから君たち魔術師が来るような事なんて」

 マルコムは探るようにエラや横たわる怪我人たちを見て言った。



 今の口調を聞く限り、マルコムはあまりプラミタが好きじゃないみたいだ。



「帝国は別です。フロレンス公爵は凄まじい魔力使い…おそらく魔術師の資格を取ったら最強の魔術師となるでしょう。

 赤い死神も実態のつかめない魔力使いです。」

 エラは首を振っていった。



 彼女の口調から、魔術師は資格が無いとそう呼ばれないらしい。

 なので、同じように魔力を使っても資格が無ければ魔力使いと言われている。



 マルコムはエラの話を聞いて頷いていた。

 だが、眉尻がわずかに下がっているので馬鹿にしていると思う。



「それに、帝国は魔導機関の実用化が一番進んでいます。それに加えて巨獣の生態についても最も詳しいです。」

 エラは力説した。

 ミナミも帝国が急成長した理由に魔導機関の技術が高いことがあるのはわかっている。



 だが、それよりも大事なことを聞いた気がした。



「巨獣の生態について?」

 マルコムは眉を顰めて、繰り返すように言った。



 エラはそれに頷いた。



「ええ。帝国は巨獣の手なずけに成功し、半永久的に魔力を提供してもらえる契約を結んだのです。

 私たちはその様子を探りに行ったのです。」

 エラの言葉にミナミとシューラは思わず目を逸らした。



「じゃあ、聞くけど西の大陸の巨獣について何か知っている?」

 マルコムは質問を変えた。

 彼女の口調的に、シューラやミナミが巨獣であるビャクシンを手なずけているのを明かさない方がいいと判断したのだ。



 実際、ミナミもシューラもエラの話に気まずくなって目を逸らしたのだ。



「ええ。ビャクシンは西の大陸の巨獣ですが…彼らは獰猛です。

 まれに懐くこともありますが、共存は難しいです。子どものビャクシンを教育して取り込むという実験も行いましたが、

 何人死にかけたことか…それに彼らは根本的に人間を馬鹿にしています。

 なので、帝国が手なずけた“ズンドラ”を一度見てみたかったのです。」

 エラは悔しそうに顔を歪めながら言った。



「ズンドラか…たしかでっかい龍だよな。」

 イトは知識として知っているのか、呟いた。



「ええ。ですが、ズンドラの住処は帝国騎士団が厳重に守っていて近づくことができませんでした。

 しかし、帝国で扱われている魔導技術は非常に勉強になったので

 収穫がなかったとはいえ、決して無駄ではなかったです。」

 エラは胸を張って言った。

 彼女は仕事や自分の役割にプライドを持っているようだ。



 ミナミは凄いなーと思っているが、マルコムは相変わらず眉尻をわずかに下げている。





 あと、ミナミは知らないが、帝国にいる巨獣は“ズンドラ”というらしい。

 あとでマルコムやシューラに聞いてみようと思った。



 それにしても、エラが話すビャクシンはミナミの知っているあの可愛いビャクシンではない気がする。



 それに、ビャクシンは複数いるようだ。

 ならば、あの可愛いビャクシンに名前を付けないといけない。





 ミナミは拳を握ってそう決心した。

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