上 下
157 / 234
ライラック王国~プラミタの魔術師と長耳族編~

忠告する死神たち

しおりを挟む
 読んでくださってありがとうございます
 ストックに追いつきそうなので今話以降隔日でペースで投稿します。

 _________________________


 

 魔導装置で帝国側と会話をするとのことで、オリオンを始めとした首脳陣がリランの部屋に集った。



 これはライラック王国側の要望もあるが、どうもきな臭いことがあるから立ち会えばいいと帝国側も求めた。



 ライラック王国はそこまでプラミタと交流が無いので、関わらずに済むのがいいと思うが

 リラン曰く、プラミタがライラック王国の王族に興味が無いはずが無いと強く主張したのだ。



 それに、もしかしたらホクト王子の行動の陰にそれがあるかもしれない…と付け加えたのだ。



 そうなったらオリオンは立ち会う以外の選択肢はない。

 それに、ライラック王国の王族に何かあったら困るのは周りの首脳陣だ。



 この国は王族の特殊性ありきで成立し、不可侵の存在という優位性を維持している。



 帝国の参入も面白くないが、庇護下に入ったうえで付き合い方をわかりつつある状態の今、帝国よりもさらに別の存在が関わってくる方が面倒なのだ。



 そして、帝国の協力で完成したプラミタの通信用の魔導装置は凄いようだ。

 オリオンをはじめ、ライラック王国側はそれを実感した。



 まず、その場にいるような声のやり取りができる。

 声が途切れ途切れの通信用の魔導装置は見たことがあるが、プラミタが管理しておりそう簡単に使えない。

 それであっても、貴重だ。



 そもそも通信用魔術師という職業があるので、魔導装置ではなく通信ができる魔術師を使う場合が多い。

 それにしても色々と下準備が必要だ。



 しかし、今目の前にある魔導装置はそれを遥かに凌駕する。



 それは目の前に通信相手が映し出されるというものだ。

 魔導装置の前に立った者を対象としているようで、魔導装置を挟んで対面に相手が映し出される。



「これは父の力が無ければ完成しないものだ。協力と言ってもほとんど帝国主導で作られたものだ。

 根本的に既存の通信魔導装置とはわけが違う。名前だけの恩恵をプラミタに与えただけで、利用に関しては帝国が管理する状況だ。

 プラミタも歯噛みしているだろうな。」

 リランは魔導装置を操作しながら笑った。



 どうやら魔導技術の高い帝国は魔術大国プラミタよりも技術が優れているらしい。

 そして、通信用の魔導装置の開発は帝国が完全に優位の立場。



 今更ながら、完全に敵に回さなくてよかったと思っている。

 オリオンも、この場にいるライラック王国の首脳陣も。



「オリオン王子を始めたとしたライラック王国の者たちはプラミタには注意した方がいい。表立っている膿は扱いやすいが、根本にいる輩は厄介だ。」

 リランはオリオンと、その隣にいるルーイに視線を向けて言った。



「それはどう…」

 オリオンがリランに言葉の意図を尋ねたようとしたとき、通信魔導装置がジージーという虫の声のような音を出した。



「お…繋がったか…」

 リランは装置の前から自分以外どけるように手で示すと、通信魔導装置をトントンと指で叩いた。



 すると、通信魔導装置から淡い光がリランと対面のところに差し、なにやら立体的な形を作り始めた。

 それが人の形であることと、通信相手の姿であることがわかるのに時間はかからなかった。



 光から映し出されたのは、オリオンやリランよりも頭二つ分以上大きい男だ。

 彼は、肩幅や腕、足の太さや形からかなり太く筋肉質で、鍛えられた体躯というのにふさわしい身体をしている。



 服装は帝国騎士団の服に見えるが、とてもシンプルで飾り気のない赤いラインが入った黒地の服だ。そして赤いマントを軽く背中にかけている。



 そして徐々に見えてきた顔は、威圧感を覚えるいかつさと威厳がある。

 輪郭が角ばっており、発達した顎は耳の下にしっかりとした骨が見え堀の深い顔と大きめの鼻、太い眉毛はしっかりと形が整えられており、その下の目は顔立ちからは意外に思えるほど綺麗なアーモンドの形をしている。

 目鼻立ちは全体的にいかつさや年齢があれど整っており、大きめの鼻の下には色味は薄いが形のいい唇がある。

 短く切られた髪は毛質が固いのか剣山のように立っているが、形は綺麗に整えられている。

 身なりに気を遣っているのがよくわかる。



 そして、全体的にいかついが、整った容貌から貴族でありそうだな…とオリオンは思った。



 それになによりも一番の特徴は

 漆黒の闇のように暗い黒の瞳と髪だ。

 黒髪といっても別の色味が見えることが多いが、この男の髪は真っ黒であり、瞳も瞳孔と他との差がわからないほど真っ黒だ。



『元気そうだなリラン。』

 男はリランに対して気安く言った。

 声は低いがよく響くもので、上に立つものという印象を受ける。



 そして、彼の外見や印象からオリオンは目の前に映し出された男が何者かわかった。



 それを分かったのはオリオンだけじゃない。他のライラック王国の面々もわかったのだ。

 だから後ろがざわついた。



『お前以外がいるようだな。押し切られての通信か?』

 男は部屋のざわつきを通信魔導装置を挟んで察したのか、リランに尋ねた。

 その声色には気遣いが見えた。



「俺が同席してもらったんですよ。ライラック王国の王族と国の首脳陣だ。

 プラミタの話題で情報を共有した方がいいと思ったから…」



『ずいぶんと肩入れをしているようだな。意外だ』



「ははは。ライラック王国の王族は特別ですからね。

 だいたいお家騒動に俺を送り込んだのはそっちでしょ…ち・ち・う・え」

 リランはわざとらしく皮肉気に言った。



 その言葉で映し出されている男が黒い死神のフロレンス公爵であると確定した。



 察してはいたが、事実だと示されるとまた違った衝撃がある。



 オリオンは無意識につばを飲み込んだ。



『またあの礼儀知らずの宰相のような奴が絡んできたらエミールに首を刎ねてもらえ』



「それくらい自分でできますから。第一、俺の方がエミールよりも強いですよ?」



『本調子じゃないだろ…』



「ここにいる者たちは俺の不調は知っていますよ。ついでに言うなら魔力が戻ってきました。」



 リランとフロレンス公爵の会話は、養父と養子であるが本当の親子のように絆が感じられる雰囲気があるものだった。

 リランもオリオンたちに接する態度というよりも、年相応の若者の未熟さが見える態度であり、

 養父であるフロレンス公爵も子どもを心配する父親のような様子だった。



『そうか。ならなおさらだろ。プラミタで調べたが、あの宝玉は意外と厄介なことがわかった。

 あの宝玉はライラック王国の王族を捕まえるために作られたらしい。』



「おっと、さっそくとんでもない情報ですね。」



 二人の雰囲気や関係を考えているときにとんでもない情報が発覚して、オリオンは思わず軽く光ってしまった。



 しまった…

 オリオンは慌てて光を抑えたが、ライラック王国の首脳陣に見られてしまった。



 これまでどうにか抑えて“オリオン王子は光らない”という評価を得ていたのに、ミナミと同類になってしまう。



『なんだ?今の光は』

 どうやらフロレンス公爵も魔導装置を挟んで察したらしい。おそらくリランにも光がかかったからだろう。



「ああ。この場にライラック王国の王族がいるのですが、魔力量が多いため感情の乱れがあると光ってしまうのですよ。

 実際、俺がお会いした国王陛下も何度か光っていましたし、先ほどの情報を聞いたのなら仕方ないですよ。」

 リランはこの場の状況を軽く説明した。



 オリオンは驚いた。



 父親が光る事なんて考えていなかったのだ。



『そうだな。ライラック王国の王族よ。プラミタは動機はわからないが、お前たちを利用する気だ。ホクト王子の件はどこかでプラミタの魔術師が出てくると思うが、彼が王位に就いたらオリオン王子かミナミ姫が取引で渡される予定だったようだ。』



 フロレンス公爵の言うことにオリオンは今度は光らずに驚いた。

 だが、かなりとんでもないことだ。



『もちろん。この情報を嘘だと思うもいいが…ライラック王国の王族が無くなると困るのはその取り巻きと国民だ。

 港の権利は取り合いになり、国民は蹂躙される。優位性のある立場でのん気に胡坐をかいていた支配階級など、生き残れるはずがない。』

 フロレンス公爵は忠告するように言った。



 彼の声と外見からかなり威圧を感じるが、言っていることは事実だ。



「プラミタ程度でサンズさんが手こずりますか?」

 リランは腕を組んで首を傾げて言った。

 サンズとは誰か?オリオンは首を傾げた。



『プラミタだけじゃないから手こずっているんだ

 …リラン。今は父と呼ばないといけないだろ』

 フロレンス公爵は困ったように眉を寄せて答えたのち、リランに注意をした。



 サンズというのはフロレンス公爵のことのようだ。



 そういえばあだ名が先行して馴染みは無いがフロレンス公爵は

 サンズ・ド・フロレンスという名前だ。



「失礼父上。」



『こちらでしばらく調べる。かなりきな臭くなっている。お前はしばらくライラック王国で調べ物をしていろ。』



「父上。マルコムの追跡は…」



『だめだ。プラミタが絡んでいる上にお前はまだ本調子じゃない。

 お前の奪われた魔力量なら少なくともひと月はかかる。』



「しかし、今はマルコムと一緒にライラック王国の姫が」



『マルコムは腕が立つ。下手に騒ぐ方がこちらとライラック王国側両方不利になる。ここで漁夫の利を与える可能性を作るのは愚かだ。』



「知っていますよ。」



『プラミタにお前を晒したくない。いずれは接触は避けられないが、なるべく遅くするのに越したことはない

 幸いにもプラミタは俺を歓迎している…

 何せ俺は魔力量だけは馬鹿みたいにあるからな。どうせなら魔術師の資格と特権でも取ってしまおうと思う。

 あとは、技術交流という形で魔術師以外と関係を深めていくのもありだろ』



「貴方、そういう小細工苦手ですよね。」



『どうせマルコムがその諸島群から脱出するにしても時間はかかる。』



「体がなまるんですけどね」



『ならばライラック王国の兵士を鍛えればいいだろう。お前得意だろ?』



「もうやっていますよ。彼らは圧倒的に実戦不足ですから、俺らが軽く訓練して農地のゴミ魔獣狩りに順番に行かせてを交互に繰り返しています。」

 リランの言葉にオリオンは驚いた。

 だが後ろに控えるルーイを見ると頷いていたので、彼らは兵士たちの教育もやり始めているようだ。



 そういえば、兵士たちが帝国に対してあまり不満を言わなくなった気がするのは、帝国に屈したというよりも

 能力を伸ばさせるという利益を示したからなのでは?



 オリオンは納得した。



 それに、かつてリランを殺そうとした若い兵士も話だけ聞いて結局は軽い処分で済ませている。

 おそらくその兵士も鍛えられているのだろう。



『なるほど。お前は目端が利くからな』



「内部の調べ物はエミールが全部やっています」

 リランの言う通りエミールはライラック王国の内部をかなり調べている。



 それはそれは楽しそうに。



 歴代金庫番の帳簿を楽しそうに眺め、不正を見つけるたびに顔を輝かせるのはいかがなものだと思う。



 そして不正の証拠を持って貴族の館に突撃し、それで脅して各貴族の帳簿も得る。



 たった数日でリランよりもエミールを怖がっている者が多くなった。



 そういうエミールはリランから少し離れた場所で、目を輝かせて映し出されたフロレンス公爵を見ている。



『ひとつ面白い情報がある。

 ライラック王国の領地にいればお前が接触して調べるのもいいだろう。』

 フロレンス公爵は少し迷った様子を見せたが、仕方なさそうな顔をしてリランに提案をした。



 この二人の会話を見て思ったが、帝国の死神同士は仲が良いようだ。



 養父と養子という関係だが、親子であり上司と部下であり同志であり、戦友。

 確かに強い絆があるのはわかるが、それだけではない気がした。



 ただ、それを気にしても仕方ない。

 今はプラミタの話を聞くべきだと思った。



 正しいか間違っているかは別として知った方がいい。

 残念なことにライラック王国はプラミタと強いつながりは無い。



 港の行き来はもちろんあるが、閉鎖的なプラミタとの強い伝手は無いのだ。



 ならば、リラン経由で手に入るフロレンス公爵の情報を見た方がいい。

 だが、どうにかしてこちらも調べる術を手に入れなくてはいけない。



 全てが帝国頼りになるのは避けなければならない。



「調べもの…ですね。でも、領地にいればとは?」



『プラミタと伝手を持つ存在だ。“アミータ商会”という北の大陸と西の大陸の一部に影響力のある商会だ。』



「アミータ商会…ライラック王国の港を調べ上げる感じですかね」



『いや…少し気になる動きが見えたからな…

 この商会、帝国を探っている。帝国に偵察に来たプラミタ側に情報収集を頼むほどにな』



「…へえ」

 フロレンス公爵の話にリランは目を三日月の形に歪め、口に歪な笑みを浮かべた。

 その瞳に獰猛な光があることから、何となくオリオンは彼が標的を定めたのだな…と思った。



『それだけなら別によくある話だと思うが、今回はこちらも少し気になっていたことがある。』



「わかりました。それがこの前父上が船を壊した時に逃がした商人たちですね。

 …ということは帝国に対して後ろめたいものを探っている可能性がある…か

 確かにライラック王国にいるかどうかですね。港にはついていませんからロートス王国に行っている可能性もある…なるほど」

 リランはフロレンス公爵の話から納得したように頷いた。



 オリオンは二人の間の前情報のやり取りは知らないが、リランがかなり察しがいいのはわかった。

 この男は意外に知恵が回る。



『相変わらず察しがいいことだ。その通りだ。ただ、商人であることから利益で動く。下手に刺激せずに探りを入れること…

 プラミタの動きがわかれば、お前もマルコムの追跡に動いていい』

 オリオンが思った通りで、フロレンス公爵はリランのその能力を買っているようだ。

 ただ、彼の言葉の端々には気遣いと心配が見える。



「遅いと勝手に動きますから」



『少なくとも全快してからにしろ』



「あ…ですが、商人を探るにしても外見も知りませんし、末端なら情報も期待できないのでは?」



『それは大丈夫だ。

 商人だからと油断をしていたのもあったが、俺の目を盗んで逃げるなんて末端の奴に出来るとは思えない。

 こっちは船を壊しているのだから』

 フロレンス公爵は胸を張って言った。

 何が自信があるのかわからないが、リランやエミールの上に立っている存在なので

 ちょっとズレている可能性がある。



「それって死んでいる可能性もあるんじゃないですか?」



『…それは否定できないが、逃げていると思う。何せかなり抜け目のない目をしていた。おそらく幹部レベルだろう』

 フロレンス公爵は少し気まずそうに言いながらも、逃がした商人が生きていると確信しているようだった。



「抜け目のない…ね」

 リランはそうつぶやくとオリオンに目を向けた。



 リランの視線を受けてオリオンは頷いた。



 オリオンとしてもその商人は気になる。



 帝国ではない方面からプラミタの情報が欲しい。

 この商人との接触はライラック王国も加わった方がいい。

 オリオンは直感でそう思った。



 自分の直感など信用はできないが、危機感がそう言っていた。



しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

【完結】海の家のリゾートバイトで口説かれレイプされる話

BL / 完結 24h.ポイント:255pt お気に入り:139

伯爵令嬢は執事に狙われている

恋愛 / 完結 24h.ポイント:3,109pt お気に入り:457

異世界転生したけどチートもないし、マイペースに生きていこうと思います。

児童書・童話 / 連載中 24h.ポイント:18,326pt お気に入り:1,035

God & Devil-Ⅱ.森でのどかに暮らしたいミカエルの巻き込まれ事変-

BL / 連載中 24h.ポイント:349pt お気に入り:17

浮気αと絶許Ω~裏切りに激怒したオメガの復讐~

BL / 連載中 24h.ポイント:10,511pt お気に入り:198

イアン・ラッセルは婚約破棄したい

BL / 完結 24h.ポイント:40,414pt お気に入り:1,421

処理中です...